◇第73回別府大分毎日マラソン(2025年2月2日/大分・高崎山うみたまご前~ジェイリーススタジアム)
9月の東京世界選手権代表選考会を兼ねた別府大分毎日マラソンが行われ、ベストタイム2時間4分28秒を持つヴィンセント・キプチュンバ(ケニア)が、2時間6分01秒の大会新記録で優勝を飾った。
日本人トップは、ラスト1kmまでキプチュンバと競り合った若林宏樹(青学大)。2時間6分07秒は、今大会にも出場した平林清澄(國學院大)が昨年出した2時間6分18秒の初マラソン日本最高記録、日本学生記録を更新するもの。73回の歴史を持つ別大マラソンの日本人最高記録にもなった。
マラソン経験のない若林は、中間点まで「とにかくついていくことだけを考えていた」と、記録も順位にも執着せず、自然体で走っていたと振り返る。
実際、練習でも40km以上走ったことがなく、原晋監督とも「30kmまでは行けても、その後は落ちるだろうという話をしていました」と明かす若林。「2時間10分を切れたらいいけど、現実的には2時間15分ぐらいだろうと。30kmを何分で通過したら、学生記録が狙えるかという指針も持っていなかったです」と、余分なプレッシャーもなくスタートラインに立っていた。
それでも、この1年はケガなく練習を積み、箱根駅伝5区で区間新記録を叩き出すまでに磨き上げた心肺機能と脚力は、マラソンレースでも十二分に適応できた。
35kmでキプチュンバが上り坂を利用して上げた時も、「同じペースで走れるので、自分の中には上がった感覚がなかったです。むしろ、上りで引き離してくれたからついていけました」とコースや勝負どころに、若林の適性がピタリとハマったのかもしれない。
これだけの記録と度胸の良さに、日本陸連の高岡寿成シニアディレクターは「本当に辞めるのかな、もったいないなと皆さん思っているでしょうが、私も同じ気持ちです。センスがないと走れないタイム」と、今大会をラストレースと公言する若林の実力を惜しむ声を上げる。
若林は「最後だと決めて取り組んだ結果が、世界と戦えるような結果であっても、自分の中ではしっかりと区切りをつけると決めているので、この気持ちはぶれません」と現役続行の可能性はないと明言。「陸上人生を懸けたレースだったし、本当に苦しかったんですけど、辞めると決めていたからこそ出せた記録なのかなと思います」と、42.195kmで競技生活10年の集大成を体現できたことに胸を張った。
文/田端慶子
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