◇日本選手権10000m(5月7日/国立競技場)
これが、東京五輪7位入賞者の意地か。日本選手権10000mの女子のラスト1周、21歳の廣中璃梨佳(日本郵政グループ)が見せた渾身のスパートに、それが表れていた。
7000m過ぎから繰り広げた同じ2000年生まれの萩谷楓(エディオン)との熱戦を制し、31分30秒34で2連覇を達成。オレゴン世界選手権参加標準記録(31分25秒00)も突破済みのため、初の世界選手権代表に「即内定」した。
「優勝ではなく、確実に3位以内を狙ったレース。前半余裕を持って、後半上げていくというプランだった。ラストは2人になって、自分の持ち味であるスピードを生かして走りました」
決戦当日、最も注目を集めていた不破聖衣来(拓大)が欠場を発表。今年に入って発症した右アキレス腱周囲炎の影響で思うようにトレーニングが積めなかったことから、五十嵐利治監督が「将来のことを考えて」判断したとチームのSNSを通じて明かした。
波乱含みのレースは、積極的に引っ張るタイプの五島莉乃(資生堂)が予想通りに前へ出て、1000mを3分07秒で通過。廣中は、2000mを6分14秒で通過したあたりから、五島、廣中、萩谷、矢田みくに(デンソー)、佐藤早也伽(積水化学)の5人に、オープン参加のカマウ・タビタ・ジェリ(三井住友海上)を含む6人が抜け出し、先頭集団が形成される。標準突破者の1人、小林成美(名城大)はこの集団につくことができない。
ここから、ペースは思うように上がらず、焦点は「勝負」のサバイバルレースに。4400m過ぎにカマウが前に出てペースを上げると、佐藤が脱落。5000mは15分45秒のカマウから、4秒差で五島、廣中、矢田、萩谷と続く。カマウはそのまま独走態勢へ入り、日本人の集団がここから激戦を繰り広げた。
勝負が動いたのは7000m。廣中がペースを上げると、対応したのは萩谷のみ。五島、矢田がやや遅れた。7600m、廣中はかぶっていたキャップを投げ捨て、一気に勝負モードへ。
8400m。それまで食い下がっていた萩谷が初めて前に出た。廣中が食らいつく立場に入れ替わる。意地と意地がぶつかり合う熱闘の決着は、ラスト1周。廣中が渾身のスパートを放ち、ついに萩谷を振り切った。
猛暑の東京五輪で5000mの予選(14分55秒87=自己新)、決勝(9位/14分52秒84=日本新)、10000m決勝(31分00秒71=自己新)と3本すべて自己ベストを出した廣中。その反動は少なくなった。
11月の全日本実業団対抗女子駅伝(3区区間賞)、1月の都道府県対抗女子駅伝(9区区間賞)を乗り切った後は、トレーニングを継続しながらの休養モードへ。今季に向けて本格的に始動したのは4月に入ってから。しかし、「4月に貧血があって、出られるかどうかという状況だった」と廣中。ただ、「この2週間で最終調整をして、やれることはやってきた」。
これが今季初戦。それも万全ではない中で見せた強さに、夏への期待がふくらむ。
「五輪の決勝を経験して、また走りたいと思った。パリ五輪を見据えて、世界選手権に臨みたい」
2年連続の2冠が懸かる6月上旬の日本選手権5000mを「世界を見据えた通過点となるように」勝負をし、再び挑む世界でどんな走りを見せるか。スイッチの入った廣中は、もう止まらない。
■女子10000m上位成績
1位 廣中璃梨佳(日本郵政グループ)31.30.34=オレゴン世界選手権内定
2位 萩谷 楓(エディオン) 31.35.67
3位 五島莉乃(資生堂) 31.58.97=オレゴン世界選手権内定
4位 川口桃佳(豊田自動織機) 32.11.83
5位 中野円花(岩谷産業) 32.13.01
6位 矢田みくに(デンソー) 32.13.03
7位 吉川侑美(ユニクロ) 32.18.01
8位 山口 遥(AC・KITA) 32.20.33
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