HOME バックナンバー
【誌面転載】ドーハから東京へ/ウォルシュ・ジュリアン(富士通)
【誌面転載】ドーハから東京へ/ウォルシュ・ジュリアン(富士通)

2020年への誓い
東京五輪は「人生で一番大きな、大事な大会」

母校・東洋大で2020年に向けたトレーニングを開始したウォルシュ・ジュリアン(富士通)

今季最終戦にして、もっとも重要な大会だったドーハ世界選手権。男子400mに出場したウォルシュ・ジュリアン(富士通)は、同大会の日本男子個人種目ではただ1人の自己新を予選(45秒14)、準決勝(45秒13)ともにマークした。世界のセミファイナルの壁は厚かったが、目指すべき〝ライン〟は確認できた。1991年に髙野進(東海大教)が作った日本記録は44秒78。少なくともその記録を破らなければ、いまだ同種目の日本勢で髙野しか到達したことのない「ファイナル」のスタートラインには立てない。日本ロングスプリントを背負う23歳の若きエースは、「自分を育ててくれた」日本で開かれる五輪に、すべてを懸ける。

●文/小川雅生
●撮影/樋口俊秀

不完全燃焼だったドーハ世界選手権

2019年シーズン最大のターゲットだったドーハ世界選手権から帰国したのが、10月7日の夜。それから約2週間のオフを経た10月22日、ウォルシュ・ジュリアン(富士通)は拠点とする母校・東洋大の川越キャンパスで、早くも冬季練習をスタートさせた。

冬季10日目にあった取材日では、「いい感じにリフレッシュできたし、心身ともにいいですよ」と笑顔がのぞくウォルシュ。一つひとつの練習に取り組む姿勢は実にアグレッシブだ。

大型のソフトメディシンボールを使ったウォーミングアップの後、室内トレーニング場へ。ウエイトトレーニングや補強、ジャンプトレーニングを織り交ぜたメニューを、動きや意識するポイントを入念に確認しつつ行う。同じドーハ世界選手権に出場した1学年先輩の桐生祥秀(日本生命)や男子走幅跳の津波響樹のほか短距離の宮本大輔ら学生も一緒だが、どのメニューも真っ先に取り組むのはウォルシュだった。

メディシンボールを使うなど土台となる基礎体力、ケガをしない強い身体を作ることをこの冬も継続

来年はいよいよ東京五輪イヤー。自然とモチベーションが上がるのは間違いないが、それだけではない。

「昨年の冬季から1年、どこもケガがなく終えられたのは初めてなんです。だから、今までとは比べものにならないぐらいスムーズに冬季に入ることができています。それが、今季で一番良かったことですね」

身体が動くことの充実感は、何物にも代えがたい。冬季練習に身が入るのも当然だろう。

ただ、心身ともに満足したシーズンだったかと言うと、そうではない。「ドーハ世界選手権の決勝進出と44秒台を狙っていたけど、それは達成できませんでした」とウォルシュ。「悔しさ」もまた、厳しいトレーニングに打ち込むためのエネルギーとなる。

ドーハ世界選手権男子400mの準決勝。5レーンに入り、バックストレートを突き進むウォルシュには迷いが生じていた。内側には世界歴代4位タイの43秒45を持つ優勝候補筆頭のマイケル・ノーマン(米国)、外側は43秒台(43秒94)を昨年マークしたアキーム・ブルームフィールド(ジャマイカ)がいる。ウォルシュは「ノーマンは絶対に(内側から)来ると思っていたけどそれほど気にせず、外側の選手にどれだけついて行けるか」に集中していた。

ドーハ世界選手権では予選(45秒14)、準決勝(45秒13)と自己新を連発したものの、決勝の舞台には届かなかった

しかし、いざ蓋を開けてみると、ノーマンがなかなか追いついて来ない。レース後、大会前のケガの影響で本調子ではなかったことがわかったが、レース中のウォルシュが知る由もなく、「なかなか追いついて来ないから『オレ、ちょっと速いんじゃね?』と思ってしまった」と言う。

一方で、ブルームフィールドとの差はじりじりと広がっていた。予選で日本歴代4位の45秒14をマークした時も、「自分では抑えているつもりはないけど、前半から行き切れなかった部分があった」。だから準決勝は積極的に突っ込んだはずだっただけに、「なんで?」という思いがよぎり、「追わないと」という焦りにつながった。予選のタイムを0.01秒短縮したものの、4着どまり。〝不完全燃焼〟のレースで目標には届かなかった。しかも、3着が44秒77のブルームフィールドで、プラス2番目で決勝に進出。ファイナルのボーダーラインは、まさに目の前の選手だった。

1991年に髙野進(東海大教)が樹立した日本記録が「44秒78」。つまり、「決勝に行くには日本新がマスト」(ウォルシュ)ということ。しかも、来年は世界のレベルがもっと上がることは明らかだ。それなら――。

「44秒中盤をコンスタントに出せる力をつける」

目指すべき位置が明確になった。すると、やるべきことも見えてきた。1走を務めた4×400mリレーでもラップは45秒4。ウォルシュは、「今の自分の力は45秒1。(400m予選から)2度修正できるレースがあっても、変わらなかった。今年はそこが限界」と自己分析する。では、世界との差はどこにあるのか。「100mや200mのスピードが全然違う。そこをやらないと世界とは戦えない」と見定めたウォルシュは、そのためのトレーニングに、まっすぐに打ち込む。

※この続きは2019年11月14日発売の『月刊陸上競技12月号』をご覧ください。

2020年への誓い 東京五輪は「人生で一番大きな、大事な大会」

母校・東洋大で2020年に向けたトレーニングを開始したウォルシュ・ジュリアン(富士通) 今季最終戦にして、もっとも重要な大会だったドーハ世界選手権。男子400mに出場したウォルシュ・ジュリアン(富士通)は、同大会の日本男子個人種目ではただ1人の自己新を予選(45秒14)、準決勝(45秒13)ともにマークした。世界のセミファイナルの壁は厚かったが、目指すべき〝ライン〟は確認できた。1991年に髙野進(東海大教)が作った日本記録は44秒78。少なくともその記録を破らなければ、いまだ同種目の日本勢で髙野しか到達したことのない「ファイナル」のスタートラインには立てない。日本ロングスプリントを背負う23歳の若きエースは、「自分を育ててくれた」日本で開かれる五輪に、すべてを懸ける。 ●文/小川雅生 ●撮影/樋口俊秀

不完全燃焼だったドーハ世界選手権

2019年シーズン最大のターゲットだったドーハ世界選手権から帰国したのが、10月7日の夜。それから約2週間のオフを経た10月22日、ウォルシュ・ジュリアン(富士通)は拠点とする母校・東洋大の川越キャンパスで、早くも冬季練習をスタートさせた。 冬季10日目にあった取材日では、「いい感じにリフレッシュできたし、心身ともにいいですよ」と笑顔がのぞくウォルシュ。一つひとつの練習に取り組む姿勢は実にアグレッシブだ。 大型のソフトメディシンボールを使ったウォーミングアップの後、室内トレーニング場へ。ウエイトトレーニングや補強、ジャンプトレーニングを織り交ぜたメニューを、動きや意識するポイントを入念に確認しつつ行う。同じドーハ世界選手権に出場した1学年先輩の桐生祥秀(日本生命)や男子走幅跳の津波響樹のほか短距離の宮本大輔ら学生も一緒だが、どのメニューも真っ先に取り組むのはウォルシュだった。 メディシンボールを使うなど土台となる基礎体力、ケガをしない強い身体を作ることをこの冬も継続 来年はいよいよ東京五輪イヤー。自然とモチベーションが上がるのは間違いないが、それだけではない。 「昨年の冬季から1年、どこもケガがなく終えられたのは初めてなんです。だから、今までとは比べものにならないぐらいスムーズに冬季に入ることができています。それが、今季で一番良かったことですね」 身体が動くことの充実感は、何物にも代えがたい。冬季練習に身が入るのも当然だろう。 ただ、心身ともに満足したシーズンだったかと言うと、そうではない。「ドーハ世界選手権の決勝進出と44秒台を狙っていたけど、それは達成できませんでした」とウォルシュ。「悔しさ」もまた、厳しいトレーニングに打ち込むためのエネルギーとなる。 ドーハ世界選手権男子400mの準決勝。5レーンに入り、バックストレートを突き進むウォルシュには迷いが生じていた。内側には世界歴代4位タイの43秒45を持つ優勝候補筆頭のマイケル・ノーマン(米国)、外側は43秒台(43秒94)を昨年マークしたアキーム・ブルームフィールド(ジャマイカ)がいる。ウォルシュは「ノーマンは絶対に(内側から)来ると思っていたけどそれほど気にせず、外側の選手にどれだけついて行けるか」に集中していた。 ドーハ世界選手権では予選(45秒14)、準決勝(45秒13)と自己新を連発したものの、決勝の舞台には届かなかった しかし、いざ蓋を開けてみると、ノーマンがなかなか追いついて来ない。レース後、大会前のケガの影響で本調子ではなかったことがわかったが、レース中のウォルシュが知る由もなく、「なかなか追いついて来ないから『オレ、ちょっと速いんじゃね?』と思ってしまった」と言う。 一方で、ブルームフィールドとの差はじりじりと広がっていた。予選で日本歴代4位の45秒14をマークした時も、「自分では抑えているつもりはないけど、前半から行き切れなかった部分があった」。だから準決勝は積極的に突っ込んだはずだっただけに、「なんで?」という思いがよぎり、「追わないと」という焦りにつながった。予選のタイムを0.01秒短縮したものの、4着どまり。〝不完全燃焼〟のレースで目標には届かなかった。しかも、3着が44秒77のブルームフィールドで、プラス2番目で決勝に進出。ファイナルのボーダーラインは、まさに目の前の選手だった。 1991年に髙野進(東海大教)が樹立した日本記録が「44秒78」。つまり、「決勝に行くには日本新がマスト」(ウォルシュ)ということ。しかも、来年は世界のレベルがもっと上がることは明らかだ。それなら――。 「44秒中盤をコンスタントに出せる力をつける」 目指すべき位置が明確になった。すると、やるべきことも見えてきた。1走を務めた4×400mリレーでもラップは45秒4。ウォルシュは、「今の自分の力は45秒1。(400m予選から)2度修正できるレースがあっても、変わらなかった。今年はそこが限界」と自己分析する。では、世界との差はどこにあるのか。「100mや200mのスピードが全然違う。そこをやらないと世界とは戦えない」と見定めたウォルシュは、そのためのトレーニングに、まっすぐに打ち込む。 ※この続きは2019年11月14日発売の『月刊陸上競技12月号』をご覧ください。

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2024.11.22

田中希実が来季『グランドスラム・トラック』参戦決定!マイケル・ジョンソン氏が新設

来春、開幕する陸上リーグ「グランドスラム・トラック」の“レーサー”として、女子中長距離の田中希実(New Balance)が契約したと発表された。 同大会は1990年代から2000年代に男子短距離で活躍したマイケル・ジョ […]

NEWS 早大競走部駅伝部門が麹を活用した食品・飲料を手がける「MURO」とスポンサー契約締結

2024.11.21

早大競走部駅伝部門が麹を活用した食品・飲料を手がける「MURO」とスポンサー契約締結

11月21日、株式会社コラゾンは同社が展開する麹専門ブランド「MURO」を通じて、早大競走部駅伝部とスポンサー契約を結んだことを発表した。 コラゾン社は「MURO」の商品である「KOJI DRINK A」および「KOJI […]

NEWS 立迫志穂が調整不良のため欠場/防府読売マラソン

2024.11.21

立迫志穂が調整不良のため欠場/防府読売マラソン

第55回防府読売マラソン大会事務局は、女子招待選手の立迫志穂(天満屋)が欠場すると発表した。調整不良のためとしている。 立迫は今年2月の全日本実業団ハーフマラソンで1時間11分16秒の11位。7月には5000m(15分3 […]

NEWS M&Aベストパートナーズに中大・山平怜生、城西大・栗原直央、國學院大・板垣俊佑が内定!神野「チーム一丸」

2024.11.20

M&Aベストパートナーズに中大・山平怜生、城西大・栗原直央、國學院大・板垣俊佑が内定!神野「チーム一丸」

神野大地が選手兼監督を務めるM&Aベストパートナーズが来春入社選手として、中大・山平怜生、國學院大・板垣俊佑、城西大・栗原直央の3人が内定した。神野が自身のSNSで内定式の様子を伝えている。 山平は宮城・仙台育英 […]

NEWS 第101回(2025年)箱根駅伝 出場チーム選手名鑑

2024.11.20

第101回(2025年)箱根駅伝 出場チーム選手名鑑

・候補選手は各チームが選出 ・情報は11月20日時点、チーム提供および編集部把握の公認記録を掲載 ・選手名の一部漢字で対応外のものは新字で掲載しています ・過去箱根駅伝成績で関東学生連合での出場選手は相当順位を掲載 ・一 […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2024年12月号 (11月14日発売)

2024年12月号 (11月14日発売)

全日本大学駅伝
第101回箱根駅伝予選会
高校駅伝都道府県大会ハイライト
全日本35㎞競歩高畠大会
佐賀国民スポーツ大会

page top