2021.07.14
全日本大学駅伝選考会は2位通過も喜びはなかった
学生駅伝で上位争いの常連となった國學院大。6月19日の全日本大学駅伝関東選考会は総合2位で通過した。3組終了時点でトップに立つなど、その総合力の高さを見せたと言える。2019年度のような絶対的な存在こそ不在だが、チーム力は年々高まっている印象だ。今季は主力のケガ人も相次いだが、新たな戦力も台頭。強化の夏、そして秋の駅伝シーズンを前に、前田康弘監督はチームをどう評価しているのかインタビューした。
――前半戦は、島崎慎愛選手(4年)の日本学生ハーフ3位に始まり、存在感を示す場面が多かったように思います。
前田康弘監督(前田) 本当は日本学生ハーフにはもっと選手を出したかったんですけどね……。どの大学も一緒ですが、人数制限があったので仕方ないです。そういう状況だったので、出場する選手には“(ワールドユニバーシティゲームズの)日本代表を取りに行く”っていう気持ちを求めていましたし、箱根が終わってからは、日本学生ハーフに向けてスケジュールを組んでいました。箱根が終わった後に、疲労が出たり、故障したりした主力選手もいたのですが、その中でも、島崎は全部の練習メニューを完璧に消化しました。
(※3位でワールドユニバーシティゲームズの代表内定となったが、その後、コロナ禍で大会が延期となり内定取り消し)
チームとしては、昨年、全日本大学駅伝のシード権を逃したので、全日本の関東選考会を前期の最大の目標にしていました。関東インカレは、個人である程度戦える状況にある上級生は10000mに出場しましたが、全日本選考会までは1カ月もないので、下級生は回避させました。関東インカレでうまく走れても、その後に疲労で全日本選考会を走れないということが過去にはありましたから。関東インカレのハーフ組も、基本的には全日本選考会を狙わせる選手ではなく、箱根駅伝仕様の選手を起用しました。
島崎が学生ハーフ3位と存在感を示した
――全日本大学駅伝選考会は2位通過でした。結果発表時に全く喜ぶ様子はありませんでしたが、前田監督はどのように受け止めたのでしょうか。
前田 学生は、箱根駅伝総合優勝を今季の目標に掲げていますから、それを考えた時には、厳しい言葉しかないですよ。この結果では、(箱根優勝は)できるわけないだろう、と。
だけど、彼らはそういう考えを持っているから、選考会では積極的な走りをしたんですよね。木付(琳、4年)にしても、1年生の平林(清澄)にしても、藤木(宏太)にしても、自分の判断で出ましたから。その姿勢は間違いではないと思います。失敗しない限りは見えてこない。彼らも、自分の弱さを知ることができたのは収穫だったと思います。ただ、全日本のシード校には、とんでもない大学が8つもあるんです。青学大や駒大があの選考会に出ていたとしたら、誰が走っても、ダントツで通過していたんじゃないですかね。
――全日本選考会では、これまで駅伝経験のなかった川崎康生選手、坂本健悟選手ら3年生が堅実な走りを見せました。翌日の国士大競技会でも3年生の藤本竜選手が、29分39秒43と好走しています。
前田 選考会はもともと中堅どころの3年生以下の選手を起用したいなと思っていました。ウチは高校の時に全国大会を経験している選手が少ないので、緊張感のあるところで場数を踏んで、経験値を上げてほしかったんです。それが川崎と坂本だったということです。藤本も、暑かった中での記録会でしたが収穫になりました。持ちタイムはまだまだですけど、2年間積み重ねてきたものが、徐々に出てきているのかなと思います。
――中西唯翔選手も、関東インカレのハーフマラソン(2部)で8位入賞しましたし、3年生が充実してきていますね。
前田 3年生、来ていますよ! ただ、ある程度のところまで来ても、もう2段階ぐらい上げないと、駅伝では戦えませんから、この夏にさらに強化したいです。これまでは、3年生の学年は(中西)大翔だけみたいに映っていたところがあったと思いますが、だからこそ、自分たちの学年に危機感を持ちながら取り組んできたのではないでしょうか。
唯翔も去年1年間は故障していましたが、やっと故障が癒えて、練習が徐々にできるようになっていました。大翔も、同級生が頑張っているのを見て、刺激を受けていると思いますよ。3年生に加え、今の1年生も、徐々に戦力として見えてきている選手がいるから、そのあたりが戦力になってくると、(秋以降は)春よりもプラスアルファが出せるのかなと思っています。
――その1年生では、平林選手が好調を維持しています。要因はどんなところにありますか?
前田 彼は2月の合宿にも参加したんですけど、距離走などでも平気で25㎞をこなしていて、むちゃくちゃ強いなと思わせてくれました。高校(福井・美方高)の先生が大事にしっかり育ててくれたからっていう一言に尽きるんじゃないでしょうか。あと“強くなりたい”っていう向上心とか欲求がすごい。そういうところは、学年が上がっても持っていてもらいたいですよね。
彼はフロントランナーで、今までは常に前のほうで勝負しようとしていたんです。それで、なかなか勝ち切れずにいました。それだと、心理的にも、肉体的にも持たないと思ったので“ちょっと一歩下がる勇気を持とうよ。一番後ろから行ってみろ”ってアドバイスをしました。そしたら、4月の日体大競技会でいきなり好走(10000m28分38秒88)しました。今は、最初はリラックスして入って、中間から上げるっていうレースが、彼のスタイルになってきています。まあ、ラストはまだ課題ですけど……。でも、そこは伸びしろの部分でもありますね。将来的には主要選手になってくると思います。まだまだ線も細いので、しっかり体を作らせたい。秋以降は、三大駅伝を経験させたいですね。
――他の1年生の状況についてもお聞かせいただけますか。5000m13分台の記録をもつ山本歩夢選手は、U20日本選手権で5000m8位入賞しています。
前田 歩夢は3月に故障して、5月中旬ぐらいから走り始めたばかりでした。U20は参加標準記録を切っていて出場権利があったので、狙いにいくというよりも、経験という位置づけで臨ませました。自分の弱さにも気づいてもらいたかったですし。鶴川君(正也、青学大)らにボコボコにやられましたが、それも良い経験になったと思います。それに、4年生になった時には日本選手権に出なきゃいけない選手だと思っているので、同日にやっていた日本選手権の5000mもしっかり見てほしいと思っていました。
中川雄太は、順調だったら全日本選考会でも起用したかった選手です。高3時に両脚のスネを疲労骨折していて、大学に入ってからもシンスプリントの症状があって、今は回復途上。佐藤快成も、ケガがあって、高3の7月からレースに出ていませんが、だいぶ戻ってきています。7月は約1年ぶりに試合にも出場します。今後、ケガをしなかったら、すごく良い選手になると思います。あと、14分30秒台で入ってきた選手ですが、三潟憲人と原秀寿が、身体能力が高く、期待値は高いですね。
チームの足並みがそろいつつある國學院大。前田監督も手応えを感じているようだ(写真は3月撮影)
――三潟選手は、1500mで関東インカレ、U 20と決勝進出していますね。
前田 1500mランナーとして育てるつもりはないのですが、長い距離から入るよりも質を上げて集中力を持ってやらせたほうが、彼には合っているだろうなと思って取り組んでいます。彼のお父さん(三潟卓郎さん)はスズキ浜松ACで監督をされていた方で、能力が高いですね。U20で10位だったのが相当悔しかったみたいで、かなり前向きに練習に取り組んでいます。山本とも同じ練習ができているので、面白いと思いますよ。
――箱根後に中西大翔選手、殿地琢朗選手、2月の合宿中に木付琳選手と主力にケガが相次ぎましたが、関東インカレ、全日本選考会を通して、だいぶ足並みがそろってきた印象があります。
前田 そこは、私たちスタッフも注力していた部分でもあります。夏合宿前までには、ある程度の状態にしたいよね、と山口(祥太)コーチとも話していました。大翔や殿地だけでなく、1年生の快成や歩夢らが、この3カ月ぐらいで戻ってきたのは良かった点ですね。
――出雲駅伝は昨年中止だったため、一昨年優勝の國學院大は「ディフェンディングチャンピオン」として迎えることになります。
前田 勝ったのは2年前だから、もう忘れちゃっていますよ。優勝旗を忘れないように返したいですね(笑)。
――今年のチームは、短い距離の出雲のほうがいいのか。それとも、全日本大学駅伝、箱根駅伝と距離が延びたほうが、力が発揮できるチームなのでしょうか?
前田 出雲駅伝はコンディション勝負になってくると思います。夏合宿明けですから。どこも前半から(主力を)並べてくると思います。距離が延びるからというよりも、箱根は山があるので、(5区、6区の)経験者がいるのは、アドバンテージになると思います。なおかつ、夏の取り組みの中で、その経験者を超える逸材が出てくるかもしれないという楽しみもありますね。
学生は総合優勝を掲げていますが、現実的な目標としては、まずはもう一度3位以内に入ることなのかな……。今年は充実している大学が多いですから。すべてのピースがはまらないと、なかなか勝つことはできないと思いますよ。でも、選手層が厚いだけでは勝てないのも、今の箱根駅伝です。とにかく、したたかに狙っていきたいです。(予想で)“△”をつけてもらえるように頑張ります!
構成/和田悟志
7月14日発売の月刊陸上競技8月号では全日本大学駅伝関東学連選考会の詳しいリポートとをお伝えしています!
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