HOME バックナンバー
Rising Star Athlete 源 裕貴 日本中距離界に現れたパリ五輪の星
Rising Star Athlete 源 裕貴 日本中距離界に現れたパリ五輪の星

6月6日のデンカアスレチックスチャレンジカップの男子800mで日本歴代5位の1分46秒50をマーク。昨季までの自己ベストを3秒以上も短縮しているのが源裕貴(環太平洋大)だ。日本選手権は5位に終わったが、今季大躍進している21歳は魅力もポテンシャルも十分。日本長距離界において突如として存在感を放ち始めた理由とこれまでのルーツ、そして今後の展望を探った。
文/酒井政人

トラブル続きだった日本選手権

21歳の源裕貴(環太平洋大)は強い意志を持って日本選手権の男子800mに挑んでいた。頭の中にあった数字は日本記録1分45秒75よりも速い東京五輪参加標準記録の「1分45秒20」。予選からタイムを狙う予定だったが、思わぬアクシデントに見舞われる。

「アップ中にスパイク前足部に搭載されていたエアの空気が抜けてしまい、メンタル的にやられました。予選は練習用として持参した同じモデルのスパイクを使ったんですけど、サイズが大きいので走りにくかったんです」

源は予選2組で1分48秒58の2着通過になった。翌日の決勝はチームメイトが岡山から届けてくれた、サイズの合う同じモデルのスパイクを着用。ウォーミングアップの動きも良かったという。本来なら自分から行くタイプではないが、ひとりで攻め込んだ。

1周目のホームストレートで先頭に立ち、400mを51秒8で通過。残り160m付近で金子魅玖人(中大)にトップを奪われると、他の3選手にも行く手を阻まれる。最後の直線は前に出られないままレースを終えた。

広告の下にコンテンツが続きます

「追いつかれた時は、まだ余力もあったんです。でも位置取りが良くなかったですね。少しアウトに逃げておけば、2~3番手の選手に抜かれることはなかったのかなと思います。ポケットされて焦り、スピードに乗れずに、最後は動くことができませんでした」

経験不足から実績面で勝るライバルたちに敗れてしまい、東京五輪を狙ったレースで1分47秒21の5位。初の日本選手権は不完全燃焼に終わった。しかし、今季前半の活躍ぶりで源が「今後が楽しみな中距離ランナーのホープ」として認知されたのは間違いないだろう。

初の日本選手権は5位に終わったが、6月6日にマークした1分46秒50は7月15日時点で日本ランキング1位につける

山口出身で美祢市立伊佐中までは野球部。進学した美祢青嶺高で陸上競技を始めた。「本当はバレー部に入りたかったんですけど」と言う源は、実は陸上一家の育ち。美祢工高(現在は美祢青嶺に統合)出身である父・清美さん(旧姓・藤永)は1980年の第31回全国高校駅伝1区を区間4位で走っている元ランナー。母親のさゆりさんも100mハードルでインターハイ準決勝に進出している。だが、源自身は「陸上にはまったく興味がなかったんです」と笑う。陸上を始めたのは不思議な縁で、父・清美さんの高校時代の恩師・高見克人先生が、巡り巡って再び陸上部の監督をしていた(※指導を受けたのは西村章先生)。「それで父の勧めもあって陸上部に入りました」。

当初は渋々スタートさせた陸上のキャリア。1年時のインターハイ支部大会で「枠が空いていた」という理由で800mに出場した。予選を2分11秒台、決勝を2分07秒台で走り、山口県大会に駒を進めた。県大会では2分08秒30で予選敗退。だが、実はトレーニングは「長距離、駅伝の練習」主体で、レースも長距離が中心だった。5000mの高校ベストは15分10秒で、駅伝では3年時の山口県大会7区で区間賞、中国大会7区で区間2位という結果を残している。

それでも、高3の中国大会前からは、中距離用のメニューを西村先生に提案し、インターハイ出場をつかんだ。予選で敗退したが、「全国大会に臨む選手たちの覇気を感じられたことが大きかった」と競技へのモチベーションは高くなった。そして、国体少年共通(予選で受けた進路妨害の救済措置で決勝に進出)では、1分52秒58をマークして6位に食い込んでいる。

高校卒業後は「就職」と決めていたが、「国体での入賞を経験して、ここで競技をやめたら後悔しそうだな」という気持ちが芽生え始めたという。

源のセンスを早くから感じ取っていたのが環太平洋大の吉岡利貢コーチだった。中国大会では1分56秒25の2位に入ったが、声をかけたのは、その予選で当時ベストとなる1分58 秒84をマークした時だった。「タイムはともかく、上半身の姿勢、腕振りがきれいな選手だったのが印象的でした」(吉岡コーチ)。何度か熱心に誘ったものの、当初は源も「就職」しか考えていなかった。それでも熱心な勧誘が実り同大に進学することが決まる。

この続きは2021年7月14日発売の『月刊陸上競技8月号』をご覧ください。

 

※インターネットショップ「BASE」のサイトに移動します
郵便振替で購入する
定期購読はこちらから

6月6日のデンカアスレチックスチャレンジカップの男子800mで日本歴代5位の1分46秒50をマーク。昨季までの自己ベストを3秒以上も短縮しているのが源裕貴(環太平洋大)だ。日本選手権は5位に終わったが、今季大躍進している21歳は魅力もポテンシャルも十分。日本長距離界において突如として存在感を放ち始めた理由とこれまでのルーツ、そして今後の展望を探った。 文/酒井政人

トラブル続きだった日本選手権

21歳の源裕貴(環太平洋大)は強い意志を持って日本選手権の男子800mに挑んでいた。頭の中にあった数字は日本記録1分45秒75よりも速い東京五輪参加標準記録の「1分45秒20」。予選からタイムを狙う予定だったが、思わぬアクシデントに見舞われる。 「アップ中にスパイク前足部に搭載されていたエアの空気が抜けてしまい、メンタル的にやられました。予選は練習用として持参した同じモデルのスパイクを使ったんですけど、サイズが大きいので走りにくかったんです」 源は予選2組で1分48秒58の2着通過になった。翌日の決勝はチームメイトが岡山から届けてくれた、サイズの合う同じモデルのスパイクを着用。ウォーミングアップの動きも良かったという。本来なら自分から行くタイプではないが、ひとりで攻め込んだ。 1周目のホームストレートで先頭に立ち、400mを51秒8で通過。残り160m付近で金子魅玖人(中大)にトップを奪われると、他の3選手にも行く手を阻まれる。最後の直線は前に出られないままレースを終えた。 「追いつかれた時は、まだ余力もあったんです。でも位置取りが良くなかったですね。少しアウトに逃げておけば、2~3番手の選手に抜かれることはなかったのかなと思います。ポケットされて焦り、スピードに乗れずに、最後は動くことができませんでした」 経験不足から実績面で勝るライバルたちに敗れてしまい、東京五輪を狙ったレースで1分47秒21の5位。初の日本選手権は不完全燃焼に終わった。しかし、今季前半の活躍ぶりで源が「今後が楽しみな中距離ランナーのホープ」として認知されたのは間違いないだろう。 初の日本選手権は5位に終わったが、6月6日にマークした1分46秒50は7月15日時点で日本ランキング1位につける 山口出身で美祢市立伊佐中までは野球部。進学した美祢青嶺高で陸上競技を始めた。「本当はバレー部に入りたかったんですけど」と言う源は、実は陸上一家の育ち。美祢工高(現在は美祢青嶺に統合)出身である父・清美さん(旧姓・藤永)は1980年の第31回全国高校駅伝1区を区間4位で走っている元ランナー。母親のさゆりさんも100mハードルでインターハイ準決勝に進出している。だが、源自身は「陸上にはまったく興味がなかったんです」と笑う。陸上を始めたのは不思議な縁で、父・清美さんの高校時代の恩師・高見克人先生が、巡り巡って再び陸上部の監督をしていた(※指導を受けたのは西村章先生)。「それで父の勧めもあって陸上部に入りました」。 当初は渋々スタートさせた陸上のキャリア。1年時のインターハイ支部大会で「枠が空いていた」という理由で800mに出場した。予選を2分11秒台、決勝を2分07秒台で走り、山口県大会に駒を進めた。県大会では2分08秒30で予選敗退。だが、実はトレーニングは「長距離、駅伝の練習」主体で、レースも長距離が中心だった。5000mの高校ベストは15分10秒で、駅伝では3年時の山口県大会7区で区間賞、中国大会7区で区間2位という結果を残している。 それでも、高3の中国大会前からは、中距離用のメニューを西村先生に提案し、インターハイ出場をつかんだ。予選で敗退したが、「全国大会に臨む選手たちの覇気を感じられたことが大きかった」と競技へのモチベーションは高くなった。そして、国体少年共通(予選で受けた進路妨害の救済措置で決勝に進出)では、1分52秒58をマークして6位に食い込んでいる。 高校卒業後は「就職」と決めていたが、「国体での入賞を経験して、ここで競技をやめたら後悔しそうだな」という気持ちが芽生え始めたという。 源のセンスを早くから感じ取っていたのが環太平洋大の吉岡利貢コーチだった。中国大会では1分56秒25の2位に入ったが、声をかけたのは、その予選で当時ベストとなる1分58 秒84をマークした時だった。「タイムはともかく、上半身の姿勢、腕振りがきれいな選手だったのが印象的でした」(吉岡コーチ)。何度か熱心に誘ったものの、当初は源も「就職」しか考えていなかった。それでも熱心な勧誘が実り同大に進学することが決まる。 この続きは2021年7月14日発売の『月刊陸上競技8月号』をご覧ください。  
※インターネットショップ「BASE」のサイトに移動します
郵便振替で購入する 定期購読はこちらから

次ページ:

       

RECOMMENDED おすすめの記事

    

Ranking 人気記事ランキング 人気記事ランキング

Latest articles 最新の記事

2025.03.26

日本選手権室内・日本室内大阪大会が終了 リレーフェス今年実施せず、U16リレーは7/12~13の日本選手権リレー・混成と併催

日本陸連は3月26日、都内で理事会を開き、2025年度の主要競技会日程を承認した。 これまで、主に毎年2月に実施していた日本選手権室内・日本室内大阪大会は終了とし、25年度から行われない。 同大会は元々、1984年に「国 […]

NEWS 【男子3000m】尾田祥太(Runup Academy・中2) 8分37秒25=中2歴代6位

2025.03.26

【男子3000m】尾田祥太(Runup Academy・中2) 8分37秒25=中2歴代6位

3月22日、名古屋市のパロマ瑞穂北陸上競技場で愛知陸協長距離競技会(第1回トヨタ紡織記録挑戦会)が行われ、男子3000mに出場した尾田祥太(Runup Academy/岡崎南中2愛知)が8分37秒25の中2歴代6位のタイ […]

NEWS セイコーGGPと日本選手権で東京世界陸上の運営トレーニング実施「大会運営に必要な能力・経験」の蓄積目指す

2025.03.26

セイコーGGPと日本選手権で東京世界陸上の運営トレーニング実施「大会運営に必要な能力・経験」の蓄積目指す

公益財団法人東京2025世界陸上財団は3月26日に理事会を開き、本番での運営能力向上を図るため、運営トレーニングを実施することを発表した。 トレーニングの対象大会は、本番のメイン会場である国立競技場で行われるセイコーゴー […]

NEWS スズキの田原遼太郎が現役引退 800mインターハイ出場 大学時代は関西インカレ1万m優勝

2025.03.26

スズキの田原遼太郎が現役引退 800mインターハイ出場 大学時代は関西インカレ1万m優勝

スズキは所属する田原遼太郎が現役を引退し、社業に専念することを発表した。 田原は大阪府出身の26歳。中学から陸上を始め、当初は800mなど中距離に取り組み、13年全中では準決勝まで進んでいる。大阪高でもトラックや高校駅伝 […]

NEWS 東京世界陸上ボランティアに3100人が採用 周辺協力者含めて3400人で構成

2025.03.26

東京世界陸上ボランティアに3100人が採用 周辺協力者含めて3400人で構成

公益財団法人東京世界陸上財団は3月26日に理事会を開催し、ボランティアの採用結果について発表した。 11月1日から12月17日までの期間で募集し、当初想定していた募集人数3000人程度を大きく上回る8,276人が応募。そ […]

SNS

Latest Issue 最新号 最新号

2025年4月号 (3月14日発売)

2025年4月号 (3月14日発売)

別冊付録 2024記録年鑑
山西 世界新!
大阪、東京、名古屋ウィメンズマラソン詳報

page top