2021.10.14
「現役ラストラン」を宣言した東京五輪の男子マラソンで6位入賞。常に最短距離でターゲットを追いかけてきた大迫傑の挑戦が幕を閉じた。トラック、駅伝、そしてマラソン。すべてのステージで輝きを放ち、日本長距離界にイノベーションを巻き起こしてきた。強烈な記憶だけでなく、記録も刻んだ稀代のランナーは、9月28日にオンラインでメディア合同の〝現役ラストインタビュー〟に応じた。華麗なる自身のキャリアを振り返り、新たな夢についても語った。
構成/酒井政人
早すぎる「引退」とその理由
東京五輪の最終日を飾る男子マラソン。札幌で行われたレースは過酷なものになった。その中で大迫傑が感動の〝ラストラン〟を見せた。中間点を過ぎてエリウド・キプチョゲ(ケニア)が抜け出したあと、一時は8~9番手に振り落とされたが、終盤に順位を上げていく。メダルを目指し続けたその激走は、日本人の心を揺さぶった。2時間10分41秒の6位でフィニッシュ。2021年8月8日、大迫はシューズを脱いだ。
「東京五輪が終わりましたが、自分が現役を引退したという実感がまだないのが正直なところです。マラソンが終わった後はいつも1ヵ月くらい休暇をとっていましたし、その間はキッズ(Sugar Elite Kids)のプロジェクトをやらせていただいたので、過去を振り返る暇がありませんでした。でも、東京五輪は本当に出し切れたレースになりました。今の段階では完全燃焼できたと思っています。
周囲から『引退が早すぎるのでは?』という声も聞こえてくるんですけど、追求し続けているとキリがないですし、一つの物語の終わりを作るのは大切です。今、終わりと言いましたが、自分ががんばってきたことの延長線上でやりたいことも出てきた。今後はそっちに注力していくのもいいかなと思っています。
東京五輪は自分の中でも大きな目標だったので、そこに向けて全力を尽くしたかった。言い訳が作れてしまう環境を捨てて、オールダイブする。それが自分にとってカッコいいなと思ったのがひとつです。プラスして米国やケニアに行き、現地でいろいろな方に会ったりするなかで陸上競技のフィールドを通して新しい興味も出てきました。いろいろなことを考えた時に、今辞めるのが自分にとってキレイなんじゃないかなと思ったんです。
引退については1年半くらい前から考えていました。最終的に決めたのは、レースの3~4週間くらい前。2020年3月の東京マラソンで代表に内定しました。その時は、あと半年で最後にしようと思っていたんですけど、ほどなくして東京五輪の1年延期が決定。現役生活が1年延びることについては正直、葛藤もありました。でも、世の中に元気がなくなっているというか、ネガティブな雰囲気になっていたので、ポジティブなことを体現したいと思ったんです。昨年の5~6月くらいからは、自分自身のラストを飾るだけでなく、世の中に向けてメッセージを残すというモチベーションで再スタートしたかたちです」
チャレンジの連続でつかんだ栄光
東京・金井中では全中3000mで3位、長野・佐久長聖高では駅伝でその名を馳せた。10000mで世界ジュニア選手権8位(大1/ 2010年)、ユニバーシアード金メダル(大2/ 11年)、モスクワ世界選手権出場(大4/ 13年)と世界へと踏み出した早大を卒業した後、大迫は渡米した。そして、12年ロンドン五輪10000mで1位、2位のモハメド・ファラー(英国)とゲーレン・ラップ(米国)ら世界トップ選手が所属していた『オレゴン・プロジェクト』にアジア人として初めて加入する。15年に5000mで13分08秒40の日本記録を樹立すると、16年の日本選手権で長距離2冠を獲得。同年のリオ五輪では5000mと10000mに出場した。その後はマラソンに参戦。全9戦で最高は3位だったが、日本記録を2度更新するなどすべてのレースで存在感を発揮した。
「これまで多くの挑戦をしてきましたが、競技人生においては米国に行ったことがターニングポイントになったと思います。ナイキの方々にサポートをしていただきながらでしたけど、あの一歩を踏み出せたことで、世界が大きく変わりました。それまで見えていなかったものが急に見え始めたような気がしています。もちろん大変ではあったんですけど、それ以上に『これをやってみたらどうなんだろう』というワクワクのほうが勝るようになりました。それが新たな出会いや刺激につながり、アウトプットできるような仲間にも恵まれた。いい循環が起きたのは米国に行ってからです。米国じゃなくてもよかったとは思うんですけど、日本を離れて、自分の世界を一歩踏み出せたという感触がありました。
この続きは2021年10月14日発売の『月刊陸上競技11月号』をご覧ください。
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早すぎる「引退」とその理由
東京五輪の最終日を飾る男子マラソン。札幌で行われたレースは過酷なものになった。その中で大迫傑が感動の〝ラストラン〟を見せた。中間点を過ぎてエリウド・キプチョゲ(ケニア)が抜け出したあと、一時は8~9番手に振り落とされたが、終盤に順位を上げていく。メダルを目指し続けたその激走は、日本人の心を揺さぶった。2時間10分41秒の6位でフィニッシュ。2021年8月8日、大迫はシューズを脱いだ。 「東京五輪が終わりましたが、自分が現役を引退したという実感がまだないのが正直なところです。マラソンが終わった後はいつも1ヵ月くらい休暇をとっていましたし、その間はキッズ(Sugar Elite Kids)のプロジェクトをやらせていただいたので、過去を振り返る暇がありませんでした。でも、東京五輪は本当に出し切れたレースになりました。今の段階では完全燃焼できたと思っています。 周囲から『引退が早すぎるのでは?』という声も聞こえてくるんですけど、追求し続けているとキリがないですし、一つの物語の終わりを作るのは大切です。今、終わりと言いましたが、自分ががんばってきたことの延長線上でやりたいことも出てきた。今後はそっちに注力していくのもいいかなと思っています。 東京五輪は自分の中でも大きな目標だったので、そこに向けて全力を尽くしたかった。言い訳が作れてしまう環境を捨てて、オールダイブする。それが自分にとってカッコいいなと思ったのがひとつです。プラスして米国やケニアに行き、現地でいろいろな方に会ったりするなかで陸上競技のフィールドを通して新しい興味も出てきました。いろいろなことを考えた時に、今辞めるのが自分にとってキレイなんじゃないかなと思ったんです。 引退については1年半くらい前から考えていました。最終的に決めたのは、レースの3~4週間くらい前。2020年3月の東京マラソンで代表に内定しました。その時は、あと半年で最後にしようと思っていたんですけど、ほどなくして東京五輪の1年延期が決定。現役生活が1年延びることについては正直、葛藤もありました。でも、世の中に元気がなくなっているというか、ネガティブな雰囲気になっていたので、ポジティブなことを体現したいと思ったんです。昨年の5~6月くらいからは、自分自身のラストを飾るだけでなく、世の中に向けてメッセージを残すというモチベーションで再スタートしたかたちです」チャレンジの連続でつかんだ栄光
東京・金井中では全中3000mで3位、長野・佐久長聖高では駅伝でその名を馳せた。10000mで世界ジュニア選手権8位(大1/ 2010年)、ユニバーシアード金メダル(大2/ 11年)、モスクワ世界選手権出場(大4/ 13年)と世界へと踏み出した早大を卒業した後、大迫は渡米した。そして、12年ロンドン五輪10000mで1位、2位のモハメド・ファラー(英国)とゲーレン・ラップ(米国)ら世界トップ選手が所属していた『オレゴン・プロジェクト』にアジア人として初めて加入する。15年に5000mで13分08秒40の日本記録を樹立すると、16年の日本選手権で長距離2冠を獲得。同年のリオ五輪では5000mと10000mに出場した。その後はマラソンに参戦。全9戦で最高は3位だったが、日本記録を2度更新するなどすべてのレースで存在感を発揮した。 「これまで多くの挑戦をしてきましたが、競技人生においては米国に行ったことがターニングポイントになったと思います。ナイキの方々にサポートをしていただきながらでしたけど、あの一歩を踏み出せたことで、世界が大きく変わりました。それまで見えていなかったものが急に見え始めたような気がしています。もちろん大変ではあったんですけど、それ以上に『これをやってみたらどうなんだろう』というワクワクのほうが勝るようになりました。それが新たな出会いや刺激につながり、アウトプットできるような仲間にも恵まれた。いい循環が起きたのは米国に行ってからです。米国じゃなくてもよかったとは思うんですけど、日本を離れて、自分の世界を一歩踏み出せたという感触がありました。 この続きは2021年10月14日発売の『月刊陸上競技11月号』をご覧ください。
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