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2022.12.20

箱根駅伝Stories/専大・髙瀨桂が挑む最後の大舞台「自分は箱根を走ったんだ、と言えるような走りを」
箱根駅伝Stories/専大・髙瀨桂が挑む最後の大舞台「自分は箱根を走ったんだ、と言えるような走りを」

最後の箱根に挑む髙瀨桂

悔しさは二度と味わいたくない

「実は今年もケガが多くて……。走れない期間もありました」と苦笑いを浮かべる。というのも、前回大会後に右膝の鵞足炎(がそくえん)になってしまい、約2カヵ月走れなかった。4月からは徐々に復調し、このまま夏合宿を迎えられるかというところで体調不良。練習再開のタイミングでまたも膝に違和感が出た。結局、しっかりと納得できる練習が開始できたのは予選会の1ヵ月前という状態だという。

「取り組みたいのに、取り組めない、というような、もどかしい時期が長かったです」。これでは自信をつけるどころか、今まで以上に不安が募りそうな者だが、そうはならなかった。予選会では1時間04分10秒の64位と、まずまずの結果を残す。

「走れなくてもやれることをやろうと思って、身体作りに取り組んできました」と、故障期間中に体幹トレーニングを含めた、身体の基礎作りに心血を注ぎ込んだのが大きかった。その結果、トレーニング再開までのスパンが短縮。1ヵ月という短い準備期間でも、予選会はチーム3番手でフィニッシュできた。

さらに、故障中にもうひとつ髙瀨が取り組んだことがある。「主将として、手本となる選手じゃないとダメだと思って。トレーニングができない分、生活で些細なことでも気をつけて過ごすようにしていました」。走りで鼓舞できないのであれば、縁の下の力持ちになればいい。裏を返せば、何としてでも箱根本番で自分の走りをしたいという気持ちの表れでもあった。

「2回走れましたけど、2回とも不甲斐ない結果。チームに申し訳ない気持ちでいっぱいです。それに、こんな結果では箱根駅伝を走った、なんて言えません。だから最後の箱根は胸を張って、自分は箱根を走ったんだ、と言えるような走りをしたい」

予選会日本人トップの木村暁仁(左)とともに、16年ぶりのシード権獲得を目指す

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チームとしては、シード権獲得を目標に掲げる。「後輩たちに良いプレゼントを残したいですね」。1年時は予選会を走れず、チームも本戦に進めなくて悔しさを味わった。そんな思いを二度としたくない――。思って、まずは自分が結果を出すことを考えて3年間頑張ってきました」

集大成として迎える3度目の本戦。今回こそ、他校のエースと渡り合い、勝利したい。それが必ずチームのためにもなる。最後に髙瀨は、少し恥ずかしそうにしながらも、ハッキリとこう口にした。

「だって、勝たないとおもしろくないですから」

優しさに溢れていた表情の奥に、激しく燃える情熱が確かに見えた。

たかせ・けい/2001年3月10日生まれ。福岡県太宰府市出身。170cm・57kg。福岡・学業院中→佐賀・鳥栖工高。5000m14分17秒84、10000m29分06秒71、ハーフ1時間2分49秒

文/田坂友暁

箱根駅伝Stories 新春の風物詩・箱根駅伝に挑む選手やチームを取り上げる「箱根駅伝Stories」。12月19日から区間エントリーが発表される29日まで、全校の特集記事を掲載していく。 3年連続出場をもぎ取った専大の主軸を担っているのが髙瀨桂(4年)だ。箱根には過去2回出場し、2年時は1区、前回は2区と重要な区間を務めている。最後の箱根を前にケガが相次いだものの、その姿勢でチームを牽引。シード権獲得がともに汗を流してきた後輩たちへのプレゼントにするつもりだ。

自信を持つために

得たものは、悔しさだけだった。 「今振り返ると、スタート前から弱気な発言をすることが多くなっていました。自信が持てなかったんです。結局、前半から崩れてしまって……。1区で木村(暁仁、3年)が良い走りをしたのに、自分が台無しにしてしまった」 1年前の箱根駅伝で2区を走った専大の髙瀨桂(4年)はそう振り返る。髙瀨にとって、箱根は“鬼門”とも言える場所になってしまっている。2年時に初めて出場した際は、1区で区間19位。2区で待つ当時の主将であった茅野雅博に、もっと勝負ができる中盤で渡したかったタスキも、思い通りにいかなかった。 [caption id="attachment_89256" align="alignnone" width="800"] 専大は10月の予選会を8位で通過。髙瀨(前列左から3人目)は集団走の牽引役を担った[/caption] 3年時は予選会で日本人3位という好結果。だが、箱根本番直前に小さな故障が続き、最後の最後で思い切った練習が積めなくなってしまった。それが、冒頭の言葉につながる。結果として、自分に自信が持てるまでの練習ができなかったことが、髙瀨の走りを狂わせていたのだ。 それを冷静に捉えられるのが、髙瀨の特長でもある。あらためて、自分には何が足りないかをしっかりと考え、捉え、トレーニングに生かしてきた。 「持久的な力が足りていない。特に中盤のスピードの維持が課題でしたから、重点的にそこを鍛えてきました」 さらに、ロードで単独走になると、どこか気持ちが落ち着かず、「走りがばたついてしまう」ことが多かったという。「レースでもっと自分を客観視して、ゆとりを持った走りができるようにしたい」。そのためにも、やはり自信をつけること。 髙瀨の場合、記録を出して自信をつけるより、しっかりと納得できる練習を積み重ねることで作るタイプである。最終学年を迎えた今年、髙瀨にとって最大の課題である自信のつくトレーニングができたのだろうか。 次ページ 悔しさは二度と味わいたくない

悔しさは二度と味わいたくない

「実は今年もケガが多くて……。走れない期間もありました」と苦笑いを浮かべる。というのも、前回大会後に右膝の鵞足炎(がそくえん)になってしまい、約2カヵ月走れなかった。4月からは徐々に復調し、このまま夏合宿を迎えられるかというところで体調不良。練習再開のタイミングでまたも膝に違和感が出た。結局、しっかりと納得できる練習が開始できたのは予選会の1ヵ月前という状態だという。 「取り組みたいのに、取り組めない、というような、もどかしい時期が長かったです」。これでは自信をつけるどころか、今まで以上に不安が募りそうな者だが、そうはならなかった。予選会では1時間04分10秒の64位と、まずまずの結果を残す。 「走れなくてもやれることをやろうと思って、身体作りに取り組んできました」と、故障期間中に体幹トレーニングを含めた、身体の基礎作りに心血を注ぎ込んだのが大きかった。その結果、トレーニング再開までのスパンが短縮。1ヵ月という短い準備期間でも、予選会はチーム3番手でフィニッシュできた。 さらに、故障中にもうひとつ髙瀨が取り組んだことがある。「主将として、手本となる選手じゃないとダメだと思って。トレーニングができない分、生活で些細なことでも気をつけて過ごすようにしていました」。走りで鼓舞できないのであれば、縁の下の力持ちになればいい。裏を返せば、何としてでも箱根本番で自分の走りをしたいという気持ちの表れでもあった。 「2回走れましたけど、2回とも不甲斐ない結果。チームに申し訳ない気持ちでいっぱいです。それに、こんな結果では箱根駅伝を走った、なんて言えません。だから最後の箱根は胸を張って、自分は箱根を走ったんだ、と言えるような走りをしたい」 [caption id="attachment_89255" align="alignnone" width="800"] 予選会日本人トップの木村暁仁(左)とともに、16年ぶりのシード権獲得を目指す[/caption] チームとしては、シード権獲得を目標に掲げる。「後輩たちに良いプレゼントを残したいですね」。1年時は予選会を走れず、チームも本戦に進めなくて悔しさを味わった。そんな思いを二度としたくない――。思って、まずは自分が結果を出すことを考えて3年間頑張ってきました」 集大成として迎える3度目の本戦。今回こそ、他校のエースと渡り合い、勝利したい。それが必ずチームのためにもなる。最後に髙瀨は、少し恥ずかしそうにしながらも、ハッキリとこう口にした。 「だって、勝たないとおもしろくないですから」 優しさに溢れていた表情の奥に、激しく燃える情熱が確かに見えた。 たかせ・けい/2001年3月10日生まれ。福岡県太宰府市出身。170cm・57kg。福岡・学業院中→佐賀・鳥栖工高。5000m14分17秒84、10000m29分06秒71、ハーフ1時間2分49秒 文/田坂友暁

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