2018.08.10
華麗なる陸上一家から「金メダリスト」誕生 サラブレッドの素顔と成長秘話
陸上界に二世アスリートは何人も誕生しているが、日本選手権の男子走幅跳で19歳ながら2連覇を達成した橋岡優輝(日大)の家族は、そのキャリアがとりわけ豪華だ。父の橋岡利行さんは棒高跳で5m55の自己記録(当時・日本記録)を持ち、中学・高校・大学・一般と各カテゴリーで優勝経験がある。日本選手権は7回制覇。母・直美さん(旧姓・城島)は三種競技Bでの全中優勝を皮切りに、100mハードル、走幅跳、三段跳などマルチに活躍。100mハードルではインターハイ3連覇の金字塔を打ち立て、利行さんと同様に各カテゴリーで優勝している。直美さんの妹・良子(りょうこ)さんは姉と同じ道に進んで、埼玉栄高時代に100mハードルで3年連続の入賞(3年時は2位)。のちに走幅跳で2000年シドニー五輪代表だった渡邉大輔さんと結婚し、現役を退いてから母校・八王子高に奉職した渡邉先生は甥っ子・優輝を預かることになった。さらに、利行さんの弟・橋岡和正さんと結婚したのが、直美さんの中学・高校時代のチームメイトでもある全中200m優勝の深雪さん(旧姓・笹川)で、優輝のいとこに当たる息子の大樹は今、サッカーJリーグの浦和レッズでディフェンダーとして活躍している。
こんな「サラブレッド」という名がピッタリの橋岡優輝は、7月のU20世界選手権(フィンランド・タンペレ)で、ただ1人8m台に乗せる8m03(+0.9)で金メダルを獲得。「アスリートの顔になって戻ってきました」と話す両親と、高校時代の恩師でもある叔父夫妻がそろった席で、お祝いのファミリー・トークを繰り広げてもらった。
部屋の中をウロウロしながら待った吉報
─U20世界選手権の金メダル、おめでとうございます。両親にはすぐ報告しましたか。
優輝 試合が終わってその日の夜に、すぐ電話しました。日本は午前3時とか4時とか、真夜中だったと思いますが。
母 パソコンを立ち上げて、ライブリザルトでずっと試合を気にしてたんです。2人で部屋の中をウロウロして、熊のようでした(笑)。「自分が跳んだ方が楽だよね」とか言いながら。
優輝 ライブリザルトがあったので、それで確認してるんだろうな、と思ってました。
父 試合は日本時間の午前2時から4時ぐらいだったかな。1本ずつパッと記録が出るんですけど、姿が見えないから不安で、不安で。大接戦だったから、よけいに心配しました。
母 その日はほとんど寝ないで仕事に行きましたもん。
叔母 私も布団の中で、ずっと姉とラインしながらリザルトを見てました。
─優勝できると思っていましたか。
父 「勝てばいいなあ」って。
優輝 僕は優勝を狙ってたので、勝てると思ってました。
母 今年の試合は、観ていて去年ほど不安がなかったので、「8mは跳んで来るんだろうな」と思ってました。
父 普通に跳べば勝てると思ったんですけど、春から(ダブル)シザースになってたじゃないですか。あれだと手前で足を着くので、「あれが出ちゃうとなあ」と不安でしたね。
突然に「脚が回っちゃった」
─走幅跳の専門家にお聞きしますが、反り跳びに近いシザース・ジャンプだった選手がなぜ突然、ダブルシザース・ジャンプになってしまうのですか。
叔父 練習してないからですね(笑)。
試合でいきなりなっちゃったということは、意図してやったものではないですよね。実は僕も高2の時に、勝手になっちゃったんです。当時、世界のトップだったカール・ルイス(米国/五輪4大会連続金メダル)やマイク・パウエル(同/世界記録保持者)の跳躍を遊びで真似してましたよ。でも、試合では一切やってなくて。だけど、ある試合でいきなりダブル(シザース)になってました。最初は優輝みたいに着地の脚がそろわなかったんですけど、たまたまインターハイの時に脚がそろって2番になりました。優輝は踏み切りが速くなったんじゃないですかね。
優輝 今年5月のゴールデングランプリ大阪で、1本目にいきなり来ましたからね。自分でもちょっと笑っちゃいました、あれは。
母 スタンドにいて驚愕を隠せなかったです、「エーッ?」って。
優輝 2本目から前の形に戻そうとしたんですけど、助走がかなり走れてて、どうしても回っちゃって、脚がそろう奇跡を待つしかないな、という感じでした(笑)。
母 そして、未だ合わず……(笑)。
叔父 日本選手権で8m09(+1.2)の自己新を出しましたけど、脚が手前に落ちて、20~30cmは損してますよ。お尻の位置というか重心の位置は、完全に日本記録(8m25)を超えてます。
父 ひどい時は立った状態で着地してますよね。
叔母 理屈ではわかっていても、できないんだよね。
優輝 イメージの中では行ける気がするんですけど、回っちゃってるから……。
─あと、身体がだいぶ斜めになって着地していませんか。
叔父 日本選手権の時も、正面から見たらリード脚が内側に入っちゃって、すごかったね。前はまっすぐスパンと入ってたのに。シザースになってからじゃない?
優輝 腰が痛いので、踏み切りが遅れちゃってるんですよね。一瞬で力が入らなくなっていて、たぶんうまく切り返しができてないのかもしれないです。
母 腰は、私たちも診ていただいてたトレーナーさんに今、優輝も診てもらってるんです。着地は本当にひどくて、あれだとケガしちゃうんじゃないかと心配になりますね。
叔母 でも、その着地が改善できたら、もっと記録が伸びるということだよね。
─8mは普通に跳躍すれば跳べる自信はありますか。
優輝 そこは問題ないです。着地はまだ試行錯誤中ですけど、そこさえうまく行けば、日本新は時間の問題だと思います。
叔母 まず叔父さんの記録(8m12)を抜いてからだね(笑)。
叔父 (自己ベストを)8m04、8m05、8m09と刻んでますからね。着地がそろえば大幅にやられます(笑)。
ダブル・シザースはやってきてないから、練習でやっていくしかないですよね。
父 関東インカレの時は3本目まで反り跳びに戻したんだよね。でも、4本目に相手に跳ばれて、気合が入ったらシザースになっちゃった。テンポアップして助走のスピードが上がると、シザースになっちゃうのかな。
本人はそこで悩んじゃったんですけど、大輔のところへ行って、いろいろアドバイスをもらったら、気が楽になったみたいです。
叔父 もう、なっちゃったものはしようがないですよね。一番集中したい時に出ちゃうんだから。
(構成/小森貞子)
※この先は2018年8月10日発売の『月刊陸上競技』9月号でご覧ください
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華麗なる陸上一家から「金メダリスト」誕生 サラブレッドの素顔と成長秘話
陸上界に二世アスリートは何人も誕生しているが、日本選手権の男子走幅跳で19歳ながら2連覇を達成した橋岡優輝(日大)の家族は、そのキャリアがとりわけ豪華だ。父の橋岡利行さんは棒高跳で5m55の自己記録(当時・日本記録)を持ち、中学・高校・大学・一般と各カテゴリーで優勝経験がある。日本選手権は7回制覇。母・直美さん(旧姓・城島)は三種競技Bでの全中優勝を皮切りに、100mハードル、走幅跳、三段跳などマルチに活躍。100mハードルではインターハイ3連覇の金字塔を打ち立て、利行さんと同様に各カテゴリーで優勝している。直美さんの妹・良子(りょうこ)さんは姉と同じ道に進んで、埼玉栄高時代に100mハードルで3年連続の入賞(3年時は2位)。のちに走幅跳で2000年シドニー五輪代表だった渡邉大輔さんと結婚し、現役を退いてから母校・八王子高に奉職した渡邉先生は甥っ子・優輝を預かることになった。さらに、利行さんの弟・橋岡和正さんと結婚したのが、直美さんの中学・高校時代のチームメイトでもある全中200m優勝の深雪さん(旧姓・笹川)で、優輝のいとこに当たる息子の大樹は今、サッカーJリーグの浦和レッズでディフェンダーとして活躍している。 こんな「サラブレッド」という名がピッタリの橋岡優輝は、7月のU20世界選手権(フィンランド・タンペレ)で、ただ1人8m台に乗せる8m03(+0.9)で金メダルを獲得。「アスリートの顔になって戻ってきました」と話す両親と、高校時代の恩師でもある叔父夫妻がそろった席で、お祝いのファミリー・トークを繰り広げてもらった。部屋の中をウロウロしながら待った吉報
─U20世界選手権の金メダル、おめでとうございます。両親にはすぐ報告しましたか。 優輝 試合が終わってその日の夜に、すぐ電話しました。日本は午前3時とか4時とか、真夜中だったと思いますが。 母 パソコンを立ち上げて、ライブリザルトでずっと試合を気にしてたんです。2人で部屋の中をウロウロして、熊のようでした(笑)。「自分が跳んだ方が楽だよね」とか言いながら。 優輝 ライブリザルトがあったので、それで確認してるんだろうな、と思ってました。 父 試合は日本時間の午前2時から4時ぐらいだったかな。1本ずつパッと記録が出るんですけど、姿が見えないから不安で、不安で。大接戦だったから、よけいに心配しました。 母 その日はほとんど寝ないで仕事に行きましたもん。 叔母 私も布団の中で、ずっと姉とラインしながらリザルトを見てました。 ─優勝できると思っていましたか。 父 「勝てばいいなあ」って。 優輝 僕は優勝を狙ってたので、勝てると思ってました。 母 今年の試合は、観ていて去年ほど不安がなかったので、「8mは跳んで来るんだろうな」と思ってました。 父 普通に跳べば勝てると思ったんですけど、春から(ダブル)シザースになってたじゃないですか。あれだと手前で足を着くので、「あれが出ちゃうとなあ」と不安でしたね。突然に「脚が回っちゃった」
─走幅跳の専門家にお聞きしますが、反り跳びに近いシザース・ジャンプだった選手がなぜ突然、ダブルシザース・ジャンプになってしまうのですか。 叔父 練習してないからですね(笑)。 試合でいきなりなっちゃったということは、意図してやったものではないですよね。実は僕も高2の時に、勝手になっちゃったんです。当時、世界のトップだったカール・ルイス(米国/五輪4大会連続金メダル)やマイク・パウエル(同/世界記録保持者)の跳躍を遊びで真似してましたよ。でも、試合では一切やってなくて。だけど、ある試合でいきなりダブル(シザース)になってました。最初は優輝みたいに着地の脚がそろわなかったんですけど、たまたまインターハイの時に脚がそろって2番になりました。優輝は踏み切りが速くなったんじゃないですかね。 優輝 今年5月のゴールデングランプリ大阪で、1本目にいきなり来ましたからね。自分でもちょっと笑っちゃいました、あれは。 母 スタンドにいて驚愕を隠せなかったです、「エーッ?」って。 優輝 2本目から前の形に戻そうとしたんですけど、助走がかなり走れてて、どうしても回っちゃって、脚がそろう奇跡を待つしかないな、という感じでした(笑)。 母 そして、未だ合わず……(笑)。 叔父 日本選手権で8m09(+1.2)の自己新を出しましたけど、脚が手前に落ちて、20~30cmは損してますよ。お尻の位置というか重心の位置は、完全に日本記録(8m25)を超えてます。 父 ひどい時は立った状態で着地してますよね。 叔母 理屈ではわかっていても、できないんだよね。 優輝 イメージの中では行ける気がするんですけど、回っちゃってるから……。 ─あと、身体がだいぶ斜めになって着地していませんか。 叔父 日本選手権の時も、正面から見たらリード脚が内側に入っちゃって、すごかったね。前はまっすぐスパンと入ってたのに。シザースになってからじゃない? 優輝 腰が痛いので、踏み切りが遅れちゃってるんですよね。一瞬で力が入らなくなっていて、たぶんうまく切り返しができてないのかもしれないです。 母 腰は、私たちも診ていただいてたトレーナーさんに今、優輝も診てもらってるんです。着地は本当にひどくて、あれだとケガしちゃうんじゃないかと心配になりますね。 叔母 でも、その着地が改善できたら、もっと記録が伸びるということだよね。 ─8mは普通に跳躍すれば跳べる自信はありますか。 優輝 そこは問題ないです。着地はまだ試行錯誤中ですけど、そこさえうまく行けば、日本新は時間の問題だと思います。 叔母 まず叔父さんの記録(8m12)を抜いてからだね(笑)。 叔父 (自己ベストを)8m04、8m05、8m09と刻んでますからね。着地がそろえば大幅にやられます(笑)。 ダブル・シザースはやってきてないから、練習でやっていくしかないですよね。 父 関東インカレの時は3本目まで反り跳びに戻したんだよね。でも、4本目に相手に跳ばれて、気合が入ったらシザースになっちゃった。テンポアップして助走のスピードが上がると、シザースになっちゃうのかな。 本人はそこで悩んじゃったんですけど、大輔のところへ行って、いろいろアドバイスをもらったら、気が楽になったみたいです。 叔父 もう、なっちゃったものはしようがないですよね。一番集中したい時に出ちゃうんだから。 (構成/小森貞子) ※この先は2018年8月10日発売の『月刊陸上競技』9月号でご覧ください
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