笑顔で現役引退を発表した福島千里(セイコー提供)
遠かった日本女子短距離の「世界」との距離を、一気に縮めた偉大なスプリンター、福島千里(セイコー)が現役引退を決断した。
1月29日、オンラインで開かれた「セイコースマイルアンバサダー(スポーツ担当)」就任会見でスパイクを脱ぐことを発表した福島は、「小学校4年から陸上を始めて23年。これまで支えてくださった方々、両親をはじめ名前を上げればきりがないですが、関わってくれた方々に感謝の気持ちでいっぱい」と率直な思いを語った。
福島が成し遂げてきた偉業は、枚挙にいとまがない。
五輪には2008年北京大会で日本女子56年ぶり出場を果たすと、12年ロンドン、16年リオと3大会連続で代表に。世界選手権は09年ベルリンから4大会連続で出場し、11年テグでは100m、200mともに準決勝進出を果たした。
世界を目指して走り続けた福島にとっても、長いキャリアで最も思い出深いレースはやはり世界大会で、北京五輪と、同じ地で開催された15年の世界選手権を挙げた。
「一番印象に残っているのは北京五輪で、私の原点。そして、数年走ってきて、2015年の世界選手権も同じ北京。積み重ねてきた練習も含めて、予選は世界と戦えた(世界大会日本人最高の11秒23で3着通過)。目指してきた走りができたレース。そこも印象に残っている」
日本選手権は11年~16年に6年連続で100m、200m2冠を獲得するなど、両種目ともに優勝回数は8回。これはいずれも史上最多だ。
記録面でも、100mは08年に当時日本タイの11秒36をマークしたのを皮切りに、11秒21(10年)まで短縮。200mは09年に23秒14を出した後、16年の22秒88が現在も日本記録として残る。日本人女子で11秒3を切った選手、23秒を切った選手はいずれも福島ただ1人だ。
絶頂時には鮮やかなスタートダッシュから他を圧倒し、フィニッシュまで軸のまったくぶれない美しいフォームで走り切るレースが印象的だった。世界に目を向け、世界に少しでも近くづくために、常に自分に厳しい姿勢を持ち続けてきた。ここ数年はケガが相次ぎ、本来の走りを見せることができなくなっていたが、それでもスタートラインに立った福島の姿は輝いていた。
ただ、目標にしてきた東京五輪出場がかなわなかったこと。加えて「ケガのリスクがすごく多くて、目指しているところに対して『やりたい練習』よりも、『やれる練習』を選択したというところが正直なところ」と、目標と自身の現在地とのギャップが、引退へと気持ちが向かうきっかけとなった。
最終的には、9月の全日本実業団対抗選手権を終えて決断した。その前に、「もちろん最後にするという可能性はあった」そうだが、「最後、全日本実業団というものに対して、しっかり練習を積んでいきたということが私の中であった。引退を決めたらさみしいという気持ちがあふれてしまって練習にならない。勝負に徹したいと思った」。最後の最後まで自分らしさを貫いた競技人生だった。
自身のキャリアを振り返ると、「十分に『やり切ったか?』と言われればわからないが、私としてはやり切った、がんばれるところはがんばってきたかなという気持ちがある。達成感はそこまでないが、解放感が少しある」と言う。そして、支えてくれた周囲への感謝の言葉を続けた。
「小学校の頃から夢だった五輪に出場することができ、たくさんの方々のお陰でいろんなことを経験することができた。それは私の財産です。ここ数年はすごく苦しいシーズンがあった。でも、環境を変えて、東京を目指してさまざまな挑戦をさせてもらえた。コーチ、トレーナーさん含めて、私の挑戦を支えてくれたことが、大きな原動力。続けるために環境を変えたり、続けるために新しいことに挑戦したりと、何とかして速く走るためにがんばってこられた。目標が達成されるまでは、あきらめる気持ちがなかったので、ずっと続けてこられたと思う」
同日に、セイコーホールディングス株式会社代表取締役会長兼グループCEO兼グループCCOの服部真二氏から「セイコースマイルアンバサダー(スポーツ担当)」に任命された。これからは、同社が全国展開を予定している「セイコーわくわくスポーツ教室」で陸上教室の講師として、子供たちに走ることの楽しさを伝えていく。
服部氏から「これからは歯を食いしばらず、笑って走って、子供たちを明るくしてほしい」と言われると、「笑って走っていいなんて、現役中は一切なかった。走ることの楽しさ、喜びを伝えていければいいなと思います」と笑顔で語った。
また、福島に続く後輩たちに、「私自身が経験してきた、体験してきた感覚だったりプロセスを、たくさんの選手の伝えていけるような機会があれば、挑戦していきたい」と言う。
「長く陸上競技をやらせてもらったが、楽しいことももちろんあるし、苦しいと思う瞬間もあると思う。でも、続けてないとわからないものがある。とにかくあきらめないでいろんなことに挑戦したり、工夫したりを続けてほしい。今後、たくさんの選手を応援したいし、がんばってほしいという気持ちでいっぱいです」
日本スプリントの女王は笑顔で、次の目標に向けて新たなスタートを切った。
◎プロフィール
1988年6月27日生まれ、33歳。北海道・糠内中→帯広南商高→北海道ハイテクAC→セイコー
●自己ベスト
100m 11秒21(2010年)=日本記録
200m 22秒89(2016年)=日本記録
●日本記録樹立
100m 11秒36(08年/タイ)→11秒28(09年)→11秒24(同)→11秒21(10年)
200m 23秒14(09年)→23秒00(同)→22秒89(10年)→22秒88(16年)
●国際大会成績
05年 世界ユース100m準決・200m準決
06年 世界ジュニア100m準決
08年 五輪100m1次予選
09年 世界選手権100m2次予選・200m予選、アジア選手権100m①
10年 アジア大会100m①・200m①
11年 世界選手権100m準決勝・200m準決勝、アジア選手権200m①
12年 五輪100m予選・200m予選、世界室内60m準決
13年 世界選手権200m予選、アジア選手権100m②・200m④
14年 アジア大会100m②・200m③
15年 世界選手権100m準決勝・200m予選、アジア選手権100m①
16年 五輪100m欠場・200m予選
18年 アジア大会100m予選・200m棄権
19年 アジア選手権100m準決勝
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking 人気記事ランキング
2025.01.17
編集部コラム「年末年始の風物詩」
-
2025.01.17
-
2025.01.17
-
2025.01.17
-
2025.01.16
2025.01.12
【テキスト速報】第43回都道府県対抗女子駅伝
-
2025.01.14
-
2025.01.12
-
2025.01.15
2024.12.22
早大に鈴木琉胤、佐々木哲の都大路区間賞2人が来春入学!女子100mH谷中、松田ら推薦合格
-
2024.12.22
-
2024.12.30
-
2025.01.12
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.01.17
西脇多可新人高校駅伝の出場校決定!男子は佐久長聖、大牟田、九州学院、洛南 女子は長野東、薫英女学院など有力校が登録
1月17日、西脇多可新人高校駅伝の実行委員会が、2月16日に行われる第17回大会の出場チームを発表した。 西脇多可新人高校駅伝は、兵庫県西脇市から多可町を結ぶ「北はりま田園ハーフマラソンコース(21.0795km)」で行 […]
2025.01.17
編集部コラム「年末年始の風物詩」
毎週金曜日更新!? ★月陸編集部★ 攻め(?)のアンダーハンド リレーコラム🔥 毎週金曜日(できる限り!)、月刊陸上競技の編集部員がコラムをアップ! 陸上界への熱い想い、日頃抱いている独り言、取材の裏話、どーでもいいこと […]
2025.01.17
中・高校生充実の長野“4連覇”なるか 実力者ぞろいの熊本や千葉、岡山、京都、福岡も注目/都道府県男子駅伝
◇天皇盃第30回全国都道府県対抗男子駅伝(1月19日/広島・平和記念公園前発着:7区間48.0km) 中学生から高校生、社会人・大学生のランナーがふるさとのチームでタスキをつなぐ全国都道府県男子駅伝が1月19日に行われる […]
2025.01.17
栁田大輝、坂井隆一郎らが日本選手権室内出場キャンセル 日本室内大阪はスタートリスト発表
日本陸連は2月1日から2日に行われる、日本選手権室内のエントリー状況と、併催の日本室内大阪のスタートリストを発表した。 日本選手権室内では12月にエントリーが発表されていた選手のうち、男子60mに出場予定だったパリ五輪代 […]
2025.01.17
東京世界陸上のチケット一般販売が1月31日からスタート!すでに23万枚が販売、新たな席種も追加
東京2025世界陸上財団は、今年9月に開催される東京世界選手権の観戦チケットの一般販売を1月31日(金)の18時から開始すると発表した。 昨夏に先行販売が始まり、年末年始にも特別販売を実施。すでに23万枚を販売し売れ行き […]
Latest Issue 最新号
2025年2月号 (1月14日発売)
駅伝総特集!
箱根駅伝
ニューイヤー駅伝
高校駅伝、中学駅伝
富士山女子駅伝