2023.01.23
1月15日(現地時間)のヒューストン・マラソンで日本歴代2位の2時間19分24秒をマークした新谷仁美(積水化学)が1月23日、都内で記者会見を開き、快挙へと至る過程や今後について語った。
レースから時間がたったことで「平常心」に戻っているそうだが、「(昨年3月の)東京でも同じような気持ちでやっていましたが、思い返すと、日本記録を一つの目標としてやってきて、今回さらに私だけが記録を出したいと臨んだわけではなく、それをサポートしてくれた人が本当に多くいたなと感じています」と感謝の言葉を述べた。
野口みずき(グローバリー)が2005年のベルリンで出した2時間19分12秒の日本記録更新をターゲットにしていたヒューストンについて、ペースメーカー役の新田良太郎コーチとともに「5km16分25秒ペースでいけば2時間18分台が出る」という想定で臨んでいたという。
しかし、わずか12秒届かず、悔しさをかみしめる。トップの選手の前にはフィニッシュ予想記録を示すタイマーを乗せた車が走っていたそうで、「大会側が選手のためを持って用意してくれていたのでしょうけど、私にとってはプレッシャーでしかなかった」と苦笑いしつつ、「『2時間19分40秒』という数字が見えたけど、脚も限界。それでもいかなきゃという思いで走っていました」。
ただ、その結果を受け入れる。
「12秒タイムが足りなかったことはわかっていたけど、現時点での自分の実力としてで受け入れるために」記録をしっかりと確認。そして、「どうすればその12秒を埋められるかがすぐにわかり、横田(真人)コーチとも意見が合致した。(課題が)明確だったからこそ、すぐに気持ちを切り替えられました」と話す。
今回の課題は、ラスト5kmのアップダウンが予想以上に大きく、その部分への対策が不足していた。また、中盤でリズムをつかむことができたが、「10kmから25kmまでリズムに乗っていったことで、ペースが5kmごとに設定よりも5~10秒上がってしまっていた。それを自分自身でコントロールできていれば良かった」という反省も残る。
日本人女子4人目の2時間20分切りの快挙についても、「自己評価としては低い」ときっぱり語る。
これまで2時間20分切りを果たしてきた選手は、五輪金メダルに輝いた高橋尚子(00年シドニー)、野口(04年アテネ)、世界選手権4位の渋井陽子(01年エドモントン)と、世界で結果を残してきた選手たち。しかも、当時は現在のような厚底シューズのない時代だった。
「今はシューズの進化が大きい。私がどんなタイムを出しても、あの3人を超えることはできません」
だからこそ見据えるのは、日本人では未踏の2時間18分台、17分台といった大記録であり、それを達成するためのレースとして高速コースで名高い9月のベルリンを次のターゲットとした。実際、上記3名ともが、サブ20を達成したレースでもある。
10月にはパリ五輪選考レースのマラソングランドチャンピオンシップもあるが、そこはスケジュールには入らない。改めて「今の時点でパリ五輪は考えていない」ことを明らかにした。
「私の中で五輪に出ることがすべてじゃないし、日本代表になることがすべてじゃない。というと、常々語っている『(プロとして)結果を残す』ということにつながらない思われるかもしれませんが、それ(五輪)を踏まなくても『結果を出す』ことはできると思っています」
今、新谷が求める「結果」は「記録」であり、その記録を出すことで周囲のサポートへの感謝を示すこと。「もちろん言葉で伝えることも一つの方法ですが、私にとっては結果を出すことが私を支えてくれる人たちへの感謝を示すことになるんです」。
アスリートは「応援してくれる人がいるからこそ成立している仕事」ということも、常々語ってきた。今の五輪が、果たしてどういうものなのか。2年前の東京五輪を思い返し、新谷は記録を求めて走ることに決めた。周囲も、新谷の思いを汲んでそれをサポートしてくれる。それがまた、新谷の力となる。
小川雅生
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