陸上競技5日目のモーニングセッションで行われた男子400mハードルは、陸上史に残るレースとなった。
今季29年ぶりに歴史が塗り替えられたこの種目。その熱狂は東京五輪の舞台でさらなるドラマを生む。決勝には世界記録保持者(46秒70)のK.ワルホルム(ノルウェー)、世界歴代3位(46秒83)のR.ベンジャミン(米国)、世界歴代4位(46秒98)のA.サンバ(カタール)が並ぶ。そこにブラジルの新鋭A.ドス・サントスが挑む構図に。
朝に降っていた強い雨が止み、日差しが強くなった正午過ぎ。歴史を動かすレースがスタート。6レーンのワルホルムが前半でトップを奪うと、5レーンのベンジャミンも食らいつく。2人は9台目を越えたあたりでかなり接近する。だが、最終ハードルをクリアした後にワルホルムがリードを広げて、フィニッシュラインに飛び込むと、ワルホルム自身も、そして世界中の人が驚愕した。
自身の世界記録を一気に0.76秒も更新する45秒94。東京のど真ん中で、人類で初めて45秒台に突入したのだ。ワルホルムも予期せぬ『大記録』に信じられないような表情。世界選手権を2連覇中の王者は、この種目でノルウェー初の金メダルをもたらした。
「46秒の壁を破るのは、とてもクレイジーなことだと思っていました。それを達成できたのは、私の人生で最高の瞬間です」と王者。「私が費やしたすべての時間、私のコーチが働いてきたすべてが報われました。この瞬間を何千時間も考えてきたので、今日は眠ることができないと思います」と興奮に浸る。
ベンジャミンが46秒17で2位、ドス・サントス(ブラジル)が46秒72で3位。いずれもケヴィン・ヤング(米国)が保持していた元世界記録である五輪記録(46秒78)をメダリスト3人が上回った。さらに6人が自国のナショナル記録を更新。21歳のドス・サントスは大会前の自己ベストが47秒38。準決勝で47秒31の南米記録を樹立すると、決勝では世界歴代3位までタイムを大幅短縮した。
レース後のメダリスト会見では、走幅跳のマイク・パウエルとカール・ルイスの走幅跳頂上決戦に並ぶ試合ではないか、と記者に問われ、「オリンピック史上最高のレースだと思う」と3人は胸を張る。今後の記録更新について聞かれ、「みんな45秒5を目指していくことになるだろうね」とベンジャミン。それに苦笑いしたワルホルムは「もっとトレーニングしないと」と答えた。
東京で生まれた伝説のレースは、例え無観客であっても見届けたすべての人の心に刻まれるものとなった。
モーニングセッションの女子走幅跳では、2019年ドーハ世界選手権の女王M.ミハンボ(ドイツ)が最終6回目に7m00(-0.1)をジャンプ。6m97で並んでいたロンドン五輪金のB.リーズ(米国)とE.ブルメ(ナイジュリア)を逆転して金メダルに輝いた。イブニングセッションでも好記録が続出。女子800mはU20世代が躍動し、A.ムー(米国)が終始トップを駆け抜けて1分55秒21のU20世界新で制すと、K.ホジキンソン(英国)が1分55秒88で2位。19歳がワン・ツーを飾り、それぞれのナショナルレコードを塗り替えた。
女子200mは100mを制しているE.トンプソン・ヘラー(ジャマイカ)が世界歴代2位の21秒53(+0.8)で完勝。女子では史上初となる2大会連続スプリント2冠を達成した。女子ハンマー投は世界記録保持者A.ヴォダルチク(ポーランド)が78m48で五輪3連覇。これも女子史上初の快挙だ。
この日最後に行われた男子棒高跳は21歳の世界記録保持者A.デュプランティス(スウェーデン)が6m02で初の金メダルを獲得。6m19の世界記録にもチャレンジし、世界中を沸かせた。
日本勢も見せ場たっぷり。女子やり投の北口榛花(JAL)が62m06を投げて予選を全体6番目で通過。決勝に進むのは57年ぶりだ。男子110mハードルは3人が出場し、泉谷駿介(順大)と金井大旺(ミズノ)が準決勝へ。2人準決勝は初。一方、男子200mはサニブラウン・アブデル・ハキーム(タンブルウィードTC)、山下潤(ANA)、飯塚翔太(ミズノ)がいずれも予選敗退に終わっている。



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