2020.03.16
【Web特別記事】
逆襲のスプリンター③
大学2年目のケガを乗り越えて――宮本大輔の逆襲が始まる
東京五輪を控え、俄然注目を集める陸上短距離。期待を一身に集めながら、苦しみ、悩み、それでも突き進むスプリンターたちにスポットを当てていく企画。3回目は宮本大輔(東洋大)を紹介する。中学記録を樹立し、インターハイ連覇。華々しい活躍を続けてきた男は、ケガを経て、もがきながら偉大な先輩たちの背中を追い続けている。
逆襲のスプリンター①ケガと向き合い続けた橋元晃志「何もせずに過ごしてきたわけじゃない」
逆襲のスプリンター②「1日1日を大切に」高橋萌木子がたどり着いた境地
ケガで日本インカレ、国体を欠場
「2ヵ月の間は完全休養に充てて、まったく動きませんでした」
世代トップとして君臨してきた宮本大輔にとって、昨秋に、初めてといえるほど長期離脱した。
昨年、国内シーズン初戦となった4月の出雲陸上で10秒30(+1.5)、10秒22(+3.4)。好記録を2本そろえ、上々のシーズンインを迎えた。
自己記録は洛南高3年時にマークした10秒23。東洋大に進学して1年目だった2018年シーズンは10秒26と更新することができず、2年目こそは、と手応え十分だった。
続く織田記念で10秒27(+1.2)。関東インカレは強い追い風参考ながら10秒02(+4.3)で連覇を達成した。さらに日本学生個人選手権の予選で10秒24(+0.2)と自己記録に0.01秒に迫る。
一見順調に見えたこの頃から、少しずつ歯車は狂い始めていた。
「関東インカレの時に左膝を痛めていたのですが、そのまま走れていました。でも、その時に変な接地になっていたんです」
スピードは間違いなくついていた。だからこそ、この接地の狂いは宮本の身体に大きな負担を与える。
日本選手権、ユニバーシアードとハイレベルなレースをこなし、ついに逆の右膝に炎症を起こす。半月板にも痛みが出て、9月の日本インカレと10月の国体を欠場。しっかりと治すことを最優先とした。
まずは自己ベスト更新
中学時代から走り続けてきた。それも、常にトップを。
今も破られない10秒56の中学記録を作り、あこがれの桐生祥秀(現日本生命)と同じ洛南高へ進んだ。
「中学記録保持者でも特別扱いはしない」
柴田博之先生のもと、宮本は腕振りから基礎作りを徹底し、3年間、いつも先頭に立ってホウキでグラウンド掃除をした。
主将としてチームも牽引し、インターハイ100mでは史上7人目の連覇。宮本は中2から高校卒業まで、100mで同世代に負けたのはたった一度だけ。高2の時、チームメイトの井本佳伸(現東海大)に敗れただけだった。
だが、結果を出せば出すほど、「早熟」「中学時代のトップ選手は大成しない」「桐生2世」など、さまざまな“修飾語”が一人歩きした。
苦悩がなかったと言えば嘘になる。それでも多くを語らず、それらを受け止め、淡々と、ひたむきに積み上げてきた。
この立ち止まるきっかけとなったケガは、スプリンターとして、さらに一段階上るための大事なプロセスだった。
「まずは正確に接地できるように感覚を戻してきました」と言う宮本。年始には桐生らとともに、恒例となっている母校・洛南高の冬季合宿でみっちり身体をいじめ抜いた。
高校時代の恩師・柴田先生は「獲得と消失はセット」だと言う。スピードとパワーを身につけるためには、宮本の特徴であるしなやかな走りを一時的に消失することもあるかもしれない。それもすべて、より速く、より強くなるため。
宮本は2月の日本選手権・室内競技60mでレースに復帰した。
「ユニバーシアード以来、久しぶりにしっかり走りました。不安は少しありましたが、走った感じではいけるな、と。ここから身体のキレを出していきたい。まずは自己ベスト更新です」
日本スプリント界は、100m10秒2台では話題にも上らないほど熾烈を極める。今は偉大な先輩たちと差を少しずつ詰めていくだけでいい。
まずは0.01秒でも、高校時代の自分を超える。その積み重ねが何より大切なことを宮本大輔は理解している。
文/向永拓史
逆襲のスプリンター③ 大学2年目のケガを乗り越えて――宮本大輔の逆襲が始まる
東京五輪を控え、俄然注目を集める陸上短距離。期待を一身に集めながら、苦しみ、悩み、それでも突き進むスプリンターたちにスポットを当てていく企画。3回目は宮本大輔(東洋大)を紹介する。中学記録を樹立し、インターハイ連覇。華々しい活躍を続けてきた男は、ケガを経て、もがきながら偉大な先輩たちの背中を追い続けている。 逆襲のスプリンター①ケガと向き合い続けた橋元晃志「何もせずに過ごしてきたわけじゃない」 逆襲のスプリンター②「1日1日を大切に」高橋萌木子がたどり着いた境地ケガで日本インカレ、国体を欠場
「2ヵ月の間は完全休養に充てて、まったく動きませんでした」 世代トップとして君臨してきた宮本大輔にとって、昨秋に、初めてといえるほど長期離脱した。 昨年、国内シーズン初戦となった4月の出雲陸上で10秒30(+1.5)、10秒22(+3.4)。好記録を2本そろえ、上々のシーズンインを迎えた。 自己記録は洛南高3年時にマークした10秒23。東洋大に進学して1年目だった2018年シーズンは10秒26と更新することができず、2年目こそは、と手応え十分だった。 続く織田記念で10秒27(+1.2)。関東インカレは強い追い風参考ながら10秒02(+4.3)で連覇を達成した。さらに日本学生個人選手権の予選で10秒24(+0.2)と自己記録に0.01秒に迫る。 一見順調に見えたこの頃から、少しずつ歯車は狂い始めていた。 「関東インカレの時に左膝を痛めていたのですが、そのまま走れていました。でも、その時に変な接地になっていたんです」 スピードは間違いなくついていた。だからこそ、この接地の狂いは宮本の身体に大きな負担を与える。 日本選手権、ユニバーシアードとハイレベルなレースをこなし、ついに逆の右膝に炎症を起こす。半月板にも痛みが出て、9月の日本インカレと10月の国体を欠場。しっかりと治すことを最優先とした。まずは自己ベスト更新
昨シーズンは脚の状態を気にしながらの試合が多かった 中学時代から走り続けてきた。それも、常にトップを。 今も破られない10秒56の中学記録を作り、あこがれの桐生祥秀(現日本生命)と同じ洛南高へ進んだ。 「中学記録保持者でも特別扱いはしない」 柴田博之先生のもと、宮本は腕振りから基礎作りを徹底し、3年間、いつも先頭に立ってホウキでグラウンド掃除をした。 主将としてチームも牽引し、インターハイ100mでは史上7人目の連覇。宮本は中2から高校卒業まで、100mで同世代に負けたのはたった一度だけ。高2の時、チームメイトの井本佳伸(現東海大)に敗れただけだった。 だが、結果を出せば出すほど、「早熟」「中学時代のトップ選手は大成しない」「桐生2世」など、さまざまな“修飾語”が一人歩きした。 苦悩がなかったと言えば嘘になる。それでも多くを語らず、それらを受け止め、淡々と、ひたむきに積み上げてきた。 この立ち止まるきっかけとなったケガは、スプリンターとして、さらに一段階上るための大事なプロセスだった。 「まずは正確に接地できるように感覚を戻してきました」と言う宮本。年始には桐生らとともに、恒例となっている母校・洛南高の冬季合宿でみっちり身体をいじめ抜いた。 高校時代の恩師・柴田先生は「獲得と消失はセット」だと言う。スピードとパワーを身につけるためには、宮本の特徴であるしなやかな走りを一時的に消失することもあるかもしれない。それもすべて、より速く、より強くなるため。 宮本は2月の日本選手権・室内競技60mでレースに復帰した。 「ユニバーシアード以来、久しぶりにしっかり走りました。不安は少しありましたが、走った感じではいけるな、と。ここから身体のキレを出していきたい。まずは自己ベスト更新です」 日本スプリント界は、100m10秒2台では話題にも上らないほど熾烈を極める。今は偉大な先輩たちと差を少しずつ詰めていくだけでいい。 まずは0.01秒でも、高校時代の自分を超える。その積み重ねが何より大切なことを宮本大輔は理解している。 文/向永拓史
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