2021.01.15
2019年9月のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)で優勝し、東京五輪の女子マラソン代表に決まった前田穂南(天満屋)。2000年のシドニー五輪から4大会連続で同種目のオリンピック代表を輩出している名門チームが、満を持して送り出す日本の「メダル候補」の1人だ。
2020年は2月の青梅マラソンで30㎞の日本新記録を樹立したのを手始めに、トラックでは5000m、10000mの自己ベストを更新。その流れから「予定通りに東京五輪が開かれていれば……」という思いは誰もが抱くが、1年延期されてもまだ伸びしろのある24歳。コロナ禍で米国での高地トレーニングがままならないなか、五輪前のマラソンレースを1月31日の大阪国際と決め、前田は2時間20分突破の自己ベストを狙う。
◎文/小森貞子
◎撮影/米岡伸剛(写真ナガセ)
〝2度目の五輪イヤー〟を迎えて
12月20日に、天満屋の本拠地・岡山市で行われた山陽女子ロードレース(ハーフ)で2020年を締めくくった前田穂南(天満屋)。年末年始は山口・周防大島で合宿し、1月6日からは宮崎・青島へ移動して、この雑誌が発売される頃には、大阪国際女子マラソンに向けての練習が佳境を迎えていることだろう。
1年前の正月は、米国ニューメキシコ州のアルバカーキにいた。チームが長年、高地トレーニングの拠点にしている合宿地だ。本来の東京五輪イヤーが明け、帰国後、実家に寄った前田は、近くの神社へ初詣に出掛けて「金メダルが取れますように」と手を合わせた。翌年また、2度目のお願いをすることになるとは想像もしていなかった。
「大阪(国際女子マラソン)が終わったら少しお休みがもらえると思うので、また実家に帰って、お参りをして来ようと思います」
前田はこの1年で起きた社会情勢の変化を心静かに受け入れ、仕切り直しのオリンピック・イヤーを迎えた。
2000年のシドニー大会に山口衛里を出場させて以降、天満屋の武冨豊監督は04年のアテネに坂本直子、08年の北京に中村友梨香、そして12年のロンドンには重友梨佐と、4大会連続でオリンピックの女子マラソン代表を育て上げた。その間、高地トレーニングのノウハウやオリンピックに臨むコンディション作りなど指導者としての経験を蓄積させていき、5人目の前田にはすべての引き出しから必要なものをチョイスして準備を進めた。
昨年2月の青梅マラソンで、初めて30㎞レースに出場させたのもその一つ。パリ世界選手権(2003年)で代表を決めたアテネ五輪の金メダリスト・野口みずきは、五輪年に入ると青梅マラソンに出場して、1時間39分09秒の大会記録を作った。野口と同様、オリンピックの約1年前に代表を決めた前田も、野口の〝金メダル・ロード〟にあやかって青梅マラソンに出場し、その大会記録を破れば自信につながるはず……。そんな監督の思惑をはるかに超え、前田は大会記録どころか、やはり野口が持っていた日本記録(1時間38分49秒)を破る1時間38分35秒で優勝した。
「あとは、いつも通り米国で練習をやっていけばいい」
手応えを得た武冨監督はオリンピック本番から逆算してトレーニングメニューを組み、あっけらかんと「金メダルを狙いたいです」とメディアに語る前田に苦笑いを見せながらも、その目標を実現するためのサポート態勢を整えていった。ところが、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大で、オリンピックの1年延期が決定。出鼻をくじかれた武冨監督の心中は、いかばかりだったか。監督も選手も人前でむやみに感情を吐露するタイプではないが、前田は「先のレースが見えない状態だったので、どうやっていったらいいのか不安はあった」とだけ明かした。
スピード強化を図った2020年
オリンピックの1年延期は受け止めるしかないとして、コロナ禍で一番の痛手は渡米できないことだった。大きな大会の前には必ず米国で高地トレーニングを組んできた天満屋だけに、国内でも似たような練習環境を求めたが、なかなか難しい。
「アルバカーキでの日課は、午前中に本練習、午後はフィットネスクラブで身体作り。そして、夕方には起伏のある山道でトレイルラン。前田はその流れでやってきたんです」
武冨監督は、アルバカーキの生活が「練習の柱だった」と言う。ところが、その柱を欠いた2020年。否応なく国内でのスピード強化にシフトし、確かに前田は試合が再開された7月のホクレン・ディスタンスチャレンジで、5000m(15分31秒51 /千歳)、10000m(31分34秒94 /深川)ともに自己ベストをマーク。青梅マラソンからの好調を維持し、五輪代表としての健在ぶりを示すのに十分な成績を残した。
この続きは2021年1月14日発売の『月刊陸上競技2月号』をご覧ください。
定期購読はこちらから

〝2度目の五輪イヤー〟を迎えて
12月20日に、天満屋の本拠地・岡山市で行われた山陽女子ロードレース(ハーフ)で2020年を締めくくった前田穂南(天満屋)。年末年始は山口・周防大島で合宿し、1月6日からは宮崎・青島へ移動して、この雑誌が発売される頃には、大阪国際女子マラソンに向けての練習が佳境を迎えていることだろう。 1年前の正月は、米国ニューメキシコ州のアルバカーキにいた。チームが長年、高地トレーニングの拠点にしている合宿地だ。本来の東京五輪イヤーが明け、帰国後、実家に寄った前田は、近くの神社へ初詣に出掛けて「金メダルが取れますように」と手を合わせた。翌年また、2度目のお願いをすることになるとは想像もしていなかった。 「大阪(国際女子マラソン)が終わったら少しお休みがもらえると思うので、また実家に帰って、お参りをして来ようと思います」 前田はこの1年で起きた社会情勢の変化を心静かに受け入れ、仕切り直しのオリンピック・イヤーを迎えた。 2000年のシドニー大会に山口衛里を出場させて以降、天満屋の武冨豊監督は04年のアテネに坂本直子、08年の北京に中村友梨香、そして12年のロンドンには重友梨佐と、4大会連続でオリンピックの女子マラソン代表を育て上げた。その間、高地トレーニングのノウハウやオリンピックに臨むコンディション作りなど指導者としての経験を蓄積させていき、5人目の前田にはすべての引き出しから必要なものをチョイスして準備を進めた。 昨年2月の青梅マラソンで、初めて30㎞レースに出場させたのもその一つ。パリ世界選手権(2003年)で代表を決めたアテネ五輪の金メダリスト・野口みずきは、五輪年に入ると青梅マラソンに出場して、1時間39分09秒の大会記録を作った。野口と同様、オリンピックの約1年前に代表を決めた前田も、野口の〝金メダル・ロード〟にあやかって青梅マラソンに出場し、その大会記録を破れば自信につながるはず……。そんな監督の思惑をはるかに超え、前田は大会記録どころか、やはり野口が持っていた日本記録(1時間38分49秒)を破る1時間38分35秒で優勝した。 「あとは、いつも通り米国で練習をやっていけばいい」 手応えを得た武冨監督はオリンピック本番から逆算してトレーニングメニューを組み、あっけらかんと「金メダルを狙いたいです」とメディアに語る前田に苦笑いを見せながらも、その目標を実現するためのサポート態勢を整えていった。ところが、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大で、オリンピックの1年延期が決定。出鼻をくじかれた武冨監督の心中は、いかばかりだったか。監督も選手も人前でむやみに感情を吐露するタイプではないが、前田は「先のレースが見えない状態だったので、どうやっていったらいいのか不安はあった」とだけ明かした。
スピード強化を図った2020年
オリンピックの1年延期は受け止めるしかないとして、コロナ禍で一番の痛手は渡米できないことだった。大きな大会の前には必ず米国で高地トレーニングを組んできた天満屋だけに、国内でも似たような練習環境を求めたが、なかなか難しい。 「アルバカーキでの日課は、午前中に本練習、午後はフィットネスクラブで身体作り。そして、夕方には起伏のある山道でトレイルラン。前田はその流れでやってきたんです」 武冨監督は、アルバカーキの生活が「練習の柱だった」と言う。ところが、その柱を欠いた2020年。否応なく国内でのスピード強化にシフトし、確かに前田は試合が再開された7月のホクレン・ディスタンスチャレンジで、5000m(15分31秒51 /千歳)、10000m(31分34秒94 /深川)ともに自己ベストをマーク。青梅マラソンからの好調を維持し、五輪代表としての健在ぶりを示すのに十分な成績を残した。 この続きは2021年1月14日発売の『月刊陸上競技2月号』をご覧ください。
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
2025.03.25
箱根駅伝予選会のスタート時刻を変更「温暖化の影響による選手の安全確保」
-
2025.03.25
-
2025.03.25
-
2025.03.25
2025.03.23
女子は長野東が7年ぶりの地元V アンカー・田畑陽菜が薫英女学院を逆転/春の高校伊那駅伝
-
2025.03.19
-
2025.03.19
2025.03.02
初挑戦の青学大・太田蒼生は途中棄権 果敢に先頭集団に挑戦/東京マラソン
2025.03.02
太田蒼生は低体温症と低血糖で途中棄権 「世界のレベルを知れて良い経験」/東京マラソン
-
2025.03.23
-
2025.03.19
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.03.25
箱根駅伝予選会のスタート時刻を変更「温暖化の影響による選手の安全確保」
関東学生陸上競技連盟は3月25日、箱根駅伝予選会のスタート時刻について、次回から変更すると発表した。 前回までは午前9時35分スタートだったが、第102回大会予選会から午前8時30分スタートと、約1時間前倒しする。 「温 […]
2025.03.25
100mH福部真子「引退しないといけないのかな…」菊池病の公表に葛藤も「あとで後悔したくない」元気な姿アピール
女子100mハードル日本記録保持者の福部真子(日本建設工業)がインタビューに応じ、昨年末に公表した「菊池病」と発覚した時の状況や、今の調子、復帰に向けた思いを聞いた。 「元気です!見てもらった通り!」。オンラインで画面越 […]
2025.03.25
大阪に約270人の高校生アスリートが集結! 「切磋琢磨していきたい」 3泊4日の全国高体連合宿スタート
2024年度の日本陸連U-19強化研修合宿・全国高体連陸上競技専門部強化合宿が3月25日、大阪・ヤンマースタジアム長居で始まった。全国から選手約270人が参加し、20度を超える汗ばむ陽気の中で打ち解けながら練習に取り組ん […]
2025.03.25
HOKAが「CLIFTON 10」発売に先駆けてイベント 鎧坂哲哉「クッション性とフィット感が良い」
デッカーズジャパンは3月25日、パフォーマンスフットウェア&アパレルブランド「HOKA」の人気シリーズの新作シューズ「CLIFTON 10(クリフトン 10)」の発売に先駆けてメディア向けの商品説明会・トークセッションを […]
2025.03.25
富士通加入の平林樹「世界一になる」鈴木康也は「マラソンで世界へ」
富士通が3月25日、2025年度新加入選手の合同取材会見を開き、男子長距離の篠原倖太朗(駒大)、平林樹(城西大)、鈴木康也(麗澤大)、女子400mハードルの山本亜美(立命大)が登壇した。 城西大の主将を務めた平林は「こう […]
Latest Issue
最新号

2025年4月号 (3月14日発売)
別冊付録 2024記録年鑑
山西 世界新!
大阪、東京、名古屋ウィメンズマラソン詳報