オレゴン世界陸上(7月15日~24日/米国・オレゴン州ユージン)9日目
オレゴン世界陸上9日目のイブニングセッションに行われた男子やり投決勝を終えたディーン元気(ミズノ)は、「こんな落ち着いていいのか」と思うほど冷静にピットに立っていたという。
10年前、初のシニア世界大会だったロンドン五輪で決勝進出を果たした時は早大3年の20歳だった。あれから月日が経ち、30歳になったディーンは再び世界のファイナルの舞台に戻った。冷静でも、「心拍数は上がっていた」。静かに燃える、理想の精神状態。ただ、それでも世界の壁は厚かった。
1投目は1投目は77m81。2投目は「外してしまった」と75m前後にとどまって自らファウルにした。2投目終了時点で9位。8位との差はわずかに24cmだ。
全体7位で通過した予選も、3投目に今季ベストの82m34をマークした。今季はコンスタントに80mを超え、6月の日本選手権で10年ぶり優勝。その後に出場したフィンランド・クオルタネでのコンチネンタルツアー・シルバー大会では世界の強豪を相手に82m03で5位入賞。そのうえ、気温13度という条件ながら6投すべてで80mスローを見せていた。
勝負の3投目。小気味良い助走から、力強く右腕を振り切った。まっすぐに伸びたやりは80mを超える。80m69。2人を抜いて7位に浮上した。
しかし、ロンドン五輪は予選を突破した際に右脇腹を痛め、決勝は10位にとどまっている。あの時は3投目終えた時点では79m95で8位だったが、その後に2人に抜かれた。まさか、今回も同じ展開が待っていようとは。
2人後のアンドリアン・マルダレ(モルドバ)が82m26をマークして7位に上がる。ディーンは8位に後退。そして、それまで2回ファウルだったオリバー・ヘランデル(フィンランド)が82m24。この瞬間、ディーンはトップエイト進出ラインから脱落した。
予選のシーズンベストをさらに更新できていれば、初入賞のチャンスはあったかもしれない。ただ、ディーンは「上が強すぎました」と完敗を認める。
「最低限80mは超えられた。10年前より少しは成長したかな。力はあるけど、力を出す力がない。今の力はわかったし、決勝を戦えたのは収穫です」
兵庫・市尼崎高ではインターハイでやり投、円盤投の2冠に輝き、MVPに。早大1年だった2010年には世界ジュニア選手権で銀メダルを獲得した。ロンドン五輪イヤーだった2012年4月には当時日本歴代2位(現4位)の84m28をマークし、父親の母国で行われた五輪出場を果たした。
その後は何度もケガに見舞われ、なかなか結果の出せない日々が続く。その中で、冬季にフィンランドで長期合宿を行う取り組みを始めてから徐々に復調へのきっかけをつかみ、2020年にはセカンドベストの84m05をマーク。昨年の東京五輪への出場は逃したが、初の世界陸上代表入りを果たして10年ぶりの世界大会に挑むことができた。
「戻ってこられたのは素直にうれしい」としつつ、世界との距離も肌で感じた。2連覇を飾ったアンデルソン・ピータース(グレナダ)は最終投てきの90m54を含む90mオーバーを3発。2位の東京五輪王者ニーラジ・チョプラ(インド)は88m13、3位のヤクブ・ヴァドレイヒ(チェコ)は88m09と、「90m近く投げないとメダルは取れない」。
「悔しいですが、上を見て学びました」と、ディーンは自分の試技が終わってからもピットに残り、上位8人の戦いを見続けた。そこで得たものを、これからのキャリアに生かしていく。
紆余曲折を経て、基本に立ち返ってそれを徹底してきたことで、自身のやり投は完成の領域へと近づきつつある。前日、女子やり投で北口榛花(JAL)が日本女子投てき初メダルとなる銅メダルを手にした。男子も、33年もの間残る87m60の日本記録(溝口和洋、1989年)を塗り替え、世界と真っ向勝負に挑む時だ。
■男子やり投上位成績
1位 アンデルソン・ピータース(グレナダ) 90m54
2位 ニーラジ・チョプラ(インド) 88m13
3位 ヤクブ・ヴァドレイヒ(チェコ) 88m09
4位 ジュリアン・ウェバー(ドイツ) 86m86
5位 アルシャド・ナディーム(パキスタン) 86m16
6位 ラッシ・エテレターロ(フィンランド) 82m70
7位 アンドリアン・マルダレ(モルドバ) 82m26
8位 オリヴァー・ヘランダー(フィンランド)82m24
9位 ディーン元気(日本/ミズノ) 80m69

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