HOME 特集

2019.09.19

日本インカレSide Story②戦い抜いた順大のKING 田上駿、4年目の戦い
日本インカレSide Story②戦い抜いた順大のKING 田上駿、4年目の戦い

順大は9年ぶりに総合優勝を果たした

【Web特別記事】
日本インカレSide Story②
戦い抜いた順大のKING
田上駿、4年目の戦い

 9月12日から15日にかけて岐阜・メモリアルセンター長良川競技場で行われた日本インカレ。大会報道は月刊陸上11月号に掲載予定だが、Webでは誌面で紹介しきれないサイドストーリーをいくつかお届けする。

兵庫の先輩・潮崎傑に駆け寄る田上。常にライバルや仲間のことを称え、感謝することを忘れない

台風、停電、そして転倒

 4年生としてインカレに臨んだ田上駿(順大)。男子総合優勝を目指す上で、副将を務める田上の十種競技での加点は大きな役割を担っていた。

 大会直前、関東地方を襲った台風15号の影響で、自宅は停電。酒々井周辺の平野部は浸水し、一時は身動きが取れない状況に陥った。

 それでも、田上は初日を終えてトップからほとんど差のない3位。2年ぶりの優勝に向けて射程圏内だった。

広告の下にコンテンツが続きます

 2日目、得意の110mハードルでアクシデントが起こる。スタートからグングン加速していくが、4台目――脚をかけて転倒してしまう。起き上がり、再び走り始める。22秒39(+0.3)。その時点で優勝も、表彰台も、得点の入る8位以内の可能性も、ほぼ消滅したといえる。

 頭を抱え、呆然として崩れ落ちた。

 その数十分後、田上は円盤投のサークルにいた。

 転倒で肩を痛めた影響で棒高跳は試技をせず記録なしで終えたが、最後の1500mでは、1組でトップ。〝これぞ田上〟という激走を見せた。

「情けない十種競技をしてしまいました。7月に膝を痛めた影響で跳躍の練習はできていませんでした。まずまずできていましたが、ハードルでやらかしてしまって……」

 辞める、という選択肢はなかったのだろうか。

「それもありましたが、4年生ということもあって、やれるところまでやろうって。それが4年生として示しというか。1500mで魅せてやると思って走りました。同期と戦うのも最後だったんで」

 その姿に、順大の後輩たちは目を真っ赤にして駆けつけた。

田上は十種競技の110mHで転倒してしまい崩れ落ちた

姿勢で恩返し

 今をときめく京都・洛南高出身。八種競技では、2、3年とインターハイを連覇すると、6093点の高校記録(当時)も樹立した。

 順風満帆に見えたが、十種競技への移行はそう簡単ではなかった。

 特に棒高跳では苦労し、ポールを折るなどしてからトラウマとなり、記録なしが続いた。

 それでも、アメリカ合宿などを経て2年時には関東インカレと日本インカレ優勝。潮崎傑(現・日大院)、奥田啓祐(現・第一学院高)、丸山優真(日大)らと競り合いながら一歩ずつ歩を進め「記録面だけじゃなく、精神的にすごく成長できました」と言う。

 岐阜での1500mの直後。脚を痛めた原口凜(国士舘大)に肩を貸し、2組目がスタートするやいなや、トラックのギリギリまで出てライバルであり仲間たちに声援を送った。

 なぜ、これほどまでに強い精神力を示すことができるのか。

「なんででしょうか……。僕自身、周りに支えられてばっかりで、それで成長できたからですかね。声をかけたり、応援したり、そうやって姿勢で見せるのが恩返しだと思っているので。僕だけじゃなくみんながんばっているからできることなんです」

順大は9年ぶりに総合優勝を果たした

 2年ぶりに「王座」に就くことはできなかったが、順大は9年ぶりに男子総合優勝を飾った。得点というかたちではなかったが、その姿勢がチームに与えた影響は計り知れない。

「これで終わりじゃなく、まだ競技は続けていくんで」

 故障で戦線離脱している丸山に向かって、田上は「早く治して一緒に戦おうや」と声をかけた。

文/向永拓史

【Web特別記事】 日本インカレSide Story② 戦い抜いた順大のKING 田上駿、4年目の戦い  9月12日から15日にかけて岐阜・メモリアルセンター長良川競技場で行われた日本インカレ。大会報道は月刊陸上11月号に掲載予定だが、Webでは誌面で紹介しきれないサイドストーリーをいくつかお届けする。 [caption id="attachment_4546" align="aligncenter" width="200"] 兵庫の先輩・潮崎傑に駆け寄る田上。常にライバルや仲間のことを称え、感謝することを忘れない[/caption]

台風、停電、そして転倒

 4年生としてインカレに臨んだ田上駿(順大)。男子総合優勝を目指す上で、副将を務める田上の十種競技での加点は大きな役割を担っていた。  大会直前、関東地方を襲った台風15号の影響で、自宅は停電。酒々井周辺の平野部は浸水し、一時は身動きが取れない状況に陥った。  それでも、田上は初日を終えてトップからほとんど差のない3位。2年ぶりの優勝に向けて射程圏内だった。  2日目、得意の110mハードルでアクシデントが起こる。スタートからグングン加速していくが、4台目――脚をかけて転倒してしまう。起き上がり、再び走り始める。22秒39(+0.3)。その時点で優勝も、表彰台も、得点の入る8位以内の可能性も、ほぼ消滅したといえる。  頭を抱え、呆然として崩れ落ちた。  その数十分後、田上は円盤投のサークルにいた。  転倒で肩を痛めた影響で棒高跳は試技をせず記録なしで終えたが、最後の1500mでは、1組でトップ。〝これぞ田上〟という激走を見せた。 「情けない十種競技をしてしまいました。7月に膝を痛めた影響で跳躍の練習はできていませんでした。まずまずできていましたが、ハードルでやらかしてしまって……」  辞める、という選択肢はなかったのだろうか。 「それもありましたが、4年生ということもあって、やれるところまでやろうって。それが4年生として示しというか。1500mで魅せてやると思って走りました。同期と戦うのも最後だったんで」  その姿に、順大の後輩たちは目を真っ赤にして駆けつけた。 [caption id="attachment_4544" align="aligncenter" width="200"] 田上は十種競技の110mHで転倒してしまい崩れ落ちた[/caption]

姿勢で恩返し

 今をときめく京都・洛南高出身。八種競技では、2、3年とインターハイを連覇すると、6093点の高校記録(当時)も樹立した。  順風満帆に見えたが、十種競技への移行はそう簡単ではなかった。  特に棒高跳では苦労し、ポールを折るなどしてからトラウマとなり、記録なしが続いた。  それでも、アメリカ合宿などを経て2年時には関東インカレと日本インカレ優勝。潮崎傑(現・日大院)、奥田啓祐(現・第一学院高)、丸山優真(日大)らと競り合いながら一歩ずつ歩を進め「記録面だけじゃなく、精神的にすごく成長できました」と言う。  岐阜での1500mの直後。脚を痛めた原口凜(国士舘大)に肩を貸し、2組目がスタートするやいなや、トラックのギリギリまで出てライバルであり仲間たちに声援を送った。  なぜ、これほどまでに強い精神力を示すことができるのか。 「なんででしょうか……。僕自身、周りに支えられてばっかりで、それで成長できたからですかね。声をかけたり、応援したり、そうやって姿勢で見せるのが恩返しだと思っているので。僕だけじゃなくみんながんばっているからできることなんです」 [caption id="attachment_4543" align="aligncenter" width="300"] 順大は9年ぶりに総合優勝を果たした[/caption]  2年ぶりに「王座」に就くことはできなかったが、順大は9年ぶりに男子総合優勝を飾った。得点というかたちではなかったが、その姿勢がチームに与えた影響は計り知れない。 「これで終わりじゃなく、まだ競技は続けていくんで」  故障で戦線離脱している丸山に向かって、田上は「早く治して一緒に戦おうや」と声をかけた。 文/向永拓史

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.04.22

駒大・大八木総監督の「Ggoat」が新チーム設立! 駒大OB中心に個人レースや駅伝出場へ 中高生の指導も開始

駒大総監督の大八木弘明氏が選手とともに世界を目指すアスリートプロジェクト「Ggoat Project」は4月21日、新たなチーム「Ggoat Running Team」を設立したと発表した。2月から活動を始めている。 新 […]

NEWS フランス発のランニング専門ブランド「KIPRUN」 いよいよ日本でも本格展開

2025.04.22

フランス発のランニング専門ブランド「KIPRUN」 いよいよ日本でも本格展開

フランス発のランニング専門ブランド「KIPRUN」。2018年にその歴史が始まったが、瞬く間に世界中の話題を席巻した。2025年1月には千葉・幕張にもオフィシャルショップがオープンし、徐々に日本国内でもその名が知られるよ […]

NEWS 劇場長編アニメーション『ひゃくえむ。』 主演は松坂桃李さん&染谷将太さんに決定! 東京世界陸上開催中の9月19日から公開

2025.04.22

劇場長編アニメーション『ひゃくえむ。』 主演は松坂桃李さん&染谷将太さんに決定! 東京世界陸上開催中の9月19日から公開

人気漫画「チ。―地球の運動について―」で手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞するなど、注目を集める漫画家の魚豊さんの連載デビュー作「ひゃくえむ。」。その劇場版アニメの9月19日に公開されることが決まった。 また、物語に登場する […]

NEWS コリルが2時間4分45秒でメジャーマラソン連勝!女子はロケディが2時間17分22秒の大会新V/ボストンマラソン

2025.04.22

コリルが2時間4分45秒でメジャーマラソン連勝!女子はロケディが2時間17分22秒の大会新V/ボストンマラソン

第129回ボストン・マラソンは4月21日に米国の当地で行われ、男子はジョン・コリル(ケニア)が大会歴代3位の2時間4分45秒で優勝した。女子でシャロン・ロケディ(ケニア)が2時間17分22秒の大会新で制した。 最初の5k […]

NEWS Onが三浦龍司をアスリート契約締結「新しい競技人生のスタート」本職初戦で世界陸上「内定決めたい」

2025.04.22

Onが三浦龍司をアスリート契約締結「新しい競技人生のスタート」本職初戦で世界陸上「内定決めたい」

スイスのスポーツブランド「On(オン)」は4月22日、男子3000m障害で五輪2大会連続入賞の三浦龍司(SUBARU)とアスリート契約締結を発表した。同日、国立競技場で会見を開いた。 勢いに乗るスポーツメーカーと日本のエ […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年4月号 (3月14日発売)

2025年4月号 (3月14日発売)

東京世界選手権シーズン開幕特集
Re:Tokyo25―東京世界陸上への道―
北口榛花(JAL) 
三浦龍司(SUBARU)
赤松諒一×真野友博
豊田 兼(トヨタ自動車)×高野大樹コーチ
Revenge
泉谷駿介(住友電工)

page top