2021.08.19
中長距離専門クラブ「TWOLAPS TC」が企画・運営する「TWOLAPS MIDDLE DISTANCE CIRCUIT」が、8月20日の「大阪ステージ」(ヤンマーフィールド長居)で開幕する。中距離種目に特化したサーキット型の競技会で、9月23日に控える「福島ステージ」(郡山ヒロセ開成山競技場)、9月中の競技会の記録でエントリーできる「バーチャルレース」を経て、10月30日に行われるファイナルステージ「東京ステージ」(駒沢オリンピック公園競技場)への進出者が決定。そのチャンピオンには、賞金100万円が贈られる。
その第1戦となる大阪ステージには、豪華な顔ぶれがずらり。東京五輪女子1500m8位入賞の田中希実(豊田自動織機TC)が1000mに参戦。エリートレースではないが、これが五輪後の初レースとなる。
ファイナルステージ進出を懸けたエリートレースは600mとエリミネーションマイル(区切りの距離ごとに最下位の選手が脱落)が設定され、エリミネーションマイルの男子には東京五輪男子5000m代表の坂東悠汰(富士通)がエントリー。600mには7月のホクレンディスタンスチャレンジ1500mで日本記録(3分35秒42)を作った河村一輝(トーエネック)、800mでともに日本記録(1分45秒76)を持つ川元奨(スズキ)と源裕貴(環太平洋大)が出場する。
エリートレースの女子も、600mには川田朱夏(東大阪大)と塩見綾乃(立命大)、エリミネーションマイルには後藤夢(豊田自動織機TC)、道下美槻(立大)と国内トップ選手が名を連ねた。各種目とも男女それぞれ2組あり、各組1着がファイナルステージに進出する。
このほか、公認の部では男女600m、800m、1000m、1500m、非公認の部では男女1500m(中学生以上、10分以内で走れる人)、小学生の800mが行われる。
TWOLAPS MIDDLE DISTANCE CIRCUITホームページ
TWOLAPS代表の横田氏が大会に込めた想い
「結果だけでは伝えきれない競技の魅力がある」
誰もが何年もかけて目指してきた東京五輪というビッグゲームが終わり、日本陸上界は新たな転換期を迎えようとしている。
集大成を迎える選手もいれば、東京五輪をきっかけに大きく飛躍を遂げそうな選手もいる。出られなかった悔しさを晴らすための準備をする選手、日本代表たちにあこがれて陸上競技を志す人……東京五輪は間違いなく、多くの選手たちの人生を大きく変えた大会だった。
同時に、日本陸上界としてもリアルタイムで行われた自国開催の五輪が、さまざまな物事が動くきっかけにもなるだろう。他競技のようなメダルラッシュとはいかないまでも、メダル2、入賞7という戦後最高の成績を残したチームジャパンの活躍は、日本中を熱狂させた。ここで生まれた「熱」を、さらに大きくできるかどうかは、日本陸上界のこれからを占う大きなカギとなるだろう。
そんな転換期にあって「TWOLAPS MIDDLE DISTANCE CIRCUIT」は、新しい価値観を生み出すものになるかもしれない。TWOLAPS TC代表の横田真人氏は、大会に込めた思いを次のように語る。
「現役で競技をやっていた頃から、結果だけじゃ伝えきれない競技の魅力があると感じていました。そういった中で、誰かにそういう場を作ってもらうのではなく、自分たちで作って、競技の魅力を伝えていくということが僕らの使命なのかなと思ったのです」
男子800mの元日本記録保持者であり、2012年のロンドン五輪には同種目日本勢44年ぶり出場を果たし、世界選手権にも07年、11年と2度代表入り。日本男子中距離を牽引する存在だった。
世界大会以外にも、シーズン中は積極的に海外を転戦してきた。米国をトレーニング拠点にしたこともある。そういった経験から、日本と世界の陸上競技の違いを肌で感じ、「僕が競技を始めたのは中学生からですが、国内の『競技会』は良くも悪くもあまり変わっていないのではないかと感じています。だから守られてきたものももちろんあると思うのですが、日本の陸上界を発展させるために変化は必要」という考えに至った。
必要だと感じる変化の1つが、「陸上界における『お客さん』って誰だろう?」という感覚。横田氏は、それは観客だけを言うのではなく、「競技会に出ている選手も、もしかしたらお客さんなのではないか」と言う。
「ほとんどの選手はお金を払って競技会に出場しています。招待されるのはトップ・オブ・トップの選手だけ。日本選手権で入賞するレベルの選手でもグランプリシリーズに出場するためにはお金を払っています。そう考えると、選手も『お客さん』なのでしょう。市民ランナーがお金を出してレースに参加するのと同じ。お金を出して競技会に来てもらっているという感覚って、日本の陸上界はちょっと薄いのかもしれません」
もちろん、お金を払っているからといって選手たちが何をしても許されるという考えではない。全国のあらゆる競技会が、安全に円滑に行われていることは、日本が世界に誇るべき良さだ。ただ、「競技会」の枠を出て、市民マラソンなどのように選手が喜べる、楽しめる大会という発想があってもいいのではないか。欧米のように観客と一体になって盛り上がる競技会は、国内ではごく一部。アナウンスの仕方、選手の誘導などほんの少しの工夫で、競技会の雰囲気はガラリと変わり、それが選手たちのモチベーションアップへとつながって好記録・好勝負が生まれていく。
また、陸上競技場でやる陸上に、「市民マラソンようような感覚で、もっと気軽に参加することはできなくはないと思うのです」と横田氏は付け加える。
「真剣勝負の場が必要な時はもちろんあります。でも、そうじゃない時の視点を、陸上界はもう少し大事にできるはずだと思います」
思い浮かぶのは、ベルギーの競技会に出場した時のことだ。
「住宅街にポンとある感じで、普段は幼稚園の子供たちがピクニックしているようなところが、いきなりトップ選手が集まってきて、町中の人が集まって、大会になる。日常が非日常に変わる、ぐらいの規模がのほうが陸上には合っているような気がしています。8万人のスタジアムで8万人を埋めるというよりは、2000人のスタジアムで2000人を埋めるほうが大事じゃないかな、と」
目指すイメージは「かっこいい運動会」。そういった思いが形になったものが、「TWOLAPS MIDDLE DISTANCE CIRCUIT」なのだ。
「みんなで創り上げる」新たな大会への意義を語ってくれた横田氏
大会におけるテーマは6つ。
1.みんなで参加して大会を創り上げる
2.スポーツの楽しみ方を伝える
3.「勝負」と「記録」に特化した種目設計
4.異種目格闘技戦
5.国内レース最高賞金を優勝者に
6.日本ではなかなか見られない盛り上げ演出
昨年秋、コロナ禍で大会の中止・延期が相次ぎ、引退レースをすることなく卒業を迎えようとする大学4年生に向けて、「東京陸協ミドルディスタンス・チャレンジ」を開催した。その時に、「東京陸協の方々に多大なお力添えをいただくことで実現できました。そこで、いろんな人の力を借りれば大会はできるんだと実感しました」。
昨年秋に行われた東京陸協ミドルディスタンス・チャレンジが今大会へのきっかけになった
公認レースだけでなく非公認レースも組み込み、誰もが参加できるように設定。さらにはボランティアも公募するなど「みんなで参加して創り上げる」ことで、「この大会をみんなで育てていけたら」と横田氏は語る。
種目設定についても、800mや1500mといったいわゆる五輪種目だけではなく、エリミネーションマイルなど、中距離の醍醐味である駆け引きや、勝負を懸けるスパートなどがより際立つような種目も組み込んだ。
さらに、予選ラウンド(+バーチャルレース)とファイナルラウンドを設け、100万円という賞金をかけたことで、大会全体に注目が集まるような仕掛けも施している。
日本選手権大会9年連続優勝の箕面自由学園・チアリーダー部の応援、テレビアナウンサーの実況でレース全体の盛り上げも図り、ナンバーカード裏に自分の記録やトップ選手にサインを書いてもらえるスペースを作って思い出に残るような「ファンサービス」も充実。東京五輪代表をはじめ日本のトップランナーたちが集まるというだけでなく、大会全体を楽しむためのポイントが満載だ。
「スポーツをやってきた人には、どんなかたちでもいいからずっと携わってほしいなという思いがあります。自己ベストを出す、優勝するというのも素晴らしいことですが、走ることで特別な体験ができて、楽しい経験ができるのも素晴らしいこと。審判やボランティアとして、大会を支えることが楽しいというのもいいと思います。何でもいいので、いろんな形でこの大会に携わってもらいたい。特に中学生や高校生たちには、彼らが知らないスポーツへの携わり方があるということを伝えていきたい」
最終的には、中距離だけではなく、100mや走幅跳、砲丸投など、いろいろな種目へと広がっていったほしいと横田氏は考えている。
「最終的な目標は、いろんな種目のみんなで一緒にやることです」
「TWOLAPS MIDDLE DISTANCE CIRCUIT」が、その夢への第一歩となる。
文/小川雅生
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TWOLAPS代表の横田氏が大会に込めた想い 「結果だけでは伝えきれない競技の魅力がある」
誰もが何年もかけて目指してきた東京五輪というビッグゲームが終わり、日本陸上界は新たな転換期を迎えようとしている。 集大成を迎える選手もいれば、東京五輪をきっかけに大きく飛躍を遂げそうな選手もいる。出られなかった悔しさを晴らすための準備をする選手、日本代表たちにあこがれて陸上競技を志す人……東京五輪は間違いなく、多くの選手たちの人生を大きく変えた大会だった。 同時に、日本陸上界としてもリアルタイムで行われた自国開催の五輪が、さまざまな物事が動くきっかけにもなるだろう。他競技のようなメダルラッシュとはいかないまでも、メダル2、入賞7という戦後最高の成績を残したチームジャパンの活躍は、日本中を熱狂させた。ここで生まれた「熱」を、さらに大きくできるかどうかは、日本陸上界のこれからを占う大きなカギとなるだろう。 そんな転換期にあって「TWOLAPS MIDDLE DISTANCE CIRCUIT」は、新しい価値観を生み出すものになるかもしれない。TWOLAPS TC代表の横田真人氏は、大会に込めた思いを次のように語る。 「現役で競技をやっていた頃から、結果だけじゃ伝えきれない競技の魅力があると感じていました。そういった中で、誰かにそういう場を作ってもらうのではなく、自分たちで作って、競技の魅力を伝えていくということが僕らの使命なのかなと思ったのです」 男子800mの元日本記録保持者であり、2012年のロンドン五輪には同種目日本勢44年ぶり出場を果たし、世界選手権にも07年、11年と2度代表入り。日本男子中距離を牽引する存在だった。 世界大会以外にも、シーズン中は積極的に海外を転戦してきた。米国をトレーニング拠点にしたこともある。そういった経験から、日本と世界の陸上競技の違いを肌で感じ、「僕が競技を始めたのは中学生からですが、国内の『競技会』は良くも悪くもあまり変わっていないのではないかと感じています。だから守られてきたものももちろんあると思うのですが、日本の陸上界を発展させるために変化は必要」という考えに至った。 必要だと感じる変化の1つが、「陸上界における『お客さん』って誰だろう?」という感覚。横田氏は、それは観客だけを言うのではなく、「競技会に出ている選手も、もしかしたらお客さんなのではないか」と言う。 「ほとんどの選手はお金を払って競技会に出場しています。招待されるのはトップ・オブ・トップの選手だけ。日本選手権で入賞するレベルの選手でもグランプリシリーズに出場するためにはお金を払っています。そう考えると、選手も『お客さん』なのでしょう。市民ランナーがお金を出してレースに参加するのと同じ。お金を出して競技会に来てもらっているという感覚って、日本の陸上界はちょっと薄いのかもしれません」 もちろん、お金を払っているからといって選手たちが何をしても許されるという考えではない。全国のあらゆる競技会が、安全に円滑に行われていることは、日本が世界に誇るべき良さだ。ただ、「競技会」の枠を出て、市民マラソンなどのように選手が喜べる、楽しめる大会という発想があってもいいのではないか。欧米のように観客と一体になって盛り上がる競技会は、国内ではごく一部。アナウンスの仕方、選手の誘導などほんの少しの工夫で、競技会の雰囲気はガラリと変わり、それが選手たちのモチベーションアップへとつながって好記録・好勝負が生まれていく。 また、陸上競技場でやる陸上に、「市民マラソンようような感覚で、もっと気軽に参加することはできなくはないと思うのです」と横田氏は付け加える。 「真剣勝負の場が必要な時はもちろんあります。でも、そうじゃない時の視点を、陸上界はもう少し大事にできるはずだと思います」 思い浮かぶのは、ベルギーの競技会に出場した時のことだ。 「住宅街にポンとある感じで、普段は幼稚園の子供たちがピクニックしているようなところが、いきなりトップ選手が集まってきて、町中の人が集まって、大会になる。日常が非日常に変わる、ぐらいの規模がのほうが陸上には合っているような気がしています。8万人のスタジアムで8万人を埋めるというよりは、2000人のスタジアムで2000人を埋めるほうが大事じゃないかな、と」 目指すイメージは「かっこいい運動会」。そういった思いが形になったものが、「TWOLAPS MIDDLE DISTANCE CIRCUIT」なのだ。
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