2021.08.12
学校を卒業してからも陸上競技を続けたい――。実業団選手以外ではなかなか難しそうに思えることを、高いレベルで実現しているクラブチームがある。それがAccel Track Club(アクセルトラッククラブ)だ。昨年は全日本実業団対抗選手権で男子リレー2種目を制覇。草野誓也は100mで10秒28と9年ぶりの自己新をマークするなど、“趣味”の域を超えた活躍を続けている。
メンバーがそれぞれ社会人として仕事を持つ中で、どのように競技と向き合っているのか。チームの主力である草野と根岸紀仁に、アクセルが“結果”を出せる要因を聞いた。
社会人チームとして注目を集めているAccel Track Clubの草野誓也(左)と根岸紀仁。仕事と競技の両立について語り合った
成長のコツは「できる練習をする」
Accel Track Club(アクセルトラッククラブ)が発足したのは2012年。現代表の大西正裕氏ら12人のメンバーが、社会人でも陸上競技を続けられるクラブチームを作ろうと立ち上がった。翌13年には今もチームが目標としている千葉県クラブ対抗で初の総合優勝を飾ると、その後はメンバーが年々増えるとともに、全日本実業団対抗選手権で草野誓也(男子100m=15、20年)、板鼻航平(男子400m=18年)が優勝するなど好成績を収めている。
メンバーの多くが競技のみに専念しているわけではない。それぞれが学生時代とは違ったスタイルで「夢の続きを……」のスローガンのもと、陸上競技にも取り組んでいる。
「普段は休日を中心にスケジュールの合う選手が集まって練習メニューを一緒にこなしています。平日は家が近かったりして集まれる選手は一緒に練習することもありますが、通常は各自で練習しています」(草野)
チームでキャプテンを務める根岸紀仁も都内の企業で営業職をこなしながら競技を続けている。中大時代は母校の応援団長“マッスル根岸”としての印象が強かったものの、100mの自己ベストは10秒46と全国レベル。仕事をしながらその力を維持するのは並大抵のことではないはずだが、社会人6年目だった昨年は10秒49と、大学4年時以来の10秒4台をマークした。
「今はフレックス勤務や在宅ワークなどもあるので、都合がつけば平日でも夢の島競技場(東京都江東区)での練習会に参加できる日もありますが、基本は個人で練習しています。仕事が終わって夜11時頃から空き地でサーキットトレーニングをすることもあります。学生時代は1日10時間ぐらい練習していて、スピードをガンガン上げて走って、レストも長く取っていましたけど、時間が限られる今はレストを2分などに短くして、スピードを上げない代わりに200mを26秒設定で正確にコントロールして走ったりしています」
スプリントコーチを生業(なりわい)にしている草野の考えも学生時代とは大きく変わった。
「僕は陸上のコーチングや、大学での非常勤講師などがメインなので、午前中の空き時間を使ったり、大学で学生に混ぜてもらったりして緊張感を持って練習するように心がけています。内容は『その時、何ができるのか』を優先します。本当は何でも全部やりたいのですが、時間的に無理なので、『1時間で完結できるのは何か』などと考えます。例えば30分でアップして、250m×4本を7分レストでやれば30分で終わります。これはアクセルでは結構やっていたメニューですが、他にも確保できる練習時間や場所に合わせて何をしようか、何ができるかなとメニューを考えています」
大学卒業直後は学生時代のようなトレーニングをしようと躍起になった時期もあるというが、「仕事で脳が疲れると集中できないことに気づいたんです」と草野。それからは「しっかり休んで集中し、その中でできる練習をしよう」と発想を転換し、それが結果にも結びついている。
「学生時代にできていた練習はできなくなっていきます。だからこそ『限られた時間の中で何をするか』が練習のコンセプトになっています」
内容を絞り込んだトレーニングでも結果が出せることは、昨年32歳にして100m10秒28という9年ぶりの自己新をマークした事実が何よりの証明になるだろう。
昨年の全日本実業団対抗選手権では草野誓也が男子100mを制し、両リレーも優勝するなど“アクセル旋風”を巻き起こした
「RUCOE RUN」がトレーニングを効率化
限られた練習時間を最大限に活用するために、根岸は仕事の疲れをできるだけ練習に持ち込まないような工夫もしている。「ソールが柔らかくて疲れにくい革靴を履いたり、ストレッチ素材のスーツを着たりしています。車での移動やデスクワークは身体が固まりやすいですが、そこからできるだけ早く練習に入れることが大事」と話す。
そんな日々の生活と競技との両立を後押しするのが伊藤超短波の「RUCOE RUN(ルコエラン)」だ。ルコエランは物理療法機器のパイオニアである伊藤超短波がランナー向けに開発した筋電気刺激機器で、アクセルトラッククラブのメンバーはスプリント用に活用している。運動前の筋肉に刺激を入れる「WAKE(ウェイクアップモード)」、高強度の運動でパフォーマンスを発揮させる「ACT(アクティベートモード)」、運動後の筋肉をリセットする「COOL(クールダウンモード)」という3つの出力モードがあり、目的に応じて筋肉に働きかけられる。
草野や根岸がコンディショニングに活用している伊藤超短波の「RUCOE RUN(ルコエラン)」
ルコエランを今年の冬場から取り入れてきた根岸と草野は、それぞれ違った使い方でコンディショニングに役立てている。
「僕はまずWAKEで筋肉を呼び起こして、競技場ですぐに身体を動かせるようしています。仕事中にスーツを着ていても(粘着パッドを)貼っている時がありますね。ACTは練習で動きながら使用します。これを使いながらドリルや壁押しをして負荷をかけることで、走りのイメージにつなげています」(根岸)
「立ち仕事がメインなので、仕事が終わって競技場へ向かう時にWAKEを使って、アップの時間を短縮しています。それと、ルコエランは使っているとマッサージをしてもらっている感覚があるので、練習後にはCOOLを使用しながら仕事など次の場所へ移動するようにしています。こうすると通常の半分くらいの時間で回復する感覚があります。練習後のリカバリーという点でかなり役立っています」(草野)
短い時間で練習効果を高めるためにルコエランは欠かせないものとなっている。根岸は「短距離では『正しい身体の使い方をしよう』とよく言われますが、僕はその感覚がよくわかりませんでした。ただ、ルコエランを使うと内転筋に刺激が入ってその感覚が研ぎ澄まされるというか、動きを意識しやすくなるように感じます」と、電気刺激を活用したトレーニングも試みている。
ルコエランは小型で携帯しやすいため、本体をポケットに入れておいてドリルなどで身体を動かしながら筋肉に電気刺激を入れることもあるという
アクセルのメンバーは練習だけでなくコンディショニングへの意識も高いことから、頻繁に“ケアグッズ品評会”が行われ、ルコエランを愛用する選手が増えているという。「しっかり練習をしたいからこそ、仕事の疲労は持ち込みたくない。そういう意味でルコエランは仕事と競技を両立するモチベーションを与えてくれる1つの手段」と草野は実感している。
社会人クラブチームのモデルケースに
発足10年目を迎え、アクセルトラッククラブのメンバーは50人を突破。各選手が仕事をしながら“夢の続き”を追いかけている。
草野は今年で33歳となったが、5月の世界リレーでは4×100mリレーの補欠に名を連ねるなど、今が“全盛期”だ。「アメリカ合宿に行った時にはトム・テレツコーチから『10秒1台は出せる』と言われましたが、その予想を超えたい。そして、自分の経験をクラブや次世代に伝えていきたいです」と意気込み、根岸もまた「100mと200mで自己記録(10秒46&21秒14)を更新して、社会人で競技を続けられるか悩んでいる学生を後押しする存在になりたい。もちろん仕事をおろそかにするのではなく、どちらでも結果を残したいです」ときっぱり言い切る。
Accel Track Clubは50人以上が在籍。それぞれの環境で陸上競技を楽しんでいる〔チーム提供写真〕
社会人になっても陸上競技を続けられて、成長できる。アクセルトラッククラブは社会人チームのモデルケースとしてますます注目を集めそうだ。
文/田中 葵
写真/船越陽一郎
※この記事は『月刊陸上競技』2021年9月号に掲載しています
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<関連リンク>
アクセルトラッククラブ
RUCOE RUN(ブランドサイト)
伊藤超短波(公式サイト)

成長のコツは「できる練習をする」
Accel Track Club(アクセルトラッククラブ)が発足したのは2012年。現代表の大西正裕氏ら12人のメンバーが、社会人でも陸上競技を続けられるクラブチームを作ろうと立ち上がった。翌13年には今もチームが目標としている千葉県クラブ対抗で初の総合優勝を飾ると、その後はメンバーが年々増えるとともに、全日本実業団対抗選手権で草野誓也(男子100m=15、20年)、板鼻航平(男子400m=18年)が優勝するなど好成績を収めている。 メンバーの多くが競技のみに専念しているわけではない。それぞれが学生時代とは違ったスタイルで「夢の続きを……」のスローガンのもと、陸上競技にも取り組んでいる。 「普段は休日を中心にスケジュールの合う選手が集まって練習メニューを一緒にこなしています。平日は家が近かったりして集まれる選手は一緒に練習することもありますが、通常は各自で練習しています」(草野) チームでキャプテンを務める根岸紀仁も都内の企業で営業職をこなしながら競技を続けている。中大時代は母校の応援団長“マッスル根岸”としての印象が強かったものの、100mの自己ベストは10秒46と全国レベル。仕事をしながらその力を維持するのは並大抵のことではないはずだが、社会人6年目だった昨年は10秒49と、大学4年時以来の10秒4台をマークした。 「今はフレックス勤務や在宅ワークなどもあるので、都合がつけば平日でも夢の島競技場(東京都江東区)での練習会に参加できる日もありますが、基本は個人で練習しています。仕事が終わって夜11時頃から空き地でサーキットトレーニングをすることもあります。学生時代は1日10時間ぐらい練習していて、スピードをガンガン上げて走って、レストも長く取っていましたけど、時間が限られる今はレストを2分などに短くして、スピードを上げない代わりに200mを26秒設定で正確にコントロールして走ったりしています」 スプリントコーチを生業(なりわい)にしている草野の考えも学生時代とは大きく変わった。 「僕は陸上のコーチングや、大学での非常勤講師などがメインなので、午前中の空き時間を使ったり、大学で学生に混ぜてもらったりして緊張感を持って練習するように心がけています。内容は『その時、何ができるのか』を優先します。本当は何でも全部やりたいのですが、時間的に無理なので、『1時間で完結できるのは何か』などと考えます。例えば30分でアップして、250m×4本を7分レストでやれば30分で終わります。これはアクセルでは結構やっていたメニューですが、他にも確保できる練習時間や場所に合わせて何をしようか、何ができるかなとメニューを考えています」 大学卒業直後は学生時代のようなトレーニングをしようと躍起になった時期もあるというが、「仕事で脳が疲れると集中できないことに気づいたんです」と草野。それからは「しっかり休んで集中し、その中でできる練習をしよう」と発想を転換し、それが結果にも結びついている。 「学生時代にできていた練習はできなくなっていきます。だからこそ『限られた時間の中で何をするか』が練習のコンセプトになっています」 内容を絞り込んだトレーニングでも結果が出せることは、昨年32歳にして100m10秒28という9年ぶりの自己新をマークした事実が何よりの証明になるだろう。
「RUCOE RUN」がトレーニングを効率化
限られた練習時間を最大限に活用するために、根岸は仕事の疲れをできるだけ練習に持ち込まないような工夫もしている。「ソールが柔らかくて疲れにくい革靴を履いたり、ストレッチ素材のスーツを着たりしています。車での移動やデスクワークは身体が固まりやすいですが、そこからできるだけ早く練習に入れることが大事」と話す。 そんな日々の生活と競技との両立を後押しするのが伊藤超短波の「RUCOE RUN(ルコエラン)」だ。ルコエランは物理療法機器のパイオニアである伊藤超短波がランナー向けに開発した筋電気刺激機器で、アクセルトラッククラブのメンバーはスプリント用に活用している。運動前の筋肉に刺激を入れる「WAKE(ウェイクアップモード)」、高強度の運動でパフォーマンスを発揮させる「ACT(アクティベートモード)」、運動後の筋肉をリセットする「COOL(クールダウンモード)」という3つの出力モードがあり、目的に応じて筋肉に働きかけられる。

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発足10年目を迎え、アクセルトラッククラブのメンバーは50人を突破。各選手が仕事をしながら“夢の続き”を追いかけている。 草野は今年で33歳となったが、5月の世界リレーでは4×100mリレーの補欠に名を連ねるなど、今が“全盛期”だ。「アメリカ合宿に行った時にはトム・テレツコーチから『10秒1台は出せる』と言われましたが、その予想を超えたい。そして、自分の経験をクラブや次世代に伝えていきたいです」と意気込み、根岸もまた「100mと200mで自己記録(10秒46&21秒14)を更新して、社会人で競技を続けられるか悩んでいる学生を後押しする存在になりたい。もちろん仕事をおろそかにするのではなく、どちらでも結果を残したいです」ときっぱり言い切る。
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