◇オレゴン世界陸上(7月15日~24日/米国・オレゴン州ユージン)9日目
オレゴン世界陸上8日目は6種目の決勝と男子十種競技前半が行われ、最終種目の4×100mリレーは地元・米国を中心に白熱のレースが繰り広げられた。
先に行われた女子の大本命はジャマイカ。今大会の100m覇者のシェリーアン・フレイザー・プライスを3走、200mで世界歴代2位の21秒45(+0.6)の激走を見せたシェリカ・ジャクソン、昨年の東京五輪で2大会連続100m・200m2冠を成し遂げたエライン・トンプソン・ヘラーが2走という盤石の布陣で、米国が12年ロンドン五輪で作った40秒82の世界記録更新が現実的なターゲットだった。
だが、ふたを開けてみると完璧な継走を見せたのは米国だった。1走のメリッサ・ジェファーソンがジャマイカに先行。さらに、1、2走のバトンパスが乱れた隙をついて2走のアビー・スタイナーが一気に抜け出す。全米選手権100m、200m女王が作った大きなリードを生かし、昨年の東京五輪銀メダルメンバーでもある3走のジェンナ・プランディーニもフレイザー・プライスの追い上げを許さない。
勝負はアンカーへ。身体2つ分のリードを得た米国のトゥワニシャ・テリーが、ジャマイカのジャクソンから逃げる。全米100m3位で、今大会は準決勝どまりの選手だが、地元の大歓声を背に激走。フィニッシュ間際に猛追を受けたが、0.04秒差でかわした。パフォーマンス世界歴代5位の41秒14。全員が渾身の走りを見せ、2大会ぶりの金メダルをもぎ取った。
1走のジェファーソンが「私たちは自分自身に大きな自信を持っていた。私たちの力を世界に示すことができると知っていた」と誇らしげに話せば、アンカーのテリーは「スタジアムを夢中にさせることができた」と喜びを語った。
2位のジャマイカもパフォーマンス世界歴代6位の41秒18と力を発揮したが、バトンパスでのミスが響いたと言える。それでも、トンプソン・ヘラーは「もちろん勝ちたかったけど、今夜のシルバーはうれしい。文句は言えない」と米国の強さに脱帽した様子だった。
一方の男子4×100mリレーは、米国が連覇に向けて充実。2走に200mを世界歴代3位・米国新の19秒31(+0.4)で制したノア・ライルズが入り、1走に前回100m王者のクリスチャン・コールマン、アンカーには今回の100m銀メダルのマーヴィン・ブレイシー、3走には100m9秒90のエリジャ・ホールが入る。今大会の100m金メダリスト、フレッド・カーリーをケガで欠き、トレイヴォン・ブロメル、ケネス・ベドナレク、エリヨン・ナイトンといった100m、200mのメダリストを外すオーダーに一抹の不安はあったが、対抗できるようなライバルも見当たらない。課題は、長年と変わらずバトンパスだけだった。
レースはコールマン、ライルズの1、2走から圧倒するかと思われたが、トップでバトンをつないでいるもののカナダ、英国などがしっかりと食らいつく展開。3走ではカナダが米国に並びかける。ここで米国のバトンパスが渡り切らずに間延びしてしまい、カナダが前に出た。
カナダのアンカーは、昨年の東京五輪200m金メダリストのアンドレ・デグラス。ブレイシーとは、日本のサニブラウン・アブデル・ハキームも所属するタンブルウィードTCのチームメイトだが、加速に乗った時のデグラスは世界屈指。しかし、この大会では新型コロナウイルスに感染した影響もあってコンディションが整わず、今大会は100mで準決勝どまり、200mは欠場している。米国の逆転Vを期待するスタンドから、米国に大声援が送られる。
ここで、スイッチが入ったのがデグラスだった。すぐ左後方から追うブレイシーを前に行かせない。そのままの位置でフィニッシュラインを駆け抜け、デグラスは両手を広げて歓喜を爆発させた。国別世界歴代5位の37秒48で、1997年アテネ大会以来12大会ぶりの金メダル。五輪を含めると1996年アトランタ大会以来で、この時に続いて再び米国開催の大会で世界一となった。
「アンドレがリードした時点で、捕まえる方法はなかったよ」と、30歳のチームリーダーである1走のアーロン・ブラウン。デグラス自身も「捕まらないことを願っていた。金メダルを取る、この瞬間について何度も話していたんだ」と激走を振り返った。
07年大阪大会以来の男女優勝、さらには100m、200m、400mを含む男子スプリント種目完全制覇の夢が消えた米国のライルズは、「本当に良いチームだけど、最高の能力を発揮することができなかった」。それでも、「世界記録(36秒84/ジャマイカ、2012年)を破るのは俺たちだ、とだけ言っておくよ」と短距離王国のプライドをのぞかせた。
男子やり投は前回王者のアンデルソン・ピータース(グレナダ)が1投目にいきなり90m21と大台へ乗せると、続く2投目にも90m46。強烈な先制パンチで、ライバルたちを圧倒。優勝を決めた後の6投目にも90m54とさらに記録を伸ばし、世界陸上史上初の3度の90mスローの圧巻シリーズで連覇を飾った。2位が東京五輪金メダルのニーラジ・チョプラ(インド)で88m13、3位が東京五輪銀メダルのヤクブ・ヴァドレイヒ(チェコ)で88m09、5人が86mを超えるハイレベルの争いだった。
男子800mと三段跳はいずれも東京五輪王者が世界大会「連勝」。800mは終盤に得意のスパートを見せつけたエマニュエル・キプクルイ・コリル(ケニア)が今季ベストの1分43秒71、三段跳は1回目に17m95(+0.3)をジャンプしたペドロ・ピチャルド(ポルトガル)がそのまま逃げ切り、ポルトガル勢としては07年大阪大会のネルソン・エヴォラ以来の頂点に立った。
女子5000mはペース変化の激しい息詰まる勝負が繰り広げられるなか、1500m銀メダルのグダフ・ツェガイ(エチオピア)が終盤に抜け出し、14分46秒29で金メダルを手にした。10000mを制した世界記録(14分06秒62)保持者のレテセンベト・ギデイ(エチオピア)は5位、五輪女王のシファン・ハッサン(オランダ)は6位にとどまった。
男子十種競技前半はアイデン・オーウェンス・デレルメ(プエルトリコ)が4606点でトップ。4種目終了時でトップだった東京五輪王者のダミアン・ワーナー(カナダ)が、5種目めの400m途中で左脚を痛めて途中棄権となる波乱があった。
日本勢は男子やり投のディーン元気(ミズノ)が10年ぶり、女子5000mの田中希実(豊田自動織機)が2大会連続のファイナルに挑戦。ディーンは80m69で入賞にあと一歩の9位、800m、1500mの3種目挑戦のラストレースだった田中は15分19秒35で12位だった。
佐藤風雅(那須環境技術センター)、川端魁人(中京大クラブ)、ウォルシュ・ジュリアン(富士通)、中島佑気ジョセフ(東洋大)のオーダーで臨んだ男子4×400mリレーは、3分01秒53で2着争いを制し、2003年パリ大会以来19年ぶりに決勝進出。女子100mハードルは5組4着(12秒96/+0.5)の福部真子(日本建設工業)、6組5着(13秒12/-0.4)の青木益未(七十七銀行)がともにプラス通過ながら準決勝進出を果たした。
女子走幅跳の秦澄美鈴(シバタ工業)は2回目の6m39(+0.4)が最高で、全体20位で予選敗退となった。
■9日目優勝一覧
【男子】
800m エマニュエル・キプクルイ・コリル(ケニア) 1分43秒71
4×100mR カナダ 37秒48
三段跳 ペドロ・ピチャルド(ポルトガル) 17m95(+0.3)
やり投 アンデルソン・ピータース(グレナダ) 90m54
【女子】
5000m グダフ・ツェガイ(エチオピア) 14分46秒29
4×100mR 米国 41秒14
■女子4×100mR 世界歴代10傑+パフォーマンス10
①40.82 米 国 2012. 8.10
(マディソン,フェリックス,ナイト,ジーター)
41.01 米国 2 2016. 8.19
(バートレッタ,フェリックス,ガードナー,ボウィー)
②41.02 ジャマイカ 2021. 8. 6
(ウィリアムス,トンプソン・ヘラー,フレイザー・プライス,ジャクソン)
41.07 ジャマイカ 2 2015. 8.29
(キャンベル・ブラウン,モリソン,トンプソン,フレイザー・プライス)
41.14 米国 3 2022. 7.23 NEW
(ジェファーソン,スタイナー,プランディーニ,テリー)
41.18 ジャマイカ 3 2022.7.23 NEWS
(ネルソン,トンプソン・ヘラー,フレイザー・プライス,ジャクソン)
41.29 ジャマイカ 4 2013. 8.18
(ラッセル,スチュワート,カルヴァート,フレイザー・プライス)
41.36 ジャマイカ 5 2016. 8.19
(ウィリアムス,トンプソン,キャンベル・ブラウン,フレイザー・プライス)
③41.37 東ドイツ 1985.10. 6
(グラディッシュ,リーガー,アウアースヴァルト,ゲール)
41.41 ジャマイカ 6 2012. 8.10
(フレイザー・プライス,シンプソン,キャンベル・ブラウン,スチュワート)
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
④41.49 ロシア 1993. 8.22
(ボゴスロフスカヤ,マルチュギナ,ウォロノワ,プリワロワ)
⑤41.55 英 国 2021. 8. 5
(フィリップ,ランシクオート,アッシャー・スミス,ニータ)
⑥41.62 ドイツ 2016. 7.29
(ピント,マイアー,リュッケンケンパー,ハーゼ)
⑦41.78 フランス 2003. 8.30
(ジラール,ユルティ,フェリクス,アーロン)
⑧41.92 バハマ 1999. 8.29
(ファインズ,スターラップ,デーヴィス,ファーガソン)
⑨42.00 ソ 連 1985. 8.17
(ナストブルコ,ポモシュチニコワ,ジロワ,バルバシナ)
⑩42.03 トリニダードトバゴ 2015. 8.29
(バプティスト,エイヒー,トマース,ハケット)
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking 人気記事ランキング
2025.01.17
編集部コラム「年末年始の風物詩」
-
2025.01.17
-
2025.01.17
-
2025.01.17
-
2025.01.16
2025.01.12
【テキスト速報】第43回都道府県対抗女子駅伝
-
2025.01.14
-
2025.01.12
-
2025.01.15
2024.12.22
早大に鈴木琉胤、佐々木哲の都大路区間賞2人が来春入学!女子100mH谷中、松田ら推薦合格
-
2024.12.22
-
2024.12.30
-
2025.01.12
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.01.18
都道府県男子駅伝オーダー発表!3区に塩尻和也と鶴川正也 7区は鈴木健吾、黒田朝日 4連覇狙う長野は3区吉岡大翔
◇天皇盃第30回全国都道府県対抗男子駅伝(1月19日/広島・平和記念公園前発着:7区間48.0km) 天皇盃第30回全国都道府県対抗男子駅伝前日の1月18日、オーダーリストが発表された。 エントリーされていた2人の日本記 […]
2025.01.17
西脇多可新人高校駅伝の出場校決定!男子は佐久長聖、大牟田、九州学院、洛南 女子は長野東、薫英女学院など有力校が登録
1月17日、西脇多可新人高校駅伝の実行委員会が、2月16日に行われる第17回大会の出場チームを発表した。 西脇多可新人高校駅伝は、兵庫県西脇市から多可町を結ぶ「北はりま田園ハーフマラソンコース(21.0795km)」で行 […]
2025.01.17
編集部コラム「年末年始の風物詩」
毎週金曜日更新!? ★月陸編集部★ 攻め(?)のアンダーハンド リレーコラム🔥 毎週金曜日(できる限り!)、月刊陸上競技の編集部員がコラムをアップ! 陸上界への熱い想い、日頃抱いている独り言、取材の裏話、どーでもいいこと […]
2025.01.17
中・高校生充実の長野“4連覇”なるか 実力者ぞろいの熊本や千葉、岡山、京都、福岡も注目/都道府県男子駅伝
◇天皇盃第30回全国都道府県対抗男子駅伝(1月19日/広島・平和記念公園前発着:7区間48.0km) 中学生から高校生、社会人・大学生のランナーがふるさとのチームでタスキをつなぐ全国都道府県男子駅伝が1月19日に行われる […]
2025.01.17
栁田大輝、坂井隆一郎らが日本選手権室内出場キャンセル 日本室内大阪はスタートリスト発表
日本陸連は2月1日から2日に行われる、日本選手権室内のエントリー状況と、併催の日本室内大阪のスタートリストを発表した。 日本選手権室内では12月にエントリーが発表されていた選手のうち、男子60mに出場予定だったパリ五輪代 […]
Latest Issue 最新号
2025年2月号 (1月14日発売)
駅伝総特集!
箱根駅伝
ニューイヤー駅伝
高校駅伝、中学駅伝
富士山女子駅伝