2021.02.14
昨年12月4日の日本選手権10000mは日本長距離界にとって歴史的なレースとなった。優勝した相澤晃(旭化成)が27分18秒75、2位の伊藤達彦(Honda)も27分25秒73をマーク。ともに従来の日本記録を上回り、相澤は東京五輪の代表に内定。伊藤も五輪参加標準記録(27分28秒00)を突破した。
あれから2ヵ月近くが経った1月下旬、激戦を繰り広げた2人に、日本選手権の振り返りや東京五輪に向けての思い、今後の夢などについてオンライン上で語り合ってもらった。昨年の箱根駅伝2区でもつばぜり合いを演じた同学年のライバル同士による対談は、なごやかな雰囲気に包まれながらも、競技に対する熱い姿勢が言葉に込められていた。
●構成/酒井政人
2020年シーズンを振り返って
──大学を卒業して社会人1年目を迎えた2020年は、当初どんな目標を立てていたのでしょうか。
相澤 トラックで東京五輪を目指していたので、まずは6月に予定されていた日本選手権
10000mで優勝することを目標にしていました。参加標準記録(27分28秒00)は難しい
と思っていたので、ターゲットナンバーを突破して東京五輪に出場したいと考えていたん
です。
伊藤 僕はまず10000mで27分台を出すことを最初の目標にしていました。その先に日本
選手権があると思って準備していました。
──ただ、3月30日に東京五輪の1年延期が発表されました。
相澤 春のシーズンに向けてうまく調整ができていなかったので、自分にもチャンスが巡ってきたのかなと感じました。
伊藤 確かにそうだね。自分も1年延期したことでチャンスを与えられたなと思いました。春頃の練習ってどんな感じだったの?
相澤 4月上旬から約2ヵ月間は(旭化成の拠点である宮崎県の)延岡でトレーニングをしていたよ。集合はしたけど、集団走はできないから、各自で走ることが多かったかな。ただ、身体作りがうまくいかなくて、5月の終わりに故障してしまった。伊藤君は?
伊藤 普段の練習で使用していた公園やトラックが使用できなくなった期間があったよ。代わりに山を走る機会が増えたので、トラックでは鍛えられない部分を強化することができたかな。
──7月からはレースが再開し、伊藤選手が先に社会人デビューを果たしました。
相澤 7月のホクレン(ディスタンスチャレンジ深川大会10000m)で27分台(27分58秒43)で走ったんだよね。
伊藤 うん。まずはホクレンで27分台を出すのを目標にしていたから、予定通りだったかな。10日後の5000mでも13分33秒97の自己ベストが出たので、やってきたことが間違いではなかったと思った。
相澤 伊藤君だったらいつでも27分台は出すだろうなと感じていたよ。ホクレンのライブ中継は見ていたし、伊藤君の走りがケガをしている時のモチベーションになった。自分は中途半端な状態で試合には出たくなかったから、27分台で走れるレベルになってからレースに参加したいと思っていて、それが10月17日の宮崎県長距離記録会。日本選手権の参加標準記録(28分20秒00)がターゲットだったけど、最後にペースを上げれば27分台は出るかなという感覚で走り、想定したようなタイム(27分55秒76)を出すことができたかな。
伊藤 相澤君なら27分台は出すと思っていたし、全然驚かなかった。逆に27分55秒で「よかった」と思った(笑)。27分30秒ぐらい出すんじゃないかなと想像していたから、この時点では同じぐらいの状態かなと感じていたよ。
日本選手権10000mの激闘
──12月4日の日本選手権10000mは歴史に残るようなレースになりました。タイムも相澤選手が27分18秒75、伊藤選手が27分25秒73。ともに日本新記録で、東京五輪参加標準記録(27分28秒00)も突破し、相澤選手は五輪代表に内定しました。
相澤 27分台を出した後は調子が良くない時期があったんですけど、最終的には1週間前くらいから調子がぐんぐん上がってきたんです。最後はイメージ通りの走りをしっかりすることができたので、優勝できたのかなと思います。ただ、あのタイムは想定していませんでした。東京五輪の参加標準記録を破る自信はあったんですけど、(27 分)20 秒を切れたのは、伊藤君と競り合ったのが大きな要因だと思っています。
伊藤 日本選手権は優勝を目標にしていました。(11月3日の)東日本実業団駅伝後は、しばらく調子が悪かったんですけど、日本選手権前は絶好調だったので、自信を持って臨みました。五輪参加標準記録を切れば優勝できると思っていたので、相澤君が想定以上に強かった。最後はレベルの差を感じましたね。相澤君はどんなことを考えて走っていたの?
相澤 周囲の選手がきつそうな顔をしていた時、(7600m付近で)前に出てきた伊藤君だけが余裕がありそうに見えたんだよね。伊藤君に勝てれば優勝できるなと感じたので、ついていこうという気持ちでがむしゃらに走っていたかな。途中は箱根駅伝2区の再現だと思っていたよ。
伊藤 あの場面は外国人選手と集団に差ができたので、ここしかないと思って前に出たんだよ。誰もついてこなかったから、このまま逃げ切れるかなと思っていたんだけど、相澤君が追いついてきて……。最後は脚がついていかなかった。次また相澤君と戦う機会があれば、その時は自分が勝ちたいと思います!
この続きは2021年2月13日発売の『月刊陸上競技3月号』をご覧ください。
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2020年シーズンを振り返って
──大学を卒業して社会人1年目を迎えた2020年は、当初どんな目標を立てていたのでしょうか。 相澤 トラックで東京五輪を目指していたので、まずは6月に予定されていた日本選手権 10000mで優勝することを目標にしていました。参加標準記録(27分28秒00)は難しい と思っていたので、ターゲットナンバーを突破して東京五輪に出場したいと考えていたん です。 伊藤 僕はまず10000mで27分台を出すことを最初の目標にしていました。その先に日本 選手権があると思って準備していました。 ──ただ、3月30日に東京五輪の1年延期が発表されました。 相澤 春のシーズンに向けてうまく調整ができていなかったので、自分にもチャンスが巡ってきたのかなと感じました。 伊藤 確かにそうだね。自分も1年延期したことでチャンスを与えられたなと思いました。春頃の練習ってどんな感じだったの? 相澤 4月上旬から約2ヵ月間は(旭化成の拠点である宮崎県の)延岡でトレーニングをしていたよ。集合はしたけど、集団走はできないから、各自で走ることが多かったかな。ただ、身体作りがうまくいかなくて、5月の終わりに故障してしまった。伊藤君は? 伊藤 普段の練習で使用していた公園やトラックが使用できなくなった期間があったよ。代わりに山を走る機会が増えたので、トラックでは鍛えられない部分を強化することができたかな。 ──7月からはレースが再開し、伊藤選手が先に社会人デビューを果たしました。 相澤 7月のホクレン(ディスタンスチャレンジ深川大会10000m)で27分台(27分58秒43)で走ったんだよね。 伊藤 うん。まずはホクレンで27分台を出すのを目標にしていたから、予定通りだったかな。10日後の5000mでも13分33秒97の自己ベストが出たので、やってきたことが間違いではなかったと思った。 相澤 伊藤君だったらいつでも27分台は出すだろうなと感じていたよ。ホクレンのライブ中継は見ていたし、伊藤君の走りがケガをしている時のモチベーションになった。自分は中途半端な状態で試合には出たくなかったから、27分台で走れるレベルになってからレースに参加したいと思っていて、それが10月17日の宮崎県長距離記録会。日本選手権の参加標準記録(28分20秒00)がターゲットだったけど、最後にペースを上げれば27分台は出るかなという感覚で走り、想定したようなタイム(27分55秒76)を出すことができたかな。 伊藤 相澤君なら27分台は出すと思っていたし、全然驚かなかった。逆に27分55秒で「よかった」と思った(笑)。27分30秒ぐらい出すんじゃないかなと想像していたから、この時点では同じぐらいの状態かなと感じていたよ。日本選手権10000mの激闘
──12月4日の日本選手権10000mは歴史に残るようなレースになりました。タイムも相澤選手が27分18秒75、伊藤選手が27分25秒73。ともに日本新記録で、東京五輪参加標準記録(27分28秒00)も突破し、相澤選手は五輪代表に内定しました。 相澤 27分台を出した後は調子が良くない時期があったんですけど、最終的には1週間前くらいから調子がぐんぐん上がってきたんです。最後はイメージ通りの走りをしっかりすることができたので、優勝できたのかなと思います。ただ、あのタイムは想定していませんでした。東京五輪の参加標準記録を破る自信はあったんですけど、(27 分)20 秒を切れたのは、伊藤君と競り合ったのが大きな要因だと思っています。 伊藤 日本選手権は優勝を目標にしていました。(11月3日の)東日本実業団駅伝後は、しばらく調子が悪かったんですけど、日本選手権前は絶好調だったので、自信を持って臨みました。五輪参加標準記録を切れば優勝できると思っていたので、相澤君が想定以上に強かった。最後はレベルの差を感じましたね。相澤君はどんなことを考えて走っていたの? 相澤 周囲の選手がきつそうな顔をしていた時、(7600m付近で)前に出てきた伊藤君だけが余裕がありそうに見えたんだよね。伊藤君に勝てれば優勝できるなと感じたので、ついていこうという気持ちでがむしゃらに走っていたかな。途中は箱根駅伝2区の再現だと思っていたよ。 伊藤 あの場面は外国人選手と集団に差ができたので、ここしかないと思って前に出たんだよ。誰もついてこなかったから、このまま逃げ切れるかなと思っていたんだけど、相澤君が追いついてきて……。最後は脚がついていかなかった。次また相澤君と戦う機会があれば、その時は自分が勝ちたいと思います! この続きは2021年2月13日発売の『月刊陸上競技3月号』をご覧ください。
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