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2023.01.03

駒大・大八木弘明監督 勇退「こんな幸せな監督いない」今後は田澤廉らと世界目指し“ラストチャレンジ”「女房も休ませてやりたい」
駒大・大八木弘明監督 勇退「こんな幸せな監督いない」今後は田澤廉らと世界目指し“ラストチャレンジ”「女房も休ませてやりたい」

3冠を達成して胴上げされる駒大・大八木弘明監督(2023年箱根駅伝)

第99回箱根駅伝を制し、2022年度の出雲駅伝・全日本大学駅伝を通じて3冠を達成した駒大。チームを指揮した大八木弘明監督が監督を退くことを表明し、大会後にその思いを語った。

体力面と「世界」を見据えて退任決意

(退任を)決めたのは昨年のはじめ。3冠を取るにしても取らないにしても、一つの区切りにしようと思っていました。4月にはある程度、自分の中では決めていて、夏くらいに主将(山野力)と副キャプテン(田澤廉、※加えて円健介)には、今年で監督を退いて総監督になると伝えました。4年生3人だけ。しっかりしていたので、お前たちにだけ話す、と。終わってから発表するということでした。彼らは、今年どうしても3冠を狙うということだったので、じゃあ最後だから本気になってやると彼らに誓った。素晴らしいプレゼントくれましたよ。ありがたい。

29年、駒澤でやってきて、オリンピックも世界陸上にも(選手を)出して、箱根も勝って、4連覇して、何が最後残ったかと言えばやっぱり(学生駅伝)3冠だった。3冠をすれば自分の中で大学の監督としてすべてやってきたという思いがある。

体力的に今年65歳なので、体力的に現場に立つのも少しずつきつくなってきた。50人ほど、今まで全部いつも朝から晩まで見てきました。女房にもまかないをやらせて苦労をさせっぱなし。女房も少し休んでもらいたい思いもあった。そのためには監督を退かないと、女房も退けないのかなという思いもありました。

(指導の)はじめのほうは箱根のことで目一杯だった。駒澤大学をとにかく箱根で優勝できる常連校にしたいというのがあった。箱根駅伝のために子供たちも入ってきたし、箱根を走りたい、優勝したい。私もそれに応えないといけないと思った。入ってすぐ強いチーム作りをして5年目で優勝。その後は4連覇もした。その時は箱根だけという感じだった。

10年、15年くらい過ぎてからかな。少しずつ(意識が)世界へというように変わってきました。箱根を勝ったら次は世界に通用する選手を育成しよう、オリンピックや世界陸上に出すような選手を、と。一時期、箱根で勝てなくなった時は2つをやろうとしていたので、なかなか難しかったです。トラックとマラソン、駅伝はまた違う部分があった。

それが年齢を重ねて、いろんなスタッフ、教え子たちが手伝ってくれて、近年は両方うまく行き始めていたところはある。

(元監督の)森本(葵)先生(※21年他界)は、現場の責任者として「責任は全部俺がとるから現場は全部任せる」と言ってくれた。これは一番うれしかった。だから強いチームも作れたし、森本先生もそうだし、(前監督の)高岡(公、顧問)さんもそうでした。当時監督になられていましたが、現場ではやりやすいようにやらせてくれた。

次ページ 指導29年で3大駅伝27回V

第99回箱根駅伝を制し、2022年度の出雲駅伝・全日本大学駅伝を通じて3冠を達成した駒大。チームを指揮した大八木弘明監督が監督を退くことを表明し、大会後にその思いを語った。

体力面と「世界」を見据えて退任決意

(退任を)決めたのは昨年のはじめ。3冠を取るにしても取らないにしても、一つの区切りにしようと思っていました。4月にはある程度、自分の中では決めていて、夏くらいに主将(山野力)と副キャプテン(田澤廉、※加えて円健介)には、今年で監督を退いて総監督になると伝えました。4年生3人だけ。しっかりしていたので、お前たちにだけ話す、と。終わってから発表するということでした。彼らは、今年どうしても3冠を狙うということだったので、じゃあ最後だから本気になってやると彼らに誓った。素晴らしいプレゼントくれましたよ。ありがたい。 29年、駒澤でやってきて、オリンピックも世界陸上にも(選手を)出して、箱根も勝って、4連覇して、何が最後残ったかと言えばやっぱり(学生駅伝)3冠だった。3冠をすれば自分の中で大学の監督としてすべてやってきたという思いがある。 体力的に今年65歳なので、体力的に現場に立つのも少しずつきつくなってきた。50人ほど、今まで全部いつも朝から晩まで見てきました。女房にもまかないをやらせて苦労をさせっぱなし。女房も少し休んでもらいたい思いもあった。そのためには監督を退かないと、女房も退けないのかなという思いもありました。 (指導の)はじめのほうは箱根のことで目一杯だった。駒澤大学をとにかく箱根で優勝できる常連校にしたいというのがあった。箱根駅伝のために子供たちも入ってきたし、箱根を走りたい、優勝したい。私もそれに応えないといけないと思った。入ってすぐ強いチーム作りをして5年目で優勝。その後は4連覇もした。その時は箱根だけという感じだった。 10年、15年くらい過ぎてからかな。少しずつ(意識が)世界へというように変わってきました。箱根を勝ったら次は世界に通用する選手を育成しよう、オリンピックや世界陸上に出すような選手を、と。一時期、箱根で勝てなくなった時は2つをやろうとしていたので、なかなか難しかったです。トラックとマラソン、駅伝はまた違う部分があった。 それが年齢を重ねて、いろんなスタッフ、教え子たちが手伝ってくれて、近年は両方うまく行き始めていたところはある。 (元監督の)森本(葵)先生(※21年他界)は、現場の責任者として「責任は全部俺がとるから現場は全部任せる」と言ってくれた。これは一番うれしかった。だから強いチームも作れたし、森本先生もそうだし、(前監督の)高岡(公、顧問)さんもそうでした。当時監督になられていましたが、現場ではやりやすいようにやらせてくれた。 次ページ 指導29年で3大駅伝27回V

指導29年で3大駅伝27回V

29年(指導を)やりましたからね。今回は本当にうれしいですよ。29年やって3大駅伝27回優勝でしょ。こんな幸せな監督はいない。子供たちに恵まれました。スタッフたちにも恵まれすぎ。まだ自分のやりたいことがあったので、そこで決めました。もう少し世界に通用する選手を育てたい、と。 中国の言葉で『百里を行く者は九十を半ばとす』という言葉がある(※何事も終わりに近づくほど困難であるから、九分まで来てやっと半分と心得て、最後まで気を緩めないという古語)。100回大会の前で“半ば”として新たな世界をもう一回やりたいと思った。これからは世界と戦えるような選手と、おもしろいトレーニングをしたい。 田澤と出会ったからというよりは年齢的に1人、2人を指導するにちょうどいい年齢でもあります。そういう巡り合わせですかね。田澤が3年の時に、卒業したら私とやりたいと言ってくれたので、私もそういう気持ちがありました。進路を考えた時にどっちでやるかと聞いたら「監督とやりたいです」と。そういう中で(進退を)考えだした。 [caption id="attachment_90586" align="alignnone" width="800"] 大手町で「子供たち」とともに歓喜のフィニッシュを待つ大八木監督(2023年箱根駅伝)[/caption] (後任予定の)藤田(敦史ヘッドコーチ)にはだいぶ前から「そろそろ譲る」という話はしていて、改まってはしていない。まだ正式に決まっていないが総監督になる方向でいる。誰が監督というのは発表をしていないが、明日からでも藤田に任せる。今後は総監督という立場で学生は少し見させていただきながら。来年度は教え子たち(※高林祐介コーチ含め)が、またやってくれればいいなと思います。 いい選手層は作りましたので、来年度も3冠狙えるだけのチームは出来上がっていると思う。まだ頑張って3冠目指してやってほしい。2年続けて3冠したところはないので、それを目指してやってくれればという思いもある。プレッシャーもあると思いますが、100回大会で3冠をしてほしい。藤田にもそういう願いを言おうかと思います。 できないチームじゃない。3年生以下はいい選手が残っていますから。今回も花尾(恭輔、3年)、佐藤(圭汰、1年)がいなくても、こうやってみんなが力を合わせれば勝てると証明できた。来年もエース格はいますから、3冠をまた目指してやってほしい。 次ページ 今回の優勝は「ギリギリだった」

今回の優勝は「ギリギリだった」

(今回は)つないでいけば勝てる。箱根を勝つための初心に戻って、選手層を作った。4連覇の時も層が厚かった。何か起きても次の選手を使えると(選手層なら)少しは安心。今回はそれができた。補欠がよく走ってくれた。そこまで選手層が厚くするのが役目だった。ただ、本当を言うとギリギリだった。あと1人、2人アクシデントがあったら危なかった。選手たちに感謝ですよ。勝つために頑張ってくれました。 山の1年生2人は適性を見ました。彼らがおもしろいなって。6区は帰山(侑大、1年)も良かったですが、伊藤に懸けました。自分の感性もデータもある。今回はこれが最後かなと思いながら、最後の10区の20km地点ではマネージャーに声掛けさせましたよ。 箱根駅伝はすごい大会。ここで結果を出させないとかわいそうだと思っている。出雲駅伝、全日本大学駅伝もありますが、箱根は往路・復路があって1日で終わらない。次の日が不安ですから。今回もそう。特に体調崩したりする選手もいる。胃が痛い。 自分も箱根駅伝にあこがれて、年齢がいってから(目指した)。こうやって応援してもらえるように戻って、これだけの人出。こういう大会に出させて上げたいし、勝たせてあげたい。これが将来、自分たちの役に立つし、いろんな面でプラスになる。箱根というのは選手にとって人生の中で大事な舞台じゃないですか。 [caption id="attachment_90587" align="alignnone" width="800"] 2000年箱根駅伝で初優勝を飾った駒大[/caption]

田澤らとともに「世界」を視野に

(4月以降は)田澤も指導します。ただ、(他の残る選手とも)もう少し世界を見つめてやりたいという気持ちもありますし、駒大にまだ残りながら、田澤と一緒にやれるような選手は見たいと思っている。グラウンドには顔を出します。田澤を指導するので、中村(匠吾、現・富士通)と同じような状況で育てていきたい。(田澤は)トヨタ自動車に所属しながら私のところでやる。駒大以外の選手も見たい気持ちはある。私のところでやりたいという選手がいたら、世界を目指していこうかなという思いがある。 とにかく世界大会に出て入賞争いができる選手にしたい。今はレベルが上がっていて出ることすら大変な世界。とにかく世界大会に出るのが最初。それを目指して指導していきたい。 原点、再度挑戦。指導者として人生のラストチャレンジをしようと思う。今はホッとしています。もう少しゆっくりしたい。常に朝から夜までグラウンドに居ましたから。暇がないほど。50人見ると言うことはそういうこと。寮に泊まることもしょっちゅう。少しは気楽になるかなと。女房に何一つやってあげられていない。旅行もできていない。勝っているうちは大丈夫でしたが…(笑)。ただ、これから上の(レベルの)選手を見るし、現場に行くとワクワクするタイプですが。 あまり上に立ったら口は出さないように心掛けます。(監督車に)乗れるかもしれないけど、自分の中では(区切りを)決めないといけないですよ。 (藤田は)8年くらいは一緒にいますから、いろんなことを見てきている。私のやってきたことのいいところ悪いところもわかっていると思いますので、自分の中で築いてくれればと思います。自分で好きなように、自分流でやってほしい。(藤田は)几帳面で真面目。選手との話し合いも結構するし、話し方も俺なんかより上手。彼の選手を説得したり導いたりしていければおもしろいのかなと思います。 [caption id="attachment_90533" align="alignnone" width="800"] 退任を発表した大八木弘明監督(2023年箱根駅伝)[/caption] ◎おおやぎ・ひろあき/1958年7月30日生まれ、64歳。福島県出身。会津工業高を卒業後、小森印刷(現・小森コーポレーション)に就職し、社業の傍ら練習に励んだ。24歳で駒大(夜間部)に入学し、昼間は働きながら走り続け、箱根駅伝には84年から86年の3度出場。84年5区、86年2区で区間賞を獲得した。95年にコーチに就任し、駒大を立て直すと、2004年に監督に就く。2022年度の出雲駅伝、全日本大学駅伝と箱根駅伝を制して同校初の3冠。3大駅伝で最多優勝を27に更新した。大八木監督はそのすべてで指導の現場に立っている。藤田敦史(現ヘッドコーチ)をはじめ、東京五輪マラソン代表の中村匠吾(富士通)、4年で昨年オレゴン世界選手権に出場した田澤廉など、日本トップクラスの選手になった教え子は数えきれない。

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