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2019.12.31

編集部コラム「勝負師の顔」
編集部コラム「勝負師の顔」

毎週金曜日更新!?

★月陸編集部★

攻め(?)のアンダーハンド

リレーコラム🔥

毎週金曜日(できる限り!)、月刊陸上競技の編集部員がコラムをアップ!
陸上界への熱い想い、日頃抱いている独り言、取材の裏話、どーでもいいことetc…。
編集スタッフが週替りで綴って行きたいと思います。
暇つぶし程度にご覧ください!

番外編「勝負師の顔(山本慎一郎)

毎週金曜日更新の編集部コラム。次回は1月3日ということで1回お休みの予定なのですが、タイミングよく箱根駅伝に関するネタがあったので、「番外編」ということで公開します。恐らくこれが2019年最後のコラムです。

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さて、箱根駅伝と言えば、弊社では事前に『公式ガイドブック』を制作し、万全の準備をして取材に臨みます。それだけに、本番でのシーンはどれも思い出深く、関連する記事や写真、映像などを見るたびに「そんなこともあったなぁ」と感慨に浸ることが多々あります。

その中で私が強く印象に残っているエピソードがあります。東洋大が最後に箱根路を制した2014年の第90回大会です。

当時は山上りの5区が23kmを超える最長区間で、この大会で東洋大の5区を任されたのは設楽啓太選手(現・日立物流)でした。設楽選手と言えば、弟の悠太選手(現・Honda)とともに当時日本で初めて「兄弟で10000m27分台」を達成し、学生長距離界を代表するランナーに成長していました。啓太選手は1年時から3年連続で箱根駅伝の〝花の2区〟を任され、いずれも好走。4年目も2区での出走が濃厚と見られていました。

大学4年目にして箱根駅伝の5区に登場した設楽啓太選手
しかし、当日変更で啓太選手が出走したのは5区。噂レベルでは「啓太5区説」もなかったわけではないでしょうが、11月に行った事前取材では、本人や酒井俊幸監督の口からはそのような話が一切出ませんでした。実際に啓太選手は過去3回とも2区で申し分のない成績を残していたので、あえて別の区間を任せるというのは考えにくい状況でした。

結果は、啓太選手は見事に区間賞を獲得。東洋大は往路優勝、そして総合優勝を成し遂げました。酒井監督の作戦は的中し、レース後、啓太選手は1年前から5区を走るつもりだったことを明かしました。

設楽兄妹の活躍もあって東洋大は往路優勝と総合優勝に輝く
ただ、私の中ではどうしても疑問が残りました。箱根駅伝で区間配置の決定権は監督にあるのが普通なので、事前の取材では選手が自身の希望する区間を正直に答えてくれることが多いのです。そこで啓太選手が希望の区間を「5区」と言わなかったのは、絶対に何か秘密があるはずだと考えました。

それから数年後、啓太選手と話す機会があり、当時の真相を聞きました。5区を走ることを明かさなかったのは、なんと酒井監督から「聞かれなければ自分からは言うな」と釘を刺されていたのだそうです!

厳しさと優しさを併せ持ち、元教員らしく「教育者」としての印象が強い酒井監督ですが、ここぞという時には「勝負師」の一面を見せます。2009年春に東洋大の監督となって以来、これまでに何度もチーム作りに苦労した年があったと思いますが、それでも箱根駅伝では11年連続で3位以内という成績を残しています。

今年度の東洋大は出雲駅伝で3位、全日本大学駅伝で5位と、ここまでの2大会では苦戦を強いられていますが、箱根駅伝に向けての調整力には定評があります。取材者という立場上、箱根駅伝は原則としてフラットな目線で見るようにしていますが、東洋大がどのように本番に合わせてくるかは今回も見どころの1つとなりそうです。

さて、年が明けるといよいよ2020年。
引き続き月陸をよろしくお願いします!

山本慎一郎(やまもとしんいちろう)
月刊陸上競技 編集部(兼企画営業部)企画課長
1983年1月生まれ。福島県いわき市出身。160cm、47kg(ピーク時)。植田中→磐城高→福島大→法大卒。中学では1学年下の村上康則(2010年日本選手権1500m覇者)と一緒に駅伝を走り、その才能を間近で見て挫折。懲りずに高校で都大路、大学で箱根駅伝を目指すも、いずれも未達に終わる。引退するタイミングを逸して現在も市民ランナーとして活動中。シューズマニアの一面も持ち、取材の際にはいつも選手の足元が気になってしまう。

編集部コラム第23回「みんなキラキラ」(向永)
編集部コラム第22回「国立競技場」(小川)
編集部コラム第21回「〝がんばれ〟という言葉の力と呪縛」(船越)
編集部コラム第20回「日本記録樹立者を世代別にまとめてみた」(松永)
編集部コラム第19回「高校陸上界史上最強校は?(女子編)」(大久保)
編集部コラム第18回「独断で選ぶ全国高校駅伝5選」(井上)
編集部コラム第17回「リクジョウクエスト2~そして月陸へ~」(山本)
編集部コラム第16回「強い選手の共通点?」(向永)
編集部コラム第15回「続・ドーハの喜劇?」(小川)
編集部コラム第14回「初陣」(船越)
編集部コラム第13回「どうなる東京五輪マラソン&競歩!?」(松永)
編集部コラム第12回「高校陸上界史上最強校は?(男子編)」(大久保)
編集部コラム第11回「羽ばたけ日本の中距離!」(井上)
編集部コラム第10回「心を動かすもの」(山本)
編集部コラム第9回「混成競技のアレコレ」(向永)
編集部コラム第8回「アナウンス」(小川)
編集部コラム第7回「ジンクス」(船越)
編集部コラム第6回「学生駅伝を支える主務の存在」(松永)
編集部コラム第5回「他競技で活躍する陸上競技経験者」(大久保)
編集部コラム第4回「とらんすふぁ~」(井上)
編集部コラム第3回「リクジョウクエスト」(山本)
編集部コラム第2回「あんな選手を目指しなさい」(向永)
編集部コラム第1回「締め切りとIHと五輪」(小川)

毎週金曜日更新!? ★月陸編集部★ 攻め(?)のアンダーハンド リレーコラム🔥 毎週金曜日(できる限り!)、月刊陸上競技の編集部員がコラムをアップ! 陸上界への熱い想い、日頃抱いている独り言、取材の裏話、どーでもいいことetc…。 編集スタッフが週替りで綴って行きたいと思います。 暇つぶし程度にご覧ください!

番外編「勝負師の顔(山本慎一郎)

毎週金曜日更新の編集部コラム。次回は1月3日ということで1回お休みの予定なのですが、タイミングよく箱根駅伝に関するネタがあったので、「番外編」ということで公開します。恐らくこれが2019年最後のコラムです。 さて、箱根駅伝と言えば、弊社では事前に『公式ガイドブック』を制作し、万全の準備をして取材に臨みます。それだけに、本番でのシーンはどれも思い出深く、関連する記事や写真、映像などを見るたびに「そんなこともあったなぁ」と感慨に浸ることが多々あります。 その中で私が強く印象に残っているエピソードがあります。東洋大が最後に箱根路を制した2014年の第90回大会です。 当時は山上りの5区が23kmを超える最長区間で、この大会で東洋大の5区を任されたのは設楽啓太選手(現・日立物流)でした。設楽選手と言えば、弟の悠太選手(現・Honda)とともに当時日本で初めて「兄弟で10000m27分台」を達成し、学生長距離界を代表するランナーに成長していました。啓太選手は1年時から3年連続で箱根駅伝の〝花の2区〟を任され、いずれも好走。4年目も2区での出走が濃厚と見られていました。 大学4年目にして箱根駅伝の5区に登場した設楽啓太選手 しかし、当日変更で啓太選手が出走したのは5区。噂レベルでは「啓太5区説」もなかったわけではないでしょうが、11月に行った事前取材では、本人や酒井俊幸監督の口からはそのような話が一切出ませんでした。実際に啓太選手は過去3回とも2区で申し分のない成績を残していたので、あえて別の区間を任せるというのは考えにくい状況でした。 結果は、啓太選手は見事に区間賞を獲得。東洋大は往路優勝、そして総合優勝を成し遂げました。酒井監督の作戦は的中し、レース後、啓太選手は1年前から5区を走るつもりだったことを明かしました。 設楽兄妹の活躍もあって東洋大は往路優勝と総合優勝に輝く ただ、私の中ではどうしても疑問が残りました。箱根駅伝で区間配置の決定権は監督にあるのが普通なので、事前の取材では選手が自身の希望する区間を正直に答えてくれることが多いのです。そこで啓太選手が希望の区間を「5区」と言わなかったのは、絶対に何か秘密があるはずだと考えました。 それから数年後、啓太選手と話す機会があり、当時の真相を聞きました。5区を走ることを明かさなかったのは、なんと酒井監督から「聞かれなければ自分からは言うな」と釘を刺されていたのだそうです! 厳しさと優しさを併せ持ち、元教員らしく「教育者」としての印象が強い酒井監督ですが、ここぞという時には「勝負師」の一面を見せます。2009年春に東洋大の監督となって以来、これまでに何度もチーム作りに苦労した年があったと思いますが、それでも箱根駅伝では11年連続で3位以内という成績を残しています。 今年度の東洋大は出雲駅伝で3位、全日本大学駅伝で5位と、ここまでの2大会では苦戦を強いられていますが、箱根駅伝に向けての調整力には定評があります。取材者という立場上、箱根駅伝は原則としてフラットな目線で見るようにしていますが、東洋大がどのように本番に合わせてくるかは今回も見どころの1つとなりそうです。 さて、年が明けるといよいよ2020年。 引き続き月陸をよろしくお願いします!
山本慎一郎(やまもとしんいちろう) 月刊陸上競技 編集部(兼企画営業部)企画課長 1983年1月生まれ。福島県いわき市出身。160cm、47kg(ピーク時)。植田中→磐城高→福島大→法大卒。中学では1学年下の村上康則(2010年日本選手権1500m覇者)と一緒に駅伝を走り、その才能を間近で見て挫折。懲りずに高校で都大路、大学で箱根駅伝を目指すも、いずれも未達に終わる。引退するタイミングを逸して現在も市民ランナーとして活動中。シューズマニアの一面も持ち、取材の際にはいつも選手の足元が気になってしまう。
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