2022.05.31
学生長距離Close-upインタビュー
菖蒲敦司 Shobu Atsushi 早稲田大学3年
「月陸Online」限定で大学長距離選手のインタビューをお届けする「学生長距離Close-upインタビュー」。19回目は、5月の関東インカレ1部3000m障害で2連覇を飾った早大の菖蒲敦司(3年)をピックアップ。
1年目から早大の主力としてトラック・ロードの両面で活躍。今季は特に1500mと3000m障害での飛躍が際立ち、名門チームの中心選手としてさらなる真価が問われている。一度はあきらめた3000m障害に戻ってきたいきさつ、いまだ出場経験のない箱根駅伝への思い、世界を目指す覚悟など、胸の内を明かした。
3000m障害で世界を目指す
5月19~22日の関東インカレ。早大の長距離ブロックでひときわ目立った活躍を見せたのが、3年生の菖蒲敦司だった。
1500mは、昨年より1つ順位を落としたものの、自己新記録となる3分45秒54で3位。得意の3000m障害は1800m過ぎに先頭集団を抜け出し、独走で2連覇を飾った。1人で14点も学校対抗得点を稼いだことになる。
「インカレは短距離ブロックと一緒に戦う機会なので、2種目でしっかり1位を取って16点をチームに持ち帰りたいなと思って臨みました。でも、1500mでは中距離の選手に格の違いを見せられてしまいました。
その時は本当に悔しかったんですけど、2年連続2種目で表彰台に立てたのはかなり光栄なこと。それに国立競技場での開催だったので、すごく楽しい大会でした」
悔しい思いも味わったものの、4日間を全力で駆け抜けた充足感があった。
昨年の関東インカレの後、菖蒲は「3000m障害は今年で引退したい」と話していたが、今季もこうして活躍を続けている。そこには心境の変化があった。
「1つは、同い年の三浦(龍司/順大)がオリンピックであんなにものすごい走り(7位入賞)をしたので、すごく刺激をもらったこと。僕もここで終わらせるのではなく、もう1回やってみようと思いました。
もう1つは、総監督の礒繁雄先生から『世界を狙うなら3000m障害をやったほうがいいよ』と声をかけていただいたことです。僕は大学入学前からトラックで世界に行きたいという目標を立てていたのですが、ここまで来たら、3000m障害を続けようかなと思いました」
菖蒲はこの種目で世界を目指す決意を固めた。
まずは今夏に開催予定だったFISUワールドユニバーシティゲームズ出場を目標に設定。しかし、その選考レースだった日本学生個人選手権で8分40秒57の大会新記録で優勝しながらも、派遣標準記録にはわずか0秒57届かず、代表に選出されなかった。
大きな悔しさを味わったが、決して下を向くことはなかった。
「ユニバに出るのが叶わなかった分、もう1つ上の大きな目標であるオレゴン世界選手権に挑戦したいなと思いました。走力もハードリングもまだまだですし、簡単ではありませんが、日本選手権は(参加標準記録の)8分22秒と3位以内を目標にしたい。目指す価値はあるのかなと思っています」
さらに高い目標を掲げて、自分自身を奮い立たせた。
中学までは野球少年
菖蒲は、子どもの頃からスポーツが得意だった。小学2年から野球を始めると、中学では一番・キャッチャーで、右利きながら左打者として活躍し、さらにはキャプテンを務めた。
一方で、スポーツ能力に優れた児童を早期に発掘し、育成するプログラム「YAMAGUCHI ジュニアアスリートアカデミー」にも選出され、運動能力を磨いた。「走ることは好きではなかった」と言うが、小学校のマラソン大会では6年連続で優勝。中学では駅伝大会に助っ人として参加し、その健脚を披露した。
「野球部でフルで練習した後に、陸上の練習もフルでしていたので、すごくきつかったのを覚えています。『何でこんなのをやっているんだろう』と思っていました」
菖蒲が通っていた浅江中は、陸上の名門でもある。OB・OGにはシドニー、アトランタと2大会連続で五輪トラックに出場した市川良子氏、アテネ五輪男子マラソン代表の国近友昭氏がいる。また、早大のエースとして活躍し、箱根駅伝2区区間賞の実績もある梅木蔵雄氏も、浅江中の出身だ。
同校の教諭として彼らを指導した山村進先生、さらに菖蒲が在学時の陸上部顧問だった小野美登里先生との出会いが、菖蒲の転機になった。
「夏の大会で野球で負けてしまい、小野先生に8月から駅伝の練習に参加するように言われたんです。でも、1週間ぐらい無視していました(笑)。そしたら、家に電話がかかっていて、無理やり練習に行くことに……。練習をしたら、県大会で優勝したり、駅伝で区間賞を取ったりと活躍できるようになりました。
高校では絶対に野球をやろうと思っていたんですけど、山村先生から『陸上だったら、お前ならオリンピックに行けるかもしれない』と言われて、陸上をやってみようと思いました。野球への未練はめちゃくちゃありましたし、いまだにあるのですが……(笑)」
陸上と同じくらい、野球でも強豪校からスカウトを受けていたという。同じ高校の陸上部と野球部の両方から声をかけられたこともあったそうだ。それでも、野球への未練を断ち切ることなく、菖蒲は陸上の強豪・西京高へと進むことになった。
高校では1年目から1500mで県大会を制し、中国大会を通過してインターハイに出場を決めるなど、活躍を見せた。そして、1年目の夏からは顧問の二宮啓先生の勧めもあって、3000m障害に取り組むようになった。
「小さい時から何でも器用にこなせていたので、それが生かせる種目なのかなと思いました」
高校2年時にはインターハイで日本人トップの3位となり、表彰台に上がっている。たびたびケガに苦しみ、3000m障害では同級生の三浦の台頭もあったが、高3のインターハイでも1500m7位、3000m障害4位と2種目で入賞している。
高2の都道府県対抗駅伝(35番が菖蒲)では1区区間賞でその名を知らしめた
ロードでも全国都道府県対抗駅伝では、2年時に1区区間賞を獲得しており、全国にその名を知らしめた。
7つ上の兄が早大出身(競走部ではない)ということもあって、自然と早大を志望するようになった。高2の秋に日体大長距離競技会に出場した際には、相楽豊駅伝監督を見つけ、早大に行きたいという気持ちを伝えたことがあった。そして、念願が叶い、早大に進んだ。
「トラックは自分のため、駅伝は人のために走る」
早大進学後は1年目から全日本大学駅伝に出場するなど、即戦力に。2年目の昨季はさらに力をつけ、関東インカレでは2種目で表彰台に上がり、駅伝でも出雲駅伝1区2位、全日本4区5位と大活躍だった。
しかしながら、箱根駅伝には、2年続けて出場が叶わなかった。
「ゴールデンウィークに成人式があって帰省したのですが、みんな、応援してくれているのがわかってありがたかったんです。でも、やっぱり箱根のことを言われるんですよね……」
2年続けて大腿骨の疲労骨折が、不出場の理由だった。
「『菖蒲が1区だな』と言われ続けていて、それが狂ったことによって、いろんな区間配置が変わってしまいました。これだけ戦力がそろっていても勝てないのか、と思う一方で、自分自身にも責任はあるなと思いながら、レースを見ていました」
今年の箱根駅伝では、菖蒲が上位進出のキーマンに挙げられることも多かったが、チームはまさかの13位に終わり、シード権をも失った。実は高校3年間も同じように、冬になると同部位を疲労骨折していた。
「だいたい11月下旬から12月にかけて毎年やってしまっていました。高2の時だけは折れなかったんですけど、都道府県駅伝が終わってから疲労骨折しました。毎年、『今年こそ』と言っているのですが、本当に戦力にならないといけないなと思っています。
トラックは自分の目標として『勝ちたい』という気持ちが大きいのですが、駅伝は、親やお世話になった先生方や友人たちにがんばっている姿をしっかり見せられる大会でもあります。どちらかというと、人のために走るのが駅伝なのかなと思っています」
チームは今年の箱根駅伝でシード権を逃してから、主力に故障者が出たり、新型コロナウイルスの感染者が出たりと、苦しい時期が続いていた。それだけに、菖蒲のトラックでの活躍はチームにとっても起爆剤となるだろう。そして、今季こそ、箱根駅伝でチームを復活に導く活躍を見せる覚悟だ。
◎しょうぶ・あつし/2001年12月16日生まれ。山口県出身。浅江中→西京高→早大。自己記録5000m13分52秒46、10000m28分58秒10。高校では3000m障害で実力を開花させ、インターハイでは2年時に3位、3年時に4位という成績を収める。2年時の全国都道府県対抗駅伝1区で区間賞を獲得するなどロード適性も抜群。早大進学後は3000m障害で関東インカレ2連覇、日本学生個人選手権優勝など実績を積み重ね、駅伝でも名門・早稲田の主力として1年時から活躍を続けている。
文/和田悟志
3000m障害で世界を目指す
5月19~22日の関東インカレ。早大の長距離ブロックでひときわ目立った活躍を見せたのが、3年生の菖蒲敦司だった。 1500mは、昨年より1つ順位を落としたものの、自己新記録となる3分45秒54で3位。得意の3000m障害は1800m過ぎに先頭集団を抜け出し、独走で2連覇を飾った。1人で14点も学校対抗得点を稼いだことになる。 「インカレは短距離ブロックと一緒に戦う機会なので、2種目でしっかり1位を取って16点をチームに持ち帰りたいなと思って臨みました。でも、1500mでは中距離の選手に格の違いを見せられてしまいました。 その時は本当に悔しかったんですけど、2年連続2種目で表彰台に立てたのはかなり光栄なこと。それに国立競技場での開催だったので、すごく楽しい大会でした」 悔しい思いも味わったものの、4日間を全力で駆け抜けた充足感があった。
中学までは野球少年
菖蒲は、子どもの頃からスポーツが得意だった。小学2年から野球を始めると、中学では一番・キャッチャーで、右利きながら左打者として活躍し、さらにはキャプテンを務めた。 一方で、スポーツ能力に優れた児童を早期に発掘し、育成するプログラム「YAMAGUCHI ジュニアアスリートアカデミー」にも選出され、運動能力を磨いた。「走ることは好きではなかった」と言うが、小学校のマラソン大会では6年連続で優勝。中学では駅伝大会に助っ人として参加し、その健脚を披露した。 「野球部でフルで練習した後に、陸上の練習もフルでしていたので、すごくきつかったのを覚えています。『何でこんなのをやっているんだろう』と思っていました」 菖蒲が通っていた浅江中は、陸上の名門でもある。OB・OGにはシドニー、アトランタと2大会連続で五輪トラックに出場した市川良子氏、アテネ五輪男子マラソン代表の国近友昭氏がいる。また、早大のエースとして活躍し、箱根駅伝2区区間賞の実績もある梅木蔵雄氏も、浅江中の出身だ。 同校の教諭として彼らを指導した山村進先生、さらに菖蒲が在学時の陸上部顧問だった小野美登里先生との出会いが、菖蒲の転機になった。 「夏の大会で野球で負けてしまい、小野先生に8月から駅伝の練習に参加するように言われたんです。でも、1週間ぐらい無視していました(笑)。そしたら、家に電話がかかっていて、無理やり練習に行くことに……。練習をしたら、県大会で優勝したり、駅伝で区間賞を取ったりと活躍できるようになりました。 高校では絶対に野球をやろうと思っていたんですけど、山村先生から『陸上だったら、お前ならオリンピックに行けるかもしれない』と言われて、陸上をやってみようと思いました。野球への未練はめちゃくちゃありましたし、いまだにあるのですが……(笑)」 陸上と同じくらい、野球でも強豪校からスカウトを受けていたという。同じ高校の陸上部と野球部の両方から声をかけられたこともあったそうだ。それでも、野球への未練を断ち切ることなく、菖蒲は陸上の強豪・西京高へと進むことになった。 高校では1年目から1500mで県大会を制し、中国大会を通過してインターハイに出場を決めるなど、活躍を見せた。そして、1年目の夏からは顧問の二宮啓先生の勧めもあって、3000m障害に取り組むようになった。 「小さい時から何でも器用にこなせていたので、それが生かせる種目なのかなと思いました」 高校2年時にはインターハイで日本人トップの3位となり、表彰台に上がっている。たびたびケガに苦しみ、3000m障害では同級生の三浦の台頭もあったが、高3のインターハイでも1500m7位、3000m障害4位と2種目で入賞している。
「トラックは自分のため、駅伝は人のために走る」
早大進学後は1年目から全日本大学駅伝に出場するなど、即戦力に。2年目の昨季はさらに力をつけ、関東インカレでは2種目で表彰台に上がり、駅伝でも出雲駅伝1区2位、全日本4区5位と大活躍だった。 しかしながら、箱根駅伝には、2年続けて出場が叶わなかった。 「ゴールデンウィークに成人式があって帰省したのですが、みんな、応援してくれているのがわかってありがたかったんです。でも、やっぱり箱根のことを言われるんですよね……」 2年続けて大腿骨の疲労骨折が、不出場の理由だった。 「『菖蒲が1区だな』と言われ続けていて、それが狂ったことによって、いろんな区間配置が変わってしまいました。これだけ戦力がそろっていても勝てないのか、と思う一方で、自分自身にも責任はあるなと思いながら、レースを見ていました」 今年の箱根駅伝では、菖蒲が上位進出のキーマンに挙げられることも多かったが、チームはまさかの13位に終わり、シード権をも失った。実は高校3年間も同じように、冬になると同部位を疲労骨折していた。 「だいたい11月下旬から12月にかけて毎年やってしまっていました。高2の時だけは折れなかったんですけど、都道府県駅伝が終わってから疲労骨折しました。毎年、『今年こそ』と言っているのですが、本当に戦力にならないといけないなと思っています。 トラックは自分の目標として『勝ちたい』という気持ちが大きいのですが、駅伝は、親やお世話になった先生方や友人たちにがんばっている姿をしっかり見せられる大会でもあります。どちらかというと、人のために走るのが駅伝なのかなと思っています」 チームは今年の箱根駅伝でシード権を逃してから、主力に故障者が出たり、新型コロナウイルスの感染者が出たりと、苦しい時期が続いていた。それだけに、菖蒲のトラックでの活躍はチームにとっても起爆剤となるだろう。そして、今季こそ、箱根駅伝でチームを復活に導く活躍を見せる覚悟だ。 ◎しょうぶ・あつし/2001年12月16日生まれ。山口県出身。浅江中→西京高→早大。自己記録5000m13分52秒46、10000m28分58秒10。高校では3000m障害で実力を開花させ、インターハイでは2年時に3位、3年時に4位という成績を収める。2年時の全国都道府県対抗駅伝1区で区間賞を獲得するなどロード適性も抜群。早大進学後は3000m障害で関東インカレ2連覇、日本学生個人選手権優勝など実績を積み重ね、駅伝でも名門・早稲田の主力として1年時から活躍を続けている。 文/和田悟志
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