2022.11.16
実業団や大学の強豪チームで日本気圧バルク工業の「O2RoomR」の導入が進み、低圧低酸素ルームでのトレーニング、高気圧酸素ルームでのコンディショニングという使われ方も広く知られるようになった。だが、長野県富士見町にある石井整骨院では低圧低酸素と高気圧酸素の両方を1台で利用できる「2way 酸素ルーム」(日本気圧バルク工業の特許製品)を駆使し、さまざまなかたちで治療やコンディショニングに活用している。同院の院長で、柔道整復師の石井俊久氏(59 歳)はかつて学生駅伝で活躍し、実業団でも走った元ランナー。故障に悩まされ続けた現役時代の自身の苦しさを今の選手たちに味わせないため、治療法の研究を重ねながら「2way 酸素ルーム」の利用を進めている。
高気圧酸素ルームと低圧低酸素ルームの機能が1台でまかなえる「2way酸素ルーム」があることが石井整骨院の大きな特色と言える
〝日本一の治療院〟を目指して信頼できる「2way酸素ルーム」を購入
標高1300mの富士見高原(長野)は長距離ランナーの〝合宿のメッカ〟として知られている。そこから5kmほど下がった場所にある石井整骨院には、日常的に多くのアスリートが治療やコンディショニングに訪れている。「私も現役時代、走っていて脚が抜ける感覚の生じる〝局所性ジストニア〟を経験しましたし、故障もあって実業団に進んでから、わずか1年少々で引退することになりました。そうした経験から治療というかたちで今の選手たちの役に立ちたいと思って治療家を目指したのです。また、せっかく合宿に来ても故障した選手は寮に帰されるケースがほとんどですが、そうではなく、治療と並行してトレーニングもできるかたちの治療院を目指し、今の設備を整えました」
石井整骨院の建坪は、この場所で許されている木造最大限の280坪。体育館かスポーツジムのような外観で、晴れた日には背後に美しい南アルプスが見える
石井俊久院長は大東文化大学時代に正月の学生駅伝を3度走り、山上りの5区を2度担うなど主力選手として活躍した経歴を持つ。実業団には現在のコニカミノルタの前身である小西六写真工業に進んだが、本人の言葉にある通り、そこでの活躍は叶わず、1年余りで引退を余儀なくされた。
その後、ペンション経営をしていたが、31歳で一念発起し、当時の大東大を率いていた靑葉昌幸監督(現・関東学生陸上競技連盟名誉会長)に相談し、治療家の道を志す。大東大の系列だった専門学校に通いながら、陸上部のアシスタントコーチを務め、柔道整復師の資格を取ってから、この富士見町で石井整骨院を開業。初めはペンションの中の8畳一間の一室で営んでいたが、8年後の2007年、現在の地に移転した。「当時、2002年に日本と韓国で行われたサッカーの祭典でスーパースターだったディビッド・ベッカム選手(イングランド)が酸素カプセルを使って、右足甲の骨折から早期回復をしたのを見ていました。そこで患者さんの早期回復のために私の整骨院でも導入しようと決めたのです」
石井院長(中央)は大東文化大学時代に1984年の全日本大学駅伝でチームの優勝に貢献した元ランナー。右は恩師の靑葉昌幸監督(当時)
最初はソフトタイプの酸素カプセルを導入したが、1年も経たないうちに破れて使えなくなってしまった。「せっかく導入するなら頑丈で、しかも一度に複数人が入れる大きな酸素ルームの方がいい。なおかつ、信頼できるメーカーから直接買うのが間違いない」と考え、いくつかのメーカーの中から最終的に日本気圧バルク工業に行きつき、高気圧酸素ルームの購入を決断。その際に、同社の天野英紀社長に勧められ、1台で高気圧酸素と低圧低酸素の両方を使える「2way酸素ルーム」にバージョンアップして2015年12月に導入している。「当時、低圧低酸素については知識もなかったのですが、実際に目にし、2way酸素ルーム中に入ってみたことで〝これだ〟とビビッと来るものがあったんです」(石井院長)
整骨院内には治療用のベッドやトレーニング機器がずらり。トレッドミルでの走行中に〝ぬけぬけ病〟の症状が出たランナーをすぐに診察できるメリットもある
石井整骨院には数多くのトレーニング設備も整っているため、「治す」、「鍛える」の2本立てが可能だが、そこに「2way酸素ルーム」が入ったことで、「早く治す」も可能になった。「ここは周辺に民家も少なく、患者さんも遠方から来ていただく方が数多くいます。それならば〝長年悩まされた痛みや苦しみが改善され、パフォーマンスが上がった〟〝思ったよりも早く治った〟と言われる日本一の治療院にしたい。そして、こんな山の中でも世界記録を作れるようなアスリートを支える治療院にしたいと思って始めました」
独学での研究も重ね、誰もやったことのない治療の領域に入っている石井院長
整骨院を運営する会社名は有限会社ワールドレコードプロダクツ。治療に来ていた柔道選手が2000年にシドニーで開催されたビッグイベントで金メダルを獲得したことでその夢に近いかたちのものは叶えられ、陸上界でもマラソンを中心とした日本代表選手も続々と訪れている。
最近で言えば、9月の日本インカレで女子800mに優勝した山口光、同1500mを制した小野汐音(ともに4年)をはじめとする順天堂大学の女子中長距離チームが富士見高原でよく合宿を行い、コンディショニングで石井整骨院を利用。ここでの調整を好結果につなげている。
低圧低酸素と高気圧酸素を交互に使い素早い回復を実現
前述の通り、石井整骨院では当初、高気圧酸素ルームのみの導入を考えていたが、石井院長はそれだけに飽き足らず、低圧低酸素の可能性にも着目。独自に研究と自身の身体を使っての試行錯誤を重ねた結果、今では高気圧酸素、低圧低酸素とも単独で使うだけでなく、組み合わせた利用をすることで新境地を開いた。これが石井整骨院での酸素ルームの使い方の最大の特徴だ。「人間の身体は圧を受けると、元に戻ろうとする性質があります。これを利用して血行を促進し、患者さんの持つ本来の自然治癒力を生かそうと考えたのです」
2015年12月に導入された石井整骨院の「2way酸素ルーム」は幅1.85m、高さ2.0m、奥行き4.0mのビッグサイズ。同時に10人以上も入ることができる
低圧低酸素の環境は、通常よりも気圧が下がるため、体内の血管や筋肉が緩み、血流が促進する。そして一定時間をその中で過ごした後、高気圧酸素の環境に移動すれば、一気に血管や筋肉などが収縮する。この繰り返しにより、常圧の環境では得られない血流の促進が進み、痛みの除去や障害の改善が進むのである。「骨折などのケガを負った患者さんは、高気圧酸素の中に微弱電流を流せる治療器を持ち込み、中で治療した後、低圧低酸素に切り替えることもあります。圧をかけながら治療を行うだけでも通常より早い回復が期待できますが、高気圧と低圧を交互にかけることで効果はさらに高まります。また、長距離選手の中には、低圧低酸素ルームを高地トレーニングと同等の効果を得る目的で利用している方もいるかもしれませんが、大切なのは全身に多くの酸素を送り込むための血管の柔らかさであり、それがあってこそ、その効果も大きくなります。この点も高気圧酸素との交互での利用でより期待できるのです」
2way酸素ルームに固定式バイクを持ち込んでトレーニングに励んだアルペンスノーボード日本代表(当時)の神野慎之介選手
イメージとしてはサウナや温浴の後に冷水浴を繰り返す「交代浴」に近いと石井院長は説明する。「低圧」に入ることが血管をゆるめるサウナや温浴であり、収縮させる「高気圧」が冷水浴にあたる。その繰り返しにより、身体が正常な状態へと「整う」のである。
順天堂大学女子中長距離ブロックは、富士見高原で合宿をするたびに石井整骨院に訪れてコンディション調整をしている
ここまで説明したメカニズムでのコンディショニングが可能なのは、常圧でない環境であることが大きな理由だ。日本気圧バルク工業の酸素ルームは、酸素の濃度だけでなく、気圧にこだわった製品だからこそ、より人間の生理反応に訴える治療が可能になっている。
気圧の管理に関しては石井院長の妻である陽子さんが一般社団法人日本気圧メディカル協会の実施する研修を受け、「気圧マスター」の資格を取り、院長をサポートしながら行なっている。当該資格は高気圧酸素のみの受講により取得できるもののため、低圧低酸素については独学で勉強を進めたそうだ。今ではさまざまな悩みを持つ患者に向け、効果的な利用についてのアドバイスをしている。
石井院長をサポートしている妻の陽子さんは「気圧マスター」の資格を取って2way酸素ルームの気圧の管理も担当。患者さんやアスリートにさまざまなアドバイスをしている
〝ぬけぬけ病〟の治療にも「2way酸素ルーム」を活用
ここまでは2way酸素ルームの使い方での特徴を見てきたが、石井整骨院の治療方法も独自の開発が進んでいる。
石井院長はこれまでの治療の経験から、骨だけでなく〝筋膜〟に目を向けた治療を推進している。「これまで腰痛や膝の痛みなど、身体の不調は骨を基本に考えられていましたが、海外の研究事例や私自身の経験から、筋膜の重要性に気が付きました」
筋膜とは、筋肉を覆っている膜のイメージがあるが、すべての器官をボディスーツのように覆い、筋肉自体や、筋内部の筋繊維、さらには内臓まで覆いながら連動して動き、バランスを保つ連動組織。それを整えることが、身体の不調の改善につながると考えたという。「筋膜はスポンジ構造で、その間に間質液という水分が蓄えられています。この水分が滑らかに循環しないで滞ることがあるのではないかと考えたのです。この間質液の水分バランスによる癒着ができます。それを触診で見つけ、均(なら)し、そして先ほど申し上げたような2way酸素ルームの使い方で均一に整えることで改善につながると考えています」
石井院長は同時に、人間のタイプと軸にも着目した。人間はアスリートであれ、運動習慣のない一般の方であれ、基本的につま先タイプと、かかとタイプに二分化され、その中でも内側、外側があり、誰しもがこの4つのタイプに分かれるという。そのタイプと軸に合わない動きを繰り返すことで筋膜に無理がかかり、筋膜の水分が足りなくなり、運動障害が起きると話す。「私も学生時代に山上りの区間を走っていて、かかとタイプの選手でした。しかし、実業団に進み、つま先接地の平地での走り方へと変えたことでケガをし、競技生活を断念せざるを得なくなりました。筋膜に着目し、2way酸素ルームを使って治療、改善すると同時に、動き自体もその人本来のものに戻していかないといけません。そのために私の整骨院では実際に走りを見て、動きを直すことも行いながら、正しいフォームにすることにも努めています」
長距離選手に多く発症する局所性ジストニア、通称〝ぬけぬけ病〟も自分のタイプに合わない走り方を繰り返し、筋膜の水分バランスが乱れることで起こるものだと院長は考えており、その治療のために先に挙げた通り、2way酸素ルームは欠かせない設備だ。
玄関にはスピードスケート、陸上、柔道、自転車競技などさまざまなスポーツの世界チャンピオンやメダリスト、日本代表選手のサインがずらり。みんな石井院長を頼って来院してきたアスリートだ
陸上の長距離選手だけでなく、同様な症状が起きやすいスケート選手や、ゴルファー、サックスプレイヤーなどのミュージシャンも治療に訪れているが、これらタイプに合わない無理な動作を長期間、繰り返して起きる障害は治療にも時間がかかるため、まずは発症するメカニズムを知り、予防に努めてもらいたい、と石井院長は力を込めて繰り返す。
陸上界では特にカーボンブレート入り厚底シューズが一般化してきたことで、パフォーマンスは向上してきたものの、故障者の数も多くなってきている。長期的に見れば、まずは本来の自分のフォームを理解し、実践したうえで厚底シューズを使いこなすことが大切で、その意識がないと〝ぬけぬけ病〟だけでなく、股関節や膝の故障を招きやすくなると危惧している。
低圧低酸素をリカバリーで利用広がる「2way酸素ルーム」の可能性
石井整骨院ではメンタルや神経系のコンディショニングにも2way酸素ルームを活用している。
すでに多くの研究者の間で認められている通り、高気圧酸素ルームに入ることで、心拍数が減少し、副交感神経が優位になる。それにより自律神経が安定することがわかっている。日常的に自律神経の乱れはイライラなどの情緒不安定、更年期障害、気力の低下や不眠などで現れる。アスリートで言えば、最後の2つはメンタルのコンディショニングを行ううえで大敵であり、それ次第でレースでのパフォーマンスが大きく変わってくる。この点についても高気圧酸素だけでなく、低圧低酸素も併用しながら、その治療を行う。ここでも〝気圧の落差〟を利用するのだ。
平地の環境が1気圧なのに対し、日本気圧バルク工業の高気圧酸素は人体に安全な1.25 ~ 1.3気圧、低圧低酸素は約0.72気圧までの設定になっている。「2way酸素ルームが1台あれば、水深3m(約1.3気圧)から標高3000m(約0.72気圧)までの〝気圧の落差〟ができます。この落差こそ、治療やコンディショニングに大いに役立つと思うのです。私の治療において、2way酸素ルームはなくてはならないものであり、大切なパートナーです」
「私の治療において、2way酸素ルームはなくてはならないものであり、大切なパートナー」と話す石井院長。ケガで引退を余儀なくされた自らの経験を治療に生かしている
石井院長はこう話し、今では絶大な信頼を置くまでになった。そして、治療家としての観点から、「低圧低酸素をトレーニングだけで使うのはもったいない」とも話す。すでに導入しているチームや、それを利用できる環境にある人には先ほどの交代浴の原理で50分ないし、1時間ずつ交互で利用すれば、心身のコンディショニングに効果を発揮するはず。低圧低酸素ルームしかない場合でも、同じ要領で室内外を出入りするだけでも、実感できるほどの効果が期待できるそうだ。
他では見られないほどの活用をしている石井整骨院だが、院長は「2way酸素ルームには利用の仕方はさまざまあるはず」と話す。今後も研究を重ねながらその可能性を追求し、さらに効果的な治療を探していくつもりだ。
文/赤浦 豪、撮影/船越陽一郎
〝日本一の治療院〟を目指して信頼できる「2way酸素ルーム」を購入
標高1300mの富士見高原(長野)は長距離ランナーの〝合宿のメッカ〟として知られている。そこから5kmほど下がった場所にある石井整骨院には、日常的に多くのアスリートが治療やコンディショニングに訪れている。「私も現役時代、走っていて脚が抜ける感覚の生じる〝局所性ジストニア〟を経験しましたし、故障もあって実業団に進んでから、わずか1年少々で引退することになりました。そうした経験から治療というかたちで今の選手たちの役に立ちたいと思って治療家を目指したのです。また、せっかく合宿に来ても故障した選手は寮に帰されるケースがほとんどですが、そうではなく、治療と並行してトレーニングもできるかたちの治療院を目指し、今の設備を整えました」 石井整骨院の建坪は、この場所で許されている木造最大限の280坪。体育館かスポーツジムのような外観で、晴れた日には背後に美しい南アルプスが見える 石井俊久院長は大東文化大学時代に正月の学生駅伝を3度走り、山上りの5区を2度担うなど主力選手として活躍した経歴を持つ。実業団には現在のコニカミノルタの前身である小西六写真工業に進んだが、本人の言葉にある通り、そこでの活躍は叶わず、1年余りで引退を余儀なくされた。 その後、ペンション経営をしていたが、31歳で一念発起し、当時の大東大を率いていた靑葉昌幸監督(現・関東学生陸上競技連盟名誉会長)に相談し、治療家の道を志す。大東大の系列だった専門学校に通いながら、陸上部のアシスタントコーチを務め、柔道整復師の資格を取ってから、この富士見町で石井整骨院を開業。初めはペンションの中の8畳一間の一室で営んでいたが、8年後の2007年、現在の地に移転した。「当時、2002年に日本と韓国で行われたサッカーの祭典でスーパースターだったディビッド・ベッカム選手(イングランド)が酸素カプセルを使って、右足甲の骨折から早期回復をしたのを見ていました。そこで患者さんの早期回復のために私の整骨院でも導入しようと決めたのです」 石井院長(中央)は大東文化大学時代に1984年の全日本大学駅伝でチームの優勝に貢献した元ランナー。右は恩師の靑葉昌幸監督(当時) 最初はソフトタイプの酸素カプセルを導入したが、1年も経たないうちに破れて使えなくなってしまった。「せっかく導入するなら頑丈で、しかも一度に複数人が入れる大きな酸素ルームの方がいい。なおかつ、信頼できるメーカーから直接買うのが間違いない」と考え、いくつかのメーカーの中から最終的に日本気圧バルク工業に行きつき、高気圧酸素ルームの購入を決断。その際に、同社の天野英紀社長に勧められ、1台で高気圧酸素と低圧低酸素の両方を使える「2way酸素ルーム」にバージョンアップして2015年12月に導入している。「当時、低圧低酸素については知識もなかったのですが、実際に目にし、2way酸素ルーム中に入ってみたことで〝これだ〟とビビッと来るものがあったんです」(石井院長)低圧低酸素と高気圧酸素を交互に使い素早い回復を実現
前述の通り、石井整骨院では当初、高気圧酸素ルームのみの導入を考えていたが、石井院長はそれだけに飽き足らず、低圧低酸素の可能性にも着目。独自に研究と自身の身体を使っての試行錯誤を重ねた結果、今では高気圧酸素、低圧低酸素とも単独で使うだけでなく、組み合わせた利用をすることで新境地を開いた。これが石井整骨院での酸素ルームの使い方の最大の特徴だ。「人間の身体は圧を受けると、元に戻ろうとする性質があります。これを利用して血行を促進し、患者さんの持つ本来の自然治癒力を生かそうと考えたのです」 2015年12月に導入された石井整骨院の「2way酸素ルーム」は幅1.85m、高さ2.0m、奥行き4.0mのビッグサイズ。同時に10人以上も入ることができる 低圧低酸素の環境は、通常よりも気圧が下がるため、体内の血管や筋肉が緩み、血流が促進する。そして一定時間をその中で過ごした後、高気圧酸素の環境に移動すれば、一気に血管や筋肉などが収縮する。この繰り返しにより、常圧の環境では得られない血流の促進が進み、痛みの除去や障害の改善が進むのである。「骨折などのケガを負った患者さんは、高気圧酸素の中に微弱電流を流せる治療器を持ち込み、中で治療した後、低圧低酸素に切り替えることもあります。圧をかけながら治療を行うだけでも通常より早い回復が期待できますが、高気圧と低圧を交互にかけることで効果はさらに高まります。また、長距離選手の中には、低圧低酸素ルームを高地トレーニングと同等の効果を得る目的で利用している方もいるかもしれませんが、大切なのは全身に多くの酸素を送り込むための血管の柔らかさであり、それがあってこそ、その効果も大きくなります。この点も高気圧酸素との交互での利用でより期待できるのです」 2way酸素ルームに固定式バイクを持ち込んでトレーニングに励んだアルペンスノーボード日本代表(当時)の神野慎之介選手 イメージとしてはサウナや温浴の後に冷水浴を繰り返す「交代浴」に近いと石井院長は説明する。「低圧」に入ることが血管をゆるめるサウナや温浴であり、収縮させる「高気圧」が冷水浴にあたる。その繰り返しにより、身体が正常な状態へと「整う」のである。 順天堂大学女子中長距離ブロックは、富士見高原で合宿をするたびに石井整骨院に訪れてコンディション調整をしている ここまで説明したメカニズムでのコンディショニングが可能なのは、常圧でない環境であることが大きな理由だ。日本気圧バルク工業の酸素ルームは、酸素の濃度だけでなく、気圧にこだわった製品だからこそ、より人間の生理反応に訴える治療が可能になっている。 気圧の管理に関しては石井院長の妻である陽子さんが一般社団法人日本気圧メディカル協会の実施する研修を受け、「気圧マスター」の資格を取り、院長をサポートしながら行なっている。当該資格は高気圧酸素のみの受講により取得できるもののため、低圧低酸素については独学で勉強を進めたそうだ。今ではさまざまな悩みを持つ患者に向け、効果的な利用についてのアドバイスをしている。 石井院長をサポートしている妻の陽子さんは「気圧マスター」の資格を取って2way酸素ルームの気圧の管理も担当。患者さんやアスリートにさまざまなアドバイスをしている〝ぬけぬけ病〟の治療にも「2way酸素ルーム」を活用
ここまでは2way酸素ルームの使い方での特徴を見てきたが、石井整骨院の治療方法も独自の開発が進んでいる。 石井院長はこれまでの治療の経験から、骨だけでなく〝筋膜〟に目を向けた治療を推進している。「これまで腰痛や膝の痛みなど、身体の不調は骨を基本に考えられていましたが、海外の研究事例や私自身の経験から、筋膜の重要性に気が付きました」 筋膜とは、筋肉を覆っている膜のイメージがあるが、すべての器官をボディスーツのように覆い、筋肉自体や、筋内部の筋繊維、さらには内臓まで覆いながら連動して動き、バランスを保つ連動組織。それを整えることが、身体の不調の改善につながると考えたという。「筋膜はスポンジ構造で、その間に間質液という水分が蓄えられています。この水分が滑らかに循環しないで滞ることがあるのではないかと考えたのです。この間質液の水分バランスによる癒着ができます。それを触診で見つけ、均(なら)し、そして先ほど申し上げたような2way酸素ルームの使い方で均一に整えることで改善につながると考えています」 石井院長は同時に、人間のタイプと軸にも着目した。人間はアスリートであれ、運動習慣のない一般の方であれ、基本的につま先タイプと、かかとタイプに二分化され、その中でも内側、外側があり、誰しもがこの4つのタイプに分かれるという。そのタイプと軸に合わない動きを繰り返すことで筋膜に無理がかかり、筋膜の水分が足りなくなり、運動障害が起きると話す。「私も学生時代に山上りの区間を走っていて、かかとタイプの選手でした。しかし、実業団に進み、つま先接地の平地での走り方へと変えたことでケガをし、競技生活を断念せざるを得なくなりました。筋膜に着目し、2way酸素ルームを使って治療、改善すると同時に、動き自体もその人本来のものに戻していかないといけません。そのために私の整骨院では実際に走りを見て、動きを直すことも行いながら、正しいフォームにすることにも努めています」 長距離選手に多く発症する局所性ジストニア、通称〝ぬけぬけ病〟も自分のタイプに合わない走り方を繰り返し、筋膜の水分バランスが乱れることで起こるものだと院長は考えており、その治療のために先に挙げた通り、2way酸素ルームは欠かせない設備だ。 玄関にはスピードスケート、陸上、柔道、自転車競技などさまざまなスポーツの世界チャンピオンやメダリスト、日本代表選手のサインがずらり。みんな石井院長を頼って来院してきたアスリートだ 陸上の長距離選手だけでなく、同様な症状が起きやすいスケート選手や、ゴルファー、サックスプレイヤーなどのミュージシャンも治療に訪れているが、これらタイプに合わない無理な動作を長期間、繰り返して起きる障害は治療にも時間がかかるため、まずは発症するメカニズムを知り、予防に努めてもらいたい、と石井院長は力を込めて繰り返す。 陸上界では特にカーボンブレート入り厚底シューズが一般化してきたことで、パフォーマンスは向上してきたものの、故障者の数も多くなってきている。長期的に見れば、まずは本来の自分のフォームを理解し、実践したうえで厚底シューズを使いこなすことが大切で、その意識がないと〝ぬけぬけ病〟だけでなく、股関節や膝の故障を招きやすくなると危惧している。低圧低酸素をリカバリーで利用広がる「2way酸素ルーム」の可能性
石井整骨院ではメンタルや神経系のコンディショニングにも2way酸素ルームを活用している。 すでに多くの研究者の間で認められている通り、高気圧酸素ルームに入ることで、心拍数が減少し、副交感神経が優位になる。それにより自律神経が安定することがわかっている。日常的に自律神経の乱れはイライラなどの情緒不安定、更年期障害、気力の低下や不眠などで現れる。アスリートで言えば、最後の2つはメンタルのコンディショニングを行ううえで大敵であり、それ次第でレースでのパフォーマンスが大きく変わってくる。この点についても高気圧酸素だけでなく、低圧低酸素も併用しながら、その治療を行う。ここでも〝気圧の落差〟を利用するのだ。 平地の環境が1気圧なのに対し、日本気圧バルク工業の高気圧酸素は人体に安全な1.25 ~ 1.3気圧、低圧低酸素は約0.72気圧までの設定になっている。「2way酸素ルームが1台あれば、水深3m(約1.3気圧)から標高3000m(約0.72気圧)までの〝気圧の落差〟ができます。この落差こそ、治療やコンディショニングに大いに役立つと思うのです。私の治療において、2way酸素ルームはなくてはならないものであり、大切なパートナーです」 「私の治療において、2way酸素ルームはなくてはならないものであり、大切なパートナー」と話す石井院長。ケガで引退を余儀なくされた自らの経験を治療に生かしている 石井院長はこう話し、今では絶大な信頼を置くまでになった。そして、治療家としての観点から、「低圧低酸素をトレーニングだけで使うのはもったいない」とも話す。すでに導入しているチームや、それを利用できる環境にある人には先ほどの交代浴の原理で50分ないし、1時間ずつ交互で利用すれば、心身のコンディショニングに効果を発揮するはず。低圧低酸素ルームしかない場合でも、同じ要領で室内外を出入りするだけでも、実感できるほどの効果が期待できるそうだ。 他では見られないほどの活用をしている石井整骨院だが、院長は「2way酸素ルームには利用の仕方はさまざまあるはず」と話す。今後も研究を重ねながらその可能性を追求し、さらに効果的な治療を探していくつもりだ。 文/赤浦 豪、撮影/船越陽一郎RECOMMENDED おすすめの記事
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