写真提供/九州共立大
七種競技で日本選手権3連覇の女王が、ついに歴史を動かした。5月22日、23日に行われた九州共立大チャレンジ競技会で、山崎有紀(スズキ)が5975点をマーク。3年ぶりに102点更新する自己新は、アテネ五輪にも出場した中田有紀(当時・さかえクリニックTC、現・愛知つばさTCA)が2004年に樹立した日本記録5962点を更新する日本新だった。
九州インカレの延期に伴い、「学生たちのために」と設定された競技会。「6月の日本選手権に向けての調整」というつもりで、大会5日前に急きょ出場を決めた。1種目めの100mハードルで14秒00(+1.5)をマーク。「4月の大会で14秒38だったことを考えればそこそこ」。2日目の走幅跳では向かい風1.3mの中で6m01を跳び、やり投でも48m62の自己新を出した。ラストの800mは後輩に引っ張ってもらい、ラストは独走で2分13秒95のこちらも自己ベスト。日本女子初の6000点に近づく大記録だった。フィニッシュ後は涙。大学時代から師事する疋田晃久コーチ(九州共立大監督)と喜びを分かち合った。
「今出せる力は出せた」と言う一方、それはコンディションも含めてのこと。全体的には「普通」と山崎。やり投や砲丸投など「投てき種目が安定して取りこぼしがなくなった」のが好記録の要因だというが、自己ベストがやり投と800mだけだったことを考えれば、6000点やもっと大きな記録も見えてきた。山崎自身も「ハマればまだ出せそう」と可能性を見出しているようだ。
長崎南高校から九州共立大を経て、18年からスズキへ。高校時代は4551点がベストで全国上位選手ではなかった。ところが大学で着実に成長を遂げると、3年時に5751点と大ブレーク。しかし、日本一になり、連覇を続けるうちに失っていたものもあった。「もともと彼女の持ち味」と疋田コーチが語るのが「競技を楽しむこと」。それまではヘンプヒル恵(アトレ)らの後を追いかけて成長すればよかったが、追われる立場となり、「負けられない」という気持ちが強くなり、いつしか楽しむことを忘れてしまっていた。
今回、「原点回帰」という意味合いもあり、学生たちと一緒に「伸び伸びと混成競技をできた」。その中で「久しぶりに楽しく、学生の“ノリ”を感じられた」のが大きかったようだ。
これで日本記録保持者となり、日本選手権では4連覇が懸かる。それでも、「記録は考えず、1種目ずつ楽しくやっていきます」と気負いはない。だが、この新記録が七種競技界に与えた影響は大きい。ケガから復活を期すヘンプヒル、同日に大会新で関東インカレを制した大玉華鈴(日体大)、再挑戦する宇都宮絵莉(長谷川体育施設)らを大いに刺激したことだろう。
七種競技でオリンピックの舞台に立ったのは中田有紀ただ1人。東京五輪は現実的ではないにしても、日本のヘプタスリートが再び世界の舞台へ立つ日が来る。そんな予感を漂わせる17年ぶりの日本新だった。
【得点内訳】
5975点(100mH:14秒00/+1.5―走高跳1m65―砲丸投12m39―200m24秒63/+2.0―走幅跳6m01/-1.3―やり投48m62/800m2分13秒95)
■七種競技 日本歴代5傑
5975点 山崎有紀(スズキ)2021年
5962点 中田有紀(さかえクリニックTC)2004年
5907点 ヘンプヒル恵(中大)2017年
5821点 宇都宮絵莉(長谷川体育施設)2018年
5713点 佐藤さよ子(日立土浦)2001年

|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.04.22
愛知製鋼にケニア出身の24歳サイモン・ガサ・ムンガイが加入
-
2025.04.22
2025.04.17
駅伝王者に復権した旭化成 選手たちがパフォーマンスを最大限に発揮できた要因とは?
-
2025.04.19
-
2025.04.17
-
2025.04.20
-
2025.04.16
-
2025.04.20
2025.04.12
3位の吉居大和は涙「想像していなかったくらい悔しい」/日本選手権10000m
2025.03.23
女子は長野東が7年ぶりの地元V アンカー・田畑陽菜が薫英女学院を逆転/春の高校伊那駅伝
-
2025.04.01
-
2025.04.12
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.04.22
コリルが2時間4分45秒でメジャーマラソン連勝!女子はロケディが2時間17分22秒の大会新V/ボストンマラソン
第129回ボストン・マラソンは4月21日に米国の当地で行われ、男子はジョン・コリル(ケニア)が大会歴代3位の2時間4分45秒で優勝した。女子でシャロン・ロケディ(ケニア)が2時間17分22秒の大会新で制した。 最初の5k […]
2025.04.22
Onが三浦龍司をアスリート契約締結「新しい競技人生のスタート」本職初戦で世界陸上「内定決めたい」
スイスのスポーツブランド「On(オン)」は4月22日、男子3000m障害で五輪2大会連続入賞の三浦龍司(SUBARU)とアスリート契約締結を発表した。同日、国立競技場で会見を開いた。 勢いに乗るスポーツメーカーと日本のエ […]
2025.04.22
愛知製鋼にケニア出身の24歳サイモン・ガサ・ムンガイが加入
愛知製鋼は4月22日、サイモン・ガサ・ムンガイが新たに加入したとチームのSNSで発表した。 ケニア・マウセカンダリ高出身の24歳。ケニアでは昨年12月のケニアクロスカントリーシリーズ第6戦の10kmシニア男子で5位(32 […]
2025.04.22
東京世界陸上が朝日新聞社とスポンサー契約締結 報道、スポーツ支援の実績で貢献目指す
公益財団法人東京2025世界陸上財団は4月22日、朝日新聞社とスポンサー契約を締結したことを発表した。 朝日新聞社は1879年1月25日に創刊。以来、全国紙として国内外のさまざまなニュース、情報を発信してきたほか、スポー […]
Latest Issue
最新号

2025年4月号 (3月14日発売)
東京世界選手権シーズン開幕特集
Re:Tokyo25―東京世界陸上への道―
北口榛花(JAL)
三浦龍司(SUBARU)
赤松諒一×真野友博
豊田 兼(トヨタ自動車)×高野大樹コーチ
Revenge
泉谷駿介(住友電工)