2021.03.26
東京五輪を控えるなか、女子短距離は参加標準記録突破者がおらず、リレーでも出場権を獲得できていない。4×100m、4×400mの両リレーの五輪出場枠は16。すでに2019年ドーハ世界選手権入賞国には出場権を与えられている。
残りの枠を手にするための手段は2つ。1つは5月1、2日にポーランド・シレジアで行われる世界リレー選手権で入賞すること。もう一つは、世界選手権と世界リレーの入賞国以外での、記録によるランキングで残りの枠に入らなければならない(※両大会入賞国が重複した場合)。
その世界リレー出場を目指すための、日本代表選考トライアルが3月28日に宮崎県で行われる。五輪に向けたラストチャンス。強い決意を抱くスプリンターをクローズアップする。
ドーハ世界選手権混合4×400mRに出場
2年前の国際大会挑戦が地元への祭典を意識するきっかけとなった。2019年10月に行われたドーハ世界選手権の男女混合4×400mリレー予選。高島咲季(青学大)は当時、神奈川・相洋高3年生ながら日本代表として出場を果たした。任せられたのはアンカー。一緒に走った他の7チームは全員男子選手という難しい状況でトラック1周を駆け抜けた。レース後に「高校生で世界と戦ったことをこれからに活かしていきたいです」と初々しいコメントを残した。
インターハイ女子400mでは18年、19年と2連覇を達成して高校ではトップを極めた。19年はシニアの舞台でも実績を残し、5月の静岡国際でU18日本記録、高校歴代5位の53秒31をマークして制すると、日本選手権は2位(53秒68)。それも優勝した青山聖佳(大阪成蹊AC)とは同タイムという大接戦を演じた。この活躍ぶりがドーハ世界選手権出場へとつながった。
五輪への想いが出てきたのはその頃だ。それまでは「オリンピックは自分と違って、才能があるひと握りの人たちが出る大会」。相洋高時代のチームメイトには、男子800mの高校記録(1分46秒59)保持者で19年日本選手権王者のクレイ・アーロン竜波(テキサスA&M大)がおり、「アーロンのような選手が将来オリンピックに行くのだろうな」と思っていたという。
日本代表に選ばれて青山らトップ選手と交流を深め、スタッフも含めてさまざまなアドバイスを受ける中で心の中が変わってきた。シーズンオフは女子リレープロジェクトの合宿にも参加。五輪は現実的に目指す大会に変わっていった。
ドーハ世界選手権男女混合4×400mRでは、決勝には進めなかったものの、アンカーとして3分18秒77の日本新記録樹立に貢献(左)
だが、20年春にはコロナ禍で東京五輪の1年延期が決定。高島にとっても苦しいシーズンとなった。自粛期間中は神奈川・藤沢市の自宅周辺での自主トレーニング。同じく400mが専門で、1つ年上の姉・菜都美(中大)とともに練習場所を探しながら走っていたが、5月末に左ハムスリングスを痛めてしまう。その後も「治っては痛めるの繰り返し」。自粛期間が明け、7月からは各地で試合が再開されたものの、満足に練習ができない日々が続いた。
結局20年初戦、つまり大学生初の大会は9月中旬の日本インカレだった。「スパイクを履いたのは3週間前」という状況でも、400mを53秒84で優勝を果たし、アンカーを務めた4×400mリレーでは3位からの逆転V。1年生ながら2冠に輝き、その存在感を示したが、「優勝を狙っていた」10月上旬の日本選手権には勢いが続かなかった。前年優勝の青山に連覇を許し、松本奈菜子(東邦銀行)には0.04秒差で競り負けての3位(53秒81)。翌週の日本選手権リレー4×400mリレーのアンカーを務めてこのシーズンを終え、出場したのは3大会だった。
「やりきったシーズンではありませんでした。インカレは最低ラインのタイムしか出せなかったし、日本選手権の3位は納得できません」と高島。断続的に故障してしまったことがその原因の一つだろう。「自己管理をもっとしないといけないと思いました。また、トレーナーさんや高校時代のチームメイトからも『大学生なんだから先生に頼ってはいけないよ』と言われました。自分のコンディションを考えて練習内容を調整していくことも必要だと思うようになりました」。
高校時代は毎日練習に出て、顧問の先生が言うメニューをこなせば結果を出せた。しかし、コロナ禍で指導者の目が届かないところで練習する時間が増えると故障してしまった。それが自分を見つめ直すきっかけになった。
2020年は故障をきっかけに競技者としての意識をいっそう高める1年となった(写真は日本インカレ)
新たなレースパターンに挑戦
今シーズンはリレーでの五輪出場を大きな目標に掲げ、世界リレーや日本選手権など重要なレースが目白押しだ。「52秒台を目標に、最低でも2年前の自己ベスト(53秒31)は更新したいです。また記録だけでなく、レースでは勝ちたいです。特に日本選手権は優勝したいです」と意気込む。
この冬は急坂を走るトレーニングを増やしてパワーをつけてきた。「トラック練習が例年よりも少ないのですが、筋力量は増えたと思います」と手応えを語る。
じっくりと蓄えてきたものを走りにつなげていく。高島のレースパターンとして、終盤の追い込みが特徴という反面、前半はスピードに乗り切れない課題があった。元々200mでも19年インターハイで2位(23秒76/高校歴代8位)に入るなどスプリント力はある。「今シーズンのテーマは『攻め』です。(後半型は)守りの走りなので、いかに前半をとばせるかが大切だと思います。その壁を突破できるかでタイムも変わってきます。あとはメンタル面がポイントになりますね」。新たなレースパターンに挑み、さらなる成長を見せるつもりだ。
今季初戦となる世界リレーの日本代表選考トライアルに向けては「この時期ですが53秒台を出したい」と高島。当然、世界リレーへのメンバー入りは言うまでもない。そして、その先をしっかり見据えている。「リレーではチームに貢献すること。それが私の役割です」。先月19歳を迎えたばかりだが、大舞台を目指す自覚が言葉ににじみ出ていた。
高島咲季(たかしま・さき)/2002年2月18日生まれ、19歳。神奈川・秋葉台中→相洋高→青学大。中学時代は全中200m予選落ちだったが、高校1年時の17年にU18日本選手権2位や、54秒51の高1最高で台頭。19年ドーハ世界選手権男女混合4×400mリレー代表。
文/井上 敦
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ドーハ世界選手権混合4×400mRに出場
2年前の国際大会挑戦が地元への祭典を意識するきっかけとなった。2019年10月に行われたドーハ世界選手権の男女混合4×400mリレー予選。高島咲季(青学大)は当時、神奈川・相洋高3年生ながら日本代表として出場を果たした。任せられたのはアンカー。一緒に走った他の7チームは全員男子選手という難しい状況でトラック1周を駆け抜けた。レース後に「高校生で世界と戦ったことをこれからに活かしていきたいです」と初々しいコメントを残した。 インターハイ女子400mでは18年、19年と2連覇を達成して高校ではトップを極めた。19年はシニアの舞台でも実績を残し、5月の静岡国際でU18日本記録、高校歴代5位の53秒31をマークして制すると、日本選手権は2位(53秒68)。それも優勝した青山聖佳(大阪成蹊AC)とは同タイムという大接戦を演じた。この活躍ぶりがドーハ世界選手権出場へとつながった。 五輪への想いが出てきたのはその頃だ。それまでは「オリンピックは自分と違って、才能があるひと握りの人たちが出る大会」。相洋高時代のチームメイトには、男子800mの高校記録(1分46秒59)保持者で19年日本選手権王者のクレイ・アーロン竜波(テキサスA&M大)がおり、「アーロンのような選手が将来オリンピックに行くのだろうな」と思っていたという。 日本代表に選ばれて青山らトップ選手と交流を深め、スタッフも含めてさまざまなアドバイスを受ける中で心の中が変わってきた。シーズンオフは女子リレープロジェクトの合宿にも参加。五輪は現実的に目指す大会に変わっていった。
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新たなレースパターンに挑戦
今シーズンはリレーでの五輪出場を大きな目標に掲げ、世界リレーや日本選手権など重要なレースが目白押しだ。「52秒台を目標に、最低でも2年前の自己ベスト(53秒31)は更新したいです。また記録だけでなく、レースでは勝ちたいです。特に日本選手権は優勝したいです」と意気込む。 この冬は急坂を走るトレーニングを増やしてパワーをつけてきた。「トラック練習が例年よりも少ないのですが、筋力量は増えたと思います」と手応えを語る。 じっくりと蓄えてきたものを走りにつなげていく。高島のレースパターンとして、終盤の追い込みが特徴という反面、前半はスピードに乗り切れない課題があった。元々200mでも19年インターハイで2位(23秒76/高校歴代8位)に入るなどスプリント力はある。「今シーズンのテーマは『攻め』です。(後半型は)守りの走りなので、いかに前半をとばせるかが大切だと思います。その壁を突破できるかでタイムも変わってきます。あとはメンタル面がポイントになりますね」。新たなレースパターンに挑み、さらなる成長を見せるつもりだ。 今季初戦となる世界リレーの日本代表選考トライアルに向けては「この時期ですが53秒台を出したい」と高島。当然、世界リレーへのメンバー入りは言うまでもない。そして、その先をしっかり見据えている。「リレーではチームに貢献すること。それが私の役割です」。先月19歳を迎えたばかりだが、大舞台を目指す自覚が言葉ににじみ出ていた。
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