◇第108回日本選手権20km競歩(2月16日/兵庫県神戸市・六甲アイランド付設コース)
東京世界選手権代表選考会を兼ねた第108回日本選手権20km競歩が2月16日行われ、男子は山西利和(愛知製鋼)が1時間16分10秒の世界新記録で4大会ぶり3度目の優勝を果たし、東京世界選手権の代表に内定した。従来の世界記録は鈴木雄介が15年に出した2時間16分36秒だった。
1年前は涙に暮れた男が、堂々と“世界一”に返り咲いた。パリ五輪を懸けた前回は競技生活初の失格。23年ブダペスト世界選手権後にトライした厚底シューズへのフィットに「思った以上に時間がかかった」。戻すか、戻さないか。それも含めて時間が足りなかった。
世界選手権2連覇を果たしているが、21年東京五輪の銅メダルは、今も完全には受け入れられていない。「東京五輪は他の大会とは違う」。おそらく、どの大会で勝ち進めても、リベンジはできない。ただ、やはり五輪の借りは五輪で、と挑みながら、その舞台にさえ立てなかった。両親の元を訪れると涙があふれた。
「1回でも代表から漏れたら辞めるぐらいの気持ちでやってきた」。あの頃の自分が何度も問いかけてきた。「そんな覚悟でやっていないだろう」。その“覚悟”に「嘘をつきたくない」思いに後ろ髪を引かれつつ、その日の夜には「ヨーロッパの試合スケジュールを考えていた」。
その転戦が、山西を新たな境地へと誘う。初めて欧州シリーズを転戦し、厚底シューズの感触を身体にすり込ませながら、審判の判定も確認。さらに、以前から交流のあった東京五輪金メダリストのマッシモ・スタノ(イタリア)に誘われ、パリ五輪前のスタノの練習に合流した。
「僕がもらうことのほうが多かった。トレーニングのリズムや考え方を共有し、お互いの特性を見られた。貴重な経験でした」
厚底シューズは昨年10月の高畠競歩まで「まだ練習でのばらつきがあった」と探り探り。この冬季でその振り幅が「小さくなってきた」という。
「スピードが出しやすい」というのが最大の利点。だが、「やっぱりコントロールが難しく、調整が必要」だという。骨格や筋力のある海外選手ほうが先に順応した。「割と意識的に踏み込んでいかないといけないんです」。イタリアで教わったという筋力トレーニングは「これまであまりやっていなかった」。瞬発系ではなく、「ガツガツやるわけではないですが、スクワットなどパワー系もやるようになった」と話す。
この日は前半のハイペースに丸尾知司(愛知製鋼)や濱西諒(サンベルクス)らが食らいついたことで、「あまりハマらなかった」とリズムに乗れなかった。しかし、中盤以降は力の差を見せつける。12km付近から一人旅になった。
「最初の5kmを19分7秒くらいでいき、10kmを38分10秒ほど。このタイムなら後半を考えれば世界記録が出るだろう、と。範囲内でした」
13km以降は、1kmあたり3分50秒を一度も越えないハイラップ。実は昨年9月の全日本実業団対抗選手権の10000m競歩で38分27秒34を出した時点で「この感覚から、マックスまで出し切れて、整えれば1時間15分台」とイメージできていたという。
世界新のフィニッシュは、山西らしいものだった。雄叫びもガッツポーズもない。ロードに向かって真摯に、深々と一礼。そして、静かに笑みを浮かべ、感謝を表わした。沿道で何度も日本語で「頑張れー!」と叫んでいたスタノと抱擁すると笑顔があふれた。スタノの目には光るものもあった。勝者、追われる立場だからこそ分かり合える感情がある。
自身4度目の世界選手権に内定。しかも、21年には歩けなかった東京が舞台になる。
「海外レースを1、2試合挟みたいと思っています。海外勢がいる中で難しいのは前半です」とイメージしている。
レース後の第一声は「ホッとしました」だった。「1年、やりたいことをやらせてもらいました。その自由に対する結果という責任は必要だと思っていたので、それは最低限果たせたと思います。この1年がなければ、また同じことを繰り返しだったでしょう。ちょっと違う世界線、違う箱に入れてもらえました」。
3度目の世界王者へ。「今度こそ。新しいトライとして優勝を狙っていきたい」。新生・山西利和が、堂々『世界記録保持者』として東京でライバルたちを迎え撃つ。
|
|
RECOMMENDED おすすめの記事
Ranking
人気記事ランキング
-
2025.03.26
-
2025.03.26
2025.03.23
女子は長野東が7年ぶりの地元V アンカー・田畑陽菜が薫英女学院を逆転/春の高校伊那駅伝
-
2025.03.25
-
2025.03.21
2025.03.02
初挑戦の青学大・太田蒼生は途中棄権 果敢に先頭集団に挑戦/東京マラソン
2025.03.02
太田蒼生は低体温症と低血糖で途中棄権 「世界のレベルを知れて良い経験」/東京マラソン
-
2025.03.23
-
2025.03.19
2022.04.14
【フォト】U18・16陸上大会
2021.11.06
【フォト】全国高校総体(福井インターハイ)
-
2022.05.18
-
2022.12.20
-
2023.04.01
-
2023.06.17
-
2022.12.27
-
2021.12.28
Latest articles 最新の記事
2025.03.26
日本陸連が暑熱環境下の大会について対応検討 今年は日本選手権、インターハイなど「WBGT31度」目安に「踏み込んだ対策を」
日本陸連は3月26日に行われた理事会で、暑熱環境下における大会運営に対しての考えを示した。 日本陸連の田﨑博道専務理事は、最近の気候変動の大きさに触れたうえで、特に夏の競技会について「暑熱環境下で競技をすることの危険性は […]
2025.03.26
日本選手権の大会要項と競技実施日が発表! 男子100mは初日に予選、準決勝 2日目に決勝 女子やり投は1日目に実施
日本陸連は3月26日、第109回日本選手権(7月4日~6日/東京・国立競技場)の大会要項ならびに競技実施日を発表した。 今年の日本選手権は9月に行われる東京世界選手権の選考会を兼ねて実施される。昨年まではU20日本選手権 […]
2025.03.26
日本選手権まであと100日 キービジュアル第1弾公開! 9月の東京世界陸上代表選考会
日本陸連は3月26日、第109回日本選手権(7月4日~6日/東京・国立競技場)まであと100日を迎えて、キービジュアルの第1弾を公開した。 日本選手権の国立競技場の開催は、2005年以来20年ぶりで、今秋の東京世界選手権 […]
Latest Issue
最新号

2025年4月号 (3月14日発売)
別冊付録 2024記録年鑑
山西 世界新!
大阪、東京、名古屋ウィメンズマラソン詳報