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2020.02.07

編集部コラム「人生意気に感ず」(船越陽一郎)
編集部コラム「人生意気に感ず」(船越陽一郎)

毎週金曜日更新!?

★月陸編集部★

攻め(?)のアンダーハンド

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毎週金曜日(できる限り!)、月刊陸上競技の編集部員がコラムをアップ!
陸上界への熱い想い、日頃抱いている独り言、取材の裏話、どーでもいいことetc…。
編集スタッフが週替りで綴って行きたいと思います。
暇つぶし程度にご覧ください!

第28回「人生意気に感ず(船越陽一郎)

 そこまで遠いわけではないくらいの昔、福岡の写真館でカメラマン・アシスタントをやっていました。もちろん、アシスタントという職業ではなく、カメラマンになるための〝修行〟的な感じで、ブライダルなどのポートレートが中心でした。

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 なにぶん要領が悪いことと、当時は写真の知識がないまま写真館に入ったため、何もできない状態でした。

 毎日、毎日怒られて、自分の人格さえも否定されるような、本当につらい日々でした。

 そんなある日カメラマンに、「もういい加減にしろ! できないにも程がある! 何でもいいからカメラ雑誌でも読んで勉強しろ!」と怒られたことがありました。
(JMPA)

 その日の帰りに早速カメラ雑誌を買いました。アマチュア向けのカメラ雑誌だったのですが、カメラの基本的な撮り方から、順光の時はこう撮るだとか、逆光の時はこう撮るだとか……技術が盛りだくさん。当時の私にとって大切なことがいっぱい載っていました。でも、実は技術のことよりも、もっと私の目が引きつけられたものがあります。

 その雑誌に特集されていた「スポーツ写真」に、心を奪われたのです。

 なぜそう撮れるのか? どうやって撮ったのか? 知識の少ない私にわかるわけもなく。ただただ、何となく心を打たれました。

 そしてこう思いました。

「いつか、こういう写真を撮れるようになりたいな」

 あれから18年。『月刊陸上競技』のカメラマンとして活動している私は、あの時感動したような写真が撮れているのか? 正直自信がありません。目の前では、選手たちが魂を剥き出しにして、人生を懸けて勝負をしている。それに見合う写真が撮れているのか? そもそも私にそんな資格があるのか?

 何がいい写真なのか? 何が正解なのか? 正直、いまだに答えは出ません。

 がんばれば、がんばるほど、自分の足りないところが見えてきます。壁を越えたと思ったら、またその先に次の壁がある。そんな感じです。

 この仕事を始めたばかりの頃が、一番その思いが強く、苦しかったです。そんな時、この世界に私を引き入れてくださった陸上写真の師匠に聞きました。

「何が良い写真なのか何が正解なのかわからないです。何をもっていい写真なのでしょうか?」

 そうしたら、師匠は満面の笑みでこう言いました。

「さあ? いい写真ってなんだろうね?」

 拍子抜けしてしまいそうな答え。ですが、私にはこれ以上はないと思える言葉でした。陸上一筋40年以上、撮り続けてきた人間が、「わからない」のです。

 そういえば、葛飾北斎は90歳くらいまで生きたそうですが、その死ぬ間際まで「絵がうまくなりたい」と言っていたそうです。

 私は今、こう考えるようになりました。現時点でわかる必要はないのではないか。そして、理想を追い求め続けてゆくことこそが、その道で〝生きてゆく〟ということではないか、と。

 答えがない。それはそれで、しんどいですけどね……(苦笑)。

 こんな文章の最後に何ですが。

 学生駅伝の写真を多数収録したグラフィック集が発売されます。カメラマン(私?)が、悶々と苦しみながら撮影した写真満載です!

船越陽一郎(ふなこし・よういちろう)
月刊陸上競技写真部
1974年12月生まれ。172cm、○0kg。福岡県春日市出身
小学生の時に身体が弱く、喘息持ちだったため、鍛えるためにラグビーを始め「走れば治る」が口癖のドSのコーチに肉体改造される。大学までラグビーを続けるも卒業と同時に引退。何を思ったか社会人でボクシングを始める。戦績3戦3敗(3KO負け)。秘密兵器の左フックを編み出すも、秘密のまま引退。なんじゃかんじゃあって現在に至る。

編集部コラム第27回「学生駅伝〝区間賞〟に関するアレコレ」(松永)
編集部コラム第26回「2019年度 陸上界ナンバーワン都道府県は?」(大久保)
編集部コラム第25回「全国男子駅伝の〝私見〟大会展望」(井上)
編集部コラム第24回「箱根駅伝の高速化を検証」(山本)
編集部コラム番外編「勝負師の顔」(山本)
編集部コラム第23回「みんなキラキラ」(向永)
編集部コラム第22回「国立競技場」(小川)
編集部コラム第21回「〝がんばれ〟という言葉の力と呪縛」(船越)
編集部コラム第20回「日本記録樹立者を世代別にまとめてみた」(松永)
編集部コラム第19回「高校陸上界史上最強校は?(女子編)」(大久保)
編集部コラム第18回「独断で選ぶ全国高校駅伝5選」(井上)
編集部コラム第17回「リクジョウクエスト2~そして月陸へ~」(山本)
編集部コラム第16回「強い選手の共通点?」(向永)
編集部コラム第15回「続・ドーハの喜劇?」(小川)
編集部コラム第14回「初陣」(船越)
編集部コラム第13回「どうなる東京五輪マラソン&競歩!?」(松永)
編集部コラム第12回「高校陸上界史上最強校は?(男子編)」(大久保)
編集部コラム第11回「羽ばたけ日本の中距離!」(井上)
編集部コラム第10回「心を動かすもの」(山本)
編集部コラム第9回「混成競技のアレコレ」(向永)
編集部コラム第8回「アナウンス」(小川)
編集部コラム第7回「ジンクス」(船越)
編集部コラム第6回「学生駅伝を支える主務の存在」(松永)
編集部コラム第5回「他競技で活躍する陸上競技経験者」(大久保)
編集部コラム第4回「とらんすふぁ~」(井上)
編集部コラム第3回「リクジョウクエスト」(山本)
編集部コラム第2回「あんな選手を目指しなさい」(向永)
編集部コラム第1回「締め切りとIHと五輪」(小川)

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第28回「人生意気に感ず(船越陽一郎)

 そこまで遠いわけではないくらいの昔、福岡の写真館でカメラマン・アシスタントをやっていました。もちろん、アシスタントという職業ではなく、カメラマンになるための〝修行〟的な感じで、ブライダルなどのポートレートが中心でした。  なにぶん要領が悪いことと、当時は写真の知識がないまま写真館に入ったため、何もできない状態でした。  毎日、毎日怒られて、自分の人格さえも否定されるような、本当につらい日々でした。  そんなある日カメラマンに、「もういい加減にしろ! できないにも程がある! 何でもいいからカメラ雑誌でも読んで勉強しろ!」と怒られたことがありました。 (JMPA)  その日の帰りに早速カメラ雑誌を買いました。アマチュア向けのカメラ雑誌だったのですが、カメラの基本的な撮り方から、順光の時はこう撮るだとか、逆光の時はこう撮るだとか……技術が盛りだくさん。当時の私にとって大切なことがいっぱい載っていました。でも、実は技術のことよりも、もっと私の目が引きつけられたものがあります。  その雑誌に特集されていた「スポーツ写真」に、心を奪われたのです。  なぜそう撮れるのか? どうやって撮ったのか? 知識の少ない私にわかるわけもなく。ただただ、何となく心を打たれました。  そしてこう思いました。 「いつか、こういう写真を撮れるようになりたいな」  あれから18年。『月刊陸上競技』のカメラマンとして活動している私は、あの時感動したような写真が撮れているのか? 正直自信がありません。目の前では、選手たちが魂を剥き出しにして、人生を懸けて勝負をしている。それに見合う写真が撮れているのか? そもそも私にそんな資格があるのか?  何がいい写真なのか? 何が正解なのか? 正直、いまだに答えは出ません。  がんばれば、がんばるほど、自分の足りないところが見えてきます。壁を越えたと思ったら、またその先に次の壁がある。そんな感じです。  この仕事を始めたばかりの頃が、一番その思いが強く、苦しかったです。そんな時、この世界に私を引き入れてくださった陸上写真の師匠に聞きました。 「何が良い写真なのか何が正解なのかわからないです。何をもっていい写真なのでしょうか?」  そうしたら、師匠は満面の笑みでこう言いました。 「さあ? いい写真ってなんだろうね?」  拍子抜けしてしまいそうな答え。ですが、私にはこれ以上はないと思える言葉でした。陸上一筋40年以上、撮り続けてきた人間が、「わからない」のです。  そういえば、葛飾北斎は90歳くらいまで生きたそうですが、その死ぬ間際まで「絵がうまくなりたい」と言っていたそうです。  私は今、こう考えるようになりました。現時点でわかる必要はないのではないか。そして、理想を追い求め続けてゆくことこそが、その道で〝生きてゆく〟ということではないか、と。  答えがない。それはそれで、しんどいですけどね……(苦笑)。  こんな文章の最後に何ですが。  学生駅伝の写真を多数収録したグラフィック集が発売されます。カメラマン(私?)が、悶々と苦しみながら撮影した写真満載です!
船越陽一郎(ふなこし・よういちろう) 月刊陸上競技写真部 1974年12月生まれ。172cm、○0kg。福岡県春日市出身 小学生の時に身体が弱く、喘息持ちだったため、鍛えるためにラグビーを始め「走れば治る」が口癖のドSのコーチに肉体改造される。大学までラグビーを続けるも卒業と同時に引退。何を思ったか社会人でボクシングを始める。戦績3戦3敗(3KO負け)。秘密兵器の左フックを編み出すも、秘密のまま引退。なんじゃかんじゃあって現在に至る。
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