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2021.09.13

インタビュー/パラアスリート・山本篤が明かす「走幅跳の世界」
インタビュー/パラアスリート・山本篤が明かす「走幅跳の世界」


 8月24日から9月5日まで開催された東京2020パラリンピックでは、障害を持つアスリートたちが各競技で驚くべきパフォーマンスを見せた。陸上競技の男子走幅跳(義足・機能障害T63)で4位となった山本篤(新日本住設)もその1人だ。5回目に自身が2019年に樹立したアジア記録を5cm更新する6m75(-0.2)をマーク。2008年北京大会(2位)と16年リオ大会(2位)で獲得したメダルには届かなかったものの、一時は3位に浮上して“プロパラアスリート”として臨んだ大舞台で見せ場を作った。
 走幅跳という陸上競技の中でも馴染みの深い種目が、義足で行うとどのように変わるのか。東京パラリンピックを終えた山本がインタビューに応じ、その世界を明かしてくれた。

「日本のみなさんに『ありがとう』と伝えたい」

――東京パラリンピックは走幅跳(義足・機能障害T63)で4位。6m75(-0.2)のアジア新記録をマークしました。競技を終えて1週間ほど経ちますが、今の心境はいかがでしょうか。

山本 自己ベスト(6m70)を更新できたので、目標であった「最高のパフォーマンスをする」というのはできたかと思います。でも、いろいろなところへ報告に行くと、メダルがあるのとないのでは大きな差を感じて、メダルが取れなかった悔しさや寂しさを少し感じています。

――日本開催ということで競技面でのアドバンテージはありましたか?

山本 暑くて湿度が高い時にいいパフォーマンスを出せる状態を毎年のように作ってきたので、そこにはアドバンテージを感じました。あとはテストイベントなどを経験して国立競技場の様子がわかっていて、そういったことも自己ベストの更新につなげられたと思います。でも、海外の選手もしっかり調整してきて、(自分以外にも)良い記録を出している選手が多かったですね。

――目標としてきた大きな舞台が終わって気持ちの変化はありますか。

山本 東京パラリンピックは5年間ずっと目指してきたので、特別な場所だったと思います。それに、コロナ禍になってから国際大会はほとんどありませんでした。久しぶりに海外の選手たちと戦うのはものすごく楽しかったですし、アドレナリンも出て、いいジャンプができたのは良かったです。
 それと、多くの選手が僕に「日本でパラリンピックを開催してくれてありがとう」と言ってくれました。僕が大会を開催したわけではないんですけど、日本の人々がオリンピック・パラリンピックに向けて一生懸命やってきた成果が感謝の言葉に表れたのだと思います。僕も日本のみなさんに「ありがとう」と感謝の言葉を伝えたいですね。

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――大会後もトレーニングは続けていますか?

山本 今シーズンはこれで終了なので、今はまったくしてないです。身体のコアの使い方や呼吸法などは1日15分から20分くらいやっていますが、これはトレーニングというわけではないので、今は身体を休める時期になります。

プールトレーニングでコンディションを維持

――東京パラリンピックでは39歳にして自己新(アジア新記録)を出しています。記録を伸ばせる要因は何でしょうか。

山本 義足の使い方だと思います。僕たちはモノを使って陸上競技をしているので、義足の使い方がうまくなるほど記録を伸ばせます。(道具を使うという点で)棒高跳に近いかもしれません。でも、自分としてはスピードがいい状態にはなっていないと感じるので、それを改善できれば記録はさらに更新できると思います。

山本篤が東京パラリンピックで使用したスパイク

――若い頃と比べて年齢的な影響はありますか?

山本 回復力は完全に落ちています。今回、100mの予選が走幅跳の翌日だったのですが、走幅跳の日にピークを合わせてきたので、コンディションが完全には上がりませんでした。走幅跳の後はアイスバスや炭酸泉に入ったり、ケアをしてもらったりと、自分でもできる限りのことはしたのですが、次の日はものすごく疲労が出てしまって、100mは予選落ちになってしまいました。

――トレーニングの変化はありますか?

山本 トレーニングも変わっています。これまでは週に4~5回走っていましたが、昨年からは走るのを月・水・金の週3回にして、連続して走るというのをやめました。それによって身体がしっかり回復した状態でトレーニングに臨めるようになったと思います。どちらかと言えばウエイトトレーニングをやりながら、それを走りに落とし込んでいくというスタイルになっています。
 ほかにはプールのトレーニングも多く取り入れるようになりました。僕たち陸上選手は重力に逆らって反発を得ているので、腰や背中などへの衝撃が大きく、身体が良い状態ではなくなってきてしまいます。そこで、水圧のあるプールの中で身体をリラックスさせながら関節を動かしたりすると、身体を良い状態に保てることがわかりました。
 火曜日と土曜日はウエイトトレーニングを中心にやって、完全なオフは日曜日だけです。木曜日がアクティブレストですが、プールに行って身体をほぐすようにしています。

義足の操作法と健常者との違い

――義足について教えてください。山本選手は左太腿切断のため大腿部で義足を動かしていると思いますが、義足の動きはどのようになっているのでしょうか。

山本 操作するのは太腿部で、義足が地面に着いている時は膝関節が伸びた状態になります。義足はブレードの部分がたわむため、たわんでいる時に重心を前に移動します。たわんだブレードは「ギューン!」と伸びて反発するので、その反発によって推進力を得られます。
 義足が空中にある時は膝関節が曲がるようになっているため、まっすぐ振り出しても義足は地面にぶつかりません。それを振り戻してまた接地をして……という流れになります。

――健常者が走る時は膝や足首でも動きをコントロールできますが、義足だとどの程度の微調整がきくのでしょうか。

山本 股関節は完全に自分で動かしています。そこに義足がついてくるという感覚です。でも、スタートの時などに接地がずれたらほぼ立て直しはききません。少しでも義足が前に着いてしまうと“乗り込み感”が出てしまうので、スタートの時は義足の位置を横にして、重心の後ろのほうで接地するようにします。走っている最中はたわみが大きくなるので、ちょっと前のほうでブレーキをかけながら反発をもらって推進力に変えていくのですが、そこでも大きなズレが生まれないようにします。ズレることによって身体の弾かれる方向が変わってしまうので、正しいポジションで接地をしないと速いスピードで前に進むことはできないのです。

――踏み切りや、砂場への着地はどのようにするのですか?

山本 踏み切る時は義足に思いっきり体重をかけにいきます。膝関節も伸びた状態で、できるだけ義足のブレード部分をたわませて、それが弾き返されるのと同時に健足側を振り上げて、振り上げたキックも助力にして上に跳び出していく、という感じです。義足だと脚が“つぶれる”現象はなくて、つぶれたらそれは義足が折れている状態です。このため、最後の1歩は思いっきり義足をつぶしにいくような感覚で、全体重をかけてどれだけ大きな力をかけられるか、という気持ちでやっています。

――着地の時に山本選手は脚を横向きにしていると思います。どういう仕組みであのような着地になるのですか?

山本 左右の脚の重さが違うので、思いっきりジャンプをした時には重さの違いでズレるというのがあります。また、義足側には感覚がないので、先に着地してしまうと距離的にもったいないというのもあって上になるようにしています。
 そうやって跳び上がる時が少し斜めになることで、着地も斜めにせざるを得ないような状況を作っています。最初は意識してあのかたちを作ったわけではなくて、飛距離をより延ばそうとした結果、ああいう着地になったということです。
 また、足とお尻の着く位置によっても記録が変わってくるので、横向きにすることでお尻が手前で着かないようにしています。

山本が跳躍時に身体を斜めするのは飛距離を稼ごうと考えた結果だという
写真/時事

――パラアスリートの使う義足は健常者の脚よりも優れているという説もあります。義足の性能についてはどう感じていますか?

山本 データとして踏み切りだけの局面を切り出したら義足は有利だと思います。健常者の踏み切りはブレーキをかけて推進力を上方向へのエネルギーに変えて跳び出しますが、義足は助走速度がほぼ下がりませんし、ブレードのところが曲がってから伸びるので、伸びる時に加速するんです。そこは健常者の脚にはない部分かなと思います。
 僕の助走速度だと6m75を跳べる健常者はいないはずです。踏み切りの局面だけを切り出せば「ズルい」と言われても仕方がないとは思いますね。

――事故で義足になる前は走幅跳や短距離の記録を計測したことはありますか?

山本 土のグラウンドで普通の運動靴なので一概には言えませんが、50mは6秒4でした。走幅跳は高校のスポーツテストで5m40くらいしか跳べなくて、一番苦手でした。(今の記録と比べて)進化はしているのかなと思いますね。

「走る楽しさを伝えたい」

――今後の目標をお聞かせください。

山本 まだ自己ベストが伸ばせそうなので、どこまで伸ばせるのかチャレンジしていきたいです。今大会も表彰台に乗った選手はみな7mオーバーでしたし、基準となるのは7mだと思います。
 あとは、今回のパラリンピックを見て、陸上競技や走ることに興味を持った義足の方が少なからずいらっしゃると思います。そういう人たちが義足で走れるような場を提供できたらと考えています。
 競技用義足は高価なので、レンタルなど何かしらの方法でそのハードルを下げて、使える機会を増やしたいと思います。僕も走り方のレクチャーができますし、走る楽しさを伝えていきたいですね。

――2024年には次のパラリンピック(パリ)もあります。

山本 パリまでいけるかどうかはわかりませんが、とりあえず現役は続行していくという気持ちです。年齢もあるので1年1年、自分がまだいけるというイメージができるうちはやっていきたいです。
 それと、今も一緒に活動しているメンバーがいるのですが、チームを作って、パラリンピックや表彰台を目指せる選手の育成もしていきたいと考えています。

◎山本 篤(やまもと・あつし)
1982年4月19日生まれ、39歳。167cm、60kg。静岡県出身。掛川西高時代はバレーボール部に所属。高2の2000年3月にスクーター事故で左脛骨を粉砕骨折し、手術で左脚を大腿から切断。卒業後に進んだ日本聴能言語福祉学院で陸上競技を始め、パラリンピックは08年北京大会と16年リオ大会の走幅跳で銀メダルを獲得(16年は4×100mリレーでも銅メダル)。東京大会は4位。世界パラ陸上選手権では13年と15年に金メダルを獲得している。自己ベストは走幅跳が6m75(アジア記録、21年)で、100m12秒61(14年)、200m26秒00(15年)、400m60秒02(14年)はいずれもT63の日本記録。

文/山本慎一郎

 8月24日から9月5日まで開催された東京2020パラリンピックでは、障害を持つアスリートたちが各競技で驚くべきパフォーマンスを見せた。陸上競技の男子走幅跳(義足・機能障害T63)で4位となった山本篤(新日本住設)もその1人だ。5回目に自身が2019年に樹立したアジア記録を5cm更新する6m75(-0.2)をマーク。2008年北京大会(2位)と16年リオ大会(2位)で獲得したメダルには届かなかったものの、一時は3位に浮上して“プロパラアスリート”として臨んだ大舞台で見せ場を作った。  走幅跳という陸上競技の中でも馴染みの深い種目が、義足で行うとどのように変わるのか。東京パラリンピックを終えた山本がインタビューに応じ、その世界を明かしてくれた。

「日本のみなさんに『ありがとう』と伝えたい」

――東京パラリンピックは走幅跳(義足・機能障害T63)で4位。6m75(-0.2)のアジア新記録をマークしました。競技を終えて1週間ほど経ちますが、今の心境はいかがでしょうか。 山本 自己ベスト(6m70)を更新できたので、目標であった「最高のパフォーマンスをする」というのはできたかと思います。でも、いろいろなところへ報告に行くと、メダルがあるのとないのでは大きな差を感じて、メダルが取れなかった悔しさや寂しさを少し感じています。 ――日本開催ということで競技面でのアドバンテージはありましたか? 山本 暑くて湿度が高い時にいいパフォーマンスを出せる状態を毎年のように作ってきたので、そこにはアドバンテージを感じました。あとはテストイベントなどを経験して国立競技場の様子がわかっていて、そういったことも自己ベストの更新につなげられたと思います。でも、海外の選手もしっかり調整してきて、(自分以外にも)良い記録を出している選手が多かったですね。 ――目標としてきた大きな舞台が終わって気持ちの変化はありますか。 山本 東京パラリンピックは5年間ずっと目指してきたので、特別な場所だったと思います。それに、コロナ禍になってから国際大会はほとんどありませんでした。久しぶりに海外の選手たちと戦うのはものすごく楽しかったですし、アドレナリンも出て、いいジャンプができたのは良かったです。  それと、多くの選手が僕に「日本でパラリンピックを開催してくれてありがとう」と言ってくれました。僕が大会を開催したわけではないんですけど、日本の人々がオリンピック・パラリンピックに向けて一生懸命やってきた成果が感謝の言葉に表れたのだと思います。僕も日本のみなさんに「ありがとう」と感謝の言葉を伝えたいですね。 ――大会後もトレーニングは続けていますか? 山本 今シーズンはこれで終了なので、今はまったくしてないです。身体のコアの使い方や呼吸法などは1日15分から20分くらいやっていますが、これはトレーニングというわけではないので、今は身体を休める時期になります。

プールトレーニングでコンディションを維持

――東京パラリンピックでは39歳にして自己新(アジア新記録)を出しています。記録を伸ばせる要因は何でしょうか。 山本 義足の使い方だと思います。僕たちはモノを使って陸上競技をしているので、義足の使い方がうまくなるほど記録を伸ばせます。(道具を使うという点で)棒高跳に近いかもしれません。でも、自分としてはスピードがいい状態にはなっていないと感じるので、それを改善できれば記録はさらに更新できると思います。 山本篤が東京パラリンピックで使用したスパイク ――若い頃と比べて年齢的な影響はありますか? 山本 回復力は完全に落ちています。今回、100mの予選が走幅跳の翌日だったのですが、走幅跳の日にピークを合わせてきたので、コンディションが完全には上がりませんでした。走幅跳の後はアイスバスや炭酸泉に入ったり、ケアをしてもらったりと、自分でもできる限りのことはしたのですが、次の日はものすごく疲労が出てしまって、100mは予選落ちになってしまいました。 ――トレーニングの変化はありますか? 山本 トレーニングも変わっています。これまでは週に4~5回走っていましたが、昨年からは走るのを月・水・金の週3回にして、連続して走るというのをやめました。それによって身体がしっかり回復した状態でトレーニングに臨めるようになったと思います。どちらかと言えばウエイトトレーニングをやりながら、それを走りに落とし込んでいくというスタイルになっています。  ほかにはプールのトレーニングも多く取り入れるようになりました。僕たち陸上選手は重力に逆らって反発を得ているので、腰や背中などへの衝撃が大きく、身体が良い状態ではなくなってきてしまいます。そこで、水圧のあるプールの中で身体をリラックスさせながら関節を動かしたりすると、身体を良い状態に保てることがわかりました。  火曜日と土曜日はウエイトトレーニングを中心にやって、完全なオフは日曜日だけです。木曜日がアクティブレストですが、プールに行って身体をほぐすようにしています。

義足の操作法と健常者との違い

――義足について教えてください。山本選手は左太腿切断のため大腿部で義足を動かしていると思いますが、義足の動きはどのようになっているのでしょうか。 山本 操作するのは太腿部で、義足が地面に着いている時は膝関節が伸びた状態になります。義足はブレードの部分がたわむため、たわんでいる時に重心を前に移動します。たわんだブレードは「ギューン!」と伸びて反発するので、その反発によって推進力を得られます。  義足が空中にある時は膝関節が曲がるようになっているため、まっすぐ振り出しても義足は地面にぶつかりません。それを振り戻してまた接地をして……という流れになります。 ――健常者が走る時は膝や足首でも動きをコントロールできますが、義足だとどの程度の微調整がきくのでしょうか。 山本 股関節は完全に自分で動かしています。そこに義足がついてくるという感覚です。でも、スタートの時などに接地がずれたらほぼ立て直しはききません。少しでも義足が前に着いてしまうと“乗り込み感”が出てしまうので、スタートの時は義足の位置を横にして、重心の後ろのほうで接地するようにします。走っている最中はたわみが大きくなるので、ちょっと前のほうでブレーキをかけながら反発をもらって推進力に変えていくのですが、そこでも大きなズレが生まれないようにします。ズレることによって身体の弾かれる方向が変わってしまうので、正しいポジションで接地をしないと速いスピードで前に進むことはできないのです。 ――踏み切りや、砂場への着地はどのようにするのですか? 山本 踏み切る時は義足に思いっきり体重をかけにいきます。膝関節も伸びた状態で、できるだけ義足のブレード部分をたわませて、それが弾き返されるのと同時に健足側を振り上げて、振り上げたキックも助力にして上に跳び出していく、という感じです。義足だと脚が“つぶれる”現象はなくて、つぶれたらそれは義足が折れている状態です。このため、最後の1歩は思いっきり義足をつぶしにいくような感覚で、全体重をかけてどれだけ大きな力をかけられるか、という気持ちでやっています。 ――着地の時に山本選手は脚を横向きにしていると思います。どういう仕組みであのような着地になるのですか? 山本 左右の脚の重さが違うので、思いっきりジャンプをした時には重さの違いでズレるというのがあります。また、義足側には感覚がないので、先に着地してしまうと距離的にもったいないというのもあって上になるようにしています。  そうやって跳び上がる時が少し斜めになることで、着地も斜めにせざるを得ないような状況を作っています。最初は意識してあのかたちを作ったわけではなくて、飛距離をより延ばそうとした結果、ああいう着地になったということです。  また、足とお尻の着く位置によっても記録が変わってくるので、横向きにすることでお尻が手前で着かないようにしています。 山本が跳躍時に身体を斜めするのは飛距離を稼ごうと考えた結果だという 写真/時事 ――パラアスリートの使う義足は健常者の脚よりも優れているという説もあります。義足の性能についてはどう感じていますか? 山本 データとして踏み切りだけの局面を切り出したら義足は有利だと思います。健常者の踏み切りはブレーキをかけて推進力を上方向へのエネルギーに変えて跳び出しますが、義足は助走速度がほぼ下がりませんし、ブレードのところが曲がってから伸びるので、伸びる時に加速するんです。そこは健常者の脚にはない部分かなと思います。  僕の助走速度だと6m75を跳べる健常者はいないはずです。踏み切りの局面だけを切り出せば「ズルい」と言われても仕方がないとは思いますね。 ――事故で義足になる前は走幅跳や短距離の記録を計測したことはありますか? 山本 土のグラウンドで普通の運動靴なので一概には言えませんが、50mは6秒4でした。走幅跳は高校のスポーツテストで5m40くらいしか跳べなくて、一番苦手でした。(今の記録と比べて)進化はしているのかなと思いますね。

「走る楽しさを伝えたい」

――今後の目標をお聞かせください。 山本 まだ自己ベストが伸ばせそうなので、どこまで伸ばせるのかチャレンジしていきたいです。今大会も表彰台に乗った選手はみな7mオーバーでしたし、基準となるのは7mだと思います。  あとは、今回のパラリンピックを見て、陸上競技や走ることに興味を持った義足の方が少なからずいらっしゃると思います。そういう人たちが義足で走れるような場を提供できたらと考えています。  競技用義足は高価なので、レンタルなど何かしらの方法でそのハードルを下げて、使える機会を増やしたいと思います。僕も走り方のレクチャーができますし、走る楽しさを伝えていきたいですね。 ――2024年には次のパラリンピック(パリ)もあります。 山本 パリまでいけるかどうかはわかりませんが、とりあえず現役は続行していくという気持ちです。年齢もあるので1年1年、自分がまだいけるというイメージができるうちはやっていきたいです。  それと、今も一緒に活動しているメンバーがいるのですが、チームを作って、パラリンピックや表彰台を目指せる選手の育成もしていきたいと考えています。 ◎山本 篤(やまもと・あつし) 1982年4月19日生まれ、39歳。167cm、60kg。静岡県出身。掛川西高時代はバレーボール部に所属。高2の2000年3月にスクーター事故で左脛骨を粉砕骨折し、手術で左脚を大腿から切断。卒業後に進んだ日本聴能言語福祉学院で陸上競技を始め、パラリンピックは08年北京大会と16年リオ大会の走幅跳で銀メダルを獲得(16年は4×100mリレーでも銅メダル)。東京大会は4位。世界パラ陸上選手権では13年と15年に金メダルを獲得している。自己ベストは走幅跳が6m75(アジア記録、21年)で、100m12秒61(14年)、200m26秒00(15年)、400m60秒02(14年)はいずれもT63の日本記録。 文/山本慎一郎

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