2020.12.30
当サイトで2020年6月から始まった平成以降の箱根駅伝を振り返る「PlayBack箱根駅伝」。最終回は今年の1月2日、3日に行われた第96回大会を紹介する。青学大が王者を奪還する一方、7区間で計13人が従来の区間記録を上回るなど「超高速レース」も話題となった。97回大会(2021年)の往路スタートまであと3日。決戦を前に前回大会をおさらいしよう。
2区で相澤が驚異の1時間5分台
館澤が山下りで大幅区間新
令和最初の箱根は激戦が予想された。出雲は新鋭の國學院大が初優勝し、全日本は箱根王者の東海大が16年ぶりV。箱根の連続優勝が4で途切れた青学大は、出雲こそ5位に終わったものの、全日本は2位と勢いを取り戻しつつあった。
10月の予選会では筑波大が6位に入り、26年ぶりの本戦出場権を獲得。第1回大会(1920年)の優勝校・東京高師を前身とする大学が、100年後のレースに参戦することになった。また、創価大が3年ぶりの復帰。トップ通過の東京国際大は8日後の全日本でも初出場ながら4位に食い込み、上位を脅かす戦力を示した。前回出場校の中では、初出場から33年連続で出場していた山梨学大や11年連続出場の上武大に加え、大東大、城西大の常連校4校が敗退する波乱があった。
1区はスタートから速いペースで展開したものの、六郷橋ではまだ9人が先頭グループを形成。橋の下りで國學院大が飛び出すが、中継所まで残り500mを切ったところで創価大の米満怜(4年)が逆転。区間歴代2位タイの1時間1分13秒でチーム初となる区間賞獲得とトップ中継を果たした。5秒差の2位は國學院大で、日体大をはさみ、前回王者の東海大がトップから10秒差の4位中継。青学大は18秒差の7位で、東洋大は2年連続区間賞の西山和弥(3年)が2分02秒差の14位と大きく出遅れた。
2区では最大7校が先頭争いを繰り広げる。終盤には4校(國學院大、東海大、青学大、早大)に絞られ、その競り合いを制したのは青学大の1年生・岸本大紀。最終盤でトップに立ち、4年ぶりの戸塚トップ中継を果たした。
その後方では驚異的なレースが展開された。14位スタートの東洋大・相澤晃(4年)が13秒先に出た東京国際大・伊藤達彦(4年)に追いつくとそのまま並走。ハイペースの鍔迫り合いで追い上げていく。権太坂では85回大会(2009年)でメクボ・ジョブ・モグス(山梨学大)が打ち立てた区間記録1時間6分04秒をも上回るペースで通過。相澤の勢いは最後まで衰えず、20km過ぎで伊藤を振り切り、7位で中継。モグスの記録を11年ぶりに更新する1時間5分57秒の特大区間新を叩き出した。相澤には及ばなかったものの、伊藤も1時間6分18秒(区間2位タイ)をマーク。前回大会で塩尻和也(順大)が出した日本人最高記録(1時間6分45秒)を大幅に上回った。
2区では東洋大の相澤晃(左)と東京国際大・伊藤達彦が箱根駅伝史に残る名勝負を展開した
超高速レースは3区も続いた。その主役は東京国際大のイェゴン・ヴィンセント(1年)。11km過ぎに先頭の青学大を抜き去ると、その後は独走。従来の区間記録を2分01秒も更新する衝撃の59分25秒で駆け抜け、初の首位中継を果たした。青学大は1分21秒差の2位。3位は戸塚から順位を1つ上げた國學院大。4位は帝京大で、遠藤大地(2年)が従来の区間記録を3秒上回る1時間1分23秒をマーク。また、駒大のルーキー・田澤廉も区間記録から1秒速いタイムで、13位から6位に進出した。
4区では青学大が主役の座を取り戻した。最終学年にして箱根初出場の吉田祐也(4年)が14km手前で東京国際大を逆転。相澤が前回マークした区間記録(1時間0分54秒)を更新する1時間0分30秒で走破し、2位・東京国際大とは1分02秒差とした。3位は変わらず國學院大、4位は東海大で、帝京大は5位。往路2連覇中の東洋大は、3区で10位に下がると、4区は区間最下位で14位まで後退。青学大とは8分14秒差をつけられ、往路3連覇は絶望的となった。
青学大は4区の吉田祐也(左)が区間新で首位を奪還。5区の飯田貴之も従来の区間記録を上回って驚異の往路新記録を打ち立てた
青学大の安定したレースは山でも変わらなかった。5区初挑戦の飯田貴之(2年)は区間新が狙えるペースで駆け上がり、後続との差を広げていく。前回区間新をマークした國學院大・浦野雄平(4年)も東京国際大をかわして2位に浮上するが、飯田は寄せ付けず、3年ぶりの往路優勝。前回の東洋大の往路記録を5分15秒も更新する5時間21分16秒をマークした。2位の國學院大、3位の東京国際大、7位の創価大は往路最高成績。前回王者の東海大は3分22秒差の4位で終えた。個人では東洋大の宮下隼人(2年)が区間新記録の1時間10分25秒で制し、苦戦するチームを14位から11位に押し上げ、シード権の10位まで8秒と迫った。また、区間2位の青学大・飯田、3位の國學院大・浦野も前回自身が出した区間記録を上回った。
6区では青学大・谷野航平(4年)が安定したペースを刻み、首位をキープ。2位・國學院大との差を1分33秒から2分16秒まで拡大した。逆転優勝を狙う4位・東海大は館澤亨次(4年)を起用。東京国際大をかわして3位に浮上すると、國學院大にも迫る。館澤は区間記録を40秒も更新する57分17秒をマーク。青学大とは2分21秒差、國學院大は5秒差まで迫った。また、3年連続6区となった東洋大・今西駿介(4年)も従来の区間記録を23秒上回り、7位に躍進した。
大きな貯金をもらった青学大の7区・中村友哉(4年)は終始、危なげない走りでトップを守った。3位の東海大は12km過ぎで2位の國學院大を抜くが、青学大とは20秒詰めただけ。5位で中継所を飛び出した明大・阿部弘輝(4年)は区間新のペースで追い上げ、12km過ぎで東京国際大をかわし、4位に浮上。そのままハイペースを保って区間記録を36秒更新する1時間1分40秒で他を圧倒した。
8区も青学大の堅実な走りは揺るがない。岩見秀哉(3年)は、区間記録保持者の東海大・小松陽平(4年)に区間賞こそ譲ったものの、負けたのはたったの1秒。リードは2分00秒と、逆転劇の気配はない。後方では國學院大が明大から3位を奪い返した。
終盤にさしかかる9区で青学大・神林勇太(3年)が区間賞。2位・東海大との差を3分42秒まで拡大し、総合優勝をほぼ決定づけた。10区の湯原慶吾(2年)は悠々と独走。青学大は4区以降、一度も先頭を譲ることなく、10時間45分23秒で2年ぶり5回目の総合優勝を遂げた。前回、東海大が出した大会記録を6分46秒も更新。4区、5区の距離変更前を含めた過去最速タイムで東京箱根間を往復した。
東海大は連覇を逃したものの、大会新の10時間48分25秒で2位フィニッシュ。復路成績では新記録の5時間23分47秒を叩き出し、青学大を抑えて初の復路優勝を手にした。3位は國學院大。10区で4チームが争う激戦を制し、大学最高成績を挙げた。4位は帝京大で、5位の東京国際大も大学最高成績と初のシード権獲得となった。6位・明大の後、7位は6区終了時で12位から巻き返した早大が食い込んだ。駒大が8位、東洋大が10位と上位候補が低迷したのを尻目に、創価大が初のシード権獲得となる9位に入った。アンカーの嶋津雄大(2年)が13年ぶりの区間新となる1時間8分40秒で、11位から順位を上げた。代わって11位に転落した中央学大は6年ぶりにシードを失った。金栗四三杯は2区区間新の相澤が受賞した。
<人物Close-up>
伊藤達彦(東京国際大4年)
花の2区で日本人歴代2位の1時間6分18秒をマーク。区間新をマークした学生最強の相澤晃(東洋大/現・旭化成)には敗れたものの、終盤まで並走して勝負を挑んだことで、その名が広く知られるようになった。静岡・浜松商高時代はインターハイや全国高校駅伝の出場経験がなく、いわゆる無名選手。だが、大学進学後に力を伸ばし、箱根では2年時から3年連続で2区を任された。最終学年で飛躍を遂げ、2019年ナポリ・ユニバーシアードのハーフマラソンで銅メダルを獲得。箱根駅伝予選会では日本人トップの5位に入り、全日本2区では区間新と自信を深めて相澤に挑んだ。この春に実業団のHondaに入社。12月の日本選手権10000mでも正月の箱根2区を再現するかのように優勝した相澤に終盤まで食い下がった。2位に終わったが、従来の日本記録(27分29秒69)を上回る27分25秒73をマーク。東京五輪参加標準記録(27分28秒00)を突破しており、2021年は五輪出場がターゲットだ。
<総合成績>
1位 青山学院大学 10.45.23(往路1位、復路2位)
2位 東海大学 10.48.25(往路4位、復路1位)
3位 國學院大學 10.54.20(往路2位、復路10位)
4位 帝京大学 10.54.23(往路6位、復路3位)
5位 東京国際大学 10.54.27(往路3位、復路6位)
6位 明治大学 10.54.46(往路5位、復路4位)
7位 早稲田大学 10.57.43(往路9位、復路5位)
8位 駒澤大学 10.57.44(往路8位、復路8位)
9位 創価大学 10.58.17(往路7位、復路9位)
10位 東洋大学 10.59.11(往路11位、復路7位)
========シード権ライン=========
11位 中央学院大学 11.01.10(往路12位、復路11位)
12位 中央大学 11.03.39(往路13位、復路12位)
13位 拓殖大学 11.04.28(往路10位、復路17位)
14位 順天堂大学 11.06.45(往路14位、復路15位)
15位 法政大学 11.07.23(往路16位、復路14位)
16位 神奈川大学 11.07.26(往路17位、復路13位)
17位 日本体育大学 11.10.32(往路18位、復路18位)
18位 日本大学 11.10.37(往路15位、復路19位)
19位 国士舘大学 11.13.33(往路20位、復路16位)
20位 筑波大学 11.16.13(往路19位、復路20位)
OP 関東学生連合 11.12.34
<区間賞>
1区(21.3km)米満 怜(創価大4) 1.01.13
2区(23.1km)相澤 晃(東洋大4) 1.05.57=区間新
3区(21.4km)Y.ヴィンセント(東京国際大1)59.25=区間新
4区(20.9km)吉田祐也(青学大4) 1.00.30=区間新
5区(20.8km)宮下隼人(東洋大2) 1.10.25=区間新
6区(20.8km)館澤亨次(東海大4) 57.17=区間新
7区(21.3km)阿部弘輝(明 大4) 1.01.40=区間新
8区(21.4km)小松陽平(東海大4) 1.04.24
9区(23.1km)神林勇太(青学大3) 1.08.13
10区(23.0km)嶋津雄大(創価大2) 1.08.40=区間新
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2区で相澤が驚異の1時間5分台 館澤が山下りで大幅区間新
令和最初の箱根は激戦が予想された。出雲は新鋭の國學院大が初優勝し、全日本は箱根王者の東海大が16年ぶりV。箱根の連続優勝が4で途切れた青学大は、出雲こそ5位に終わったものの、全日本は2位と勢いを取り戻しつつあった。 10月の予選会では筑波大が6位に入り、26年ぶりの本戦出場権を獲得。第1回大会(1920年)の優勝校・東京高師を前身とする大学が、100年後のレースに参戦することになった。また、創価大が3年ぶりの復帰。トップ通過の東京国際大は8日後の全日本でも初出場ながら4位に食い込み、上位を脅かす戦力を示した。前回出場校の中では、初出場から33年連続で出場していた山梨学大や11年連続出場の上武大に加え、大東大、城西大の常連校4校が敗退する波乱があった。 1区はスタートから速いペースで展開したものの、六郷橋ではまだ9人が先頭グループを形成。橋の下りで國學院大が飛び出すが、中継所まで残り500mを切ったところで創価大の米満怜(4年)が逆転。区間歴代2位タイの1時間1分13秒でチーム初となる区間賞獲得とトップ中継を果たした。5秒差の2位は國學院大で、日体大をはさみ、前回王者の東海大がトップから10秒差の4位中継。青学大は18秒差の7位で、東洋大は2年連続区間賞の西山和弥(3年)が2分02秒差の14位と大きく出遅れた。 2区では最大7校が先頭争いを繰り広げる。終盤には4校(國學院大、東海大、青学大、早大)に絞られ、その競り合いを制したのは青学大の1年生・岸本大紀。最終盤でトップに立ち、4年ぶりの戸塚トップ中継を果たした。 その後方では驚異的なレースが展開された。14位スタートの東洋大・相澤晃(4年)が13秒先に出た東京国際大・伊藤達彦(4年)に追いつくとそのまま並走。ハイペースの鍔迫り合いで追い上げていく。権太坂では85回大会(2009年)でメクボ・ジョブ・モグス(山梨学大)が打ち立てた区間記録1時間6分04秒をも上回るペースで通過。相澤の勢いは最後まで衰えず、20km過ぎで伊藤を振り切り、7位で中継。モグスの記録を11年ぶりに更新する1時間5分57秒の特大区間新を叩き出した。相澤には及ばなかったものの、伊藤も1時間6分18秒(区間2位タイ)をマーク。前回大会で塩尻和也(順大)が出した日本人最高記録(1時間6分45秒)を大幅に上回った。
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