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2021.10.01

編集部コラム「お別れのあいさつ」
編集部コラム「お別れのあいさつ」

毎週金曜日更新!?

★月陸編集部★

攻め(?)のアンダーハンド
リレーコラム
毎週金曜日(できる限り!)、月刊陸上競技の編集部員がコラムをアップ!
陸上界への熱い想い、日頃抱いている独り言、取材の裏話、どーでもいいことetc…。
編集スタッフが週替りで綴って行きたいと思います。
暇つぶし程度にご覧ください!

第114回「お別れのあいさつ(向永拓史)


またこの季節がやってきた。日本インカレ、全日本実業団で何度も言うことになる言葉。「お疲れさまでした」。今年もたくさんの選手が現役を引退。競技を続けるにしても一線を退くことになりました。寂しいし、残念。でも、そればかり言うと、せっかく次に進もうと決心した選手たちの後ろ髪を引いてしまう感じになって、それはそれでどうなんだろうって。去年に比べると「お別れのあいさつ」ができたほう。うれしいやら、寂しいやら。

陸上競技はプロスポーツじゃない。だから、誰にでも門戸が開かれている代わりに、生計を立てるのは簡単ではない。本当に競技だけで生活できているのはほんのごく一部。比較的長距離ランナー、駅伝選手には多いかもしれませんが、トラック&フィールドになると……。それはそれは、一握りです。

陸上の選手寿命は、たぶん短い。いくつか理由はあるんだろうけど。身体一つで戦う種目なだけに、肉体のちょっとした衰えがパフォーマンスに直結します。サッカーだと、足は遅くなっても頭を使ってカバー…ということもできます。54歳で現役を続けるサッカーのカズ選手は、「トータルで100になればいい」とどこかのインタビューで話していたことがあります。

もちろん、陸上選手にも当てはまるのでしょうが、やはりフィジルカル面が最も影響するだけに、普通に考えればどんな選手でも、遅くとも、30歳過ぎにはピークから下降傾向にあるのは間違いないはず。野球選手だと、やっと一軍に定着する選手もいるくらいの年齢です。競馬の騎手だとまだまだ若手。難しいです。

あと、陸上選手って結構、潔癖だなって思うことがあります。つまり、「高いレベルでないと意味がない」のだと。エンジョイで続ければいいのにな、と思うこともあるけど、きっとそれじゃ面白くないんですよね。やるなら真剣に。真剣にできない、強度の高い練習ができない。それなら続けたくない。これもまた美学ですね。

こういう競技だからこそ、澤野大地選手、村上幸史選手(あえてまだ“選手”と書かせてください!)が40歳を超えてなお、自らを高め、引退の場として「日本一決定戦」の舞台に立てることが、本当に奇跡的なことで、かつ、そのために若い頃から経験してきたであろう想像を絶する努力と逆境に打ち勝ってきた信念に、ただただ、尊敬。

めいっぱいやり切った。そういう選手もいるでしょう。でも、たぶん、おそらく、澤野選手や村上選手、そして他にも競技場を去った多くのレジェンド選手は、それだけのことを成し遂げてなお「もっとやりたかった」「もっとできた」という思いもあるんだろうな、と。むしろ、突き詰めようとすればするほど、つかみどころがなくなるというか、陸上競技の楽しさと難しさを痛感していくのだろうと思います。

そういえば、金井大旺選手がこう言っていました。「突き詰めると切りがないんです」。

インカレ、全日本実業団のあと、「寂しい」「もったいない」と声をかけてしまったみなさんへ。ごめんなさい。無責任ですよね。きっとやりたい思いはありますよね。ただ、本心なんです。たとえ次の道に進んでも、ずっと応援しています。

でも、でも、陸上競技はね、プロじゃないから。やろうと思えば誰でもやれるし。走りたくなったら、跳びたくなったら、投げたくなったら、歩きたくなったら、いつでも戻ればいいやんって思います。

「全盛期?これからだよ」。38歳になった時に語ったというカズ選手の言葉に助けてもらって、ペンを置く。

と、感銘を受けた田中希実選手のまねごとをしてみるけど全然いい文章じゃなかった。私の文章力だって、全盛期はこれから……本当に来るのかな?

向永拓史(むかえ・ひろし)
月刊陸上競技編集部 新米編集部員
1983年8月30日生まれ。16★cm、★kg、O型。石川県金沢市生まれ、滋賀県育ち。両親の仕事の都合で多数の引っ越しを経験し、幼少期より「どうせ友達になっても離れる」とひねくれて育つ。運動音痴で絵を描くのが好きな少年だったが、小4の時に開幕したJリーグの影響で三浦知良に心酔し、天才漫画家になる未来を絶たれた。いろいろあって2011年全中以降、陸上競技の取材をすることになり、現在に至る。尊敬する人はカズ、尾崎豊、宮本輝、本田宗一郎。

編集部コラム第113回「TOKYO 2020の喜劇」(小川)
編集部コラム第112回「点と点のつながり」(船越)
編集部コラム第111回「裏方あっての表舞台」(松永)
編集部コラム第110回「2020東京五輪優勝記録ランキング」(大久保)
編集部コラム第109回「月陸の歴史も切り開いた田中選手」(井上)
編集部コラム第108回「特別な存在」(山本)
編集部コラム第107回「オリンピックの価値」(向永)
編集部コラム第106回「どうしても気になるどうでもいいこと」(船越)
編集部コラム第105回「東京五輪ついに開幕!!!」(小川)
編集部コラム第104回「オリンピックの思い出とインターハイ」(松永)
編集部コラム第103回「五輪メダリストのトリビア」(大久保)
編集部コラム第102回「あたたかい目」(井上)
編集部コラム第101回「4年サイクル」(山本)
編集部コラム第100回「誰がために月陸はある」(向永)
編集部コラム第99回「『9』秒台」(小川)
編集部コラム第98回「いいわけ」(船越)
編集部コラム第97回「My Privacy」(松永)
編集部コラム第96回「追い風最高記録」(大久保)
編集部コラム第95回「競技会に必要なもの」(井上)
編集部コラム第94回「メンタルトレーニング」(山本)
編集部コラム第93回「努力は報われた」(向永)
編集部コラム第92回「2年ぶりの織田記念」(小川)
編集部コラム第91回「エゴイスト」(船越)
編集部コラム第90回「あらためて100m10秒台ってすごいタイムですよね??」(松永)
編集部コラム第89回「学生競技会の華 大学対校戦!」(大久保)
編集部コラム第88回「U20世界選手権の上位候補をリサーチ!」(井上)
編集部コラム第87回「編集部コラム「郷土の応援」(山本)
編集部コラム第86回「あこがれの松田耕作記者」(向永)
編集部コラム第85回「スポーツのチカラ」(小川)
編集部コラム第84回「初心」(船越)
編集部コラム第83回「高校生にとってのインターハイ」(松永)
編集部コラム第82回「2020年世界リストTop10入り日本人選手」(大久保)
編集部コラム第81回「〝きっかけ〟の提供を」(井上)
編集部コラム第80回「一番アツい夏」(山本)
編集部コラム第79回「前向きな言葉という魔法」(向永)
編集部コラム第78回「自分なりの『答え』を探す」(小川)
編集部コラム第77回「カメラマンの箱根駅伝」(船越)
編集部コラム第76回「専門誌記者の箱根駅伝」(松永)
編集部コラム第75回「データで見る箱根駅伝当日エントリー変更」(大久保)
編集部コラム第74回「2020年を振り返って」(井上)
編集部コラム第73回「プレッシャーとの向き合い方」(山本)
編集部コラム第72回「陸上競技のイメージを変えたい」(向永)
編集部コラム第71回「2020年ラストスパート!!」(小川)
編集部コラム第70回「理不尽なこと」(船越)
編集部コラム第69回「這い上がる」(松永)
編集部コラム第68回「都道府県対抗 男子十種競技選手権」(大久保)
編集部コラム第67回「都大路も高速レースの予感」(井上)
編集部コラム第66回「陸上競技を続けると……?」(山本)
編集部コラム第65回「強い選手の共通点?パート2」(向永)
編集部コラム第64回「2020年シーズンはまだこれから!!」(小川)
編集部コラム第63回「質と量」(船越)
編集部コラム第62回「たかが2cm、されど2cm」(松永)
編集部コラム第61回「都道府県対抗 女子七種競技選手権」(大久保)
編集部コラム第60回「キソの大切さ」(井上)
編集部コラム第59回「思い込みを捨てる」(山本)
編集部コラム第58回「それ、ドーピングだよ」(向永)
編集部コラム第57回「東京五輪へ“もう1度”あと1年」(小川)
編集部コラム第56回「魔法の言葉」(船越)
編集部コラム第55回「月陸ってどんな雑誌?」(松永)
編集部コラム第54回「インターハイ種目別学校対抗(女子編)」(大久保)
編集部コラム第53回「明確なビジョン」(井上)
編集部コラム第52回「人間性を磨く」(山本)
編集部コラム第51回「指が痛い。」(向永)
編集部コラム第50回「温故知新」(小川)
編集部コラム第49回「対面取材」(船越)
編集部コラム第48回「日本選手権優勝者を世代別にまとめてみた」(松永)
編集部コラム第47回「インターハイ種目別学校対抗(男子編)」(大久保)
編集部コラム第46回「月陸に自分が載った」(井上)
編集部コラム第45回「陸上競技と関わり続ける」(山本)
編集部コラム第44回「逃げるとどうなる?」(向永)
編集部コラム第43回「成長のヒント」(小川)
編集部コラム第42回「日本実業団記録」(大久保)
編集部コラム第41回「思い出の2016年長野全中」(松永)
編集部コラム第40回「葛藤」(船越)
編集部コラム第39回「何も咲かない寒い日は……」(井上)
編集部コラム第38回「社会の一員としての役割」(山本)
編集部コラム第37回「大学生、高校生、中学生に光を」(向永)
編集部コラム第36回「Tokyo 2020+1」(小川)
編集部コラム第35回「善意」(船越)
編集部コラム第34回「ピンチをチャンスに」(松永)
編集部コラム第33回「日本記録アラカルト」(大久保)
編集部コラム第32回「独断で選ぶ2019年度高校陸上界5選」(井上)
編集部コラム第31回「記録と順位」(山本)
編集部コラム第30回「答えを見つけ出す面白さ」(向永)
編集部コラム第29回「初めてのオリンピック」(小川)
編集部コラム第28回「人生意気に感ず」(船越)
編集部コラム第27回「学生駅伝〝区間賞〟に関するアレコレ」(松永)
編集部コラム第26回「2019年度 陸上界ナンバーワン都道府県は?」(大久保)
編集部コラム第25回「全国男子駅伝の〝私見〟大会展望」(井上)
編集部コラム第24回「箱根駅伝の高速化を検証」(山本)
編集部コラム番外編「勝負師の顔」(山本)
編集部コラム第23回「みんなキラキラ」(向永)
編集部コラム第22回「国立競技場」(小川)
編集部コラム第21回「〝がんばれ〟という言葉の力と呪縛」(船越)
編集部コラム第20回「日本記録樹立者を世代別にまとめてみた」(松永)
編集部コラム第19回「高校陸上界史上最強校は?(女子編)」(大久保)
編集部コラム第18回「独断で選ぶ全国高校駅伝5選」(井上)
編集部コラム第17回「リクジョウクエスト2~そして月陸へ~」(山本)
編集部コラム第16回「強い選手の共通点?」(向永)
編集部コラム第15回「続・ドーハの喜劇?」(小川)
編集部コラム第14回「初陣」(船越)
編集部コラム第13回「どうなる東京五輪マラソン&競歩!?」(松永)
編集部コラム第12回「高校陸上界史上最強校は?(男子編)」(大久保)
編集部コラム第11回「羽ばたけ日本の中距離!」(井上)
編集部コラム第10回「心を動かすもの」(山本)
編集部コラム第9回「混成競技のアレコレ」(向永)
編集部コラム第8回「アナウンス」(小川)
編集部コラム第7回「ジンクス」(船越)
編集部コラム第6回「学生駅伝を支える主務の存在」(松永)
編集部コラム第5回「他競技で活躍する陸上競技経験者」(大久保)
編集部コラム第4回「とらんすふぁ~」(井上)
編集部コラム第3回「リクジョウクエスト」(山本)
編集部コラム第2回「あんな選手を目指しなさい」(向永)
編集部コラム第1回「締め切りとIHと五輪」(小川)

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第114回「お別れのあいさつ(向永拓史)

またこの季節がやってきた。日本インカレ、全日本実業団で何度も言うことになる言葉。「お疲れさまでした」。今年もたくさんの選手が現役を引退。競技を続けるにしても一線を退くことになりました。寂しいし、残念。でも、そればかり言うと、せっかく次に進もうと決心した選手たちの後ろ髪を引いてしまう感じになって、それはそれでどうなんだろうって。去年に比べると「お別れのあいさつ」ができたほう。うれしいやら、寂しいやら。 陸上競技はプロスポーツじゃない。だから、誰にでも門戸が開かれている代わりに、生計を立てるのは簡単ではない。本当に競技だけで生活できているのはほんのごく一部。比較的長距離ランナー、駅伝選手には多いかもしれませんが、トラック&フィールドになると……。それはそれは、一握りです。 陸上の選手寿命は、たぶん短い。いくつか理由はあるんだろうけど。身体一つで戦う種目なだけに、肉体のちょっとした衰えがパフォーマンスに直結します。サッカーだと、足は遅くなっても頭を使ってカバー…ということもできます。54歳で現役を続けるサッカーのカズ選手は、「トータルで100になればいい」とどこかのインタビューで話していたことがあります。 もちろん、陸上選手にも当てはまるのでしょうが、やはりフィジルカル面が最も影響するだけに、普通に考えればどんな選手でも、遅くとも、30歳過ぎにはピークから下降傾向にあるのは間違いないはず。野球選手だと、やっと一軍に定着する選手もいるくらいの年齢です。競馬の騎手だとまだまだ若手。難しいです。 あと、陸上選手って結構、潔癖だなって思うことがあります。つまり、「高いレベルでないと意味がない」のだと。エンジョイで続ければいいのにな、と思うこともあるけど、きっとそれじゃ面白くないんですよね。やるなら真剣に。真剣にできない、強度の高い練習ができない。それなら続けたくない。これもまた美学ですね。 こういう競技だからこそ、澤野大地選手、村上幸史選手(あえてまだ“選手”と書かせてください!)が40歳を超えてなお、自らを高め、引退の場として「日本一決定戦」の舞台に立てることが、本当に奇跡的なことで、かつ、そのために若い頃から経験してきたであろう想像を絶する努力と逆境に打ち勝ってきた信念に、ただただ、尊敬。 めいっぱいやり切った。そういう選手もいるでしょう。でも、たぶん、おそらく、澤野選手や村上選手、そして他にも競技場を去った多くのレジェンド選手は、それだけのことを成し遂げてなお「もっとやりたかった」「もっとできた」という思いもあるんだろうな、と。むしろ、突き詰めようとすればするほど、つかみどころがなくなるというか、陸上競技の楽しさと難しさを痛感していくのだろうと思います。 そういえば、金井大旺選手がこう言っていました。「突き詰めると切りがないんです」。 インカレ、全日本実業団のあと、「寂しい」「もったいない」と声をかけてしまったみなさんへ。ごめんなさい。無責任ですよね。きっとやりたい思いはありますよね。ただ、本心なんです。たとえ次の道に進んでも、ずっと応援しています。 でも、でも、陸上競技はね、プロじゃないから。やろうと思えば誰でもやれるし。走りたくなったら、跳びたくなったら、投げたくなったら、歩きたくなったら、いつでも戻ればいいやんって思います。 「全盛期?これからだよ」。38歳になった時に語ったというカズ選手の言葉に助けてもらって、ペンを置く。 と、感銘を受けた田中希実選手のまねごとをしてみるけど全然いい文章じゃなかった。私の文章力だって、全盛期はこれから……本当に来るのかな?
向永拓史(むかえ・ひろし) 月刊陸上競技編集部 新米編集部員 1983年8月30日生まれ。16★cm、★kg、O型。石川県金沢市生まれ、滋賀県育ち。両親の仕事の都合で多数の引っ越しを経験し、幼少期より「どうせ友達になっても離れる」とひねくれて育つ。運動音痴で絵を描くのが好きな少年だったが、小4の時に開幕したJリーグの影響で三浦知良に心酔し、天才漫画家になる未来を絶たれた。いろいろあって2011年全中以降、陸上競技の取材をすることになり、現在に至る。尊敬する人はカズ、尾崎豊、宮本輝、本田宗一郎。
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