2021.02.04
望月次朗の
2020エチオピア取材記
~「雑ネタ」「裏話」を気の向くままに~
世界中を飛び回るカメラマン・望月次朗(Agence SHOT)による取材記!
望月次朗(Agence SHOT)
実業家として成功を収めているゲブルセラシェ(中央)。筆者とは旧知の仲だ。その右は伊藤恭子大使
久しぶりのエチオピア
正月早々、フランスからエチオピアのアディスに飛んで第20回グレート・エチオピン・ラン(GER)10km大会を取材した。数えたこともなかったが、今回で同大会を15、16 回取材をしたことになるらしい。毎年11月第3週の日曜日に開催されるアフリカ大陸最大の4.5万人が参加。多分、世界でも最大級のロードレースに成長した。
今年は、例年より1月半ほど遅らせた西暦1月10日だった。この日は、エチオピア正教のグレゴリオ暦のクリスマスだった。もちろんエチオピア国内でも新型コロナウイルス感染が拡大されてはいるが、不思議と国内の死亡者数は限定的に押さえこまれているとか。
エチオピアの北部ティグレ州で昨年11月に発生した中央政府と「JUNTA」と呼ばれる前政権のティグレ人民解放戦線(TPLF)紛争はいまだ解決のめどが立っていない。ノーベル平和賞を受けたアビー首相の現中央政府が北部でTPLF残党掃討作戦中だったが、首都のアディスは不穏な雰囲気は全く感じられなかった。
フランスを始め、欧州諸国はロックダウン、夜間外出禁止令など、さまざまな手を打ってコロナの封じ込み作戦を展開したが、決定的なアイディアも乏しく芳しくない結果だった。
多くのスポーツイベントは規模を縮小、無観客で、メディア取材も規制され、最悪のケースはスポーツイベントそのものが完全中止になっている。とにかく、我々の生業はイベントが動かないことには成立しない。
世界中にコロナが蔓延。日常生活を取り戻すことが難しくなっている。ただ、ジーっと籠っているわけにはいかない。多少のリスクが伴っても慎重に行動し、面白いネタを拾う。そこで、エチオピア、ケニアの友人、知人から現地状況を訊くと、感染率が高い米国、ブラジル、南アフリカ、英国などはかなり状況が異なるとの現地情報を受け取ることができた。
例年のようにエチオピアから招待を受けたと言っても、エチオピア、ケニアへ行くのは不安でちょっと気が引けたが、近所にあるクリニックの前に早朝から数人の人たちと並んでPCR検査を受ける頃は、久しぶりのアフリカ行きに期待が膨らんだ。フランスではPCR検査は誰でも無料で受けられ、24時間以内にメールで検査結果を知ることができる。
パリCDG空港でPCR検査の陰性証明書を提示、無難に搭乗券を渡された。「ドリームライナー」の乗客数は通常の半分の程度だった。全員マスクをつけた乗客がなんとなく緊張した表情に見えた。21時10分発の夜行便で南下。イタリア半島を抜けて地中海を超え、エジプト、スーダン上空を通過。約7時間後の翌朝6時頃アディスに到着した。機外に出てタラップを降りてバスに乗り込む短い間、ちょっと肌寒かったが、2400mの高地に降り注ぐオゾンをいっぱい含んだ朝日を全身に浴びることができた。
アディス空港で到着時に観光査証を50ドルで簡単に獲得できるので至って便利だが、混雑する時に査証獲得に軽く1時間以上も並んで待機するのは苛立つ。窓口前の薄暗い狭い場所で並んで査証発行手続きの順番を待つ間、一定の距離を開けなければならないルールだが、一向に厳守できていないし、並んでいる人たちはマスクも形だけでしっかりと着けていない人たちが多い。
「密」に多くの人たちを詰め込んだがスペースが怖かった。「マズイ!」と感じても、そこから動けない。前後の2人に2mぐらいの間隔を開けるように言っても、まったくわかってくれそうにもなかった。やっと査証を獲得。預けた荷物を受け取り、入国を終えて、建物を出て外に出る頃には飛行機が着陸して約2時間が経っていた。
「密」から解放され、空港を出て緩い坂を下りて行くと、数百人の人たちが出迎える場所にくる。その中に知人の運転手が迎えてくれた。空港から1kmほどの距離にボレという名の場所がある。そこの通称「アレムビル」に送ってくれた。アディス国際空港は、世界でも最も街中まで至近距離にある空港のひとつだろうと思う。このボレ地区は、中国資金と中国人の手による首都のインフラ整備で急激に大変貌を遂げた地域だ。
ゲブルセラシェと再会
エチオピアの伝説的な選手ハイレ・ゲブルセラシェにとって初の五輪となる1996年のアトランタは、10000mで優勝。その優勝した貢献に政府から土地を無償で受け、当時ボレ地区で最も高い9階建ての近代的なビルを建設した。このビルは彼にとって2棟目の高層ビルだった。
ハイレはシドニー五輪10000mでポール・テルガトと史上まれに見る名勝負を制して2連覇を達成。その直後に建設に取りかかった20年後の現在、かつてハイレの高層ビルは、今では周囲に中国資本で近代的な巨大な高層ビルが立ち並ぶ地区で、ひっそりと近代化に取り残されたようなビルになってしまった。
ボレ地区とマケナニヤ地区にケネニサ・ベケレのホテル、ゲブレ・ゲブレマリアム、べルハネ・アデレ、デラルツ・ツル、メセレト・デファー、ティルネシュ・ディババら所有のビルが立ち並ぶ。五輪、世界選手権金メダリストらは、政府が選手らに無償で土地を与え、引退後に貸しビル 、ホテルなどを建設、ビジネス界で活躍している。
ハイレは「アレムビル」(アレムはハイレの奥さんの名前)の8階を事務所として使っている。現役中の2000年前後からビジネスを手掛け始め、現在、国内各地に所有する11のホテルを建設。韓国の現代自動車、大型トラックの輸入、乗用車組み立て工場、450万本のコーヒー園、コーヒー豆輸出業、蜂蜜販売と手広く、総従業員は約3000人以上。資産約80億円以上の実業家に成長した。今年から長女のエデンがアメリカで大学を卒業し、父親の会社で働き始めた。このハイレがGER10kmロードレースを主催しているのだ。
エチオピアに入国すると、いつの間にか真っ先に足を向けるのがハイレの8階事務所だ。ハイレは毎朝、長男のナティを学校に送り届けたあと、ハイレは会社の誰よりも早く8時前に出社する。事務所で時間をつぶせるし、これからの日程などのブリーフィングを受け、その日からの小生の宿泊先がハイレの家か、ホテルになるか知らされる。
ハイレは2年半前にエチオピア陸連会長を辞任したものの、もちろん、エチオピア陸上界の情報は詳しい。また、4階はGERの事務所が控えているので、彼らとの打ち合わせもなにかと便利だ。
1年ぶりのハイレとの再会を喜ぶ。少し遅れて奥さんのアレム、娘のエデンも続けて出社。良く気がつくレセプションの女性が、小生の好きな紅茶を運んでくれた。最後にハイレのアシスタントのアビユが出社すると社長室の全員がそろった。しかし、気がつくと目の前のハイレ家族はマスクを着けていない! ハイレは「ほとんどマスクを使ったことがないんだよ」と笑い飛ばした。彼の事務所で働く人たちも、ほとんどがマスクを着けていない。
ハイレが「エチオピア五輪会長(スポーツ経験のない金持ちの歯医者だ)は、我々の意見を全く無視する」と言う。1月から候補選手を集めて、ティルネシュ・ディババ所有のホテルで合宿中。会長の一方的なアイディアの下で、1月17日男女の中距離から10000mまでの東京五輪代表選考レースを実施する話題を話し始めた。
「オレだって陸連のテクニカル部門の一員だが、会長からはまったく相談もなく、独断的に1月17日アディスで東京五輪選考会を開催すると宣言。こんな馬鹿げた話はない。世界中で一体どこの国が五輪8か月前から代表合宿や選考会を開くだろうか」と怒っていた。
その話を聞いてから1週間後、アディスの東方20km離れた郊外のセンダファと言う郊外にあるディババのホテルで合宿中のタデセ・レミ、ムクタール・エドリス・セレモン・バレガ、タデセ・タケレ、ゲトネ・ワレらとユーカリの森中で遭遇した。続く1月17日、やはりトライアルは決行。男女800m、1500m、5000m、10000m、3000m障害の5種目の記録が発表された。
GERレース前日、記者会見もかなり縮小されて開催。夜は招待客、外国から訪れた参加者とパスタパーティーも静かに行われた。アディスに到着してから4日後の1月10日、連邦警察の厳重な安全対策に従って、第20回GER10㎞レースが無事開催された。工事中のメスケル広場からスタートし、参加者は限定された1.2万人で3回に分け「密」を避けて始まった。苦肉の策を練り、とにかく20周年記念大会が無事に終了した。
規模を縮小して行われたGER
トップ選手たちが五輪へ向けて
珍しい人に会った。アメリカに長期滞在していたシドニー五輪5000m優勝者のミリオン・ウォルディが帰国していた。また、数年前にコーチ学をアメリカで勉強して帰国したシドニー五輪10000m3位のアセファ・メズゲブも帰国。現在、グローバル・スポーツ・コミュニケーション社のエチオピア契約選手をコーチしている。若い世代のコーチが育ってきているようだ。
アディスに来てから最初の4日間、GER主催者側から用意されたホテルにチェックイン。10日のレース終了後に、ハイレ宅に移動した。1年前に新築された大きな家だが、ここから市内を行き来するのが大変に不便だ。市内から5、6km離れているが、とにかく朝夕の交通ラッシュアワーは最悪だ。朝7時を過ぎると3レーンの道路が大混雑して車が動けない。余りにも悪い交通状況のため、ハイレは昼食時になるとこれまでは帰宅して昼食を取っていたが、昼食専門のスタッフを雇って、事務所内の応接間で昼食を済ませている。
ある朝、5時半にゲメドゥ・コーチと待ち合わせた。コーチハジ・アディロ、ゲメドゥ・デデフォらの指導する2グループを取材。中国語で書かれた大きなアーチを通過して中に入ると、敷地内は工場誘致用に整備された大きな空地だった。
伝統的にエチオピアランナーは、ビキラ・アベベ、ウォルディ・マモらが自然豊かな大地をトラック代わりに走り込んで強くなったが、急激に変貌するアディス周辺郊外では走る場所が年々少なくなってきた。道路改良工事が進み、道路幅が拡大され舗装されたが、増加する交通量、排気ガス汚染で安全、健康的に走れる場所が激変。そこで広大な未使用な工場誘致用に整備され交通量の少ない場所で朝練のロード練習を始めたと、ゲメドゥが苦笑しながら説明してくれた。やがてそこも走るのは難しくなるだろう。
故障から完全復活できていない大物選手を訪れた。昨秋のロンドンマラソンを故障で棄権したケネニサ・ベケレだ。昼食をごちそうになって、数時間も話し込んだ。ケネニサ一家は2ヵ月近く米国・ワシントンの知人宅に滞在。休暇を楽しんだとか。まだ完全に持病の腰痛が治っていないらしい。リオ五輪女子10000mで世界新記録を作って圧勝したアルマズ・アヤナが女の子を11月18日出産したという風の便りを耳にした。両膝を2年前に手術後のリハビリ、そしてトラック復帰の期待を聞いた。その日は、洗礼を受けて正式に子供のお披露目となるおめでたい日だった。
ハジ・グループ後方でティルネシュ・ディババが東京五輪10000m出場に向けて始動。練習前に一言話しただけだったが、ちょっとウエイトオーバー気味の身体をしていた。ハジ・グループの注目選手は、やはり昨秋ロンドンマラソンで10連勝を続けるエリウド・キプチョゲを破ったシュラ・キタタ(25 歳)だ。彼の取材結果は、2月13日発売の月刊陸上競技にインタービュー記事を掲載する。
密になって消毒? ほとんどマスクはしているが、あまり危機感は感じられない
前回のコラムはこちら
久しぶりのエチオピア
正月早々、フランスからエチオピアのアディスに飛んで第20回グレート・エチオピン・ラン(GER)10km大会を取材した。数えたこともなかったが、今回で同大会を15、16 回取材をしたことになるらしい。毎年11月第3週の日曜日に開催されるアフリカ大陸最大の4.5万人が参加。多分、世界でも最大級のロードレースに成長した。 今年は、例年より1月半ほど遅らせた西暦1月10日だった。この日は、エチオピア正教のグレゴリオ暦のクリスマスだった。もちろんエチオピア国内でも新型コロナウイルス感染が拡大されてはいるが、不思議と国内の死亡者数は限定的に押さえこまれているとか。 エチオピアの北部ティグレ州で昨年11月に発生した中央政府と「JUNTA」と呼ばれる前政権のティグレ人民解放戦線(TPLF)紛争はいまだ解決のめどが立っていない。ノーベル平和賞を受けたアビー首相の現中央政府が北部でTPLF残党掃討作戦中だったが、首都のアディスは不穏な雰囲気は全く感じられなかった。 フランスを始め、欧州諸国はロックダウン、夜間外出禁止令など、さまざまな手を打ってコロナの封じ込み作戦を展開したが、決定的なアイディアも乏しく芳しくない結果だった。 多くのスポーツイベントは規模を縮小、無観客で、メディア取材も規制され、最悪のケースはスポーツイベントそのものが完全中止になっている。とにかく、我々の生業はイベントが動かないことには成立しない。 世界中にコロナが蔓延。日常生活を取り戻すことが難しくなっている。ただ、ジーっと籠っているわけにはいかない。多少のリスクが伴っても慎重に行動し、面白いネタを拾う。そこで、エチオピア、ケニアの友人、知人から現地状況を訊くと、感染率が高い米国、ブラジル、南アフリカ、英国などはかなり状況が異なるとの現地情報を受け取ることができた。 例年のようにエチオピアから招待を受けたと言っても、エチオピア、ケニアへ行くのは不安でちょっと気が引けたが、近所にあるクリニックの前に早朝から数人の人たちと並んでPCR検査を受ける頃は、久しぶりのアフリカ行きに期待が膨らんだ。フランスではPCR検査は誰でも無料で受けられ、24時間以内にメールで検査結果を知ることができる。 パリCDG空港でPCR検査の陰性証明書を提示、無難に搭乗券を渡された。「ドリームライナー」の乗客数は通常の半分の程度だった。全員マスクをつけた乗客がなんとなく緊張した表情に見えた。21時10分発の夜行便で南下。イタリア半島を抜けて地中海を超え、エジプト、スーダン上空を通過。約7時間後の翌朝6時頃アディスに到着した。機外に出てタラップを降りてバスに乗り込む短い間、ちょっと肌寒かったが、2400mの高地に降り注ぐオゾンをいっぱい含んだ朝日を全身に浴びることができた。 アディス空港で到着時に観光査証を50ドルで簡単に獲得できるので至って便利だが、混雑する時に査証獲得に軽く1時間以上も並んで待機するのは苛立つ。窓口前の薄暗い狭い場所で並んで査証発行手続きの順番を待つ間、一定の距離を開けなければならないルールだが、一向に厳守できていないし、並んでいる人たちはマスクも形だけでしっかりと着けていない人たちが多い。 「密」に多くの人たちを詰め込んだがスペースが怖かった。「マズイ!」と感じても、そこから動けない。前後の2人に2mぐらいの間隔を開けるように言っても、まったくわかってくれそうにもなかった。やっと査証を獲得。預けた荷物を受け取り、入国を終えて、建物を出て外に出る頃には飛行機が着陸して約2時間が経っていた。 「密」から解放され、空港を出て緩い坂を下りて行くと、数百人の人たちが出迎える場所にくる。その中に知人の運転手が迎えてくれた。空港から1kmほどの距離にボレという名の場所がある。そこの通称「アレムビル」に送ってくれた。アディス国際空港は、世界でも最も街中まで至近距離にある空港のひとつだろうと思う。このボレ地区は、中国資金と中国人の手による首都のインフラ整備で急激に大変貌を遂げた地域だ。ゲブルセラシェと再会
エチオピアの伝説的な選手ハイレ・ゲブルセラシェにとって初の五輪となる1996年のアトランタは、10000mで優勝。その優勝した貢献に政府から土地を無償で受け、当時ボレ地区で最も高い9階建ての近代的なビルを建設した。このビルは彼にとって2棟目の高層ビルだった。 ハイレはシドニー五輪10000mでポール・テルガトと史上まれに見る名勝負を制して2連覇を達成。その直後に建設に取りかかった20年後の現在、かつてハイレの高層ビルは、今では周囲に中国資本で近代的な巨大な高層ビルが立ち並ぶ地区で、ひっそりと近代化に取り残されたようなビルになってしまった。 ボレ地区とマケナニヤ地区にケネニサ・ベケレのホテル、ゲブレ・ゲブレマリアム、べルハネ・アデレ、デラルツ・ツル、メセレト・デファー、ティルネシュ・ディババら所有のビルが立ち並ぶ。五輪、世界選手権金メダリストらは、政府が選手らに無償で土地を与え、引退後に貸しビル 、ホテルなどを建設、ビジネス界で活躍している。 ハイレは「アレムビル」(アレムはハイレの奥さんの名前)の8階を事務所として使っている。現役中の2000年前後からビジネスを手掛け始め、現在、国内各地に所有する11のホテルを建設。韓国の現代自動車、大型トラックの輸入、乗用車組み立て工場、450万本のコーヒー園、コーヒー豆輸出業、蜂蜜販売と手広く、総従業員は約3000人以上。資産約80億円以上の実業家に成長した。今年から長女のエデンがアメリカで大学を卒業し、父親の会社で働き始めた。このハイレがGER10kmロードレースを主催しているのだ。 エチオピアに入国すると、いつの間にか真っ先に足を向けるのがハイレの8階事務所だ。ハイレは毎朝、長男のナティを学校に送り届けたあと、ハイレは会社の誰よりも早く8時前に出社する。事務所で時間をつぶせるし、これからの日程などのブリーフィングを受け、その日からの小生の宿泊先がハイレの家か、ホテルになるか知らされる。 ハイレは2年半前にエチオピア陸連会長を辞任したものの、もちろん、エチオピア陸上界の情報は詳しい。また、4階はGERの事務所が控えているので、彼らとの打ち合わせもなにかと便利だ。 1年ぶりのハイレとの再会を喜ぶ。少し遅れて奥さんのアレム、娘のエデンも続けて出社。良く気がつくレセプションの女性が、小生の好きな紅茶を運んでくれた。最後にハイレのアシスタントのアビユが出社すると社長室の全員がそろった。しかし、気がつくと目の前のハイレ家族はマスクを着けていない! ハイレは「ほとんどマスクを使ったことがないんだよ」と笑い飛ばした。彼の事務所で働く人たちも、ほとんどがマスクを着けていない。 ハイレが「エチオピア五輪会長(スポーツ経験のない金持ちの歯医者だ)は、我々の意見を全く無視する」と言う。1月から候補選手を集めて、ティルネシュ・ディババ所有のホテルで合宿中。会長の一方的なアイディアの下で、1月17日男女の中距離から10000mまでの東京五輪代表選考レースを実施する話題を話し始めた。 「オレだって陸連のテクニカル部門の一員だが、会長からはまったく相談もなく、独断的に1月17日アディスで東京五輪選考会を開催すると宣言。こんな馬鹿げた話はない。世界中で一体どこの国が五輪8か月前から代表合宿や選考会を開くだろうか」と怒っていた。 その話を聞いてから1週間後、アディスの東方20km離れた郊外のセンダファと言う郊外にあるディババのホテルで合宿中のタデセ・レミ、ムクタール・エドリス・セレモン・バレガ、タデセ・タケレ、ゲトネ・ワレらとユーカリの森中で遭遇した。続く1月17日、やはりトライアルは決行。男女800m、1500m、5000m、10000m、3000m障害の5種目の記録が発表された。 GERレース前日、記者会見もかなり縮小されて開催。夜は招待客、外国から訪れた参加者とパスタパーティーも静かに行われた。アディスに到着してから4日後の1月10日、連邦警察の厳重な安全対策に従って、第20回GER10㎞レースが無事開催された。工事中のメスケル広場からスタートし、参加者は限定された1.2万人で3回に分け「密」を避けて始まった。苦肉の策を練り、とにかく20周年記念大会が無事に終了した。 規模を縮小して行われたGERトップ選手たちが五輪へ向けて
珍しい人に会った。アメリカに長期滞在していたシドニー五輪5000m優勝者のミリオン・ウォルディが帰国していた。また、数年前にコーチ学をアメリカで勉強して帰国したシドニー五輪10000m3位のアセファ・メズゲブも帰国。現在、グローバル・スポーツ・コミュニケーション社のエチオピア契約選手をコーチしている。若い世代のコーチが育ってきているようだ。 アディスに来てから最初の4日間、GER主催者側から用意されたホテルにチェックイン。10日のレース終了後に、ハイレ宅に移動した。1年前に新築された大きな家だが、ここから市内を行き来するのが大変に不便だ。市内から5、6km離れているが、とにかく朝夕の交通ラッシュアワーは最悪だ。朝7時を過ぎると3レーンの道路が大混雑して車が動けない。余りにも悪い交通状況のため、ハイレは昼食時になるとこれまでは帰宅して昼食を取っていたが、昼食専門のスタッフを雇って、事務所内の応接間で昼食を済ませている。 ある朝、5時半にゲメドゥ・コーチと待ち合わせた。コーチハジ・アディロ、ゲメドゥ・デデフォらの指導する2グループを取材。中国語で書かれた大きなアーチを通過して中に入ると、敷地内は工場誘致用に整備された大きな空地だった。 伝統的にエチオピアランナーは、ビキラ・アベベ、ウォルディ・マモらが自然豊かな大地をトラック代わりに走り込んで強くなったが、急激に変貌するアディス周辺郊外では走る場所が年々少なくなってきた。道路改良工事が進み、道路幅が拡大され舗装されたが、増加する交通量、排気ガス汚染で安全、健康的に走れる場所が激変。そこで広大な未使用な工場誘致用に整備され交通量の少ない場所で朝練のロード練習を始めたと、ゲメドゥが苦笑しながら説明してくれた。やがてそこも走るのは難しくなるだろう。 故障から完全復活できていない大物選手を訪れた。昨秋のロンドンマラソンを故障で棄権したケネニサ・ベケレだ。昼食をごちそうになって、数時間も話し込んだ。ケネニサ一家は2ヵ月近く米国・ワシントンの知人宅に滞在。休暇を楽しんだとか。まだ完全に持病の腰痛が治っていないらしい。リオ五輪女子10000mで世界新記録を作って圧勝したアルマズ・アヤナが女の子を11月18日出産したという風の便りを耳にした。両膝を2年前に手術後のリハビリ、そしてトラック復帰の期待を聞いた。その日は、洗礼を受けて正式に子供のお披露目となるおめでたい日だった。 ハジ・グループ後方でティルネシュ・ディババが東京五輪10000m出場に向けて始動。練習前に一言話しただけだったが、ちょっとウエイトオーバー気味の身体をしていた。ハジ・グループの注目選手は、やはり昨秋ロンドンマラソンで10連勝を続けるエリウド・キプチョゲを破ったシュラ・キタタ(25 歳)だ。彼の取材結果は、2月13日発売の月刊陸上競技にインタービュー記事を掲載する。 密になって消毒? ほとんどマスクはしているが、あまり危機感は感じられない 前回のコラムはこちら
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