HOME 駅伝、箱根駅伝

2022.10.16

「15kmを45分で通過しよう」立大・上野裕一郎監督 55年ぶり本戦復帰に導いた魔法の言葉/箱根駅伝予選会
「15kmを45分で通過しよう」立大・上野裕一郎監督 55年ぶり本戦復帰に導いた魔法の言葉/箱根駅伝予選会

◇第99回箱根駅伝予選会(10月15日/東京・陸上自衛隊立川駐屯地スタート、昭和記念公園フィニッシュ:21.0975km)

一昨年の28位、昨年の16位、そして6位――。立大が異例のジャンプアップで55年ぶりの箱根駅伝本戦出場を勝ち取った。「史上最長ブランク」を乗り越えたのは、1~3年生のフレッシュなメンバーたちだ。

「才能ある選手が入りましたし、上野(裕一郎)監督は指導力がありますからね」。こう話したのは別の大学の監督。他の大学でも立大予選突破の話題は持ち切りだった。ライバル校の台頭を警戒しつつも、「意外ではない」と受け取める他大学関係者は少なくない。

上野監督は2018年の監督就任直前まで現役。就任後も自ら走って選手を引っ張り、レースにも出てペースメイク役を買って出た。今年3月には立川シティハーフマラソンで優勝している。「日本一速い監督」と話題になり、「本当は僕が目立っていてはいけないのですけど」と頭をかく本人。「やりたいようにやってきた」と、選手時代の奔放さは自ら認めるところ。記憶に新しいそんなイメージと、「指導力のある監督」の実像に、駅伝ファンはギャップを感じるかもしれない。

「監督の苦悩ですか? 全然ないです。苦しんだのは選手たち。選手たちの走りやすい環境を整えるのが監督の仕事ですから」。そんな風に、スマートなコメントを残す「監督」だ。

遂行した作戦には、選手時代のらしさも垣間見えた。「15kmを45分で通過する」。ここに選手たちの意識を集中させた。「終盤のことは考えるな」と付け加えて。

広告の下にコンテンツが続きます

前回の予選会でも、果敢にとばした。5km通過時では総合トップ。後半に失速して総合16位となったが、1年前のチャレンジが、今回の作戦の土台にある。

予選会では主流の集団走を行わず、個々人が自立してペースを作るスタイルは踏襲。「選手を縛りつけたくない」との信念に通じる。5kmを総合4位、10kmを総合3位で通過。15kmはやや下がって5位としだが、ここで11位チームに対するアドバンテージが2分58秒。これを生かすか殺すか。15kmでチームの先頭にいたのは1年生の國安広人だ。16kmで18位集団の前へ飛び出し、攻めの走りを敢行。本戦経験者らと堂々対峙し、個人21位に食い込んできた。

45位、53位に続いた中山凛斗(3年)と安藤圭佑(2年)も15kmから順位を引き上げてのフィニッシュ。林虎大朗(2年)、関口絢太(3年)、永井駿(1年)は、終盤の落ち込みを最小限に抑え、計6人が二桁順位に滑り込んだ。攻めてつかんだ本戦切符だ。

立大は1936~68年の間に27回本戦出場し、最高順位は1957年に3位を記録。青学大の33年、筑波大の26年などを超えて、最長ブランクを経た復活になる。「東京六大学」のうち5校が同時出場した1984年記念大会で、1校だけ蚊帳の外だったのが立大だった。

大学の創立150周年にあたる2024年の本戦復帰を目指していたが、1年早い目標達成だ。「55年」の感想を問われた上野監督は、「多くのサポートが思い起こされます」と関係者への感謝を寄せる。

上野監督が忙しく取材対応している場所へ、東海大・両角速監督が歩み寄ってきた。長野・佐久長聖高時代の恩師が手を差し出し、がっちり握手で祝福。予選会成績で総合9位の東海大を上回った。「これで超えたなんてことは決してなく、まだ追いかける立場だと思っています」とは、上野監督の謙遜でなく本音だろう。

「今日1日は喜んでいいと思いますが、これで注目される立場になり、私も選手も気を引き締めて、緊張感を共有していきたい」。「自立した走り」を遂行した選手たちが、本戦もたくましく走り抜けるだろうか。

文/奥村 崇

◇第99回箱根駅伝予選会(10月15日/東京・陸上自衛隊立川駐屯地スタート、昭和記念公園フィニッシュ:21.0975km) 一昨年の28位、昨年の16位、そして6位――。立大が異例のジャンプアップで55年ぶりの箱根駅伝本戦出場を勝ち取った。「史上最長ブランク」を乗り越えたのは、1~3年生のフレッシュなメンバーたちだ。 「才能ある選手が入りましたし、上野(裕一郎)監督は指導力がありますからね」。こう話したのは別の大学の監督。他の大学でも立大予選突破の話題は持ち切りだった。ライバル校の台頭を警戒しつつも、「意外ではない」と受け取める他大学関係者は少なくない。 上野監督は2018年の監督就任直前まで現役。就任後も自ら走って選手を引っ張り、レースにも出てペースメイク役を買って出た。今年3月には立川シティハーフマラソンで優勝している。「日本一速い監督」と話題になり、「本当は僕が目立っていてはいけないのですけど」と頭をかく本人。「やりたいようにやってきた」と、選手時代の奔放さは自ら認めるところ。記憶に新しいそんなイメージと、「指導力のある監督」の実像に、駅伝ファンはギャップを感じるかもしれない。 「監督の苦悩ですか? 全然ないです。苦しんだのは選手たち。選手たちの走りやすい環境を整えるのが監督の仕事ですから」。そんな風に、スマートなコメントを残す「監督」だ。 遂行した作戦には、選手時代のらしさも垣間見えた。「15kmを45分で通過する」。ここに選手たちの意識を集中させた。「終盤のことは考えるな」と付け加えて。 前回の予選会でも、果敢にとばした。5km通過時では総合トップ。後半に失速して総合16位となったが、1年前のチャレンジが、今回の作戦の土台にある。 予選会では主流の集団走を行わず、個々人が自立してペースを作るスタイルは踏襲。「選手を縛りつけたくない」との信念に通じる。5kmを総合4位、10kmを総合3位で通過。15kmはやや下がって5位としだが、ここで11位チームに対するアドバンテージが2分58秒。これを生かすか殺すか。15kmでチームの先頭にいたのは1年生の國安広人だ。16kmで18位集団の前へ飛び出し、攻めの走りを敢行。本戦経験者らと堂々対峙し、個人21位に食い込んできた。 45位、53位に続いた中山凛斗(3年)と安藤圭佑(2年)も15kmから順位を引き上げてのフィニッシュ。林虎大朗(2年)、関口絢太(3年)、永井駿(1年)は、終盤の落ち込みを最小限に抑え、計6人が二桁順位に滑り込んだ。攻めてつかんだ本戦切符だ。 立大は1936~68年の間に27回本戦出場し、最高順位は1957年に3位を記録。青学大の33年、筑波大の26年などを超えて、最長ブランクを経た復活になる。「東京六大学」のうち5校が同時出場した1984年記念大会で、1校だけ蚊帳の外だったのが立大だった。 大学の創立150周年にあたる2024年の本戦復帰を目指していたが、1年早い目標達成だ。「55年」の感想を問われた上野監督は、「多くのサポートが思い起こされます」と関係者への感謝を寄せる。 上野監督が忙しく取材対応している場所へ、東海大・両角速監督が歩み寄ってきた。長野・佐久長聖高時代の恩師が手を差し出し、がっちり握手で祝福。予選会成績で総合9位の東海大を上回った。「これで超えたなんてことは決してなく、まだ追いかける立場だと思っています」とは、上野監督の謙遜でなく本音だろう。 「今日1日は喜んでいいと思いますが、これで注目される立場になり、私も選手も気を引き締めて、緊張感を共有していきたい」。「自立した走り」を遂行した選手たちが、本戦もたくましく走り抜けるだろうか。 文/奥村 崇

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.01.17

西脇多可新人高校駅伝の出場校決定!男子は佐久長聖、大牟田、九州学院、洛南 女子は長野東、薫英女学院など有力校が登録

1月17日、西脇多可新人高校駅伝の実行委員会が、2月16日に行われる第17回大会の出場チームを発表した。 西脇多可新人高校駅伝は、兵庫県西脇市から多可町を結ぶ「北はりま田園ハーフマラソンコース(21.0795km)」で行 […]

NEWS 編集部コラム「年末年始の風物詩」

2025.01.17

編集部コラム「年末年始の風物詩」

毎週金曜日更新!? ★月陸編集部★ 攻め(?)のアンダーハンド リレーコラム🔥 毎週金曜日(できる限り!)、月刊陸上競技の編集部員がコラムをアップ! 陸上界への熱い想い、日頃抱いている独り言、取材の裏話、どーでもいいこと […]

NEWS 中・高校生充実の長野“4連覇”なるか 実力者ぞろいの熊本や千葉、岡山、京都、福岡も注目/都道府県男子駅伝

2025.01.17

中・高校生充実の長野“4連覇”なるか 実力者ぞろいの熊本や千葉、岡山、京都、福岡も注目/都道府県男子駅伝

◇天皇盃第30回全国都道府県対抗男子駅伝(1月19日/広島・平和記念公園前発着:7区間48.0km) 中学生から高校生、社会人・大学生のランナーがふるさとのチームでタスキをつなぐ全国都道府県男子駅伝が1月19日に行われる […]

NEWS 栁田大輝、坂井隆一郎らが日本選手権室内出場キャンセル 日本室内大阪はスタートリスト発表

2025.01.17

栁田大輝、坂井隆一郎らが日本選手権室内出場キャンセル 日本室内大阪はスタートリスト発表

日本陸連は2月1日から2日に行われる、日本選手権室内のエントリー状況と、併催の日本室内大阪のスタートリストを発表した。 日本選手権室内では12月にエントリーが発表されていた選手のうち、男子60mに出場予定だったパリ五輪代 […]

NEWS 東京世界陸上のチケット一般販売が1月31日からスタート!すでに23万枚が販売、新たな席種も追加

2025.01.17

東京世界陸上のチケット一般販売が1月31日からスタート!すでに23万枚が販売、新たな席種も追加

東京2025世界陸上財団は、今年9月に開催される東京世界選手権の観戦チケットの一般販売を1月31日(金)の18時から開始すると発表した。 昨夏に先行販売が始まり、年末年始にも特別販売を実施。すでに23万枚を販売し売れ行き […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年2月号 (1月14日発売)

2025年2月号 (1月14日発売)

駅伝総特集!
箱根駅伝
ニューイヤー駅伝
高校駅伝、中学駅伝
富士山女子駅伝

page top