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2023.04.15

春に飛び立つアスリート 吉村玲美(大東大卒) クレーマージャパンTCで 3000m障害を極める!! 「パリ五輪で、しっかり戦う」ために――
春に飛び立つアスリート 吉村玲美(大東大卒) クレーマージャパンTCで 3000m障害を極める!! 「パリ五輪で、しっかり戦う」ために――

満開の桜の下で新たな競技生活への意欲を見せた吉村玲美

2大会連続の世界選手権出場や学生女子初の9分40秒切りを果たすなど、女子3000m障害で学生陸上界に数々の歴史を刻んできた吉村玲美が大東大を卒業。この春からクレーマージャパンに入社し、パリ五輪を目指して競技を続けていく。強豪校の主力としてチームを牽引してきた吉村には、長距離実業団チームからの誘いもあったが、そんななかで吉村が最後までこだわったのは、「3000m障害に特化する」ということ。その想いは、人との縁や不思議な巡り合わせに導かれるようにして、実現するに至った。

オレゴン世界選手権のレース中、
「ここで終わるの、もったいないな」

吉村玲美は、大東大入学前から「陸上をやるのは大学まで」と決めていた。1年目の2019年に、U20日本新記録で日本選手権初優勝、秋には世界陸連(当時は国際陸連)からのインビテーションでドーハ世界選手権出場を果たす快進撃を見せた。東京五輪こそ出場は叶わなかったが、コロナ禍でも着実に成長し、最終学年の昨年は前年樹立した学生記録を9分39秒86(日本歴代5位)まで更新。

1年時に合宿で滞在し、自身の競技観に大きな影響を及ぼしたオレゴン州ユージンで行われた世界選手権の出場権も、最終のタイミングで手に入れた。しかし、大学卒業後に競技を続けることは考えていなかった。気持ちに変化が現れたのは〝トラックタウン〟と呼ばれるアメリカ陸上界の聖地・ユージンでの世界選手権レース中。「ここで終わるの、もったいないな」と思った。

上位集団の背中が少しずつ遠ざかっていくなかで、吉村は初めてそう感じたのだという。レースを終えて20分後、ミックスゾーンでの取材で、気がつけばメディアからの問いに、「次は……」と応えている自分がいた。「監督も来てくださっていたので、会ってすぐに伝えました。『取材で(卒業後も競技を)続けるって話したので、チームをつくってください』って……」と、吉村は笑う。

この言葉を聞いた外園隆監督は、「うれしかったですね。やめてしまうのはもったいないと思っていたので」と振り返る。ただ、その段階では外園監督が代表取締役社長を務めるクレーマージャパンで〝チームをつくる〟ことも、監督自身が継続して指導に当たることも考えてはいなかった。
「ありがたいことに、多くの実業団チームからお話をいただけたので、どこで、どう活動していけるかを検討することになりました」(外園監督)

吉村の入社と
クレーマージャパンTC設立の経緯

「パリ五輪で、しっかり戦うこと」を次の目標に定めた吉村が、実現に向けてこだわったのは、3000m障害のためだけに年間計画が組める環境だった。タフな身体能力が求められるこの種目で戦っていくためには、フィジカルもスピードも、もっともっと高めてく必要がある。そう思う背景には、大学1年の夏に経験したオレゴン大学(ユージン)での10日間があった。

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そこでは外園氏が信頼を寄せるスピードトレーニングのエキスパートであるスコット・フェルプス氏、オレゴン大ヘッドストレングス&コンディショニングコーチのジェームス・ラドクリフ氏に指導を受けた。「すばらしいコーチの下、世界チャンピオンやいろいろな選手と練習して、〝ああ、自分も、もっと世界に目を向けなければ〟と実感し、〝この走りを習得できれば、絶対に強くなる〟ということを教えていただきました。競技を続けるのなら、あのトレーニングを本格的にやりたい。目指す走りを、自分のものにしたいと思ったんです」

そこを最優先に考えると、駅伝を必須とする各実業団チームからの条件に、首を縦に振ることができなかった。いかにも責任感の強い吉村らしいエピソードだ。
難航していた就活は、最終的に吉村が冗談交じりに口にしていた通りとなる。

外園氏は「(私がクレーマージャパンの」社長といっても、私の独断で決められることではない」と、会社の役員会に諮ったところ、「吉村がやろうとする高いレベルの経験を、日本の中・高校生のトレーニングに生かせるよう落とし込んでいくことは、会社にとって必ずプラスになる。逆に、みんなから〝是非やりましょう!〟と、諸手を挙げて賛同してもらえたんです」と話す。

こうして吉村の入社と、「クレーマージャパントラッククラブ(クレーマージャパンTC)」での競技継続が確定した。

吉村(右から2人目)をサポートするクレーマージャパンTC。左から原田隆弘コーチ、外園隆社長、右端はプレーイングコーチの打越雄允

3000m障害の特化へ
頼もしいパートナー加わる

外園監督とストレングストレーニング面を担当する原田隆弘コーチの指導を仰ぐのはこれまで同様だが、さらに強力な一枚が加わった。吉村とは別に話が進んでいた打越雄允の存在だ。1993年世界選手権マラソン5位の打越忠夫を父に持ち、中学(埼玉・与野西)、高校(東京・國學院久我山)時代から高い実績を残してきた選手。留学先の米国・ボイシ州立大(アイダホ州)から3000m障害をメインに取り組み、卒業後は大塚製薬で競技を続けてきた。

次のキャリアについても考え始めた昨年、家族ぐるみのつきあいで、メンターのような存在である外園社長と、未来の話をするなかで、「ワクワクしている自分がいた」と打越は明かす。年末に大塚製薬を退職し、1月末にクレーマージャパンに入社。トレーニングパートナー(プレーイングコーチ)の立場で、吉村や大東大女子長距離の強化にも参加。「パートナーとして一緒に練習することで、より細やかな体調の変化に気づくことができる。外園監督や原田コーチをはじめとする指導陣と選手との間をつなぐアンカー的な立ち位置で、いい潤滑油になれたら……」と話す。

吉村(左)はトレーニングパートナーの打越や大東大女子長距離ブロックの後輩たちと一緒に練習を重ね、3000m障害を極めていく

東京に出場できなかった悔しさを
パリにぶつける

「東京五輪に出られず悔しい思いをしたので、パリには絶対に出たいと思っています。大学の間に世界選手権に2回出場して感じたのは、本番で戦うことを考えると参加標準記録は突破しておかないと、ということ。ブダペストに向けて参加標準記録(9分23秒00)は一段と厳しくなったけれど、それはみんな同じ。難しいと思わずに挑戦していきたい」と吉村はきっぱり。

今年は、「相性がいい」と得意意識を持つ4月末の織田記念でシーズンイン。5月上旬の木南記念、6月上旬の日本選手権と続く3大会を「しっかりと勝ちきりたい」と言う。夏に計画している念願のオレゴンでの本格的なトレーニングも含め、アジア選手権、ブダペスト世界選手権、アジア大会……。チャンスを大切に、パリへと続いていく道を、支えてくれるスタッフと、一歩一歩進んでいくつもりだ。

文/児玉育美、撮影/小川和行

2大会連続の世界選手権出場や学生女子初の9分40秒切りを果たすなど、女子3000m障害で学生陸上界に数々の歴史を刻んできた吉村玲美が大東大を卒業。この春からクレーマージャパンに入社し、パリ五輪を目指して競技を続けていく。強豪校の主力としてチームを牽引してきた吉村には、長距離実業団チームからの誘いもあったが、そんななかで吉村が最後までこだわったのは、「3000m障害に特化する」ということ。その想いは、人との縁や不思議な巡り合わせに導かれるようにして、実現するに至った。

オレゴン世界選手権のレース中、 「ここで終わるの、もったいないな」

吉村玲美は、大東大入学前から「陸上をやるのは大学まで」と決めていた。1年目の2019年に、U20日本新記録で日本選手権初優勝、秋には世界陸連(当時は国際陸連)からのインビテーションでドーハ世界選手権出場を果たす快進撃を見せた。東京五輪こそ出場は叶わなかったが、コロナ禍でも着実に成長し、最終学年の昨年は前年樹立した学生記録を9分39秒86(日本歴代5位)まで更新。 1年時に合宿で滞在し、自身の競技観に大きな影響を及ぼしたオレゴン州ユージンで行われた世界選手権の出場権も、最終のタイミングで手に入れた。しかし、大学卒業後に競技を続けることは考えていなかった。気持ちに変化が現れたのは〝トラックタウン〟と呼ばれるアメリカ陸上界の聖地・ユージンでの世界選手権レース中。「ここで終わるの、もったいないな」と思った。 上位集団の背中が少しずつ遠ざかっていくなかで、吉村は初めてそう感じたのだという。レースを終えて20分後、ミックスゾーンでの取材で、気がつけばメディアからの問いに、「次は……」と応えている自分がいた。「監督も来てくださっていたので、会ってすぐに伝えました。『取材で(卒業後も競技を)続けるって話したので、チームをつくってください』って……」と、吉村は笑う。 この言葉を聞いた外園隆監督は、「うれしかったですね。やめてしまうのはもったいないと思っていたので」と振り返る。ただ、その段階では外園監督が代表取締役社長を務めるクレーマージャパンで〝チームをつくる〟ことも、監督自身が継続して指導に当たることも考えてはいなかった。 「ありがたいことに、多くの実業団チームからお話をいただけたので、どこで、どう活動していけるかを検討することになりました」(外園監督)

吉村の入社と クレーマージャパンTC設立の経緯

「パリ五輪で、しっかり戦うこと」を次の目標に定めた吉村が、実現に向けてこだわったのは、3000m障害のためだけに年間計画が組める環境だった。タフな身体能力が求められるこの種目で戦っていくためには、フィジカルもスピードも、もっともっと高めてく必要がある。そう思う背景には、大学1年の夏に経験したオレゴン大学(ユージン)での10日間があった。 そこでは外園氏が信頼を寄せるスピードトレーニングのエキスパートであるスコット・フェルプス氏、オレゴン大ヘッドストレングス&コンディショニングコーチのジェームス・ラドクリフ氏に指導を受けた。「すばらしいコーチの下、世界チャンピオンやいろいろな選手と練習して、〝ああ、自分も、もっと世界に目を向けなければ〟と実感し、〝この走りを習得できれば、絶対に強くなる〟ということを教えていただきました。競技を続けるのなら、あのトレーニングを本格的にやりたい。目指す走りを、自分のものにしたいと思ったんです」 そこを最優先に考えると、駅伝を必須とする各実業団チームからの条件に、首を縦に振ることができなかった。いかにも責任感の強い吉村らしいエピソードだ。 難航していた就活は、最終的に吉村が冗談交じりに口にしていた通りとなる。 外園氏は「(私がクレーマージャパンの」社長といっても、私の独断で決められることではない」と、会社の役員会に諮ったところ、「吉村がやろうとする高いレベルの経験を、日本の中・高校生のトレーニングに生かせるよう落とし込んでいくことは、会社にとって必ずプラスになる。逆に、みんなから〝是非やりましょう!〟と、諸手を挙げて賛同してもらえたんです」と話す。 こうして吉村の入社と、「クレーマージャパントラッククラブ(クレーマージャパンTC)」での競技継続が確定した。 [caption id="attachment_98228" align="alignnone" width="800"] 吉村(右から2人目)をサポートするクレーマージャパンTC。左から原田隆弘コーチ、外園隆社長、右端はプレーイングコーチの打越雄允[/caption]

3000m障害の特化へ 頼もしいパートナー加わる

外園監督とストレングストレーニング面を担当する原田隆弘コーチの指導を仰ぐのはこれまで同様だが、さらに強力な一枚が加わった。吉村とは別に話が進んでいた打越雄允の存在だ。1993年世界選手権マラソン5位の打越忠夫を父に持ち、中学(埼玉・与野西)、高校(東京・國學院久我山)時代から高い実績を残してきた選手。留学先の米国・ボイシ州立大(アイダホ州)から3000m障害をメインに取り組み、卒業後は大塚製薬で競技を続けてきた。 次のキャリアについても考え始めた昨年、家族ぐるみのつきあいで、メンターのような存在である外園社長と、未来の話をするなかで、「ワクワクしている自分がいた」と打越は明かす。年末に大塚製薬を退職し、1月末にクレーマージャパンに入社。トレーニングパートナー(プレーイングコーチ)の立場で、吉村や大東大女子長距離の強化にも参加。「パートナーとして一緒に練習することで、より細やかな体調の変化に気づくことができる。外園監督や原田コーチをはじめとする指導陣と選手との間をつなぐアンカー的な立ち位置で、いい潤滑油になれたら……」と話す。 [caption id="attachment_98229" align="alignnone" width="424"] 吉村(左)はトレーニングパートナーの打越や大東大女子長距離ブロックの後輩たちと一緒に練習を重ね、3000m障害を極めていく[/caption]

東京に出場できなかった悔しさを パリにぶつける

「東京五輪に出られず悔しい思いをしたので、パリには絶対に出たいと思っています。大学の間に世界選手権に2回出場して感じたのは、本番で戦うことを考えると参加標準記録は突破しておかないと、ということ。ブダペストに向けて参加標準記録(9分23秒00)は一段と厳しくなったけれど、それはみんな同じ。難しいと思わずに挑戦していきたい」と吉村はきっぱり。 今年は、「相性がいい」と得意意識を持つ4月末の織田記念でシーズンイン。5月上旬の木南記念、6月上旬の日本選手権と続く3大会を「しっかりと勝ちきりたい」と言う。夏に計画している念願のオレゴンでの本格的なトレーニングも含め、アジア選手権、ブダペスト世界選手権、アジア大会……。チャンスを大切に、パリへと続いていく道を、支えてくれるスタッフと、一歩一歩進んでいくつもりだ。 文/児玉育美、撮影/小川和行

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