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2025.03.31

【世界陸上プレイバック】―91年東京―国立競技場がルイスに熱狂!マラソン谷口が殊勲の金メダル
【世界陸上プレイバック】―91年東京―国立競技場がルイスに熱狂!マラソン谷口が殊勲の金メダル

91年東京世界陸上男子100m優勝のカール・ルイス

今年9月、陸上の世界選手権(世界陸上)が34年ぶりに東京・国立競技場で開催される。今回で20回目の節目を迎える世界陸上。日本で開催されるのは1991年の東京、2007年の大阪を含めて3回目で、これは同一国で最多だ。

これまで数々のスーパースター、名勝負が生まれた世界陸上の各大会の様子を紹介する『世界陸上プレイバック』。第3回大会は、あの伝説の男に日本中が酔いしれた。

初の日本開催で、東京の国立競技場がメイン会場。今大会では男子で世界新記録が3つ誕生。そのすべてに世界的スター選手であるカール・ルイス(米国)が絡んでいた。

まずは大会2日目の100m。1988年のソウル五輪で9秒92の世界新記録を出したルイスだが、その後は自己記録を更新できず、世界記録も同じ米国のリロイ・バレルが91年6月に9秒90を出したことで破られる。30歳のルイスは全盛期を過ぎたと見られていた。

それでも大舞台になると、役者が違う。スタートこそ出遅れたが、中盤から一気に加速。フィニッシュライン手前で先行するバレルをかわして、金メダルを獲得した。

叩き出した9秒86で世界記録を奪還。銀メダルのバレルも9秒88と自身が持つ従来の世界記録を更新した。さらにデニス・ミッチェルが9秒91で続き、米国勢がメダルを独占した。

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続いて大会7日目の走幅跳で、陸上史に残る名勝負が繰り広げられる。

2連覇中だったルイスの3連覇が有力視されていた走幅跳。ルイスは1回目に大会記録を更新する8m68をマークすると、3回目には2.3mの追い風参考ながら8m83に記録を伸ばす。さらに4回目にはこちらも2.9mの追い風参考だが、従来の世界記録(8m90)を上回る8m91の大ジャンプを披露した。

従来の世界記録は68年のメキシコシティ五輪でボブ・ビーモン(米国)が跳んだもの。これは標高2000m以上の高地で記録されたものであり、平地でそれを上回るのは難しいと思われていた。

だが、この後、衝撃のビッグジャンプが誕生する。世界記録が誕生する。ルイスの同胞、マイク・パウエルだった。パウエルが5回目に跳んだ記録は8m95(+0.3)。23年ぶりに世界新記録が誕生した。

逆転を許したルイスは5回目に世界歴代3位の8m87、6回目に8m84のハイパフォーマンスを見せたが、パウエルの記録には届かない。ルイスの3大会連続3冠の夢がついえた。パウエルの美しいジャンプは今もなお人々を魅了するとともに、世界記録として30年たった今も燦然と輝いている。

それでも、ルイスはやっぱりルイスだった。最終日の4×100mリレーで、米国は1走がアンドレ・ケーソン、2走以降はバレル、ミッチェル、ルイスと100mでメダルを独占した3人が並ぶ豪華布陣。レースはフランスとの激戦となったが、3走のミッチェルでリードを広げると、4走のルイスが悠々とホームストレートを駆け抜けると、満員の国立競技場が大歓声に沸いた。記録は米国が持っていた世界記録を0.17秒上回る37秒50。スター軍団が実力を見せつけた。

他には、男子200mでは若手だったマイケル・ジョンソン(米国)が20秒01で優勝。その後、世界記録を作るまでに成長する。男子1500mでヌールディン・モルセリ(アルジェリア)が3分32秒84で優勝し、ここから3連覇。なお、女子もアルジェリアのハシバ・ブールメルカが優勝した。

男子110mハードルはグレッグ・フォスター(米国)が13秒06の好記録で3連覇を達成。女子100m、200mはカトリン・クラッペ(ドイツ)が2冠を果たしている。男子50km競歩ではソ連の2人が肩を組んでフィニッシュするシーンも話題となった。

地元・日本は男子36選手、女子27選手が出場。地元開催とあって全種目にエントリーとなった。日本は金メダル1つ、銀メダル1つに入賞4つと過去2大会を大幅に上回る成果を挙げている。

91年東京世界陸上の男子マラソンで金メダルを獲得した谷口浩美

日本勢初のメダリストになったのは大会2日目に行われた女子マラソンの山下佐知子。ワンダ・パンフィル(ポーランド)と40kmを過ぎても激しいデッドヒートを繰り広げ、最終的には4秒差で敗れたが、2時間29分57秒で銀メダルに輝いた。さらに有森裕子が4位入賞を果たしている。

日本勢最大のハイライトは最終日の男子マラソン。高温多湿で60人中24人が途中棄権する過酷なコンディションだった。

その中で谷口浩美と篠原太が優勝争いを展開。先頭集団が4人に絞られたなか、谷口が38km過ぎにスパートして、後続を突き放す。そのまま谷口が2時間14分57秒で日本勢初の金メダルに輝いた。終盤まで谷口と競り合った篠原は5位でフィニッシュした。

さらに男子50km競歩でも今村文男が7位入賞。お家芸のロード種目で地元の日本勢が力を発揮した。

トラック種目で脚光を浴びたのが男子400mの高野進。45秒39で7位に入り、トラック種目では日本勢初の入賞を果たした。

ソウル五輪では準決勝敗退ながらも日本人で初めて44秒台となる44秒90をマークした高野。91年6月の日本選手権では自信が持つ日本記録を44秒78に更新している。これは2023年ブタペスト大会で佐藤拳太郎(富士通)が44秒77を出すまで約32年も破られなかった。

30歳と選手として円熟期を迎えた高野は1次予選を組1着で突破すると、2次予選は44秒91とサードベストの組2着で通過。準決勝も45秒43の組3着に入り、ファイナルの舞台へと駒を進めた。

決勝でも高野は世界の有力選手を相手に健闘。最終的には7位に終わったが、終盤まで上位争いを繰り広げ、日本のファンを大いに湧かせた。

今年9月、陸上の世界選手権(世界陸上)が34年ぶりに東京・国立競技場で開催される。今回で20回目の節目を迎える世界陸上。日本で開催されるのは1991年の東京、2007年の大阪を含めて3回目で、これは同一国で最多だ。 これまで数々のスーパースター、名勝負が生まれた世界陸上の各大会の様子を紹介する『世界陸上プレイバック』。第3回大会は、あの伝説の男に日本中が酔いしれた。 初の日本開催で、東京の国立競技場がメイン会場。今大会では男子で世界新記録が3つ誕生。そのすべてに世界的スター選手であるカール・ルイス(米国)が絡んでいた。 まずは大会2日目の100m。1988年のソウル五輪で9秒92の世界新記録を出したルイスだが、その後は自己記録を更新できず、世界記録も同じ米国のリロイ・バレルが91年6月に9秒90を出したことで破られる。30歳のルイスは全盛期を過ぎたと見られていた。 それでも大舞台になると、役者が違う。スタートこそ出遅れたが、中盤から一気に加速。フィニッシュライン手前で先行するバレルをかわして、金メダルを獲得した。 叩き出した9秒86で世界記録を奪還。銀メダルのバレルも9秒88と自身が持つ従来の世界記録を更新した。さらにデニス・ミッチェルが9秒91で続き、米国勢がメダルを独占した。 続いて大会7日目の走幅跳で、陸上史に残る名勝負が繰り広げられる。 2連覇中だったルイスの3連覇が有力視されていた走幅跳。ルイスは1回目に大会記録を更新する8m68をマークすると、3回目には2.3mの追い風参考ながら8m83に記録を伸ばす。さらに4回目にはこちらも2.9mの追い風参考だが、従来の世界記録(8m90)を上回る8m91の大ジャンプを披露した。 従来の世界記録は68年のメキシコシティ五輪でボブ・ビーモン(米国)が跳んだもの。これは標高2000m以上の高地で記録されたものであり、平地でそれを上回るのは難しいと思われていた。 だが、この後、衝撃のビッグジャンプが誕生する。世界記録が誕生する。ルイスの同胞、マイク・パウエルだった。パウエルが5回目に跳んだ記録は8m95(+0.3)。23年ぶりに世界新記録が誕生した。 逆転を許したルイスは5回目に世界歴代3位の8m87、6回目に8m84のハイパフォーマンスを見せたが、パウエルの記録には届かない。ルイスの3大会連続3冠の夢がついえた。パウエルの美しいジャンプは今もなお人々を魅了するとともに、世界記録として30年たった今も燦然と輝いている。 それでも、ルイスはやっぱりルイスだった。最終日の4×100mリレーで、米国は1走がアンドレ・ケーソン、2走以降はバレル、ミッチェル、ルイスと100mでメダルを独占した3人が並ぶ豪華布陣。レースはフランスとの激戦となったが、3走のミッチェルでリードを広げると、4走のルイスが悠々とホームストレートを駆け抜けると、満員の国立競技場が大歓声に沸いた。記録は米国が持っていた世界記録を0.17秒上回る37秒50。スター軍団が実力を見せつけた。 他には、男子200mでは若手だったマイケル・ジョンソン(米国)が20秒01で優勝。その後、世界記録を作るまでに成長する。男子1500mでヌールディン・モルセリ(アルジェリア)が3分32秒84で優勝し、ここから3連覇。なお、女子もアルジェリアのハシバ・ブールメルカが優勝した。 男子110mハードルはグレッグ・フォスター(米国)が13秒06の好記録で3連覇を達成。女子100m、200mはカトリン・クラッペ(ドイツ)が2冠を果たしている。男子50km競歩ではソ連の2人が肩を組んでフィニッシュするシーンも話題となった。 地元・日本は男子36選手、女子27選手が出場。地元開催とあって全種目にエントリーとなった。日本は金メダル1つ、銀メダル1つに入賞4つと過去2大会を大幅に上回る成果を挙げている。 [caption id="attachment_165395" align="alignnone" width="800"] 91年東京世界陸上の男子マラソンで金メダルを獲得した谷口浩美[/caption] 日本勢初のメダリストになったのは大会2日目に行われた女子マラソンの山下佐知子。ワンダ・パンフィル(ポーランド)と40kmを過ぎても激しいデッドヒートを繰り広げ、最終的には4秒差で敗れたが、2時間29分57秒で銀メダルに輝いた。さらに有森裕子が4位入賞を果たしている。 日本勢最大のハイライトは最終日の男子マラソン。高温多湿で60人中24人が途中棄権する過酷なコンディションだった。 その中で谷口浩美と篠原太が優勝争いを展開。先頭集団が4人に絞られたなか、谷口が38km過ぎにスパートして、後続を突き放す。そのまま谷口が2時間14分57秒で日本勢初の金メダルに輝いた。終盤まで谷口と競り合った篠原は5位でフィニッシュした。 さらに男子50km競歩でも今村文男が7位入賞。お家芸のロード種目で地元の日本勢が力を発揮した。 トラック種目で脚光を浴びたのが男子400mの高野進。45秒39で7位に入り、トラック種目では日本勢初の入賞を果たした。 ソウル五輪では準決勝敗退ながらも日本人で初めて44秒台となる44秒90をマークした高野。91年6月の日本選手権では自信が持つ日本記録を44秒78に更新している。これは2023年ブタペスト大会で佐藤拳太郎(富士通)が44秒77を出すまで約32年も破られなかった。 30歳と選手として円熟期を迎えた高野は1次予選を組1着で突破すると、2次予選は44秒91とサードベストの組2着で通過。準決勝も45秒43の組3着に入り、ファイナルの舞台へと駒を進めた。 決勝でも高野は世界の有力選手を相手に健闘。最終的には7位に終わったが、終盤まで上位争いを繰り広げ、日本のファンを大いに湧かせた。

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