2021.12.25
箱根駅伝Stories
吉居大和
Yoshii Yamato(中大2年)
12月29日の区間エントリーを直前に控え、箱根駅伝ムードが徐々に高まっている。「箱根駅伝Stories」と題し、12月下旬から本番まで計19本の特集記事を掲載していく。
第11回目は、5000mのU20日本記録(13分25秒87)を持つスピードスター、中大の吉居大和(2年)をクローズアップ。
日本インカレ優勝や日本選手権3位など、主に5000mで学生トップクラスの活躍を見せた昨年度から一転、今年の前半シーズンは苦しんだ。しかし、夏の走り込みで自信を回復し、全日本大学駅伝では1区2位でチームの10年ぶりシード権獲得に貢献した。
箱根路では全日本同様に1区出走が濃厚。目標の東京五輪出場を逃した悔しさをバネに、さらに強さを増した吉居が区間賞を狙いに行く。
力を発揮できなかった前回大会
10年ぶりのシード権獲得、そして第100回大会での優勝争いへ。名門復活を目指す中大にとって吉居大和(2年)は“希望”ともいえる存在だ。
宮城・仙台育英高時代はケガに苦しみながらも、3年時はインターハイ5000mで日本人トップ(3位)。3区を務めた全国高校駅伝では日本一に輝いた。
大きな期待を背負って中大に入学すると、ルーキーイヤーで大活躍する。7月に5000mでU20日本記録を15年ぶりに塗り替える13分28秒31をマーク。9月の日本インカレ5000mは強烈なスパートで1年生優勝を達成した。さらに12月の日本選手権5000mでは13分25秒87まで短縮して3位に食い込んだ。
しかし、箱根駅伝の3区21.4kmは想像以上に長い道のりになった。18位から順位を上げることができず、区間15位。真っ赤なタスキを渡した後はその場に倒れ込んだ。
「前回の箱根は思うような走りができませんでした。もらった位置が想像よりもかなり後ろでしたし、20km以上を単独で走るという経験もありませんでしたから。もうちょっと前でもらっていたら、リズムも作りやすかったかもしれませんが、1人で前を追う力はなかったかなと思います」
収穫のあった米国修行、苦戦した前期シーズン
6月の日本選手権5000mでは16位(13分53秒31)と、3位だった前回から順位を大きく落とした
2021年は箱根駅伝の失速から始まったが、吉居は東京五輪出場に本気でチャレンジした。
2月からは単身渡米。男子5000mで銀メダルを獲得することになるモハメッド・アーメド(カナダ)ら世界トップクラスの選手たちが所属する「バウワーマントラッククラブで3ヵ月弱のトレーニングを行った。現地では今年の日本選手権5000m覇者・遠藤日向(住友電工)とも一緒に練習をする機会もあったという。
「トレーニングは日本と大きくは違わないのですが、単発的なスピード練習が多かった印象です。世界トップの選手たちを間近で見て、今の自分との差がわかりました。同じメニューをやれたわけではなく、ペースを落としたり、本数を少し減らしたりしてやりました。400mだと、自分が60秒でやるようなメニューをアーメド選手は56秒とかで走るんです。日向さんともすごい差を感じましたね。世界と日本のトップクラスを近くで感じて、できる練習も増えました。ただ、それに身体が追いついていなかったのかなと思っています」
米国ではウエイトトレーニングも行い、筋力面がアップした。加えて身長も少し伸びたという。
しかし、トラックシーズンは思うような結果を残すことができなかった。「筋力がついて、身体が大きくなりました。ただ、うまく制御できない状況だったと思います」と藤原正和駅伝監督は当時の吉居の状態を説明する。
米国から帰国後、吉居は米国で培ったはずの実力を発揮することができなかった。6月の日本選手権5000mは13分53秒31で16位。東京五輪へのチャレンジは失敗に終わった。
それでも、吉居は前を見つめている。
「前半戦は調子が上がらず、とても苦しかったですね。正直、焦りもありました。トラックシーズンは悔しい結果に終わりましたが、『成長した』という自信はあったんです。駅伝シーズンはやってやろうという気持ちに切り替えました」
第100回大会での総合優勝を見据えて
今夏は月間走行距離を昨年から100~150km以上も増やすなど、しっかりと走り込んできた。10月の箱根駅伝予選会は残り2kmで両ふくらはぎが痙攣するアクシデントがありながらも、1時間2分51秒で個人13位(日本人5位)。2年連続でチームトップを飾った。
11月の全日本大学駅伝は1区でトップと同タイムの区間2位。駒大・佐藤条二(1年)に先着を許したが、吉居は確実に自信を深めている。
「どちらもラストスパートで負けてしまってはいるんですけど、箱根駅伝につながる走りはできています。区間賞を取るためには悪くないレースだったと思います」
筋力と走りも徐々にマッチしてきた。吉居は「27分50秒切り」を目指して、11月27日の八王子ロングディスタンス10000mに出場(29分23秒76)。久しぶりのスパイク着用で左足裏が擦れて後半は失速したが「感触は悪くなかった」と言う。
「思うようなレースはできませんでしたが、調子はかなり良くて、3000mまですごくいい感覚だったんです」
その言葉に嘘はなかった。1週間という短いスパンで臨んだ12月4日の日体大長距離競技会10000mはU20日本歴代2位となる28分03秒90で駆け抜けた。
吉居の中では11月12日の日体大長距離競技会10000mで高校歴代3位の28分11秒96をマークした弟・駿恭(仙台育英高)の存在が刺激になっている。弟はスポーツ推薦入試で中大に合格。来季は再びチームメイトになる。
「やっぱり小さい頃から一緒に走ってきた弟だったので、記録が出た時はすごくうれしかったですし、『自分も負けられない』という気持ちになりました。来年4月からは一緒に練習や生活できるのもうれしいなと思っていて、お互い切磋琢磨していきたいです」
高校3年生だった2019年の全国高校駅伝では3区で優勝に貢献。左から3人目が吉居。右から2人目が弟の駿恭
中大は箱根駅伝で最多94回の出場、最多14回の総合優勝を誇る。藤原監督は吉居が4年生、弟・駿恭が2年生で迎える第100回大会で「優勝争い」に加わることを目標にしている。
そのためにも今回の第98回大会は10年ぶりとなるシード権を確保して、未来につなげたい。
名門・中大の再建を託されている吉居。2度目の箱根駅伝は1区での出場が濃厚だ。
「昨季よりも練習量を増やせたので、距離に対して自信がつきました。前回は『大丈夫かな?』という気持ちでしたけど、今回は強気な走りができると思います。1区はどの大学も遅れるわけにはいきません。中央大学は2区に絶対的なエースがいないので、1区の出だしがすごく大切になってきます。簡単に勝てるような選手はいないと思いますし、ラスト3km、ラスト1kmの勝負になるんじゃないでしょうか。特にラスト100mは気持ちの勝負になると思うんですけど、そこでは絶対に負けない気持ちで走りたい。自分の走りができれば区間賞は取れるのかなと思っています」
吉居が爆走した先には、中大の名門復活と“世界”の舞台が待っている──。
◎よしい・やまと/2002年2月14日生まれ。168cm、49kg。愛知県出身。田原東部中(愛知)→仙台育英高(宮城)→中大。5000m13分25秒87、10000m28分03秒90。
文/酒井政人
力を発揮できなかった前回大会
10年ぶりのシード権獲得、そして第100回大会での優勝争いへ。名門復活を目指す中大にとって吉居大和(2年)は“希望”ともいえる存在だ。 宮城・仙台育英高時代はケガに苦しみながらも、3年時はインターハイ5000mで日本人トップ(3位)。3区を務めた全国高校駅伝では日本一に輝いた。 大きな期待を背負って中大に入学すると、ルーキーイヤーで大活躍する。7月に5000mでU20日本記録を15年ぶりに塗り替える13分28秒31をマーク。9月の日本インカレ5000mは強烈なスパートで1年生優勝を達成した。さらに12月の日本選手権5000mでは13分25秒87まで短縮して3位に食い込んだ。 しかし、箱根駅伝の3区21.4kmは想像以上に長い道のりになった。18位から順位を上げることができず、区間15位。真っ赤なタスキを渡した後はその場に倒れ込んだ。 「前回の箱根は思うような走りができませんでした。もらった位置が想像よりもかなり後ろでしたし、20km以上を単独で走るという経験もありませんでしたから。もうちょっと前でもらっていたら、リズムも作りやすかったかもしれませんが、1人で前を追う力はなかったかなと思います」収穫のあった米国修行、苦戦した前期シーズン
6月の日本選手権5000mでは16位(13分53秒31)と、3位だった前回から順位を大きく落とした 2021年は箱根駅伝の失速から始まったが、吉居は東京五輪出場に本気でチャレンジした。 2月からは単身渡米。男子5000mで銀メダルを獲得することになるモハメッド・アーメド(カナダ)ら世界トップクラスの選手たちが所属する「バウワーマントラッククラブで3ヵ月弱のトレーニングを行った。現地では今年の日本選手権5000m覇者・遠藤日向(住友電工)とも一緒に練習をする機会もあったという。 「トレーニングは日本と大きくは違わないのですが、単発的なスピード練習が多かった印象です。世界トップの選手たちを間近で見て、今の自分との差がわかりました。同じメニューをやれたわけではなく、ペースを落としたり、本数を少し減らしたりしてやりました。400mだと、自分が60秒でやるようなメニューをアーメド選手は56秒とかで走るんです。日向さんともすごい差を感じましたね。世界と日本のトップクラスを近くで感じて、できる練習も増えました。ただ、それに身体が追いついていなかったのかなと思っています」 米国ではウエイトトレーニングも行い、筋力面がアップした。加えて身長も少し伸びたという。 しかし、トラックシーズンは思うような結果を残すことができなかった。「筋力がついて、身体が大きくなりました。ただ、うまく制御できない状況だったと思います」と藤原正和駅伝監督は当時の吉居の状態を説明する。 米国から帰国後、吉居は米国で培ったはずの実力を発揮することができなかった。6月の日本選手権5000mは13分53秒31で16位。東京五輪へのチャレンジは失敗に終わった。 それでも、吉居は前を見つめている。 「前半戦は調子が上がらず、とても苦しかったですね。正直、焦りもありました。トラックシーズンは悔しい結果に終わりましたが、『成長した』という自信はあったんです。駅伝シーズンはやってやろうという気持ちに切り替えました」第100回大会での総合優勝を見据えて
今夏は月間走行距離を昨年から100~150km以上も増やすなど、しっかりと走り込んできた。10月の箱根駅伝予選会は残り2kmで両ふくらはぎが痙攣するアクシデントがありながらも、1時間2分51秒で個人13位(日本人5位)。2年連続でチームトップを飾った。 11月の全日本大学駅伝は1区でトップと同タイムの区間2位。駒大・佐藤条二(1年)に先着を許したが、吉居は確実に自信を深めている。 「どちらもラストスパートで負けてしまってはいるんですけど、箱根駅伝につながる走りはできています。区間賞を取るためには悪くないレースだったと思います」 筋力と走りも徐々にマッチしてきた。吉居は「27分50秒切り」を目指して、11月27日の八王子ロングディスタンス10000mに出場(29分23秒76)。久しぶりのスパイク着用で左足裏が擦れて後半は失速したが「感触は悪くなかった」と言う。 「思うようなレースはできませんでしたが、調子はかなり良くて、3000mまですごくいい感覚だったんです」 その言葉に嘘はなかった。1週間という短いスパンで臨んだ12月4日の日体大長距離競技会10000mはU20日本歴代2位となる28分03秒90で駆け抜けた。 吉居の中では11月12日の日体大長距離競技会10000mで高校歴代3位の28分11秒96をマークした弟・駿恭(仙台育英高)の存在が刺激になっている。弟はスポーツ推薦入試で中大に合格。来季は再びチームメイトになる。 「やっぱり小さい頃から一緒に走ってきた弟だったので、記録が出た時はすごくうれしかったですし、『自分も負けられない』という気持ちになりました。来年4月からは一緒に練習や生活できるのもうれしいなと思っていて、お互い切磋琢磨していきたいです」 高校3年生だった2019年の全国高校駅伝では3区で優勝に貢献。左から3人目が吉居。右から2人目が弟の駿恭 中大は箱根駅伝で最多94回の出場、最多14回の総合優勝を誇る。藤原監督は吉居が4年生、弟・駿恭が2年生で迎える第100回大会で「優勝争い」に加わることを目標にしている。 そのためにも今回の第98回大会は10年ぶりとなるシード権を確保して、未来につなげたい。 名門・中大の再建を託されている吉居。2度目の箱根駅伝は1区での出場が濃厚だ。 「昨季よりも練習量を増やせたので、距離に対して自信がつきました。前回は『大丈夫かな?』という気持ちでしたけど、今回は強気な走りができると思います。1区はどの大学も遅れるわけにはいきません。中央大学は2区に絶対的なエースがいないので、1区の出だしがすごく大切になってきます。簡単に勝てるような選手はいないと思いますし、ラスト3km、ラスト1kmの勝負になるんじゃないでしょうか。特にラスト100mは気持ちの勝負になると思うんですけど、そこでは絶対に負けない気持ちで走りたい。自分の走りができれば区間賞は取れるのかなと思っています」 吉居が爆走した先には、中大の名門復活と“世界”の舞台が待っている──。 ◎よしい・やまと/2002年2月14日生まれ。168cm、49kg。愛知県出身。田原東部中(愛知)→仙台育英高(宮城)→中大。5000m13分25秒87、10000m28分03秒90。 文/酒井政人
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