2021.03.12
2016年の青学大以来の快挙
好条件に恵まれ、42位までがサブ10(2時間10分切り)と好記録に沸いた2月28日の「びわ湖毎日マラソン」で、ひっそりと快挙を成し遂げていた大学のチームがある。全日本大学駅伝に4年連続出場を果たすなど、今や東海地区を牽引する皇學館大だ。2時間16分07秒で走った平山寛人(4年)を筆頭に、花井秀輔(2年)が2時間17分04秒、宮城響(4年)が2時間18分40秒、上村直也(4年)2時間19分55秒と、出場した4人全員がサブ20(2時間20分切り)で走ったのだ。
過去を遡ると、2016年東京マラソンで青学大も4人がサブ20で走っている。
■2016年東京マラソンにおける青学大勢の成績
下田裕太(2年) 2時間11分34秒(10位)
一色恭志(3年) 2時間11分45秒(11位)
橋本 崚(4年) 2時間14分38秒(23位)
渡邉利典(4年) 2時間16分01秒(27位)
この時の青学大は圧倒的な強さを誇っており、箱根駅伝では2連覇を達成。勢いそのままに、2月の東京マラソンでも活躍が目立った。
「今の関東の大学なら何校か達成できますよね」と日比勝俊監督は謙遜するが、遡れる限り過去のマラソン結果を見返してみたが、1大会で4人がサブ20を達成したのは、今回の皇學館大が青学大に次いで2例目になる。関東に強豪が集中するなか、地方の大学がやってのけたのは快挙といっていいだろう。
12月の東海学生駅伝が終わると、皇學館大では多くの4年生が引退になる。だが、近年は、遠方出身の選手や卒業後も競技を続ける選手を中心に、3月ぐらいまで寮に残って練習を継続する選手が多いという。その場合、これまでであれば、2月の読売犬山ハーフマラソンを目標にトレーニングを組むことが多かった。
しかし、今年は新型コロナウイルスの影響で、昨年に続き同大会の開催が見送られた。さらに、日本学生ハーフマラソンは参加標準記録が設けられたため、希望する全員が出場できるわけではない。
そこで白羽の矢が立ったのがびわ湖毎日マラソンだった。
「寮に残って練習をしているので、彼らに何か目標レースを作ってあげたかった。でも、公式レースがなかなか開催されない。そんななか、全国規模の大きな大会は開催されるようになっていたので、びわ湖であればこのような状況でも開催される可能性が高いんじゃないかと思って、参加資格をクリアしていた彼らに提案しました」(日比監督)
こうして彼らのマラソン挑戦が決まった。「10000mやハーフマラソンのスピードを損なわない状態で42kmを走らせたかった」と日比監督が言うように、これまでにマラソンに向けた練習を積んできたわけではない。平山と上村は過去にも40km走の経験があったが、それも数回のみ。さらに、1月中は試験期間でもあったため、本格的なマラソン練習に入ったのは、大会まで1ヵ月を切った2月からだった。
2月5日には40km走を実施したが、平山と花井が2時間25分でこなした一方で、上村はラスト7kmで失速し2時間29分。宮城にいたっては、途中でトイレに駆け込んだせいでもあったが、約3時間かかった。
ところが、4選手とも、そこからぐんぐんと調子を上げていった。3日後の1000m×15本は3分05秒〜3分10秒に設定していたが、40km走のダメージもあるなか、4人全員が3分03秒〜3分06秒と設定タイム以上でこなした。さらにその3日後の30km走でも、1時間40分台に設定していたが、全員が1時間39分40秒で走り切った。しかも、20〜25kmを15分50秒、25〜30kmを15分27秒と終盤にペースアップすることもできた。「これはひょっとすると面白い。ミスさえしなければ、全員が2時間22分ぐらいでは収まるかなと思ってはいました」と日比監督も手応えを感じていた。もっとも、本番では、その想定さえも上回る結果を残したわけだが……。
びわ湖で2時間20分切りを成し遂げた4人。左から花井秀輔、宮城響、上村直也、平山寛人(チーム提供)
皇學館大といえば、1年時からチームの大黒柱だった川瀬翔矢(4年/※5000m、10000m、ハーフマラソンの東海学生記録保持者)の活躍がピックアップされることが多いが、川瀬だけのチームではないことをも示してみせただろう。2年生の花井は、全日本で長距離区間の7区を任されるなど、もともとスタミナに定評があったが、マラソンに挑む過程をも含めて高いポテンシャルを示した。川瀬が卒業した後は、10000m29分16秒29を持つ佐藤楓馬(1年)とともに、次期エースとして期待がかかる。
また、平山と上村は、川瀬や10000m28分台ランナーの桑山楓矢とともに下級生の頃から駅伝で活躍していたが、同じ4年生の宮城は、全日本大学駅伝と出雲駅伝を一度も走ったことがない。今年度(昨年12月)の東海学生駅伝では6区区間賞(区間タイ)の実績を残したが、それまでは補員止まりだった。高校時代には5000m15分09秒26で走っているが、皇學館大にはスポーツ推薦ではなく、特技のピアノを生かし「文化芸術社会活動型自己推薦入試」で入学。大学入学後もピアノと陸上を両立し、今もピアノのコンクールにも出場しているという異色の経歴を持った選手だ。卒業後は地元の沖縄・名護で小学校の教員を勤めながら、陸上も続けるという。駅伝では全国の舞台に立てなかったが、最後の最後にマラソンで4年間の成長をしっかりと見せつけた。
川瀬のインパクトの大きさゆえ、あまり触れられることがなかったが、実は皇學館大は“育成”のチームでもあり、今回のびわ湖では改めてそれを証明してみせた。今回活躍した4年生は卒業するが、今後ますます楽しみなチームになってきそうだ。
文/福本ケイヤ
2016年の青学大以来の快挙
好条件に恵まれ、42位までがサブ10(2時間10分切り)と好記録に沸いた2月28日の「びわ湖毎日マラソン」で、ひっそりと快挙を成し遂げていた大学のチームがある。全日本大学駅伝に4年連続出場を果たすなど、今や東海地区を牽引する皇學館大だ。2時間16分07秒で走った平山寛人(4年)を筆頭に、花井秀輔(2年)が2時間17分04秒、宮城響(4年)が2時間18分40秒、上村直也(4年)2時間19分55秒と、出場した4人全員がサブ20(2時間20分切り)で走ったのだ。 過去を遡ると、2016年東京マラソンで青学大も4人がサブ20で走っている。■2016年東京マラソンにおける青学大勢の成績 下田裕太(2年) 2時間11分34秒(10位) 一色恭志(3年) 2時間11分45秒(11位) 橋本 崚(4年) 2時間14分38秒(23位) 渡邉利典(4年) 2時間16分01秒(27位)この時の青学大は圧倒的な強さを誇っており、箱根駅伝では2連覇を達成。勢いそのままに、2月の東京マラソンでも活躍が目立った。 「今の関東の大学なら何校か達成できますよね」と日比勝俊監督は謙遜するが、遡れる限り過去のマラソン結果を見返してみたが、1大会で4人がサブ20を達成したのは、今回の皇學館大が青学大に次いで2例目になる。関東に強豪が集中するなか、地方の大学がやってのけたのは快挙といっていいだろう。 12月の東海学生駅伝が終わると、皇學館大では多くの4年生が引退になる。だが、近年は、遠方出身の選手や卒業後も競技を続ける選手を中心に、3月ぐらいまで寮に残って練習を継続する選手が多いという。その場合、これまでであれば、2月の読売犬山ハーフマラソンを目標にトレーニングを組むことが多かった。 しかし、今年は新型コロナウイルスの影響で、昨年に続き同大会の開催が見送られた。さらに、日本学生ハーフマラソンは参加標準記録が設けられたため、希望する全員が出場できるわけではない。 そこで白羽の矢が立ったのがびわ湖毎日マラソンだった。 「寮に残って練習をしているので、彼らに何か目標レースを作ってあげたかった。でも、公式レースがなかなか開催されない。そんななか、全国規模の大きな大会は開催されるようになっていたので、びわ湖であればこのような状況でも開催される可能性が高いんじゃないかと思って、参加資格をクリアしていた彼らに提案しました」(日比監督) こうして彼らのマラソン挑戦が決まった。「10000mやハーフマラソンのスピードを損なわない状態で42kmを走らせたかった」と日比監督が言うように、これまでにマラソンに向けた練習を積んできたわけではない。平山と上村は過去にも40km走の経験があったが、それも数回のみ。さらに、1月中は試験期間でもあったため、本格的なマラソン練習に入ったのは、大会まで1ヵ月を切った2月からだった。 2月5日には40km走を実施したが、平山と花井が2時間25分でこなした一方で、上村はラスト7kmで失速し2時間29分。宮城にいたっては、途中でトイレに駆け込んだせいでもあったが、約3時間かかった。 ところが、4選手とも、そこからぐんぐんと調子を上げていった。3日後の1000m×15本は3分05秒〜3分10秒に設定していたが、40km走のダメージもあるなか、4人全員が3分03秒〜3分06秒と設定タイム以上でこなした。さらにその3日後の30km走でも、1時間40分台に設定していたが、全員が1時間39分40秒で走り切った。しかも、20〜25kmを15分50秒、25〜30kmを15分27秒と終盤にペースアップすることもできた。「これはひょっとすると面白い。ミスさえしなければ、全員が2時間22分ぐらいでは収まるかなと思ってはいました」と日比監督も手応えを感じていた。もっとも、本番では、その想定さえも上回る結果を残したわけだが……。 びわ湖で2時間20分切りを成し遂げた4人。左から花井秀輔、宮城響、上村直也、平山寛人(チーム提供) 皇學館大といえば、1年時からチームの大黒柱だった川瀬翔矢(4年/※5000m、10000m、ハーフマラソンの東海学生記録保持者)の活躍がピックアップされることが多いが、川瀬だけのチームではないことをも示してみせただろう。2年生の花井は、全日本で長距離区間の7区を任されるなど、もともとスタミナに定評があったが、マラソンに挑む過程をも含めて高いポテンシャルを示した。川瀬が卒業した後は、10000m29分16秒29を持つ佐藤楓馬(1年)とともに、次期エースとして期待がかかる。 また、平山と上村は、川瀬や10000m28分台ランナーの桑山楓矢とともに下級生の頃から駅伝で活躍していたが、同じ4年生の宮城は、全日本大学駅伝と出雲駅伝を一度も走ったことがない。今年度(昨年12月)の東海学生駅伝では6区区間賞(区間タイ)の実績を残したが、それまでは補員止まりだった。高校時代には5000m15分09秒26で走っているが、皇學館大にはスポーツ推薦ではなく、特技のピアノを生かし「文化芸術社会活動型自己推薦入試」で入学。大学入学後もピアノと陸上を両立し、今もピアノのコンクールにも出場しているという異色の経歴を持った選手だ。卒業後は地元の沖縄・名護で小学校の教員を勤めながら、陸上も続けるという。駅伝では全国の舞台に立てなかったが、最後の最後にマラソンで4年間の成長をしっかりと見せつけた。 川瀬のインパクトの大きさゆえ、あまり触れられることがなかったが、実は皇學館大は“育成”のチームでもあり、今回のびわ湖では改めてそれを証明してみせた。今回活躍した4年生は卒業するが、今後ますます楽しみなチームになってきそうだ。 文/福本ケイヤ
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