2021.12.24
箱根駅伝Stories
鈴木聖人
Suzuki Kiyoto(明大4年)
12月29日の区間エントリーを直前に控え、箱根駅伝ムードが徐々に高まっている。「箱根駅伝Stories」と題し、12月下旬から本番まで計19本の特集記事を掲載していく。
第10回目は、古豪・明大のエース&駅伝主将としてチームを牽引する鈴木聖人(4年)を取り上げる。
大学1年目から主要大会で活躍し、三大駅伝はフル出場。なかでも5区の山上りで区間5位と好走し、シード権獲得(6位)に大きく貢献した2年時の箱根駅伝は、鈴木の名を一気に広めるきっかけとなった。
今年度は駅伝主将を任され、特に前半シーズンは力強くチームを牽引。頼れる絶対的なエースへと成長を遂げ、最後の箱根を迎えようとしている。
前半シーズンは自己新ラッシュ
12月10日、第98回箱根駅伝に臨む16人のチームエントリーを終えた後の記者発表で、明大の山本佑樹駅伝監督はきっぱりと言い放った。
「今年度のチームは4年生、鈴木聖人のチームだと思っています」
前回大会は上位を狙う目標を立てていたが、11位と振るわずシード落ち。その時点から、指揮官の頭の中には「キャプテン=鈴木」でチームビルディングの構想が固まっていた。
キャプテン就任後、初の実戦となった3月14日の日本学生ハーフマラソンで34位(1時間5分00秒)と惨敗。チームも全体的に今ひとつの結果に終わり、鈴木は「このままでは秋の箱根予選会もまずい」と危機感を募らせた。
しかし、そこからの活躍は目覚ましかった。
「3月下旬に練習の一環として出場した早大競技会で、1500m(3分50秒09)と3000m(8分08秒51)で自己ベストが出て良い感触を得ました。そこからは試合に出るたびに記録を更新できて、去年までにはなかったぐらい結果を残せたので、やってきたことがようやくかたちになったと感じました」
自身がそう振り返るように、4月から6月上旬にかけてはまさに自己新ラッシュだった。3000mは7分54秒19、5000mは13分34秒91、10000mは28分09秒24までタイムを縮め、その間、5月下旬の関東インカレ(2部)では10000mで4位(日本人2位)、5000mで5位(日本人3位)と2種目入賞を果たす。
6月下旬の日本選手権5000mでも、全体12位ながら13分45秒72で学生2番手に食い込んでいる。「駅伝シーズンが楽しみ」と思っていたのは、鈴木本人だけではなかったはずだ。
駅伝主将としての責任感が成長の糧に
前回の箱根は5区を走って区間9位だった
鈴木には理想とするエース像がある。
「誰が見ても『強いな』と思われる選手です。常にどんな状況でもチームの流れを変えて、チームメイトからは『この人が走ってくれるなら大丈夫だ』と信頼され、安定感と強さを兼ね備えている。速さはもちろん必要ですが、タイムを持っているだけではダメで、例えば他大学の選手から『一緒に走るのか、嫌だな』と思われるような選手がエースだと思います」
鈴木にとっては、明大で2年先輩にあたる阿部弘輝(現・住友電工)がそうしたエース、しかも絶対的エースと呼べる存在だった。前々回の箱根駅伝で阿部は故障明けだったにもかかわらず、7区で区間新記録を打ち立て、5年ぶりにシード権を獲得する原動力となった。
昨年度の明大が、全日本大学駅伝で3位と躍進しながら箱根でシードを落とす結果に終わったのは、卒業した阿部のような「核となるエース」を育成できなかったことも要因の1つだった。
鈴木も「ポスト阿部」を担うエース候補に名乗りを上げたものの、当時は「エースは1人じゃなくてもいい。みんなで底上げできれば」と考えていたあたりに、真のエースとしての覚悟がまだ足りていなかったようにも見える。
大学最後のシーズンとなる今年度、キャプテンに指名されたことは、「自分が引っ張っていかないといけない」との思いをより強く持つという意味で大きかった。山本監督は「面倒見も良いし、基本的に性格も明るく、自然と周りがくっついてくるようなタイプ。おそらく本人は特別自分が引っ張ろうという気はない」と考えていたが、鈴木はキャプテンを任されたことで俄然、責任感が増した。
「行動で見せるというか、まずは走る姿を見せないとチームは良くならない。言葉だけでは無理かな、と。周りをしっかり見つつ、練習もチームの誰よりもやらないと認めてもらえないし、やっていない選手に言われても説得力はありません。まずは自分の力をつけるしかないと思っていました」
その心意気が前半シーズンの快進撃を生み、山本監督も「キャプテンをやったことで大人になった」と鈴木の成長を感じている。
最後の箱根は「任された区間で全力を尽くすだけ」
ただ、同時に「やりすぎて怪我をしたり、少し欲張ったりするところはまだまだ」と指揮官は釘を刺す。夏以降は相次ぐ故障を強いられ、駅伝シーズンに入ってからは10月下旬の箱根予選会や11月7日の全日本大学駅伝を100%の状態で迎えられなかった。
特に全日本はレース5日前にアキレス腱を痛め、3日前には山本監督から一度はメンバーから外す意向を伝えられた。「鈴木がいなくてもシードを取れるぐらいじゃないと箱根でも戦えない」という指揮官の意図は理解できたが、「4年生の自分にとっては全日本も今年が最後。すぐに『わかりました』とは言えないほど絶対に走りたい気持ちでした」と、何とか待ってもらいたい本音をぶつけた。
その日の午後、山本監督から補欠に鈴木の名前が入った区間エントリーの発表とともに、こんなメッセージが届いたという。
「聖人の可能性をぎりぎりまで信じました」
鈴木が当日変更で走れるように、という指揮官の配慮でもあり、親心だった。
何とか間に合った全日本では負担の少ない6区に起用され、万全ではない状態の中、4人抜きでチームを3位に押し上げた。名門・明大のエースとして面目躍如の力走だった。
その後、11月24日のMARCH対抗戦10000mでは28分47秒54で走るなど、箱根を前に再び調子を上げてきた。
来年1月の箱根では前々回と前回に続く5区、あるいは2区での出番が有力だが、いずれの区間を任されることになろうとも、各校のエース級たちと渡り合い、そこで勝ち切る準備はできている。
「できれば2区か5区で活躍したいですが、そこまで区間にはこだわらず、任された区間で全力を尽くして自分の走りをするだけ。強さを発揮できるならどの区間でもいいと思っています」
指揮官も「ここまで彼を中心にしっかり強化をしてきましたので、(本戦では)彼がキーマンとしてチームを引っ張っていってくれるんじゃないかと思っています」と期待を寄せている。
今やチームの誰からも厚い信頼を勝ち取り、絶対的エースとなった鈴木が、自身4度目となる最後の箱根でチームを2年ぶりのシード権獲得と「総合5位以上」という目標達成に導く。
◎すずき・きよと/1999年12月24日生まれ。茨城県出身。165cm、49kg。平沢中(茨城)→水城高→明大。5000m13分34秒91、10000m28分09秒24。
文/小野哲史
前半シーズンは自己新ラッシュ
12月10日、第98回箱根駅伝に臨む16人のチームエントリーを終えた後の記者発表で、明大の山本佑樹駅伝監督はきっぱりと言い放った。 「今年度のチームは4年生、鈴木聖人のチームだと思っています」 前回大会は上位を狙う目標を立てていたが、11位と振るわずシード落ち。その時点から、指揮官の頭の中には「キャプテン=鈴木」でチームビルディングの構想が固まっていた。 キャプテン就任後、初の実戦となった3月14日の日本学生ハーフマラソンで34位(1時間5分00秒)と惨敗。チームも全体的に今ひとつの結果に終わり、鈴木は「このままでは秋の箱根予選会もまずい」と危機感を募らせた。 しかし、そこからの活躍は目覚ましかった。 「3月下旬に練習の一環として出場した早大競技会で、1500m(3分50秒09)と3000m(8分08秒51)で自己ベストが出て良い感触を得ました。そこからは試合に出るたびに記録を更新できて、去年までにはなかったぐらい結果を残せたので、やってきたことがようやくかたちになったと感じました」 自身がそう振り返るように、4月から6月上旬にかけてはまさに自己新ラッシュだった。3000mは7分54秒19、5000mは13分34秒91、10000mは28分09秒24までタイムを縮め、その間、5月下旬の関東インカレ(2部)では10000mで4位(日本人2位)、5000mで5位(日本人3位)と2種目入賞を果たす。 6月下旬の日本選手権5000mでも、全体12位ながら13分45秒72で学生2番手に食い込んでいる。「駅伝シーズンが楽しみ」と思っていたのは、鈴木本人だけではなかったはずだ。駅伝主将としての責任感が成長の糧に
前回の箱根は5区を走って区間9位だった 鈴木には理想とするエース像がある。 「誰が見ても『強いな』と思われる選手です。常にどんな状況でもチームの流れを変えて、チームメイトからは『この人が走ってくれるなら大丈夫だ』と信頼され、安定感と強さを兼ね備えている。速さはもちろん必要ですが、タイムを持っているだけではダメで、例えば他大学の選手から『一緒に走るのか、嫌だな』と思われるような選手がエースだと思います」 鈴木にとっては、明大で2年先輩にあたる阿部弘輝(現・住友電工)がそうしたエース、しかも絶対的エースと呼べる存在だった。前々回の箱根駅伝で阿部は故障明けだったにもかかわらず、7区で区間新記録を打ち立て、5年ぶりにシード権を獲得する原動力となった。 昨年度の明大が、全日本大学駅伝で3位と躍進しながら箱根でシードを落とす結果に終わったのは、卒業した阿部のような「核となるエース」を育成できなかったことも要因の1つだった。 鈴木も「ポスト阿部」を担うエース候補に名乗りを上げたものの、当時は「エースは1人じゃなくてもいい。みんなで底上げできれば」と考えていたあたりに、真のエースとしての覚悟がまだ足りていなかったようにも見える。 大学最後のシーズンとなる今年度、キャプテンに指名されたことは、「自分が引っ張っていかないといけない」との思いをより強く持つという意味で大きかった。山本監督は「面倒見も良いし、基本的に性格も明るく、自然と周りがくっついてくるようなタイプ。おそらく本人は特別自分が引っ張ろうという気はない」と考えていたが、鈴木はキャプテンを任されたことで俄然、責任感が増した。 「行動で見せるというか、まずは走る姿を見せないとチームは良くならない。言葉だけでは無理かな、と。周りをしっかり見つつ、練習もチームの誰よりもやらないと認めてもらえないし、やっていない選手に言われても説得力はありません。まずは自分の力をつけるしかないと思っていました」 その心意気が前半シーズンの快進撃を生み、山本監督も「キャプテンをやったことで大人になった」と鈴木の成長を感じている。最後の箱根は「任された区間で全力を尽くすだけ」
ただ、同時に「やりすぎて怪我をしたり、少し欲張ったりするところはまだまだ」と指揮官は釘を刺す。夏以降は相次ぐ故障を強いられ、駅伝シーズンに入ってからは10月下旬の箱根予選会や11月7日の全日本大学駅伝を100%の状態で迎えられなかった。 特に全日本はレース5日前にアキレス腱を痛め、3日前には山本監督から一度はメンバーから外す意向を伝えられた。「鈴木がいなくてもシードを取れるぐらいじゃないと箱根でも戦えない」という指揮官の意図は理解できたが、「4年生の自分にとっては全日本も今年が最後。すぐに『わかりました』とは言えないほど絶対に走りたい気持ちでした」と、何とか待ってもらいたい本音をぶつけた。 その日の午後、山本監督から補欠に鈴木の名前が入った区間エントリーの発表とともに、こんなメッセージが届いたという。 「聖人の可能性をぎりぎりまで信じました」 鈴木が当日変更で走れるように、という指揮官の配慮でもあり、親心だった。 何とか間に合った全日本では負担の少ない6区に起用され、万全ではない状態の中、4人抜きでチームを3位に押し上げた。名門・明大のエースとして面目躍如の力走だった。 その後、11月24日のMARCH対抗戦10000mでは28分47秒54で走るなど、箱根を前に再び調子を上げてきた。 来年1月の箱根では前々回と前回に続く5区、あるいは2区での出番が有力だが、いずれの区間を任されることになろうとも、各校のエース級たちと渡り合い、そこで勝ち切る準備はできている。 「できれば2区か5区で活躍したいですが、そこまで区間にはこだわらず、任された区間で全力を尽くして自分の走りをするだけ。強さを発揮できるならどの区間でもいいと思っています」 指揮官も「ここまで彼を中心にしっかり強化をしてきましたので、(本戦では)彼がキーマンとしてチームを引っ張っていってくれるんじゃないかと思っています」と期待を寄せている。 今やチームの誰からも厚い信頼を勝ち取り、絶対的エースとなった鈴木が、自身4度目となる最後の箱根でチームを2年ぶりのシード権獲得と「総合5位以上」という目標達成に導く。 ◎すずき・きよと/1999年12月24日生まれ。茨城県出身。165cm、49kg。平沢中(茨城)→水城高→明大。5000m13分34秒91、10000m28分09秒24。 文/小野哲史
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