2022.03.23
学生長距離Close-upインタビュー
吉田礼志 Yoshida Reishi 中央学院大学1年
「月陸Online」限定で大学長距離選手のインタビューをお届けする「学生長距離Close-upインタビュー」。17回目は、今年の箱根駅伝で1年生ではただ一人「花の2区」に出走した中央学大の吉田礼志(1年)をピックアップ。
昨年は大学入学直後から5月の関東インカレ、6月の全日本大学駅伝選考会と、早くもチームの主力として活躍。夏に患った肺気胸の影響で駅伝シーズンは振るわなかったものの、今月13日の日本学生ハーフで6位に食い込むなど、大ブレイクの予感が漂う。そんな新エース候補に、これまでとこれからをじっくり話してもらった。
1年生ながら「花の2区」を疾走
箱根駅伝の2区は激しい起伏があり、各校のエースが集うことから「花の2区」と称されている。多くの大学が経験豊富な上級生を起用するなか、今年の大会でただ一人1年生で出走したのが中央学大の吉田礼志だ。
「結構、プレッシャーはありました」という状況のなか、1区の走者が最下位(20位)スタートとなり、吉田も苦しい走りになった。23.1kmを1時間10分13秒で走り切ったことは1年生としては評価されるべきだが、区間18位で順位を上げることができなかった。3年ぶりのシード権を目指したチームも総合16位に終わっている。
箱根駅伝後は出場を予定していた香川丸亀国際ハーフマラソンが延期。3月13日の日本学生ハーフマラソンは「最低8位以内」という目標で挑み、1時間2分21秒で6位に入った。
「同じ千葉県出身の駒大・篠原幸太郎が(2月13日の)全日本実業団ハーフを1時間1分01秒で走ったことに刺激をもらいました。タイム的な目標は1時間1分30秒だったので、そこは納得できていないんですけど、最低目標は果たせたかなと思います」
同大会は今年6月末から開催するワールドユニバーシティゲームズの代表選考レースだたこともあり、多くの大学から主力級の選手が出場。その中で代表内定(3位まで)に19秒差と迫り、中央学大では2010年の小林光二(6位)以来となる好成績に「新エース誕生」の予感が漂った。
大学入学直後から主軸の1人に
吉田が陸上競技を始めたのは千葉・拓大紅陵高に進学してからだった。中学時代は野球部で、高校でも野球を続ける予定だったが、公立高校の受験に失敗。それが人生の転機になった。
「高校でも何か運動部に入ろうと思ったんですけど、野球部(甲子園に春夏9回出場)は強すぎると思って、何となく入ったのが陸上部でした。特にマラソン大会の順位が良かったわけではありませんが、短距離よりは長距離のほうが得意かなと思ったので、1年時から長距離に取り組んでいたんです」
大きな目標があったわけではなかったが、吉田は本気で競技に取り組んだ。そして非凡な才能を発揮することになる。
1年時の3月に5000mで14分台に突入し、高校卒業時には5000mのタイムを14分06秒28まで短縮。高校の同期には今年の箱根駅伝で関東学生連合の6区を走った鈴木康也(麗澤大)がおり、切磋琢磨しながら実力を磨いていった。
「高校時代で一番の思い出は3年時の関東駅伝1区で区間賞を獲得したことです。千葉県駅伝は1区で6位という悔しい結果に終わったので、うれしかったですね。鈴木と入学時から身近なライバルとしてお互いにやってたきたのが良かったのかもしれません」
高校から始めた陸上で才能が開花。写真は2年時の関東高校駅伝(3区)
高校時代から合宿に参加していたこともあり、「先輩・後輩の仲が良くて、雰囲気がいい」と感じた中央学大に進学した。
入学当初は「まずは堀田兄に勝ちたいなと思ったんです」と、5000mで14分01秒67のタイムを持つ同期の堀田晟礼がライバルだった。4月24日の日体大長距離競技会10000mで堀田が28分49秒05で走ったことに刺激を受けると、5日後の平成国際大記録会10000mで28分56秒29をマーク。
さらに5月の関東インカレでも快走する。5人の留学生が参戦した男子2部5000mで13分57秒83の自己ベストで7位(日本人4位)。堀田だけでなく、高校時代から13分台のベストを持っていた青学大の1年生トリオ(太田蒼生、若林宏樹、鶴川正也)にも先着した。
「気温が高く、風も強かったんですけど、自己ベストで入賞できて、びっくりしました」という吉田は、ルーキーながらチームの主軸として大きな期待を背負った。
6月19日の全日本大学駅伝関東学連推薦校選考会では最終4組を任されると、日本人トップ集団に食らいつく。藤本珠輝(日体大)、丹所健(東京国際大)、栗原啓吾(中央学大)に続く日本人4番目の28分41秒60で走破。3組目終了時の通過圏外から逆転通過に大きく貢献した。
病気を乗り越え、チームの新エースへ
駅伝シーズンに向けて自信を深めていた吉田だが、夏合宿で異変が起こる。
「夏合宿の初日に呼吸困難のような感じになり、翌日に検査したら結構重症で即日、入院になったんです。肺気胸でした。退院するのに1ヵ月かかると聞いて、正直、箱根駅伝の予選会には間に合わないなと思いました」
1ヵ月の入院生活の後は、1ヵ月のリハビリ生活。体重は入院前から4kgほど減少し、筋肉量が落ちたのを実感したという。
それでも、小島慎也、武川流以名ら主力数名が故障の影響で予選会の出場が厳しい状況だったこともあり、「自分がやるしかないという気持ちでした」と奮起。シーズン中の復帰は難しいかと思われたが、吉田は驚異的な回復を見せた。
10月23日の箱根駅伝予選会でスタートラインに立つと、チーム9番目の130位(1時間4分39秒)でフィニッシュに飛び込んだ(チームは7位で通過)。「3週間ぐらいの練習で出たんですけど、自分でもよく走れたと思います」と吉田。全日本予選会に続いて、チームの危機を救うかたちになった。
箱根駅伝の時点ではまだ本調子とは言えない状態だったが、それでも11月の時点で川崎勇二監督が「2区は吉田礼志でいきたい」と明言するほど、そのポテンシャルの高さを評価されていた。日本学生ハーフの好走も、まだ大器の片鱗を見せただけなのかもしれない。
突然襲った病気から驚異的な復活を遂げ、ようやく本調子を取り戻した吉田。新シーズンは中央学大のエースとしての走りが期待されている。本人はどんな目標を掲げているのか。
「関東インカレは男子2部10000mで28分ひとケタは出したいなと思っています。チームとしては全日本大学駅伝の選考会を突破するのが最初の目標です。そして箱根駅伝の予選会は昨年の栗原さんに続いて、僕が日本人トップを取りたいと思っています。4月からは2年生ですし、走りでチームを引っ張っていきたいです」
かつて2015~19年まで5年連続シード権を獲得するなど、箱根駅伝の常連校だった中央学大。20年の予選会で連続出場が「18」で途切れてしまったが、昨年からユニフォームを一新して再スタートを切っている。
「フラッシュイエロー軍団」の完全復活は、2年生エースの活躍に懸かっている。
◎よしだ・れいし/2002年6月19日生まれ。千葉県出身。蔵波中→拓大紅陵高→中央学大。自己記録5000m13分57秒83、10000m28分41秒60。高校時代は2年時の関東高校新人5000m6位が個人での最高成績。3年時は5000mで14分06秒28まで自己記録を短縮すると、11月の関東高校駅伝ではエース区間の1区で区間1位の快走(10000m29分54秒88/トラックレース)。中央学大では1年目から主軸の1人として活躍して箱根駅伝の2区を射止めた。
文/酒井政人
1年生ながら「花の2区」を疾走
箱根駅伝の2区は激しい起伏があり、各校のエースが集うことから「花の2区」と称されている。多くの大学が経験豊富な上級生を起用するなか、今年の大会でただ一人1年生で出走したのが中央学大の吉田礼志だ。 「結構、プレッシャーはありました」という状況のなか、1区の走者が最下位(20位)スタートとなり、吉田も苦しい走りになった。23.1kmを1時間10分13秒で走り切ったことは1年生としては評価されるべきだが、区間18位で順位を上げることができなかった。3年ぶりのシード権を目指したチームも総合16位に終わっている。 箱根駅伝後は出場を予定していた香川丸亀国際ハーフマラソンが延期。3月13日の日本学生ハーフマラソンは「最低8位以内」という目標で挑み、1時間2分21秒で6位に入った。 「同じ千葉県出身の駒大・篠原幸太郎が(2月13日の)全日本実業団ハーフを1時間1分01秒で走ったことに刺激をもらいました。タイム的な目標は1時間1分30秒だったので、そこは納得できていないんですけど、最低目標は果たせたかなと思います」 同大会は今年6月末から開催するワールドユニバーシティゲームズの代表選考レースだたこともあり、多くの大学から主力級の選手が出場。その中で代表内定(3位まで)に19秒差と迫り、中央学大では2010年の小林光二(6位)以来となる好成績に「新エース誕生」の予感が漂った。大学入学直後から主軸の1人に
吉田が陸上競技を始めたのは千葉・拓大紅陵高に進学してからだった。中学時代は野球部で、高校でも野球を続ける予定だったが、公立高校の受験に失敗。それが人生の転機になった。 「高校でも何か運動部に入ろうと思ったんですけど、野球部(甲子園に春夏9回出場)は強すぎると思って、何となく入ったのが陸上部でした。特にマラソン大会の順位が良かったわけではありませんが、短距離よりは長距離のほうが得意かなと思ったので、1年時から長距離に取り組んでいたんです」 大きな目標があったわけではなかったが、吉田は本気で競技に取り組んだ。そして非凡な才能を発揮することになる。 1年時の3月に5000mで14分台に突入し、高校卒業時には5000mのタイムを14分06秒28まで短縮。高校の同期には今年の箱根駅伝で関東学生連合の6区を走った鈴木康也(麗澤大)がおり、切磋琢磨しながら実力を磨いていった。 「高校時代で一番の思い出は3年時の関東駅伝1区で区間賞を獲得したことです。千葉県駅伝は1区で6位という悔しい結果に終わったので、うれしかったですね。鈴木と入学時から身近なライバルとしてお互いにやってたきたのが良かったのかもしれません」 高校から始めた陸上で才能が開花。写真は2年時の関東高校駅伝(3区) 高校時代から合宿に参加していたこともあり、「先輩・後輩の仲が良くて、雰囲気がいい」と感じた中央学大に進学した。 入学当初は「まずは堀田兄に勝ちたいなと思ったんです」と、5000mで14分01秒67のタイムを持つ同期の堀田晟礼がライバルだった。4月24日の日体大長距離競技会10000mで堀田が28分49秒05で走ったことに刺激を受けると、5日後の平成国際大記録会10000mで28分56秒29をマーク。 さらに5月の関東インカレでも快走する。5人の留学生が参戦した男子2部5000mで13分57秒83の自己ベストで7位(日本人4位)。堀田だけでなく、高校時代から13分台のベストを持っていた青学大の1年生トリオ(太田蒼生、若林宏樹、鶴川正也)にも先着した。 「気温が高く、風も強かったんですけど、自己ベストで入賞できて、びっくりしました」という吉田は、ルーキーながらチームの主軸として大きな期待を背負った。 6月19日の全日本大学駅伝関東学連推薦校選考会では最終4組を任されると、日本人トップ集団に食らいつく。藤本珠輝(日体大)、丹所健(東京国際大)、栗原啓吾(中央学大)に続く日本人4番目の28分41秒60で走破。3組目終了時の通過圏外から逆転通過に大きく貢献した。病気を乗り越え、チームの新エースへ
駅伝シーズンに向けて自信を深めていた吉田だが、夏合宿で異変が起こる。 「夏合宿の初日に呼吸困難のような感じになり、翌日に検査したら結構重症で即日、入院になったんです。肺気胸でした。退院するのに1ヵ月かかると聞いて、正直、箱根駅伝の予選会には間に合わないなと思いました」 1ヵ月の入院生活の後は、1ヵ月のリハビリ生活。体重は入院前から4kgほど減少し、筋肉量が落ちたのを実感したという。 それでも、小島慎也、武川流以名ら主力数名が故障の影響で予選会の出場が厳しい状況だったこともあり、「自分がやるしかないという気持ちでした」と奮起。シーズン中の復帰は難しいかと思われたが、吉田は驚異的な回復を見せた。 10月23日の箱根駅伝予選会でスタートラインに立つと、チーム9番目の130位(1時間4分39秒)でフィニッシュに飛び込んだ(チームは7位で通過)。「3週間ぐらいの練習で出たんですけど、自分でもよく走れたと思います」と吉田。全日本予選会に続いて、チームの危機を救うかたちになった。 箱根駅伝の時点ではまだ本調子とは言えない状態だったが、それでも11月の時点で川崎勇二監督が「2区は吉田礼志でいきたい」と明言するほど、そのポテンシャルの高さを評価されていた。日本学生ハーフの好走も、まだ大器の片鱗を見せただけなのかもしれない。 突然襲った病気から驚異的な復活を遂げ、ようやく本調子を取り戻した吉田。新シーズンは中央学大のエースとしての走りが期待されている。本人はどんな目標を掲げているのか。 「関東インカレは男子2部10000mで28分ひとケタは出したいなと思っています。チームとしては全日本大学駅伝の選考会を突破するのが最初の目標です。そして箱根駅伝の予選会は昨年の栗原さんに続いて、僕が日本人トップを取りたいと思っています。4月からは2年生ですし、走りでチームを引っ張っていきたいです」 かつて2015~19年まで5年連続シード権を獲得するなど、箱根駅伝の常連校だった中央学大。20年の予選会で連続出場が「18」で途切れてしまったが、昨年からユニフォームを一新して再スタートを切っている。 「フラッシュイエロー軍団」の完全復活は、2年生エースの活躍に懸かっている。 ◎よしだ・れいし/2002年6月19日生まれ。千葉県出身。蔵波中→拓大紅陵高→中央学大。自己記録5000m13分57秒83、10000m28分41秒60。高校時代は2年時の関東高校新人5000m6位が個人での最高成績。3年時は5000mで14分06秒28まで自己記録を短縮すると、11月の関東高校駅伝ではエース区間の1区で区間1位の快走(10000m29分54秒88/トラックレース)。中央学大では1年目から主軸の1人として活躍して箱根駅伝の2区を射止めた。 文/酒井政人
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