2022.02.14
学生長距離Close-upインタビュー
嶋津雄大 Shimazu Yudai 創価大学4年
「月陸Online」限定で大学長距離選手のインタビューをお届けする「学生長距離Close-upインタビュー」。15回目は、今年の箱根駅伝4区で自身2度目の区間賞を手にした創価大の嶋津雄大(4年)をピックアップ。
2年目は10区を走って11位から2人を抜いてチームを初のシード校へ導く区間新記録(区間賞)の激走。3年目は4区で2位から首位に立ち、往路優勝・総合2位の立役者となった。そして4年目、三度の快走で嶋津は誰もが認める学生長距離界を代表する選手の一人となった。
3年目に休学を経験したことで、あと1年間残った学生生活をどのように過ごしていくのかに注目が集まるが、「最後の箱根駅伝」はもちろん、その先にある世界を見据えている。
箱根駅伝で三度の快走
箱根の申し子と言っても良いかもしれない。
2年時に10区区間新記録(1時間8分40秒/当時)で創価大に初めてのシード権をもたらし、3年時は4区で2位から首位に押し上げてチーム初の往路優勝、総合2位の立役者となった嶋津雄大(4年)だ。
そして今年、再度4区を任された嶋津は、シード圏外の11位から6人を抜き、チームを鼓舞する走りで2度目の区間賞を手にした。
「前の嶋津は強かったよね、とは絶対に言われたくない。だからこそ、過去の自分を超える走りをしたいといつも思っていました。そういう意味でも、今年は満足する走りができたと思っています」
嶋津の陸上との出合いは、小学生のとき。サッカーをやっていた兄が、地元・東京都町田市で開催されている町田市こどもマラソン大会に出場していたのを見て、自分もそれに出たいと思ったのがきっかけだった。
この大会は小学4年生から6年生が対象で、当時低学年だった嶋津は「これに絶対に出たい!」と強い思いを抱いていた。
だが、やっと4年生になったところでインフルエンザに罹ってしまい出場が叶わず。5年生の時は大雪で大会が中止になってしまった。ようやく6年生の時に思いが成就し、念願のこの大会を走ることができた。
「タイムも順位もそんなに良いものではありませんでしたけど、親が『よくやった』って褒めてくれたんです。それがすごくうれしくて、陸上を本格的にやろうと決めた瞬間でもありました」
中学校に入学したら、当然陸上部に入部。全国大会があるなんてことも知らず、「ただ走ることが楽しくて陸上をやっている子どもだった」と振り返る。
転機が訪れたのは高校入学時。都立若葉総合高校陸上部に勧誘されて入学し、本格的に陸上選手としての生活がスタートしたことだった。
「勉強も、生活も、そのすべてが陸上をやるためにやっていた、という感じでした」
自分のすべてを陸上に注ぎ込む生活は、大変でもあったが、楽しく充実していた。ここで嶋津は才能を開花し、1年生の時から、3年生と一緒にポイント練習を消化。大会にも先輩たちと一緒に出場し、1年目より2年目、2年目よりも3年目とメキメキと実力を伸ばしていく。
3年生になるとインターハイにも出場(5000m予選)。また、青梅マラソンの10kmの部では、男子高校生で1位を獲得するまでに成長していた。
「この3年間の積み重ねが、今にもつながっていると思っています。毎年着実に成長を感じていたので、本当に楽しかったですね」
今年の箱根駅伝では2度目の4区に出走(左)。前々回の10区に続く区間賞を獲得した
ターニングポイントとなった3年時の休学
大学進学のきっかけになったのは、同級生の永井大育の存在だった。永井も嶋津と同じく、網膜色素変性症という持病を持っており、そんな彼と共に切磋琢磨したいと思ったことが、創価大への進学を決めたひとつの理由だった。
大学1年時こそ出場機会に恵まれなかったが、2年時からの実績は前述のとおり。一気にチームの主力へと駆け上がっていった。
そんな嶋津を支えていたのは、永井をはじめとする7人の同級生たちだった。入学当時から仲が良かった彼らは、毎年メンバーの誕生日にそれぞれお金を出し合ってプレゼントを贈っている。そして最終学年を迎えた今年度は、いつもより少し多めに出し合い、少し高価な思い出に残るプレゼントを贈り合った。
嶋津は3年時に心身の不調から半年間の休学を経験しているが、復学した時も「彼らがいたからチームに帰ってくることができた」と、嶋津を温かく迎え入れてくれた。
嶋津は休学していたことで、次年度も大学駅伝を目指すことができる。その道を選んだ嶋津にとって今最も寂しいのは、4年間酸いも甘いも共に経験し、分かち合ってきた仲間との別れだった。
「ひとり、またひとりと退寮していく姿を見送るのは、やっぱり寂しいですね。同い年がいなくてひとりでやっていけるかな、という不安はあります。でも、自分にとってターニングポイントだらけだった4年間を一緒に過ごせたのは、貴重な時間でした。このメンバーで本当に良かったと思います」
ただ、本当ならば卒業してチームからいなくなっているはずの存在だから、自分がいなくても箱根を含めた大学駅伝を戦えるチームになってほしいと願っている。
「もちろん三大駅伝は走りたい、という気持ちはあります。でも、どちらかというと、次のステージに向けた準備を進めていきたい気持ちのほうが強いですね。個人としては10000mで日本選手権に出場したいですし、マラソンにも挑戦してみたい。あくまでそちらをメインに取り組んでいくつもりです」
それでも、自分を育ててくれた箱根への思いは強い。
「今回の4区の最後、帝京大の寺嶌渓一君(4年)と競って負けてしまったのも、彼の『最後の箱根だから』という意地に負けたんじゃないかと思うんです。だから、次回は自分も本当に最後の箱根、という意地の走りもできるんじゃないかと思います」
自分が楽しいと思っていることを、「同じように他人にも楽しいと思ってほしい」と話す嶋津。それを表現する方法が走ること。走りを、レースを、駅伝を全力で楽しみ、それを見た人たちにも走る楽しさを贈りたい。そんな気持ちがこもった走りをする嶋津だからこそ、見る人をワクワクさせてくれる。
そんな楽しみがあと1年間も残っている。
◎しまづ・ゆうだい/2000年3月28日生まれ。東京都出身。堺中→若葉総合高→創価大。自己記録5000m14分03秒65、10000m28分14秒23。
高校時代はインターハイ5000mで出場経験があるが、全国的には無名な選手だった。創価大2年目の箱根駅伝10区区間賞(区間新)でその名をアピールすると、以降はチームのエースとして君臨。3年目と4年目は箱根4区で区間2位、区間賞と三度快走し、創価大史上初のシード権獲得から3年連続で10位以内を確保する立役者となった。
文/田坂友暁
2月14日に発売の「月刊陸上競技3月号」では追跡箱根駅伝として嶋津雄大にインタビュー。箱根駅伝の振り返り、そして目標に掲げる世界選手権へのプランを聞いた。また、洛南高・佐藤圭汰の3年間を振り返る企画も収録している。
月刊陸上競技3月号購入はこちら

箱根駅伝で三度の快走
箱根の申し子と言っても良いかもしれない。 2年時に10区区間新記録(1時間8分40秒/当時)で創価大に初めてのシード権をもたらし、3年時は4区で2位から首位に押し上げてチーム初の往路優勝、総合2位の立役者となった嶋津雄大(4年)だ。 そして今年、再度4区を任された嶋津は、シード圏外の11位から6人を抜き、チームを鼓舞する走りで2度目の区間賞を手にした。 「前の嶋津は強かったよね、とは絶対に言われたくない。だからこそ、過去の自分を超える走りをしたいといつも思っていました。そういう意味でも、今年は満足する走りができたと思っています」 嶋津の陸上との出合いは、小学生のとき。サッカーをやっていた兄が、地元・東京都町田市で開催されている町田市こどもマラソン大会に出場していたのを見て、自分もそれに出たいと思ったのがきっかけだった。 この大会は小学4年生から6年生が対象で、当時低学年だった嶋津は「これに絶対に出たい!」と強い思いを抱いていた。 だが、やっと4年生になったところでインフルエンザに罹ってしまい出場が叶わず。5年生の時は大雪で大会が中止になってしまった。ようやく6年生の時に思いが成就し、念願のこの大会を走ることができた。 「タイムも順位もそんなに良いものではありませんでしたけど、親が『よくやった』って褒めてくれたんです。それがすごくうれしくて、陸上を本格的にやろうと決めた瞬間でもありました」 中学校に入学したら、当然陸上部に入部。全国大会があるなんてことも知らず、「ただ走ることが楽しくて陸上をやっている子どもだった」と振り返る。 転機が訪れたのは高校入学時。都立若葉総合高校陸上部に勧誘されて入学し、本格的に陸上選手としての生活がスタートしたことだった。 「勉強も、生活も、そのすべてが陸上をやるためにやっていた、という感じでした」 自分のすべてを陸上に注ぎ込む生活は、大変でもあったが、楽しく充実していた。ここで嶋津は才能を開花し、1年生の時から、3年生と一緒にポイント練習を消化。大会にも先輩たちと一緒に出場し、1年目より2年目、2年目よりも3年目とメキメキと実力を伸ばしていく。 3年生になるとインターハイにも出場(5000m予選)。また、青梅マラソンの10kmの部では、男子高校生で1位を獲得するまでに成長していた。 「この3年間の積み重ねが、今にもつながっていると思っています。毎年着実に成長を感じていたので、本当に楽しかったですね」
ターニングポイントとなった3年時の休学
大学進学のきっかけになったのは、同級生の永井大育の存在だった。永井も嶋津と同じく、網膜色素変性症という持病を持っており、そんな彼と共に切磋琢磨したいと思ったことが、創価大への進学を決めたひとつの理由だった。 大学1年時こそ出場機会に恵まれなかったが、2年時からの実績は前述のとおり。一気にチームの主力へと駆け上がっていった。 そんな嶋津を支えていたのは、永井をはじめとする7人の同級生たちだった。入学当時から仲が良かった彼らは、毎年メンバーの誕生日にそれぞれお金を出し合ってプレゼントを贈っている。そして最終学年を迎えた今年度は、いつもより少し多めに出し合い、少し高価な思い出に残るプレゼントを贈り合った。 嶋津は3年時に心身の不調から半年間の休学を経験しているが、復学した時も「彼らがいたからチームに帰ってくることができた」と、嶋津を温かく迎え入れてくれた。 嶋津は休学していたことで、次年度も大学駅伝を目指すことができる。その道を選んだ嶋津にとって今最も寂しいのは、4年間酸いも甘いも共に経験し、分かち合ってきた仲間との別れだった。 「ひとり、またひとりと退寮していく姿を見送るのは、やっぱり寂しいですね。同い年がいなくてひとりでやっていけるかな、という不安はあります。でも、自分にとってターニングポイントだらけだった4年間を一緒に過ごせたのは、貴重な時間でした。このメンバーで本当に良かったと思います」 ただ、本当ならば卒業してチームからいなくなっているはずの存在だから、自分がいなくても箱根を含めた大学駅伝を戦えるチームになってほしいと願っている。 「もちろん三大駅伝は走りたい、という気持ちはあります。でも、どちらかというと、次のステージに向けた準備を進めていきたい気持ちのほうが強いですね。個人としては10000mで日本選手権に出場したいですし、マラソンにも挑戦してみたい。あくまでそちらをメインに取り組んでいくつもりです」 それでも、自分を育ててくれた箱根への思いは強い。 「今回の4区の最後、帝京大の寺嶌渓一君(4年)と競って負けてしまったのも、彼の『最後の箱根だから』という意地に負けたんじゃないかと思うんです。だから、次回は自分も本当に最後の箱根、という意地の走りもできるんじゃないかと思います」 自分が楽しいと思っていることを、「同じように他人にも楽しいと思ってほしい」と話す嶋津。それを表現する方法が走ること。走りを、レースを、駅伝を全力で楽しみ、それを見た人たちにも走る楽しさを贈りたい。そんな気持ちがこもった走りをする嶋津だからこそ、見る人をワクワクさせてくれる。 そんな楽しみがあと1年間も残っている。

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