2020.05.14
東京五輪でファイナルへ
競技人生の成果を1年後に表現
悲願の五輪出場へ、そのための準備を着々と進めている安部(中央)
2010年の世界ジュニア選手権(現・U20世界選手権)の男子400mハードルで銀メダルを獲得。その時から安部孝駿(ヤマダ電機)には大きな期待が集まった。これまで五輪の舞台に立つことはできなかったが、世界選手権は4度出場。昨年のドーハ大会では17年ロンドン大会に続いて準決勝に進み、決勝進出に0秒30差まで迫った。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で東京五輪の1年延期が決まり、アスリートたちは満足なトレーニングができない日々が続いている。かつてない事態のなか、東京五輪の参加標準記録を突破している安部は静かに〝勝負の時〟が来るのを待っている。大歓声に沸く国立競技場で、己のポテンシャルを最大限に発揮するために――。
◎文/酒井政人
来年のベストパフォーマンスへ準備
東京五輪延期が決まったのは3月24日。安部孝駿(ヤマダ電機)が合宿先の米国から帰国した翌日だった。「ショックでしたね。この数年は2020年の夏にターゲットを置いてやってきましたから」。
この合宿も元々は3月6日に渡米して27日に帰国する予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて日本政府が米国からの入国制限を決めたため、帰国を急きょ4日早めた。
「米国滞在中はどんどん状況が悪化していく最中だったので、帰国した時は、日米のギャップというか違和感がありました」
今季はダイヤモンドリーグ(DL)ドーハ大会(4月17日)、静岡国際(5月2日)、ゴールデングランプリ(5月10日)の出場を予定していたし、その後は海外レースに参戦する計画も立てていた。だが国内大会は6月末まで中止・延期が決まり、今後の見通しははっきりしていない。4月7日に政府から「緊急事態宣言」が発令されたことで、練習も存分にできなくなった。
「自宅の近くで、できるトレーニングをしています」と言う安部は公園、河川敷などで走っている。時にはメディシンボールを使ったトレーニングも行い、トレーナーから指示された自宅でできるエクササイズもこなす。「トラックを走ることはできませんが、距離はウォーキングメジャーで測り、芝生の直線や、上り坂や階段なども走っています。できる練習に限りはありますけど、毎日練習しているので、いい状態は保てていると思っています。本格的な練習ができれば、すぐに戻るという感じです」と言葉に強さがある。
一方で不安もある。「試合がないので、気持ちの面が心配です。普段はターゲット(試合)に向かって練習しているので、現状維持みたいな練習になるのが一番のストレスです。正直、モチベーションを保つのが難しい」と苦しい胸の内を明かす。
だが、日々最善を尽くしていくことはまったく変わらない。「秋には試合があると信じています」と安部。そして、「オリンピックはみんなに歓迎された中で、自分が走る姿を楽しんで見てもらいたい。そういう時が来るのを待って、ベストのパフォーマンスができるように準備していくしかないと思っています」と前を向いている。
18年アジア大会後に米国で冬季合宿
2020年は安部にとって〝勝負の年〟となるはずだった。1月に練習拠点を地元・岡山から東京に移転。所属するヤマダ電機の選手たち(女子長距離以外)と同じく日大グラウンドでトレーニングを行っていた。
「チームメイトから刺激を受けながら練習していきたいですし、お世話になっているトレーナーも東京にいるんです。17年から高校(岡山・玉野光南高)時代の恩師である長谷川昌弘先生を頼って地元でやっていましたが、自分自身も成長しました。長谷川先生に頼る部分も減ってきましたし、新たな挑戦をしたかったんです」とその理由を話した。
社会人2年目(15年)の4月に右膝裏を痛めたこともあり、その後は不調が続いた。それでも地元に戻って再スタートを切ると、17年シーズンに復活する。5月のゴールデングランプリ川崎で7年ぶりの自己新となる49秒20をマーク。日本選手権は予選で自己ベストを48秒94まで縮めると、初優勝に輝いた。
夏のロンドン世界選手権は予選を2着(49秒65)で通過するものの、準決勝2組は5着(49秒93)に終わり敗退。これをきっかけに安部は次なるステージを見つめて、次々とアクションを起こしていくことになる。
昨年のドーハ世界選手権では準決勝3組3着と、ファイナルの舞台まであと一歩に迫った
※この続きは2020年5月14日発売の『月刊陸上競技6月号』をご覧ください。
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東京五輪でファイナルへ 競技人生の成果を1年後に表現

来年のベストパフォーマンスへ準備
東京五輪延期が決まったのは3月24日。安部孝駿(ヤマダ電機)が合宿先の米国から帰国した翌日だった。「ショックでしたね。この数年は2020年の夏にターゲットを置いてやってきましたから」。 この合宿も元々は3月6日に渡米して27日に帰国する予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて日本政府が米国からの入国制限を決めたため、帰国を急きょ4日早めた。 「米国滞在中はどんどん状況が悪化していく最中だったので、帰国した時は、日米のギャップというか違和感がありました」 今季はダイヤモンドリーグ(DL)ドーハ大会(4月17日)、静岡国際(5月2日)、ゴールデングランプリ(5月10日)の出場を予定していたし、その後は海外レースに参戦する計画も立てていた。だが国内大会は6月末まで中止・延期が決まり、今後の見通しははっきりしていない。4月7日に政府から「緊急事態宣言」が発令されたことで、練習も存分にできなくなった。 「自宅の近くで、できるトレーニングをしています」と言う安部は公園、河川敷などで走っている。時にはメディシンボールを使ったトレーニングも行い、トレーナーから指示された自宅でできるエクササイズもこなす。「トラックを走ることはできませんが、距離はウォーキングメジャーで測り、芝生の直線や、上り坂や階段なども走っています。できる練習に限りはありますけど、毎日練習しているので、いい状態は保てていると思っています。本格的な練習ができれば、すぐに戻るという感じです」と言葉に強さがある。
18年アジア大会後に米国で冬季合宿
2020年は安部にとって〝勝負の年〟となるはずだった。1月に練習拠点を地元・岡山から東京に移転。所属するヤマダ電機の選手たち(女子長距離以外)と同じく日大グラウンドでトレーニングを行っていた。 「チームメイトから刺激を受けながら練習していきたいですし、お世話になっているトレーナーも東京にいるんです。17年から高校(岡山・玉野光南高)時代の恩師である長谷川昌弘先生を頼って地元でやっていましたが、自分自身も成長しました。長谷川先生に頼る部分も減ってきましたし、新たな挑戦をしたかったんです」とその理由を話した。 社会人2年目(15年)の4月に右膝裏を痛めたこともあり、その後は不調が続いた。それでも地元に戻って再スタートを切ると、17年シーズンに復活する。5月のゴールデングランプリ川崎で7年ぶりの自己新となる49秒20をマーク。日本選手権は予選で自己ベストを48秒94まで縮めると、初優勝に輝いた。 夏のロンドン世界選手権は予選を2着(49秒65)で通過するものの、準決勝2組は5着(49秒93)に終わり敗退。これをきっかけに安部は次なるステージを見つめて、次々とアクションを起こしていくことになる。
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