2020.06.02
十種競技“KING”右代啓祐が目指す「夢をかなえる場所」
2日間で「走・跳・投」の10種目をこなし、「キング・オブ・アスリート」として海外で絶大な尊敬を集める。そんな十種競技において、日本でキングとして君臨し続けているのが右代啓祐(国士舘クラブ)だ。身長196cm、95kg。恵まれた体格を生かし、2011年に日本人初の8000点超えとなる8037点の日本記録を樹立。その後、さらに2回更新し、8308点(2014年)まで伸ばした。
さらに、2012年ロンドン五輪では、この種目で実に48年ぶりの日本代表としてオリンピック出場。4年後のリオ五輪でも代表となり、2大会出場は日本史上初だ。その時は旗手も務めている。世界選手権には通算5回出場し、14、18年にはアジア大会を連覇しているアジアが誇る「KING」だ。
あっという間に終わったロンドン五輪
「十種競技の魅力は一言で表せられません。まず、1種目で終わらない。成功しても、失敗しても、次があるんです。選手、スタッフ、観客すべてが一体となって“十種競技”を作り上げていく、そんな雰囲気が好きなんです」
まるで、それは人生そのものにも当てはまりそうだ。右代は初めて立ったロンドン五輪での光景が忘れられないという。
「走高跳で2回失敗し、あとがなくなったんです(※3回失敗で試技終了)。その時、こんな世界的に無名の日本人選手なのに、たくさんの観客が僕の名前を呼んで応援してくれたんです。クリアすることができたら、ワーッと大歓声が起きたんです」
英国など欧州諸国、そして米国などで、十種競技の人気は高い。他種目、たとえばあのウサイン・ボルト(ジャマイカ)も、デカスリート(十種競技選手)への尊敬の言葉を述べていたこともある。だからこそ、本場の観客は、たとえ初めて見た「USHIRO」という選手に対しても声援を送る。十種競技がどれだけ“アスリート”であるかを理解しているからだ。
その夢の舞台は「あっという間に終わりました」と言う。これまで出場したどんな大会とも違う感覚。「オリンピックはたくさんの人が関わっている」というのを実感した。フィニッシュし、全員でスタンドに手を挙げ、一列になって感謝を伝える。これが混成競技の最後の儀式。それを目に焼き付け、こう思った。
「ここでメダルを取ったらどんな世界が待っているんだろう」
東京五輪は3度目のチャンス
右代が初めて「オリンピック」を意識したのは、小学校4年生の時。アトランタ五輪を見て「出たい!」と思ったそうだ。その時は陸上競技にすら出会っていない。
中学から陸上を本格的に始め、走高跳が専門だった。その頃、身長が一気に伸びた。高校では走高跳とやり投の2種目が専門。だが、高校3年、最後のシーズンが始まろうかという時に、先生から「混成競技をやらないか」と勧められた。
高校は大人より2種目少ない八種競技。初戦で北海道高校新記録をたたき出すと、わずか3試合目となるインターハイで2位に入った。
高校の恩師の母校でもある国士舘大学に進学し、岡田雅次監督のもと、着実に成長を遂げていく。入学時はそれほど注目を浴びる存在ではなかったが、岡田監督は常に世界を意識させるような指導をしていたという。
ちなみに、柔道やバレーボールが得意で、高校時代から何度も勧誘を受けている。特に柔道は「五輪で金メダルを取れる」という声も挙がるほどで、国士大柔道部の鈴木桂治監督(アテネ五輪金メダリスト)も本気でその才能を惜しむほどだったという。
大学院時代にその才能は花開き、スズキ浜松AC(現スズキアスリートクラブ)に所属してから、2011年には18年ぶりの日本新をマークした。
世界大会で実績を残し、最近では少しずつテレビなどに出演も増え、「サッカーゴールを1人で持つ人」「ヘラクレス」「超人」と、いろいろな代名詞が増えた。街中で声をかけられることも増えたという。
「もっと僕のことを知ってもらえて、陸上競技や十種競技の魅力を知ってもらえるようになればうれしいですね」
2人の娘を持ち、18年からは母校・国士舘大学の講師に就任した。「将来は指導者に」という思いを持つが、「まだまだ辞めるつもりはありません」と右代。「今でも『絶対負けない』と思って走りますし、10歳以上離れた選手と競り合うのってかっこいい」。現在も練習の数値でベストを更新するメニューもあり、「まだ成長できる」と突き進んでいる。
ロンドンから4年後に立ったリオ五輪。ケガもあり万全な状態で臨むことができなかった。それでも、「やっぱりここでメダルを取りたい」、そう思った。
「オリンピックは『夢を実現する場所』。僕はずっと十種競技で、世界で結果を出す、メダルを獲得する、という思いでやってきました。東京五輪は3度目のチャンス。東京でメダル獲得が夢。夢を夢のままで終わらせないようにします。もちろん、東京五輪で引退なんて考えていないですよ!」
今年7月で34歳になるが、その飽くなき向上心と探求心、そして情熱はまだまだ尽きそうにない。
※6月12日発売の月刊陸上競技7月号では、SNSで募集した読者・ファンからの質問に答える「右代啓祐への100Questions」を掲載します!お見逃しなく!購入はこちらこちら
文/向永拓史
十種競技“KING”右代啓祐が目指す「夢をかなえる場所」

あっという間に終わったロンドン五輪
「十種競技の魅力は一言で表せられません。まず、1種目で終わらない。成功しても、失敗しても、次があるんです。選手、スタッフ、観客すべてが一体となって“十種競技”を作り上げていく、そんな雰囲気が好きなんです」 まるで、それは人生そのものにも当てはまりそうだ。右代は初めて立ったロンドン五輪での光景が忘れられないという。 「走高跳で2回失敗し、あとがなくなったんです(※3回失敗で試技終了)。その時、こんな世界的に無名の日本人選手なのに、たくさんの観客が僕の名前を呼んで応援してくれたんです。クリアすることができたら、ワーッと大歓声が起きたんです」 英国など欧州諸国、そして米国などで、十種競技の人気は高い。他種目、たとえばあのウサイン・ボルト(ジャマイカ)も、デカスリート(十種競技選手)への尊敬の言葉を述べていたこともある。だからこそ、本場の観客は、たとえ初めて見た「USHIRO」という選手に対しても声援を送る。十種競技がどれだけ“アスリート”であるかを理解しているからだ。 その夢の舞台は「あっという間に終わりました」と言う。これまで出場したどんな大会とも違う感覚。「オリンピックはたくさんの人が関わっている」というのを実感した。フィニッシュし、全員でスタンドに手を挙げ、一列になって感謝を伝える。これが混成競技の最後の儀式。それを目に焼き付け、こう思った。 「ここでメダルを取ったらどんな世界が待っているんだろう」東京五輪は3度目のチャンス

|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.02.21
編集部コラム「奥が深い」
2025.02.21
ひらまつ病院にニューイヤー駅伝3年連続出走の三田眞司が加入 「チームの最高順位に貢献」
2025.02.21
斎藤将也、不破聖衣来、菖蒲敦司らが欠場を発表/日本選手権クロカン
-
2025.02.21
-
2025.02.21
2025.02.17
日本郵政グループ女子陸上部 「駅伝日本一」へのチームづくりとコンディショニング
2025.02.16
男子は須磨学園が逆転勝ち! 女子は全国Vの長野東が強さ見せる/西脇多可高校新人駅伝
-
2025.02.16
-
2025.02.16
-
2025.02.16
-
2025.02.16
2025.02.02
【大会結果】第77回香川丸亀国際ハーフマラソン(2025年2月2日)
2025.02.02
大迫傑は1時間1分28秒でフィニッシュ 3月2日の東京マラソンに出場予定/丸亀ハーフ
-
2025.02.14
-
2025.02.09
-
2025.02.02
-
2025.01.26
-
2025.01.31
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.02.21
編集部コラム「奥が深い」
毎週金曜日更新!? ★月陸編集部★ 攻め(?)のアンダーハンド リレーコラム🔥 毎週金曜日(できる限り!)、月刊陸上競技の編集部員がコラムをアップ! 陸上界への熱い想い、日頃抱いている独り言、取材の裏話、どーでもいいこと […]
2025.02.21
ひらまつ病院にニューイヤー駅伝3年連続出走の三田眞司が加入 「チームの最高順位に貢献」
ひらまつ病院は2月16日付で、サンベルクスに所属していた三田眞司が加入したと発表した。 29歳の三田は神奈川県出身。光明学園相模原高では3年時に全国都道府県対抗男子駅伝4区9位と力走。国士大では3年時に全日本大学駅伝で3 […]
2025.02.21
斎藤将也、不破聖衣来、菖蒲敦司らが欠場を発表/日本選手権クロカン
福岡クロカン事務局は第108回日本選手権クロスカントリーの2月21日時点での欠場者リストを公開した。 男子では斎藤将也(城西大)や谷本昂士郎(順大)ら5人が新たに欠場を発表。女子は不破聖衣来、新井沙希(ともに拓大)、板井 […]
2025.02.21
国内唯一の室内100mに山縣亮太が登場 投てきは幸長慎一に注目 走幅跳8m40の台湾記録保持者参戦/JAG大崎
2025 Japan Athlete Games in Osakiが2月23日、鹿児島県大崎町のジャパンアスリートトレーニングセンター大隅で開催される。 この大会は2020年鹿児島国体がコロナ禍で中止(2023年に特別大 […]
2025.02.21
中央学大に全国高校駅伝出場の神吉惺翔ら、新たに5人が入学決定
2月20日、中央学大はSNSで今春入学の選手を発表した。1月にも13人の入学予定選手を発表していたが、新たに5人の合格が決まり、総勢18人の振優勢が入部する。 新たに発表された選手のうち、神吉惺翔(西脇工・兵庫)が昨年末 […]
Latest Issue
最新号

2025年3月号 (2月14日発売)
別府大分毎日マラソン
落合 晃×久保 凛
太田智樹、葛西潤
追跡箱根駅伝&高校駅伝