2022.08.12
夢は叶う! 羽ばたけ世界へ!!
スポーツ界で注目を集める『酸素』を活用し、〝打倒・アフリカ勢〟を合言葉に日本の長距離界に新風を送り込む日本気圧バルク工業株式会社。自社開発、自社生産の酸素ルーム「O2Room®」は強豪実業団チームをはじめ、大学駅伝で活躍する有力校などを中心に数多くのスポーツ現場に次々と導入されている。このほど、静岡市に拠点を置く日本気圧バルク工業の代表取締役社長・天野英紀氏の出身地でもあり、大井川マラソンコース「リバティ」や近隣のゴルフ場などを活用した〝合宿のメッカ〟としても知られる静岡県島田市の大井川沿いに、同社と共同研究を進める神戸大学とのコラボレーションで、日本気圧バルク工業アスリートセンター兼神戸大学スポーツ健康サイエンスラボが完成した。ここでは天野社長に建設の経緯、同センターのこだわり、導入機器をはじめ、施設の詳細などについてお話を聞いた。 ◎文/花木 雫、撮影/船越陽一郎
トレーニング効果を最大限に生かすための施設
アスリートセンターのすぐ前にある大井川河川敷には大井川マラソンコース「リバティ」が整備されており、車や信号などを気にせず走り込みができる。富士山静岡空港から車で20分弱でアクセスできる立地条件も魅力だ
日本初の河川敷マラソンコースとしても知られる大井川マラソンコース「リバティ」。全長17.9㎞(22㎞に延長予定)のコース沿いに全天候型の大井川河川敷陸上競技場のほか土のトラックが2つあり、信号機もなく、車などの心配もなく走れることから〝合宿のメッカ〟としても知られている。
冬でも温暖な気候に加え、周辺には芝生コースとして活用できるゴルフ場や坂道トレーニングに適したロードコースも充実。時に遠州の空っ風としても有名な強風が吹くことから、風対策、夏の暑さ対策など、通常のトレーニングに加えて選手個々のニーズに合わせた練習ができるため、NTN、中央発條、愛知製鋼、三井住友海上、パナソニックなどの実業団チーム、大学駅伝でも活躍する創価大学をはじめ、拓殖大学、国士舘大学、関東学院大学など多くのチームが活用している。
近年では御嶽(岐阜)や菅平高原(長野)などの準高地でトレーニングを積み、その仕上げとして高地ではできなかった質の高いスピード練習や速いペースでの距離走などを、このリバティコースで行うケースも増えてきているという。
世界一長い木造歩道橋としてギネスブックにも登録された大井川に架かる「蓬莱橋」(全長897.4m、道幅2.4m)。「リバティ」はこの橋も巡る魅力いっぱいのマラソンコースだ
「お陰様で、私たちが提供している酸素ルームを活用していただいているチームも増えてきています。そうしたチームのみなさんが私の出身地でもある島田市のリバティコースを使って合宿されることが年々多くなってきており、その際、宿泊されているホテルや使われている競技場などに酸素ルーム(O2Room®をトラックに積んだ体験カー)をレンタルするケースがありました」と天野社長。
そうしたニーズがあるのならば、高気圧酸素、低圧低酸素いずれの酸素ルームも活用しながら宿泊もできる施設を提供できれば、というのがアスリートセンター建設の出発点だったと振り返る。
利用者向けのサービスに加えて、ロードやトラックでの屋外の練習と酸素ルームを併用することでどういった効果が生まれるのか、もしくはこれまでに酸素ルームを使用したことのない選手や、高地トレーニングを行いたいが、その選手に合っているか試してから判断したいというケースなど、高地トレーニングや酸素ルームの未体験者に気軽に使ってもらいたい、という天野社長の想いがアスリートセンターには詰まっている。
低圧低酸素と平地環境を併用
調整合宿にも最適
これまでにもお伝えしてきた通り、高地トレーニングの効果には個人差があり、高地順化にも時間がかかることが実験などでもわかってきている。高地トレーニングに行ったはいいが、体調を崩してまともな練習ができなかったら大きな時間的ロスになってしまう。国内ならまだしも、米国のボルダーやアルバカーキ、スイスのサンモリッツなど海外に行ってしまうと移動にも長い時間がかかる。そうしたデメリットを少なくし、効果の有無を見極められるのが酸素ルームの大きな特徴でもある。
また、「高地トレーニングの効果があるのは平地に降りてきてから1~2週間程度と言われています。せっかく高地で負荷をかけてきても、海外から帰国し、時差などコンディションの調整をしている間に、どんどんその効果が薄れてしまいます。しかし、酸素ルームを活用していただくことで、そうしたデメリットが少なくなります。チームや個人によってトレーニング内容は異なりますが、ロードコースや競技場のトラックなどと酸素ルームを併用しながら取り組む拠点として、このアスリートセンターを活用していただければと思っています」と天野社長は笑顔で話す。
アスリートセンターの〝肝〟とも言える大型の低圧低酸素ルームは幅2.5m、高さ2.5m、奥行き6mのビッグサイズで、中にはトレッドミルを5台も導入。5人で一緒に走り込みが可能だ
高地トレーニングのデメリットとしては、心肺機能への負荷が高いためタイムが落ちやすく、平地と同じ設定タイムでの練習が消化しづらいことが挙げられる。しかし、酸素ルームを活用すれば場所を移動することなく平地と高地の負荷を選択でき、トレーニングの幅も格段に広がるはずだ。
データでコンディションを把握
低圧低酸素との比較も可能
低圧低酸素ルームの外側には4台のトレッドミルを配備。低圧低酸素環境と平地環境の差をその場で比較できるようにしている
このほど完成したアスリートセンターには、1階の広々としたガレージ的スペースに強豪実業団チームなどに導入されているものとほぼ同じ大きな低圧低酸素ルーム(幅2.5m、高さ2.5m、奥行き6m)が設置されている。室内には5台の最新式トレッドミルを完備。空調も整っており、5人同時にトレーニングができる。さらに、「ロードでのトレーニングと合わせ、通常の屋外でのランニングと低圧低酸素の環境下での違いを実感してほしい」(天野社長)と、屋外にも4台のトレッドミルがあり、その場で手軽に環境による差(標高差、気圧差など)を比べることができる。スペースも広く確保され、雨などを気にすることなく体操やストレッチ、ドリルなどが実施可能。実際に高地と平地を行き来する場合は車などで数十分もの移動が必要になることを考えると、低圧低酸素ルームを活用するメリットは大きいだろう。
建物内部に入って2階に上がると、まず目に飛び込んでくるのがカプセルホテルなどに設置されているのと同様の2段式のカプセル状の簡易ベッド(8室)。プライベート空間が保たれており、宿泊者はここで就寝することになる。
就寝スペースはカプセルホテルなどに設置されているのと同様の2段式のカプセル状の簡易ベッド(8室)を利用。中はとても広くて快適だ
アスリートセンターの2階には広いリビングスペースがあり、革張りの高級ソファーは電動リクライニング機能付き
その横には立派な革張りソファーが置かれたミーティングなどが可能なスペース、奥には自律神経のバランスを整えて疲労回復やケガの治療促進などが期待できる高気圧酸素ルム(3台)、トレーナールーム、食事を作れるリビングダイニング(暖炉付き)、大井川を望む大きなベランダなどもあり、合宿を行うための施設・設備がしっかり整備されている。
ミーティングなどに使用できる大型ホワイトボードの前にも1人用のソファーを10脚も設置
リビングスペースには85インチの大型テレビが2台あり、多目的モニターとしても利用できる
「低圧低酸素で負荷をかけつつ、高気圧酸素やこのスペースでリラックスして疲れを取り、また次の練習に備えていただく。メリハリのある練習ができる場所として活用してほしい」と天野社長。その想いが贅沢に詰まった施設となっている。
さらに、酸素ルームを活用した「高地トレーニングの見える化」をスローガンに掲げており、簡易版ではなく、研究機関でしか使用が認められていないシスメックス社のヘモグロビン測定システムを導入。実際のタイムや走りの感覚、体感に加え、ヘモグロビン値などの血液状態を正確に測定することで効果を確認できるようにしている。日本気圧バルク工業と共同研究を進める神戸大学スポーツ健康サイエンスラボとして、最新のスポーツ科学からのアプローチを加えた施設として運用されることになる。
高気圧酸素ルームは3台設置してあり、24時間使用可。ハードなトレーニングで疲れた心身をリカバリーできる
「この施設をきっかけに高地トレーニングが身近になり、日本の選手のパフォーマンス向上につながってほしい」と天野社長。増えてきているとは言え、まだ酸素ルームを導入しているチームはそれほど多くはない。「選手強化はもちろんですが、酸素は使い方によって人々の健康にも役立つもの。市民ランナーの方々はもちろん、いろいろな方に気軽に使っていただき、酸素の良さ、活用法を知ってほしい」と訴える。
なお、高地滞在中や高地トレーニングを行なっている期間中は、平地での普段の練習中以上に栄養補給(炭水化物や鉄分など)、水分の摂取が重要となる。ヘモグロビンに加えて血中酸素飽和度、心拍数、体重管理などをしっかり行い、コンディション維持に努めることがポイントだ。そのため、前述の測定システムで体の状態を科学的に把握するほか、栄養面でも地元の食材を使った鉄分やミネラル、炭水化物が摂取できるメニューの提供を模索している。「自炊できるスペースがあるので、食材を揃え、メニュー、作り方などを提供することで、トレーニング効果をさらに上げていただく。同時に地元・静岡県、島田市の名産品のPRにもなり、合宿に来ていただく楽しみが増えると思っています」と天野社長。単に機器や施設を提供するだけではなく、ソフト面などトータルで選手のパフォーマンスアップを手助けする。「世界へ羽ばたくアスリートがたくさん誕生することが私たちの夢であり、目標です」と天野社長は力を込める。
このアスリートセンターの食事は食材を持ち込んでの自炊が基本で、大きなシステムキッチンが大活躍する
10月から一般開放
利用料は1グループ1泊8万円
このアスリートセンターの一般開放は本年10月1日から。実業団や大学のトップランナーのみならず、市民ランナー、ファンランを楽しむ方など誰でも利用できる。低圧低酸素ルームは午前5時から午後10時まで使い放題で、高気圧酸素ルームは24時間使用可。食事は各自で食材を持ち込み、システムキッチンを使って料理する方式。チェックインは15時、チェックアウトは12時。最大12人が宿泊できるが、施設をまるごと貸し出すため、利用料は何人いても1泊8万円(税込み)という設定だ。
大井川を一望できる広いベランダでもゆっくりくつろいだり飲食ができるための家具のほか、大型のバーベキューコンロも設置
開放的なバスルーム
8月上旬に同センターの専用ホームページが完成し、施設紹介の詳しい紹介ほか、ご予約・お問合せ・申し込みフォームもあるのでチェックしてほしい。
「世界へ羽ばたくアスリートがたくさん誕生することが私たちの夢であり、目標です」と話す天野社長
高地トレーニングは、やれば記録が伸びる魔法のようなトレーニングでは決してない。遺伝子レベルの研究も進んでおり、現場での実践の積み重ね、選手個々のデータの蓄積がなければ、その発展もままならない。こうした酸素ルームを活用したトレーニングなどですそ野を広げていくことが重要となる。その拠点となるべくスタートした日本気圧バルク工業アスリートセンター兼神戸大学スポーツ健康サイエンスラボ。
多項目の血液検査を自動でできるシスメックス社の機器も導入。指導者のもと、自分で指先から少量の血液サンプルを採取してこの装置にかければ、ヘモグロビンや赤血球数などがすぐにわかり、トレーニング効果の「見える化」が可能だ
次号では、日本気圧バルク工業と共同研究を進める神戸大学大学院の藤野英己教授、シドニー五輪女子マラソン金メダリストで日本気圧バルク工業のスペシャルトレーニングアドバイザーを務める高橋尚子さんに、改めて高地トレーニングの効果や取り組み方、低圧低酸素ルームの活用法などについて語っていただいた内容を掲載する。ぜひ参考にしてほしい。
トップ選手からファンランナーまで気軽に高地トレーニングを体験できる施設
シドニー五輪女子マラソン金メダリスト
日本気圧バルク工業スペシャルトレーニングアドバイザー 高橋尚子
私は現役時代、アメリカのボルダーによく高地トレーニングに出かけていました。トレーニング期間は少なくても1~2ヵ月、長ければ半年近く滞在するというスケジュールでした。実際に記録も伸びましたし、効果があると自分でも感じていましたが、このたび完成した日本気圧バルク工業アスリートセンターの場合、そのボルダーと同じような環境を本にいながらにして体験できる。移動時間やコスト、時差のことなどを考えると、これは本当に革命的なことだと感じています。
実際にボルダーでも1500mや2000m、さらに3000mと標高やコースを変えながら練習していましたが、酸素ルームの場合、設定を変えるだけで高地と同じような気圧・酸素濃度の環境下でトレーニングができる。また、高地の場合、スピード練習の質が平地より落ちるデメリットがありますが、ここでは高地トレーニングは酸素ルーム、スピード練習は競技場、ペースの速い距離走などはリバティコースと、同じ拠点で、ほとんど移動なしにできるので長距離ランナーにとってはうれしい練習環境だと思います。このアスリートセンターは宿泊もでき、高気圧酸素ルームをはじめリラックスできる設備も整っており、至れり尽くせりで、自然豊かな居心地のいい環境のなか、思い切りトレーニングに励め、さらに高地と同じ効果が得られるとなれば、もう言うことなしですね。
高地トレーニングを体験したことない方、酸素ルームを使ったことがないという方も、ぜひ一度このアスリートセンターで体験していただき、自分にマッチした練習法を見つけ、自己ベスト更新につなげてほしいと思います。
※この記事は『月刊陸上競技』2022年9月号に掲載しています
<関連リンク>
日本気圧バルク工業アスリートセンター
日本気圧バルク工業
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