2022.05.16
2019年ドーハ世界選手権の男子20㎞競歩の『世界王者』は日本にいる。山西利和(愛知製鋼)。昨年の東京五輪では銅メダルを獲得し、今年3月の世界競歩チーム選手権でも他を圧倒して金メダルを獲得するなど、押しも押されもしない世界トップウォーカーとして君臨している。オレゴン世界選手権へ向け、世界王者はどんな歩みを見せるのか。
文/酒井政人 撮影/弓庭保夫
世界競歩チームで圧巻の金メダル
8月6日。〝世界王者〟山西利和(愛知製鋼)の首には銅色のメダルがかけられた。東京五輪男子20㎞競歩で3位となった後は休養に入った。
「ゆっくり休みました。本当に2週間は何もしなかったんです。案外練習しなくても罪悪感が湧かないんですね」と笑う山西。その後も、「少しストロール(※ゆっくりとしたペースで歩くこと)はしましたけど、ポイント練習と呼べるものはほとんどやっていません。1ヵ月くらいはたいした練習もせずに、本格的に始動したのは10月に入ってからです」。猛暑の中の激闘だったが、それほど肉体にダメージがあったのかと思いきや、そうではなかったという。
「正直、東京五輪後のダメージはとても軽かったんです。夏のレースの後は内臓も疲労するので、しばらくはおなかの痛さを感じながら飲み食いするんですけど、そんなことはありませんでした」。肉体的の疲労よりも、「どちらかというと精神的にひと区切りつけた感じ」だった。
「オリンピックは僕が高校生の頃から見ていた夢舞台。それが終わったので、お世話になった方々に報告するためにあっちこっち行っていました」
10月からトレーニングを再開。新たな目標に向かって歩き出した。
2019年ドーハ世界選手権で、20㎞競歩日本史上初の金メダリストとなった山西。ディフェンディング・チャンピオンとして、オレゴン世界選手権はワイルドカードでの出場資格を持つ。山西は〝世界連覇〟に向けて3月5日の世界競歩チーム選手権(オマーン・マスカット)の参戦を決めた。
「オレゴン世界選手権の代表選考レースには出なくても大丈夫なので、国内よりも海外のレースに出場したほうが経験値的にいいかなと思ったんです。集団をどうコントロールするのかなど、テーマを持って取り組むなら、一番いいチョイスかな、と」
冬季を含め、「ケガもなく、練習も積めていた」と山西。トレーニング面は「大きく変えていません。説明するのは難しいですけど、いろいろと試しながら感覚のアップデートはしてきました」と振り返る。
世界競歩チーム選手権には、前回覇者で東京五輪銀メダルの池田向希(旭化成)と愛知製鋼の後輩である諏方元郁とともに出場。国別団体は上位3名の個人順位の合計ポイントで順位が決まるため、山西は諏方の順位がポイントになると読んでいた。
気温26度の中で行われ、最初の1周(2㎞)が8分34秒というスローな展開に。すると4㎞を過ぎて山西が前に出る。8㎞過ぎに池田に追いつかれたものの、中間地点を41分59秒で通過した後は山西が再びリードを奪った。その後はひとり旅になり、金メダルに向かって突き進んだ。山西が1時間22分52秒で優勝。池田が1時間23分29秒で続き、日本勢がワン・ツーを達成した。
「日本チームとして一番いい順位を取るためにはどういうレースがいいかを考えました。放っておいても池田は上位に入るので、諏方の順位をどう上げるのか。中国、スペインなど団体戦を狙っている国は集団で上位を目指すのが戦略としてあるので、ハイペースになるのが一番嫌な展開です。集団のペースが結構ゆっくり感じたので、もう少し速いほうがいいと思って前に出ました。本当は集団をうまく転がすようなことをしたかったんですけど、結果的にそうなりましたね」
山西の狙いはズバリと的中する。諏方も粘って23位(1時間27分51秒)でフィニッシュし、日本の合計ポイントは26。エクアドルに1ポイント及ばず、国別団体の連覇は逃したが、3位の中国(45ポイント)に大差をつけて2位になった。
負けちゃった東京五輪
「何というか、負けちゃったなっていう感じです。悔しいというよりも、『これで無理なんだ』という感情。自分の中ではマックスでやったつもりでした。これまでの枠でデザインしたものでは、どうしようもないものがそこにあったと思っています」
この続きは2022年5月13日発売の『月刊陸上競技6月号』をご覧ください。
定期購読はこちらから

世界競歩チームで圧巻の金メダル
8月6日。〝世界王者〟山西利和(愛知製鋼)の首には銅色のメダルがかけられた。東京五輪男子20㎞競歩で3位となった後は休養に入った。 「ゆっくり休みました。本当に2週間は何もしなかったんです。案外練習しなくても罪悪感が湧かないんですね」と笑う山西。その後も、「少しストロール(※ゆっくりとしたペースで歩くこと)はしましたけど、ポイント練習と呼べるものはほとんどやっていません。1ヵ月くらいはたいした練習もせずに、本格的に始動したのは10月に入ってからです」。猛暑の中の激闘だったが、それほど肉体にダメージがあったのかと思いきや、そうではなかったという。 「正直、東京五輪後のダメージはとても軽かったんです。夏のレースの後は内臓も疲労するので、しばらくはおなかの痛さを感じながら飲み食いするんですけど、そんなことはありませんでした」。肉体的の疲労よりも、「どちらかというと精神的にひと区切りつけた感じ」だった。 「オリンピックは僕が高校生の頃から見ていた夢舞台。それが終わったので、お世話になった方々に報告するためにあっちこっち行っていました」 10月からトレーニングを再開。新たな目標に向かって歩き出した。 2019年ドーハ世界選手権で、20㎞競歩日本史上初の金メダリストとなった山西。ディフェンディング・チャンピオンとして、オレゴン世界選手権はワイルドカードでの出場資格を持つ。山西は〝世界連覇〟に向けて3月5日の世界競歩チーム選手権(オマーン・マスカット)の参戦を決めた。 「オレゴン世界選手権の代表選考レースには出なくても大丈夫なので、国内よりも海外のレースに出場したほうが経験値的にいいかなと思ったんです。集団をどうコントロールするのかなど、テーマを持って取り組むなら、一番いいチョイスかな、と」 冬季を含め、「ケガもなく、練習も積めていた」と山西。トレーニング面は「大きく変えていません。説明するのは難しいですけど、いろいろと試しながら感覚のアップデートはしてきました」と振り返る。 世界競歩チーム選手権には、前回覇者で東京五輪銀メダルの池田向希(旭化成)と愛知製鋼の後輩である諏方元郁とともに出場。国別団体は上位3名の個人順位の合計ポイントで順位が決まるため、山西は諏方の順位がポイントになると読んでいた。 気温26度の中で行われ、最初の1周(2㎞)が8分34秒というスローな展開に。すると4㎞を過ぎて山西が前に出る。8㎞過ぎに池田に追いつかれたものの、中間地点を41分59秒で通過した後は山西が再びリードを奪った。その後はひとり旅になり、金メダルに向かって突き進んだ。山西が1時間22分52秒で優勝。池田が1時間23分29秒で続き、日本勢がワン・ツーを達成した。 「日本チームとして一番いい順位を取るためにはどういうレースがいいかを考えました。放っておいても池田は上位に入るので、諏方の順位をどう上げるのか。中国、スペインなど団体戦を狙っている国は集団で上位を目指すのが戦略としてあるので、ハイペースになるのが一番嫌な展開です。集団のペースが結構ゆっくり感じたので、もう少し速いほうがいいと思って前に出ました。本当は集団をうまく転がすようなことをしたかったんですけど、結果的にそうなりましたね」 山西の狙いはズバリと的中する。諏方も粘って23位(1時間27分51秒)でフィニッシュし、日本の合計ポイントは26。エクアドルに1ポイント及ばず、国別団体の連覇は逃したが、3位の中国(45ポイント)に大差をつけて2位になった。
負けちゃった東京五輪
「何というか、負けちゃったなっていう感じです。悔しいというよりも、『これで無理なんだ』という感情。自分の中ではマックスでやったつもりでした。これまでの枠でデザインしたものでは、どうしようもないものがそこにあったと思っています」 この続きは2022年5月13日発売の『月刊陸上競技6月号』をご覧ください。
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
-
2025.03.28
-
2025.03.28
-
2025.03.28
2025.03.23
女子は長野東が7年ぶりの地元V アンカー・田畑陽菜が薫英女学院を逆転/春の高校伊那駅伝
-
2025.03.25
-
2025.03.23
2025.03.02
初挑戦の青学大・太田蒼生は途中棄権 果敢に先頭集団に挑戦/東京マラソン
2025.03.02
太田蒼生は低体温症と低血糖で途中棄権 「世界のレベルを知れて良い経験」/東京マラソン
-
2025.03.23
-
2025.03.19
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.03.28
【世界陸上プレイバック】五輪ボイコットきっかけに創設!クラトフヴィロヴァが女子400mと800mで今も大会記録に残る2冠 日本は室伏重信ら出場も入賞ゼロ
今年、陸上の世界選手権(世界陸上)が34年ぶりに東京・国立競技場で開催される。今回で20回目の節目を迎える世界陸上。日本で開催されるのは1991年の東京、2007年の大阪大会を含めて3回目で、これは同一国で最多だ。これま […]
2025.03.28
【高校生FOCUS】女子三段跳・山﨑りりや(鳴門渦潮高)日本高校女子初の13m到達、大学で学生記録挑戦
FOCUS! 高校生INTERVIEW 山﨑りりや Yamasaki Ririya 鳴門渦潮高3徳島 高校アスリートをフォーカスするコーナー。年度末を迎えますが、振り返ってみれば、2024年度は高校生による日本記録樹立を […]
2025.03.28
3泊4日の全国高体連合宿終了! 「高め合える仲間がいっぱいできた」 来年度は宮崎で開催予定
大阪・ヤンマースタジアム長居を主会場に行われた2024年度の日本陸連U-19強化研修合宿・全国高体連陸上競技専門部強化合宿が3月28日、3泊4日の全日程を終えた。全国から集まった選手たちは交流を深め、試合での再会を誓った […]
2025.03.28
資格停止中の競歩・池田向希がCASに不服申し立て「一日も早く競技 を再開」
旭化成は3月28日、所属選手である競歩の池田向希が受けたアンチ・ドーピング規則違反による4年間の資格停止処分について、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に不服申し立てを行ったと発表した。 男子20km競歩で東京五輪銀メダリスト […]
2025.03.28
【男子円盤投】福宮佳潤(東京高1) 50m73=高1歴代2位&4人目の50mオーバー
3月28日、東京都多摩市の国士大多摩陸上競技場で第7回国士大競技会が行われ、高校用規格の男子円盤投(1.75kg)において福宮佳潤(東京高1)が50m73をマークした。この記録は高校1年生の歴代ランキングで2位。高1で史 […]
Latest Issue
最新号

2025年4月号 (3月14日発売)
別冊付録 2024記録年鑑
山西 世界新!
大阪、東京、名古屋ウィメンズマラソン詳報