2021.09.05
4×400mリレー代表として東京五輪に出場し、「日本記録保持者」となった鈴木碧斗(東洋大)。今季、一気に飛躍を遂げたスプリンターだが、高校までは短距離と走幅跳が専門だった。彗星のごとく現われた20歳のホープの今季の歩み、そして秘める可能性とは。
あれよあれよと五輪マイルリレー代表に
今シーズン、男子ロングスプリントで大きな飛躍を遂げた注目の選手がいる。東洋大2年の鈴木碧斗だ。東京五輪4×400mリレーでアンカーを務め、25年ぶりとなる日本記録(3分00秒76、日本タイ記録)樹立に貢献。その疲れが残っているであろう、わずか1週間後、鈴木は東京・駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場で走っていた。
「日本インカレに向けたスピードの確認として出場しました」。ついこの前まで日の丸を背負って戦っていた鈴木が、雨の中、高校生たちと交じって100mを走る。フィニッシュし、オープンな空間で着替えているのが不思議な感覚だった。
半年前まで、「鈴木碧斗」の名を知っている陸上ファンがどれほどいただろうか。もちろん、自身もこのめまぐるしい半年のことは想像していなかった。
3月の世界リレー日本代表選考トライアル300mに優勝して世界リレーの代表入りを果たすと、5月にポーランドで行われた同大会では2位となり、東京五輪の出場権を獲得。5月の関東インカレでは200mを20秒52(+4.1)で制し、準決勝では20秒71(+2.0)の自己ベストをマークした。
6月の日本選手権400mでは、予選はギリギリ組3着で通過しながら、決勝で3位に入り東京五輪代表に選出。「正直、気持ちが追いついていません」というのも偽らざる本音だろう。
今年の関東インカレではデーデー・ブルーノ(東海大、左)らを抑えて200mで優勝
高校までは走幅跳が専門
小学校時代から陸上を始め、その時から専門種目は走幅跳と短距離で、中学時代には県大会で予選落ち。大宮北高に進学してからも100mと走幅跳に取り組み、2年時に少しずつ力をつけ、3年目には2種目とリレーでインターハイに進んだ。それでも、100mは準決勝止まり、走幅跳は予選落ちに終わっている。
高校時代のベストは100m10秒63、走幅跳7m21。だが、特筆すべきは高3時の400mで、6、7月に48秒55から47秒46へとアップすると、10月のU20日本選手権予選では47秒27、決勝でも47秒69で3位に入っている。
大学1年目はコロナ禍でなかなかシーズンインできなかったが、9月に始めて200mを走って21秒18(+1.1)。その後はケガもあったが、徐々にロングスプリントの才能が開花し始め、今季一気にブレイクスルーを果たした。
東洋大の指導陣はそのスプリント能力を早くから評価していたという。土江寛裕コーチは「元々、スプリントのある選手で、昨年からの冬季練習がハマりました。梶原(道明)監督も『マイルで東京五輪』と見越していて、それで世界リレーの選考会にも300mに出場していました」と言う。
東京五輪では世界との差を痛感したという鈴木
スピードを磨いてマルチスプリンターへ
飛躍を遂げ、日本代表として世界と戦った鈴木だが、個人の力不足を痛感しているという。
「マイルは記録だけ見れば良かったですが、決勝に行けなかった悔しさがあります。チームとしては日本記録を出せば行けるだろうと話していました。やっぱり、個人の走力が足りなかったです。特に200mから300mのギアが違いました。いい経験ができたと思います」
日本選手権は400mでメダルを取り、マイルリレーで五輪の舞台に立った。端から見れば400mの選手? と思われがちだが、鈴木自身は「専門は200mだと思っています」と笑う。東京選手権100mは10秒41(+0.7)をマークして優勝。「悪くないタイムだったので良かったと思います」。準決勝でも追い風参考で10秒39(+2.7)と非凡なところを見せた。
だが、土江コーチは「100mでもかなり面白い。まだ自分の能力の高さ、適性を理解できていないところがあります」と、“自称・専門200m”を一蹴した。「飯塚(翔太)選手、伊東浩司さんのように、100m、200mが速くて、400mも走れる選手。今、日本が求めているスプリンター像になれる選手です」と期待を寄せる。
鈴木も、もちろん意識しており、「飯塚さんのように100mから400mまで走れる選手が目標。200mではまず公認で20秒5台前半を狙えるようになりたいです。来年の世界選手権には個人で出て、リレーで決勝に残れるようにがんばります」。
9月17日から始まる日本インカレは「一発、大きいところで走らせてみたかった」(土江コーチ)と、100mに出場する。「まだまだ可能性を秘めている」と土江コーチが言う未完のスプリンター。伸び盛りの20歳が、次はどんな走りを見せるか。
文/向永拓史
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あれよあれよと五輪マイルリレー代表に
今シーズン、男子ロングスプリントで大きな飛躍を遂げた注目の選手がいる。東洋大2年の鈴木碧斗だ。東京五輪4×400mリレーでアンカーを務め、25年ぶりとなる日本記録(3分00秒76、日本タイ記録)樹立に貢献。その疲れが残っているであろう、わずか1週間後、鈴木は東京・駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場で走っていた。 「日本インカレに向けたスピードの確認として出場しました」。ついこの前まで日の丸を背負って戦っていた鈴木が、雨の中、高校生たちと交じって100mを走る。フィニッシュし、オープンな空間で着替えているのが不思議な感覚だった。 半年前まで、「鈴木碧斗」の名を知っている陸上ファンがどれほどいただろうか。もちろん、自身もこのめまぐるしい半年のことは想像していなかった。 3月の世界リレー日本代表選考トライアル300mに優勝して世界リレーの代表入りを果たすと、5月にポーランドで行われた同大会では2位となり、東京五輪の出場権を獲得。5月の関東インカレでは200mを20秒52(+4.1)で制し、準決勝では20秒71(+2.0)の自己ベストをマークした。 6月の日本選手権400mでは、予選はギリギリ組3着で通過しながら、決勝で3位に入り東京五輪代表に選出。「正直、気持ちが追いついていません」というのも偽らざる本音だろう。
高校までは走幅跳が専門
小学校時代から陸上を始め、その時から専門種目は走幅跳と短距離で、中学時代には県大会で予選落ち。大宮北高に進学してからも100mと走幅跳に取り組み、2年時に少しずつ力をつけ、3年目には2種目とリレーでインターハイに進んだ。それでも、100mは準決勝止まり、走幅跳は予選落ちに終わっている。 高校時代のベストは100m10秒63、走幅跳7m21。だが、特筆すべきは高3時の400mで、6、7月に48秒55から47秒46へとアップすると、10月のU20日本選手権予選では47秒27、決勝でも47秒69で3位に入っている。 大学1年目はコロナ禍でなかなかシーズンインできなかったが、9月に始めて200mを走って21秒18(+1.1)。その後はケガもあったが、徐々にロングスプリントの才能が開花し始め、今季一気にブレイクスルーを果たした。 東洋大の指導陣はそのスプリント能力を早くから評価していたという。土江寛裕コーチは「元々、スプリントのある選手で、昨年からの冬季練習がハマりました。梶原(道明)監督も『マイルで東京五輪』と見越していて、それで世界リレーの選考会にも300mに出場していました」と言う。
スピードを磨いてマルチスプリンターへ
飛躍を遂げ、日本代表として世界と戦った鈴木だが、個人の力不足を痛感しているという。 「マイルは記録だけ見れば良かったですが、決勝に行けなかった悔しさがあります。チームとしては日本記録を出せば行けるだろうと話していました。やっぱり、個人の走力が足りなかったです。特に200mから300mのギアが違いました。いい経験ができたと思います」 日本選手権は400mでメダルを取り、マイルリレーで五輪の舞台に立った。端から見れば400mの選手? と思われがちだが、鈴木自身は「専門は200mだと思っています」と笑う。東京選手権100mは10秒41(+0.7)をマークして優勝。「悪くないタイムだったので良かったと思います」。準決勝でも追い風参考で10秒39(+2.7)と非凡なところを見せた。 だが、土江コーチは「100mでもかなり面白い。まだ自分の能力の高さ、適性を理解できていないところがあります」と、“自称・専門200m”を一蹴した。「飯塚(翔太)選手、伊東浩司さんのように、100m、200mが速くて、400mも走れる選手。今、日本が求めているスプリンター像になれる選手です」と期待を寄せる。 鈴木も、もちろん意識しており、「飯塚さんのように100mから400mまで走れる選手が目標。200mではまず公認で20秒5台前半を狙えるようになりたいです。来年の世界選手権には個人で出て、リレーで決勝に残れるようにがんばります」。 9月17日から始まる日本インカレは「一発、大きいところで走らせてみたかった」(土江コーチ)と、100mに出場する。「まだまだ可能性を秘めている」と土江コーチが言う未完のスプリンター。伸び盛りの20歳が、次はどんな走りを見せるか。 文/向永拓史
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