2022.12.28
1月2日、3日に行われる第99回箱根駅伝に、2人の「日本代表」が挑む。田澤廉(駒大4年)と三浦龍司(順大3年)。この夏、世界と対峙した2人は、どんな思いで箱根路に挑むのだろうか。
「駅伝の楽しさを知った」
世界中がサッカーのW杯で沸いている。この男も例外ではなかった。
「めちゃくちゃ観ていますよ。優勝候補はフランスが強いですよね。いや、イングランドも強いし……。うーん、どうだろう」
幼少期にサッカーをしていて、あこがれは元ブラジル代表のロナウジーニョ。W杯は駒大のエースにして、日本長距離界の将来を担う田澤廉を“サッカー少年”に戻す。「クラブも見ますけど、やっぱりW杯は最高ですよ」。サッカーでも、やはり『世界』を見据えているのか。
競技の話になれば表情は一変した。それはやはり、日本を代表するランナーのもの。田澤はいよいよ、最後の箱根駅伝に挑もうとしている。
今季は念願だった世界の舞台に立った。オレゴン世界選手権10000mに出場。学生でこの種目で出場するのは2013年モスクワ大会に当時・早大だった大迫傑(現・Nike)以来のことだった。
その舞台に足を踏み入れたこと自体は、「大きな目標を達成したのは良かった」と振り返る一方で、万全で臨めたとは言えない。「世界選手権で良い結果を残したいという思いが強すぎていつもより多めにジョグをしてしまいました」。差し込み(脇腹痛)もあり、初の世界選手権は20位(28分24秒25)に終わった。
ただ、得たものは大きかった。ゆっくり進んで後半で一気にペースがあがる展開は「だいたい予想通り」。その中で、5000mでペースアップした時に食らいつけたのは「良かった」。万全であったとしても「7000mから8000mで離れたと思います。力不足ですね」。その差を知れたことが、何よりの収穫だった。
帰国後、リフレッシュ期間を経て夏は二次合宿から参加。ところが、チームの雰囲気は今ひとつだったという。「夏合宿次第で駅伝に勝てるかどうか決まるんだ」。田澤がかけたこの言葉はチームの士気を一気に高めた。「秋の結果は夏合宿で決まる。誰もが変わることができるんです」。田澤自身もそうだった。「1年の時の夏合宿前は目立った選手でもなかったですが、合宿で力をつけて出雲駅伝(3区区間新で2位)から注目されるようになりました」。
駒大に入学し、ここまで三大駅伝は皆勤賞。「高校までは駅伝がそれほど好きじゃありませんでした」。絶対的なエースだった田澤は常に1区を務めてきた。だから「タスキを渡すだけ」だった。だが、駒大に入り、1年目で出雲の3区、全日本の7区を走って変わった。仲間がつないできたタスキを受け、自分を待つ仲間に渡す。「駅伝の楽しさを感じたんです」。
オレゴン世界選手権の経験は、確かに田澤を変えた。「世界選手権を経験しないと、駅伝が“楽しい”だけで終わっていたかもしれません」。世界を肌で感じたからこそ、駅伝とトラックがつながるとは簡単には言えない。見据えているのは『世界』。それでも、「最後ですから、チームのために箱根駅伝に向けてやっていこうと思ったんです」と力を込める。
「日本代表の試合より海外チームの試合を見るほうが楽しみですね。いつか絶対にW杯を観に行きますよ」。そう言っていた田澤の目に、日の丸を胸に世界の強豪国を打ち負かした男たちはどう映っただろうか。そして、世界最高峰の戦いにどんな思いを抱いただろうか。
ただ、名門のエースとして、自分の役割は決して忘れていない。「大八木(弘明)監督に3冠をプレゼントするのが4年間の恩返しだと思っています」。2023年1月、田澤廉の学生最終章。それは同時に、世界への序章でもある。

箱根駅伝2023を前にインタビューに答える田澤
●田澤廉(たざわ・れん)/2000年11月11日生まれ。青森県八戸市出身。青森・是川中→青森山田高。大学進学後は学生駅伝フル出場でこれまで区間賞5回獲得。10000mでは日本人学生最高の27分23秒44(日本歴代2位)を持ち、今夏のオレゴン世界選手権にも出場した。卒業後はトヨタ自動車で競技を続ける。
趣味:サッカーを見るのが好きで、特にイングランド・プレミアリーグ「マンチェスターUが好き」
休日:同期とゲームをすることも多いが、基本はアウトドア派。「おいしいスイーツを探して食べに行きます」。服を買いに行くのも好きだとか
リラックス法:温泉に行く
愛用品:「高校時代に買った」というファイテンのチタンチェーンネックレスをずっと使っている。「肩や肩甲骨周りがこりやすいので効きます」
シューズのこだわり:シューズはNikeで、朝練習、本練習、スピード練習、距離走用の他にも、快調走用やスパイクもあり「目的に応じて種類があるので(特徴を)生かすように、6種類を使い分けています」
文/向永拓史
「駅伝の楽しさを知った」
世界中がサッカーのW杯で沸いている。この男も例外ではなかった。 「めちゃくちゃ観ていますよ。優勝候補はフランスが強いですよね。いや、イングランドも強いし……。うーん、どうだろう」 幼少期にサッカーをしていて、あこがれは元ブラジル代表のロナウジーニョ。W杯は駒大のエースにして、日本長距離界の将来を担う田澤廉を“サッカー少年”に戻す。「クラブも見ますけど、やっぱりW杯は最高ですよ」。サッカーでも、やはり『世界』を見据えているのか。 競技の話になれば表情は一変した。それはやはり、日本を代表するランナーのもの。田澤はいよいよ、最後の箱根駅伝に挑もうとしている。 今季は念願だった世界の舞台に立った。オレゴン世界選手権10000mに出場。学生でこの種目で出場するのは2013年モスクワ大会に当時・早大だった大迫傑(現・Nike)以来のことだった。 その舞台に足を踏み入れたこと自体は、「大きな目標を達成したのは良かった」と振り返る一方で、万全で臨めたとは言えない。「世界選手権で良い結果を残したいという思いが強すぎていつもより多めにジョグをしてしまいました」。差し込み(脇腹痛)もあり、初の世界選手権は20位(28分24秒25)に終わった。 ただ、得たものは大きかった。ゆっくり進んで後半で一気にペースがあがる展開は「だいたい予想通り」。その中で、5000mでペースアップした時に食らいつけたのは「良かった」。万全であったとしても「7000mから8000mで離れたと思います。力不足ですね」。その差を知れたことが、何よりの収穫だった。 帰国後、リフレッシュ期間を経て夏は二次合宿から参加。ところが、チームの雰囲気は今ひとつだったという。「夏合宿次第で駅伝に勝てるかどうか決まるんだ」。田澤がかけたこの言葉はチームの士気を一気に高めた。「秋の結果は夏合宿で決まる。誰もが変わることができるんです」。田澤自身もそうだった。「1年の時の夏合宿前は目立った選手でもなかったですが、合宿で力をつけて出雲駅伝(3区区間新で2位)から注目されるようになりました」。 駒大に入学し、ここまで三大駅伝は皆勤賞。「高校までは駅伝がそれほど好きじゃありませんでした」。絶対的なエースだった田澤は常に1区を務めてきた。だから「タスキを渡すだけ」だった。だが、駒大に入り、1年目で出雲の3区、全日本の7区を走って変わった。仲間がつないできたタスキを受け、自分を待つ仲間に渡す。「駅伝の楽しさを感じたんです」。 オレゴン世界選手権の経験は、確かに田澤を変えた。「世界選手権を経験しないと、駅伝が“楽しい”だけで終わっていたかもしれません」。世界を肌で感じたからこそ、駅伝とトラックがつながるとは簡単には言えない。見据えているのは『世界』。それでも、「最後ですから、チームのために箱根駅伝に向けてやっていこうと思ったんです」と力を込める。 「日本代表の試合より海外チームの試合を見るほうが楽しみですね。いつか絶対にW杯を観に行きますよ」。そう言っていた田澤の目に、日の丸を胸に世界の強豪国を打ち負かした男たちはどう映っただろうか。そして、世界最高峰の戦いにどんな思いを抱いただろうか。 ただ、名門のエースとして、自分の役割は決して忘れていない。「大八木(弘明)監督に3冠をプレゼントするのが4年間の恩返しだと思っています」。2023年1月、田澤廉の学生最終章。それは同時に、世界への序章でもある。 [caption id="attachment_89845" align="alignnone" width="800"]
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