あらゆるスポーツの“原点”とも言える陸上競技の世界では、0.01秒を短縮するためにさまざまな試行錯誤がなされている。その中でも特に高速化が著しい長距離種目では、近年はランニングフォームに関する研究や分析が盛んだ。
それに合わせるかのように登場したのが、専門の施設に行かずとも手軽にフォームを分析できるデジタルデバイス。なかでもアシックスがカシオ計算機と共同開発した「Runmetrix(ランメトリックス)」は、小型のモーションセンサーを腰に取り付けるだけで詳細なデータを計測し、改善点まで提示してくれるのが特徴だ。大学駅伝の強豪である早稲田大学なども導入しており、陸上界でも徐々に広がりを見せている。
そこで、今も市民ランナーとして走り続ける月陸編集者(マラソンの自己ベストは2時間43分)が、ランメトリックスを実際に日々のトレーニングで使用(詳細は過去の記事を参照)。そこから生まれた疑問に対して、開発者であるアシックススポーツ工学研究所の平川菜央さんにお答えいただいた。
ランナーの使い勝手をとことん追求
――ランメトリックスはカシオとの「価値協創事業」とのことですが、どういうきっかけで始まったのでしょうか。
平川 もともと私が陸上競技をやっていたこともあり、ランニングフォームというものに強い関心を持っていて、何か形にできないかということを常に考えていました。また、アシックスは中期経営計画において、デジタルを柱にして人々のスポーツパフォーマンスや健康をサポートしていく「デジタルドリブンカンパニー」になるというビジョンを掲げています。そのような折に、ご縁があって2018年5月にカシオ計算機から「こういうデバイスがあるんですけど、いかがですか」とお声がけいただき、そこから意見交換をして開発がスタートしました。
――ランメトリックスはモーションセンサーでフォームを解析できるのが特徴ですが、どうしてこのようなサービスが生まれたのでしょうか。
平川 身体への負担を軽減して質の高い練習を継続したり、効率良くダイナミックな動きでパフォーマンスを上げるためにランニングフォームは大切です。でも、ランニングフォームの可視化や改善は専門の機器や指導者がいないとなかなかできませんでした。自分の好不調をいつでもどこでも確認できて、それを修正したらどうなったかをすぐに計測できるようにしたい、というのがランメトリックスを開発した発端になります。
――アシックスとカシオの2社でどのように開発を分担したのですか?
平川 動きやGPSの基本的な計測情報の取得はカシオの開発範囲です。アシックスは、計測値をどうランナーにとってわかりやすい情報にし、活用してもらえるかという点で開発を担当しました。
まず、腰の動きで何を数値化できればランナーにとってより意味のあるデータになるか、というディスカッションを両社で始めました。例えば上下動にしても接地時に沈み込む大きさと跳ぶ高さでは意味が違います。そして、それをどうアプリに落とし込むか。「データをグラフにしましょう」とか、「こういう動きの人にはこんな言葉を出しましょう」というような、ユーザーに情報を届けるアプリケーションとアルゴリズムを開発しました。センサー本体や操作性については、ランナーの実際の使用場面を考慮した使いやすさについて意見を交換しました。
アシックスとカシオ計算機が共同開発したパーソナルコーチングサービス「Runmetrix(ランメトリックス)」のモーションセンサー
――確かに、実際に使ってみるととてもランナー目線で開発されたサービスなのだと感じました。価格も14,080円(税込)とお手頃です。
平川 私たちが大事にしたのは、話し合いだけではなく、たくさん使ってトライ&エラーをすることでした。このため、最初は社員、開発が進んでからは早稲田大学や立命館大学といった大学の陸上部員や実業団選手、市民ランナーにも協力してもらい、いろんなランナーからフィードバックをいただきました。
ランメトリックスの開発のためだけに集めたデータでも1000件以上になりますし、一人が長期間にわたって使うことも大事にしたので、走行距離で言うと2万km以上。大学生は朝練習と本練習、のように複数回使ってくださることもありました。
加えて、元となるデータとしては「アシックスランニングラボ」という直営店におけるサービスのフォーム特徴データも活用していますので、10年以上の蓄積があります。
――プロジェクトの規模として、アシックスで開発に関わったのは何人ぐらいですか?
平川 社内モニターテストなども含めると50名以上になります。
今年1月にはアシックスとカシオが合同記者会見を開き、ランメトリックスを発表。左から2人目がアシックスの廣田康人代表取締役社長、その右がカシオ計算機の樫尾和宏代表取締役社長
――開発する上でこだわった点はありますか?
平川 腰から得られるデータをどう使うかというところです。腰に注目した理由は2つあります。腰というのは身体重心の近くにあるためです。走るという行為はいかに効率良く身体を前に運べるか、という動作の繰り返しであるため、身体重心に近い腰の動きはランニング能力の評価に重要だと考えました。
もう一つは、腕振りと脚運びという反対の動きを繰り返す走る動作において、骨盤がその中心、ハブに当たるからです。骨盤の動きというのは陸上をしている人なら必ず話題になりますし、イメージするところだと思います。たとえ骨盤の動きとしては微細なクセでも、それをとらえて改善することで全身の動きを修正することにつながるだろう、とこれまでの経験や研究から考えていました。
こだわったのはいろんな背景を持つ選手やランナーに対して、それぞれにどう納得してもらうかです。「骨盤なんて意識したことがない」というビギナーもいれば、自分の感覚と照らし合わせて理解できるアスリートもいます。一人ひとりにどう適切な情報を提供するか、伝える情報の質と量にもこだわりました。
ランメトリックスには『パーソナルコーチング』という機能がありますが、実は目的によってどこまで突っ込んでコーチングをするかを変えています。
――そんなところまでこだわっていたとは……。パーソナルコーチングと言えば、骨盤の数値データから自分のフォームをアニメーションで表示できるのが驚きました。
平川 ご自身の動きと合っていましたか?
――はい、腕振りから手の動かし方まで忠実に再現されていました。
平川 モーションセンサーは手の動きまで測定しているわけではないので、あくまでも推定です。全身をモーションキャプチャーで測定した蓄積データがあるため、その全身のデータと骨盤のデータを照合して腰の動きの特徴から全身の動きを推定しています。先ほどお話ししたように、骨盤は腕振りと脚運びのハブになる部分であるため、骨盤の姿勢や動きである程度全身の動きが表現できると考えました。
ランメトリックスは骨盤の動きからランニングフォームを推定。アニメーションで表示できる
レースペースのフォームが基準
――ランメトリックスのフォーム分析はどういうシーンでの使用を想定して作られましたか?
平川 基本的にはすべての練習でご使用いただけるよう想定しています。また、パーソナルコーチング機能では「RUN FASTER」を選ぶと速く走った時のデータを選んで分析し、「RUN LONGER」では相対的に長く走った時のデータを使うので、フルマラソンを目指す人ならレースペースでの距離走、5km、10kmの記録向上を目指すのであれば全力のレペティションなどが自分のフォームを把握する上では一番いいと思います。
ただし、アスリートはジョグの時に使ってもその時の自分の調子がわかるそうです。「今日はいつもより左右差があるな」とか、「合宿終盤は姿勢の安定ができていなかったな」など、全力を発揮する練習ではない時のデータは自分の調子や疲労度の把握にも役立てられています。
ランニングフォームは100点満点で評価
採点基準となる詳細なデータも別画面で確認できる(※クリックで拡大)
――私もレースからジョグまでいろいろなシーンで計測しましたが、ゆっくり走る時は点数が低く出る傾向があります。これはどのように受け取るべきでしょうか?
平川 同じようなことをよく聞かれるのですが、走力の高いランナーがわざとゆっくり走ると「動きの力強さ」などのスコアが下がり、全体的な点数が低くなる場合が多いです。その人にとって全力ではない動きの時は、わざと跳んでリズムを保つとか、何かしらの無駄な動きが生じているのかもしれませんね。基本的には速度に対しての評価なので、速度が遅いと点数が下がるわけではありません。
反対に私は速く走ると動きが崩れてしまうところがあるので、自分はどのペースを境に動きが変わるのか、というのを判断するのも一つの活用方法かと思います。
――やはり高い点数のほうが良いフォームだということですね。そうなるとゆっくり走る時も高得点を目指したほうがいいのでしょうか。
平川 アスリートの活用事例のように、全力でないペースの時は得点の高い・低いではなく、調子や疲労感などを判断するために身体の負担に関わるスコア分野に着目して使っていただくと良いかもしれません。
――使用するシューズによっても点数が変わるように感じます。
平川 シューズや路面の状況によってスコアが変わる場合もありますが、表示される点数はその人の全体的なフォームの特徴を表しているものであって、シューズの機能性と直接紐づいているわけではありません。「一概には言えない」というのが答えになります。
この靴を履いて点数が良くなったからこの靴がいい、とはならないですし、靴が変わることで動きが変わる人もいれば変わらない人もいます。そこに関しては人それぞれですね。
アシックスの科学的知見が反映された
「パーソナルコーチング」
ランメトリックスの主な機能はモーションセンサーを使ったランニングフォーム分析だが、もう一つの柱として「パーソナルコーチング」機能もある。「もっと速くなりたい」「長い距離が走れるようになりたい」といった個々の目標をアプリで設定すると、集計データをもとに目標達成のための練習メニューを提示してくれるのだ。「どんな練習をすればいいのかわからない」というビギナーはもちろんのこと、フォームに磨きをかけたいアスリートにも役立つ機能と言えるだろう。
――パーソナルコーチングでは個々に合わせたトレーニングメニューが提示されますが、これは何がベースとなっているのですか?
平川 パーソナルコーチングは2つのプログラム掲示機能があって、1つは「ランニングプログラム」というランニングのメニューを作る機能と、「フォーム改善プログラム」という筋トレやストレッチのメニューを作る機能があります。
ランニングプログラムはアシックスが長年培ってきた知見が活用されています。ATペース(AT:無酸素性作業閾値)という言葉をご存じの方も多いと思いますが、このペースを効率的に向上させようとするメニューとなっています。ATペースより少し速いペースで40分から60分を走る練習と、それよりも遅いペースで長く走るロング走をバランスよく組み合わせています。
――提示されるメニューは週に2回か3回となっていますが、これだけだと少なくないですか?
平川 速くなるためには身体を変えていかないといけません。そのためには「休養も練習の一つ」という考え方を通して、超回復のリズムに乗せていくことが重要と考えています。週2~4回でも質の高い練習ができれば速くなることは可能です。速めのペース走では心拍数を上げて呼吸循環系に負荷をかけ、ロング走では長い距離に耐え得る脚作り、そして休養では身体を超回復させる。これらが実現できるメニューとなっています。
現在の走力をもとに目標とするレースや練習の頻度など、条件に合わせて「フォーム改善プログラム」と「ランニングプログラム」の2種類が作成される
――「フォーム改善プログラム」はどのような仕組みでメニューが出されているのですか?
平川 「アシックスランニングラボ」というストアでフォームを計測してトレーニングを提案するサービスの実績を基に作っています。フォームは意識だけではなかなか変わりません。土台となる身体のクセや筋力のアンバランスを解消するために、ストレッチと筋力トレーニングを組み合わせたプログラムを提示しています。
最初はシンプルな動作をいかに適切な姿勢でできるか。次に、スクワットやレッグランジといった実際の走行動作に近い動きを入れて、狙った筋力を強化できるようにステップアップしていきます。これもモーションセンサーで測定されたフォームの特徴に合わせてたくさんのトレーニングから選ばれたものになります。
――モーションセンサー単体(税込14,080円)でも十分な性能ですが、G-SHOCK(GSR-H1000AS-SET、モーションセンサーとセットで税込57,200円)と連携した場合はどのようなメリットがありますか?
平川 G-SHOCKはモーションセンサーと連動するので手元でスタート・ストップ・一時停止ができます。リアルタイムでフォームやピッチ・ストライドの変化などを知らせるようにもできます。心拍数計測や、レース中のペース推移からゴールタイムを予測・表示する機能もあります。
G-SHOCK(GSR-H1000AS-SET)と連携すれば走りながらフォームの変化なども確認できる
――また、アシックスではセンサーの入ったシューズでフォームを分析する「EVORIDE ORPHE(エボライド オルフェ)」もあります。どのような使い分けがお勧めですか?
平川 まず、2つのサービスで違うのは足と腰という計測部位です。エボライド オルフェは接地を直していきたいという明確な問題意識を持っている方が細かく確認するのに長けています。ランメトリックスは全体をスクリーニングして、今の自分の何が弱点なのかというのを示してくれます。傾向を分析したり、プログラムを実施したりしながら中長期的に改善していくのが特徴です。
フォームも接地だと意識しやすいですが、腰からのアプローチは身体を土台から作らないと変わりにくい傾向があります。改善サイクルを回しやすいエボライド オルフェと、興味関心によって使い分けるのが良いかと思います。
自身の体験から生まれたサービス
――どういう方にランメトリックスを使ってもらいたいですか。
平川 ビギナーからトップランナーまで幅広く使っていただきたいです。月陸Onlineの読者の方だと、無理なく効率的にパフォーマンスを高めていきたいという方には特にお勧めです。やはりレベルアップするためには今の自分の強みと課題を知り、練習強度や質を保って、それを継続することが大切です。自分自身のフォーム計測と評価はその点で重要だと考えています。
――平川さんも陸上競技をされていたそうですね。
平川 全然速くはないのですが、小・中・高・大と中長距離をやっていました。社会人になってからマラソンを始めて、ベストは3時間18分です。
実は、ランメトリックスには自分が陸上をがんばっていた頃の経験というのが根幹にあります。私は調子のいい時に限ってケガをするタイプだったんです。練習をやりすぎたりして。
「何でこうなんだろう」といつも思っていたのですが、「自分はなぜこういうケガをしがちで、どういうところを直すべきか」ということがわかるだけで安心した経験がありました。
原因がわからないけどどこかが痛い、いつ練習に復帰していいかがわからない、ポイント練習に参加できないから決められた補強だけをやっている、といった競技生活よりは、自分に必要なことを知ってそれに取り組むほうが強くなれるし、絶対に楽しいなと思ったんです。それは市民ランナーも学生も同じだと思います。
だからパーソナルコーチングは思い入れというか、個人的にはそういった経験の上にあるものとなっています。
――陸上競技をやっていても専門の指導者に出会えるとは限りませんし、一人で走っているランナーは特にランメトリックスを有効活用できそうですね。
平川 そう思います。指導者に恵まれなかったり、練習メニューを作ってくれる人がいないことの大変さは私もすごくわかります。学生時代は月陸に載っているメニューや連続写真の解説などを穴が開くほど読んでいました(笑)。ぜひそういった方にこそランメトリックスを手に取っていただきたいですね。
細かい質問にも的確に回答してくれた平川さん。ランメトリックスが多くの人に役立てられることを願っている
構成/山本慎一郎
<関連リンク>
ASICS×CASIO MOTION SENSOR(アシックス公式サイト)
Runmetrix(カシオ公式サイト)
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――ランメトリックスはカシオとの「価値協創事業」とのことですが、どういうきっかけで始まったのでしょうか。 平川 もともと私が陸上競技をやっていたこともあり、ランニングフォームというものに強い関心を持っていて、何か形にできないかということを常に考えていました。また、アシックスは中期経営計画において、デジタルを柱にして人々のスポーツパフォーマンスや健康をサポートしていく「デジタルドリブンカンパニー」になるというビジョンを掲げています。そのような折に、ご縁があって2018年5月にカシオ計算機から「こういうデバイスがあるんですけど、いかがですか」とお声がけいただき、そこから意見交換をして開発がスタートしました。 ――ランメトリックスはモーションセンサーでフォームを解析できるのが特徴ですが、どうしてこのようなサービスが生まれたのでしょうか。 平川 身体への負担を軽減して質の高い練習を継続したり、効率良くダイナミックな動きでパフォーマンスを上げるためにランニングフォームは大切です。でも、ランニングフォームの可視化や改善は専門の機器や指導者がいないとなかなかできませんでした。自分の好不調をいつでもどこでも確認できて、それを修正したらどうなったかをすぐに計測できるようにしたい、というのがランメトリックスを開発した発端になります。 ――アシックスとカシオの2社でどのように開発を分担したのですか? 平川 動きやGPSの基本的な計測情報の取得はカシオの開発範囲です。アシックスは、計測値をどうランナーにとってわかりやすい情報にし、活用してもらえるかという点で開発を担当しました。 まず、腰の動きで何を数値化できればランナーにとってより意味のあるデータになるか、というディスカッションを両社で始めました。例えば上下動にしても接地時に沈み込む大きさと跳ぶ高さでは意味が違います。そして、それをどうアプリに落とし込むか。「データをグラフにしましょう」とか、「こういう動きの人にはこんな言葉を出しましょう」というような、ユーザーに情報を届けるアプリケーションとアルゴリズムを開発しました。センサー本体や操作性については、ランナーの実際の使用場面を考慮した使いやすさについて意見を交換しました。


レースペースのフォームが基準
――ランメトリックスのフォーム分析はどういうシーンでの使用を想定して作られましたか? 平川 基本的にはすべての練習でご使用いただけるよう想定しています。また、パーソナルコーチング機能では「RUN FASTER」を選ぶと速く走った時のデータを選んで分析し、「RUN LONGER」では相対的に長く走った時のデータを使うので、フルマラソンを目指す人ならレースペースでの距離走、5km、10kmの記録向上を目指すのであれば全力のレペティションなどが自分のフォームを把握する上では一番いいと思います。 ただし、アスリートはジョグの時に使ってもその時の自分の調子がわかるそうです。「今日はいつもより左右差があるな」とか、「合宿終盤は姿勢の安定ができていなかったな」など、全力を発揮する練習ではない時のデータは自分の調子や疲労度の把握にも役立てられています。


アシックスの科学的知見が反映された 「パーソナルコーチング」
ランメトリックスの主な機能はモーションセンサーを使ったランニングフォーム分析だが、もう一つの柱として「パーソナルコーチング」機能もある。「もっと速くなりたい」「長い距離が走れるようになりたい」といった個々の目標をアプリで設定すると、集計データをもとに目標達成のための練習メニューを提示してくれるのだ。「どんな練習をすればいいのかわからない」というビギナーはもちろんのこと、フォームに磨きをかけたいアスリートにも役立つ機能と言えるだろう。 ――パーソナルコーチングでは個々に合わせたトレーニングメニューが提示されますが、これは何がベースとなっているのですか? 平川 パーソナルコーチングは2つのプログラム掲示機能があって、1つは「ランニングプログラム」というランニングのメニューを作る機能と、「フォーム改善プログラム」という筋トレやストレッチのメニューを作る機能があります。 ランニングプログラムはアシックスが長年培ってきた知見が活用されています。ATペース(AT:無酸素性作業閾値)という言葉をご存じの方も多いと思いますが、このペースを効率的に向上させようとするメニューとなっています。ATペースより少し速いペースで40分から60分を走る練習と、それよりも遅いペースで長く走るロング走をバランスよく組み合わせています。 ――提示されるメニューは週に2回か3回となっていますが、これだけだと少なくないですか? 平川 速くなるためには身体を変えていかないといけません。そのためには「休養も練習の一つ」という考え方を通して、超回復のリズムに乗せていくことが重要と考えています。週2~4回でも質の高い練習ができれば速くなることは可能です。速めのペース走では心拍数を上げて呼吸循環系に負荷をかけ、ロング走では長い距離に耐え得る脚作り、そして休養では身体を超回復させる。これらが実現できるメニューとなっています。


自身の体験から生まれたサービス
――どういう方にランメトリックスを使ってもらいたいですか。 平川 ビギナーからトップランナーまで幅広く使っていただきたいです。月陸Onlineの読者の方だと、無理なく効率的にパフォーマンスを高めていきたいという方には特にお勧めです。やはりレベルアップするためには今の自分の強みと課題を知り、練習強度や質を保って、それを継続することが大切です。自分自身のフォーム計測と評価はその点で重要だと考えています。 ――平川さんも陸上競技をされていたそうですね。 平川 全然速くはないのですが、小・中・高・大と中長距離をやっていました。社会人になってからマラソンを始めて、ベストは3時間18分です。 実は、ランメトリックスには自分が陸上をがんばっていた頃の経験というのが根幹にあります。私は調子のいい時に限ってケガをするタイプだったんです。練習をやりすぎたりして。 「何でこうなんだろう」といつも思っていたのですが、「自分はなぜこういうケガをしがちで、どういうところを直すべきか」ということがわかるだけで安心した経験がありました。 原因がわからないけどどこかが痛い、いつ練習に復帰していいかがわからない、ポイント練習に参加できないから決められた補強だけをやっている、といった競技生活よりは、自分に必要なことを知ってそれに取り組むほうが強くなれるし、絶対に楽しいなと思ったんです。それは市民ランナーも学生も同じだと思います。 だからパーソナルコーチングは思い入れというか、個人的にはそういった経験の上にあるものとなっています。 ――陸上競技をやっていても専門の指導者に出会えるとは限りませんし、一人で走っているランナーは特にランメトリックスを有効活用できそうですね。 平川 そう思います。指導者に恵まれなかったり、練習メニューを作ってくれる人がいないことの大変さは私もすごくわかります。学生時代は月陸に載っているメニューや連続写真の解説などを穴が開くほど読んでいました(笑)。ぜひそういった方にこそランメトリックスを手に取っていただきたいですね。
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