2019.09.24
【Web特別記事】
日本インカレSide Story④
女子400m岩田2年ぶりV
〝中大史上最強〟が残した足跡
9月12日から15日にかけて岐阜・メモリアルセンター長良川競技場で行われた日本インカレ。大会報道は月刊陸上11月号に掲載予定だが、Webでは誌面で紹介しきれないサイドストーリーをいくつかお届けする。
2年ぶりの頂点
2016年春。中大女子陸上部に入部したのは錚々たる顔ぶれだった。
女子400mでインターハイ2位、日本ジュニア選手権優勝の岩田優奈(群馬・新島学園高)、女子400mハードルで高校2年時に高校3冠を果たした荒島夕理(岡山・倉敷中央高)、400m・400mハードル・800mをこなすマルチランナー出水楓(京都文教高)、神奈川・相洋高でインターハイ4継優勝経験のある大石沙南、400mハードルと七種競技でインターハイ出場の山田夏葵(埼玉・本庄東高)らがそろった。
「〝中大史上最強〟。4年生の日本インカレはマイルで優勝して、総合優勝しよう」
当時の高橋賢作監督はそう声をかけ、集められた選手たちは心強い同期たちの存在に胸を躍らせて入学。見ている側も「どんなチームになるんだろう」と期待が膨らんだ。
「私はみんなが入ることを知っていました」。岩田にとっては、同期の存在は進路を決める上で1つの大きな要因でもあった。
月日はあっという間に流れた。
監督も変わった。年齢も変わったし、それぞれ違った種目にも挑戦した。
岐阜での最後のインカレ。短距離でトラックに立った4年生は岩田ただ一人だった。
「何がなんでも勝ちたかった。53秒台が出なかったのは悔しいですが、2年前より1秒速く走れたので、それは良かったかな」
女子400mを54秒31で制し、2年ぶりの日本インカレのタイトルを手にした岩田。悔しさもありながら、中大で過ごした4年間を振り返ると充実感も漂っていた。
岩田の存在感は圧倒的だった。関東インカレは1、2年時と連覇。2年時は日本インカレ優勝。3年以降は広沢真愛(日体大)らの成長もあってタイトルになかなか届かず悔しい日々を過ごしたが、日本代表のマイルメンバーの常連になり、小さな故障はありながらも戦線離脱することなく4年間戦い抜いた。
高橋前監督には何度も意見をぶつけるほど〝自分〟を強く持ち、いつもストイックに競技に取り組む姿勢は、同期や後輩たちの見本だった。
もちろん、高橋前監督のトレーニングは「強くなれる練習だった」と振り返る。その培った土台に、現在の中村哲郎監督のもと、さらにスピードを磨いてきた。
今季は女子マイルで世界選手権の出場を目指して世界リレーや富士北麓ワールドトライアルに出場。惜しくも届かなかったが、最後まで挑戦し続けた。

中大女子陸上部の4年生たち。短距離陣に、混成の山田、長距離の五島莉乃、木下友莉菜、投てきの阿久津実夏、マネジャーの中村彩を加えてインカレ後に記念撮影(写真提供/中大女子陸上部)
苦難の連続だった4年間
一方、その他の4年生たちは苦しんだ。
練習環境の変化、適正種目への悩み、相次ぐケガ、自ら厳しく課した食事制限、それによるストレス、体型の変化……。さまざまな苦難が襲いかかった。
最終学年を前に指導体制も変更。間違いなく戸惑いはあった。
出水は400mハードルへのこだわりを持ち続け、800mになかなか踏み切れず、「日本インカレのメンバー決定後に調子が上がってきたんです」と悔やんだ。大石は最後の最後にケガでインカレのリレーメンバーに加わることができなかった。
おそらく、最も天国と地獄を味わったのが荒島だろう。
中学時代から世代トップを走り続けた荒島は、リレーで全中も制し、高2シーズンは400mハードルで無敵を誇った。
「チームとして戦って、総合優勝を目指したい」
そんな理由で中大へ進学。常に自分のことよりもチームのことを優先し、仲間たちと一緒になって戦うのが大好きな選手だ。
「高校時代は言われた通りに練習していれば結果が出せました。森定(照広)先生は〝自立〟するように指導してくださっていたのに、頼り切ってしまっていたと思います。どうしても昔の自分と比べたり、感覚を思い出そうとしたりしてしまったんです」
跳ねるような伸びやかな走りは陰をひそめ、関東インカレ、日本インカレともに、1度も決勝の舞台に立つことはなかった。
最後の年は主将を務め、800mにも挑戦したが、「最後は400mハードルで」と決意。しかし、調子を上げた矢先に脚を痛め、参加標準突破を狙うレースに出場することができなかった。
「荒島じゃなかったら乗り越えられなかった。一番がんばってくれたんです」
出水が言うように、主将の決して小さくない役割を誰もが理解している。ネガティブになることなく、自分が厳しい立場にいようとも、常に笑顔で仲間を励まし続けた。指導体制の変更も、荒島や副将の大石らを中心に軌道に乗せた。
「中大だからがんばれましたし、中大として結果が出したいと思って走りました」(岩田)
4年生の想いを感じながら駆け抜けたトラック1周。歓喜の後、顔をくしゃくしゃにして喜ぶ同期たちに迎え入れられた。
世界選手権を目指した日本代表候補の中で、岩田はただ1人ドーハ世界選手権の混合マイルの代表から外れた。「シーズン通して結果を出していたのが他の3人なので仕方ありません」。岩田らしく、前を向いた。
大石は教員を目指し、出水と荒島は一般企業に就職し競技から退く。荒島は最後の舞台として、インターハイを制した思い出の地・甲府で300mハードルに挑戦する予定。4年生の短距離陣で競技を継続するのは岩田だけ。
〝最強世代〟で組むリレーは4年間で1度も実現せず、幻に終わった。
「これからは優奈が活躍するニュースを読むのを楽しみにしています」(出水)
想いは仲間へ、そして後輩たちへと確かに託された。
常に「個」よりも「仲間」を優先し続けた〝中大史上最強〟。その4年間は険しく、厳しい道のりだった。だが、目に見える「結果」こそ小さくとも、彼女たちが名門陸上部に残した足跡は計り知れない。その本当の価値がわかるのは、ずっとずっと先のこと。
文/向永拓史

2年ぶりの頂点
2016年春。中大女子陸上部に入部したのは錚々たる顔ぶれだった。 女子400mでインターハイ2位、日本ジュニア選手権優勝の岩田優奈(群馬・新島学園高)、女子400mハードルで高校2年時に高校3冠を果たした荒島夕理(岡山・倉敷中央高)、400m・400mハードル・800mをこなすマルチランナー出水楓(京都文教高)、神奈川・相洋高でインターハイ4継優勝経験のある大石沙南、400mハードルと七種競技でインターハイ出場の山田夏葵(埼玉・本庄東高)らがそろった。 「〝中大史上最強〟。4年生の日本インカレはマイルで優勝して、総合優勝しよう」 当時の高橋賢作監督はそう声をかけ、集められた選手たちは心強い同期たちの存在に胸を躍らせて入学。見ている側も「どんなチームになるんだろう」と期待が膨らんだ。 「私はみんなが入ることを知っていました」。岩田にとっては、同期の存在は進路を決める上で1つの大きな要因でもあった。 月日はあっという間に流れた。 監督も変わった。年齢も変わったし、それぞれ違った種目にも挑戦した。 岐阜での最後のインカレ。短距離でトラックに立った4年生は岩田ただ一人だった。 「何がなんでも勝ちたかった。53秒台が出なかったのは悔しいですが、2年前より1秒速く走れたので、それは良かったかな」 女子400mを54秒31で制し、2年ぶりの日本インカレのタイトルを手にした岩田。悔しさもありながら、中大で過ごした4年間を振り返ると充実感も漂っていた。 岩田の存在感は圧倒的だった。関東インカレは1、2年時と連覇。2年時は日本インカレ優勝。3年以降は広沢真愛(日体大)らの成長もあってタイトルになかなか届かず悔しい日々を過ごしたが、日本代表のマイルメンバーの常連になり、小さな故障はありながらも戦線離脱することなく4年間戦い抜いた。 高橋前監督には何度も意見をぶつけるほど〝自分〟を強く持ち、いつもストイックに競技に取り組む姿勢は、同期や後輩たちの見本だった。 もちろん、高橋前監督のトレーニングは「強くなれる練習だった」と振り返る。その培った土台に、現在の中村哲郎監督のもと、さらにスピードを磨いてきた。 今季は女子マイルで世界選手権の出場を目指して世界リレーや富士北麓ワールドトライアルに出場。惜しくも届かなかったが、最後まで挑戦し続けた。 [caption id="attachment_4569" align="aligncenter" width="300"]
苦難の連続だった4年間
一方、その他の4年生たちは苦しんだ。 練習環境の変化、適正種目への悩み、相次ぐケガ、自ら厳しく課した食事制限、それによるストレス、体型の変化……。さまざまな苦難が襲いかかった。 最終学年を前に指導体制も変更。間違いなく戸惑いはあった。 出水は400mハードルへのこだわりを持ち続け、800mになかなか踏み切れず、「日本インカレのメンバー決定後に調子が上がってきたんです」と悔やんだ。大石は最後の最後にケガでインカレのリレーメンバーに加わることができなかった。 おそらく、最も天国と地獄を味わったのが荒島だろう。 中学時代から世代トップを走り続けた荒島は、リレーで全中も制し、高2シーズンは400mハードルで無敵を誇った。 「チームとして戦って、総合優勝を目指したい」 そんな理由で中大へ進学。常に自分のことよりもチームのことを優先し、仲間たちと一緒になって戦うのが大好きな選手だ。 「高校時代は言われた通りに練習していれば結果が出せました。森定(照広)先生は〝自立〟するように指導してくださっていたのに、頼り切ってしまっていたと思います。どうしても昔の自分と比べたり、感覚を思い出そうとしたりしてしまったんです」 跳ねるような伸びやかな走りは陰をひそめ、関東インカレ、日本インカレともに、1度も決勝の舞台に立つことはなかった。 最後の年は主将を務め、800mにも挑戦したが、「最後は400mハードルで」と決意。しかし、調子を上げた矢先に脚を痛め、参加標準突破を狙うレースに出場することができなかった。 [caption id="attachment_4568" align="aligncenter" width="300"]
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