2025.01.16
大阪体育大学の石川教授が検証 産学連携研究論文が国際雑誌「Sensors」に掲載
大阪体育大学スポーツ科学部の石川昌紀教授(専攻・身体運動中の神経・筋機能メカニクス)と医療機器製造・販売を手掛ける株式会社コラントッテとの産学連携の共同研究論文「磁気衣類は、30km走った男性長距離ランナーの副交感神経優位を促進し、睡眠の質を改善する」が2024年10月23日、国際雑誌「Sensors」※に掲載され、〝磁気〟がスポーツ選手の疲労回復に影響することが初めて実験によって明らかとなった。ここでは石川教授にその概略などについて解説していただいた。
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〝磁気〟がスポーツ選手の疲労回復に影響することを実験によって明らかにした大阪体育大学の石川昌紀教授
〝睡眠の質〟が落ちると疲労蓄積や故障の要因にもなる
以前から肩こりや血行の改善などに有効な健康グッズとしてネックレスやブレスレット、テープなどに幅広く使用されている〝磁気〟。今回の石川教授を中心とした研究では、高強度のトレーニングとなる長距離走(30㎞走)後に、磁気ウェアを着用(入浴後から就寝時の約10時間)。男性長距離ランナーの自律神経系と睡眠の質に与える影響を調査した。
検証は、180ミリテスラの永久磁石をN極S極交互に配列し、シャツ背面に10個、パンツ腰部に6個の磁石を配置した磁気ウェアと非磁気ウェアを使用。5000mの平均タイム14分06秒80(±14秒00)を持つ15人の男子長距離選手を対象に、磁気ウェアと非磁気ウェアをランダムに着てもらい、心拍と睡眠への影響を高強度の30㎞走の前後の夜に測定した。
「競技スポーツでは強化を目的とした1週間から1ヵ月前後の合宿を実施します。その際、強度の高いトレーニングを繰り返す合宿では、睡眠時間は変わらないのに、睡眠の質が落ちることが検証(図1)でわかってきました。練習の強度も高くなる上に疲労を回復するための睡眠の質が落ちれば、どんどん疲労が蓄積するばかりで、狙った練習の効果が得られないばかりか、故障の原因にもなります。リカバリー(疲労回復)には、ジョグやストレッチなどのクールダウンはもちろん、マッサージ、食事やサプリ、その他いろんな方策が立てられています。その方策の一つとして、コラントッテさんと研究を続けている磁気を活用した検証を行いました」と石川教授。
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強度の高いトレーニングを繰り返すと日々の睡眠の質が徐々に低下してしまう
高強度トレーニング後の疲労回復やオーバートレーニング状態に自律神経の活動が影響し、リカバリーの過程では副交感神経を優位にすることが重要とされている。その一つの方策となるのが生体への静磁気による自律神経活動への介入であり、その効果を確認するための検証が、石川教授を中心としたチームのテーマだった。
磁気ウェアを着用した条件で〝深睡眠時間〟が有意に増加
検証の結果、磁気ウェアを着用した条件で、深睡眠時間が有意に増加し、反対に浅睡眠時間は有意に減少。REM睡眠も磁気ウェアの着用後に有意に増加した。さらに磁気ウェアを着用した条件では、すべての指標が副交感神経活動の優位性を示すこととなった(図2、3)。
これらの検証から磁気ウェアの着用が、高強度ランニング後の男性長距離選手において、「副交感神経の優位性を促進」、「睡眠の質を改善(特に深睡眠時間の増加)」、「主観的な回復感を向上させる」ことが、初めて実証された(図4)。
通常、レースや高強度過ぎるトレーニングを行った次の日は「興奮して寝つきが悪い」、「なかなか眠れなかった」などのコメントを耳にするが、睡眠時間を確保しても睡眠の質から見れば深睡眠の時間が短く、リカバリーがしっかりできていないことが多かった。
「本来、強度の高い練習後やレース後は興奮状態にあり通常、睡眠の質が落ちますが、今回の検証で、磁気ウェアを着用することで興奮を沈め、リラックスした状態で眠れているなど睡眠の質が上がっていることが確認できました(図5)。身体のリカバリーを考える上で深睡眠時間が増加しているのが大きな特徴となります」
磁気がどういうメカニズムで身体に作用するかなどはまだ明らかになっていない部分も多いが、今回の検証の結果(データ)から、磁気ウェアが、激しいトレーニング後のアスリートのリカバリーを促進する実用的な方法の一つとなる可能性が明らかとなった。なかでも競技前や集中的なトレーニング期間中のリカバリー戦略としての有効性が高く、「肌触りや着圧などを工夫したリカバリーウェアなども多く存在しますが、有効性が検証されていないものもあり、今回、磁気ウェアの有効性が明らかになったことで、アスリートにとっては、今後、リカバリーを考える上で一つの選択肢となっていくと考えます」。
今後は、「長期的な効果の検討、最適な磁気強度の特定、さまざまな競技スポーツに合わせたリカバリーウェアの開発などを進めていきたいと考えています」と石川教授。
磁気の活用がケガや故障のリスクを少しでも軽減し、トップアスリートから市民ランナーまで自己記録更新を目指す人々の強い味方となってくれるだろう。
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スポーツ選手の疲労回復に好影響をおよぼす磁気ウェアに対して、青山学院大学陸上競技部の原晋監督は「選手たちのパフォーマンスを現場で見ることで得る〝知見〟と〝科学的エビデンス〟との融合により、指導者として説得力のある提案や指導ができる」と期待を寄せている
雑誌名:Sensors
論文名:磁気衣類は、30km走った男性長距離ランナーの副交感神経優位を促進し、睡眠の質を改善する
著 者:大阪体育大学 スポーツ科学部 石川昌紀、森ノ宮医療大学 医療技術学部 信江彩加、関西大学 人間健康学部 佐野加奈絵
掲載日 :2024年10月23日
※ 「Sensors」とは:科学と技術に関する研究論文が掲載されるオープンアクセスの査読付き国際雑誌。
Impact Factorと呼ばれる学術雑誌の影響度を評価する指標が3.4と高い権威のある出版物。
●構成/花木 雫
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〝睡眠の質〟が落ちると疲労蓄積や故障の要因にもなる
以前から肩こりや血行の改善などに有効な健康グッズとしてネックレスやブレスレット、テープなどに幅広く使用されている〝磁気〟。今回の石川教授を中心とした研究では、高強度のトレーニングとなる長距離走(30㎞走)後に、磁気ウェアを着用(入浴後から就寝時の約10時間)。男性長距離ランナーの自律神経系と睡眠の質に与える影響を調査した。 検証は、180ミリテスラの永久磁石をN極S極交互に配列し、シャツ背面に10個、パンツ腰部に6個の磁石を配置した磁気ウェアと非磁気ウェアを使用。5000mの平均タイム14分06秒80(±14秒00)を持つ15人の男子長距離選手を対象に、磁気ウェアと非磁気ウェアをランダムに着てもらい、心拍と睡眠への影響を高強度の30㎞走の前後の夜に測定した。 「競技スポーツでは強化を目的とした1週間から1ヵ月前後の合宿を実施します。その際、強度の高いトレーニングを繰り返す合宿では、睡眠時間は変わらないのに、睡眠の質が落ちることが検証(図1)でわかってきました。練習の強度も高くなる上に疲労を回復するための睡眠の質が落ちれば、どんどん疲労が蓄積するばかりで、狙った練習の効果が得られないばかりか、故障の原因にもなります。リカバリー(疲労回復)には、ジョグやストレッチなどのクールダウンはもちろん、マッサージ、食事やサプリ、その他いろんな方策が立てられています。その方策の一つとして、コラントッテさんと研究を続けている磁気を活用した検証を行いました」と石川教授。 [caption id="attachment_159498" align="alignnone" width="800"]
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磁気ウェアを着用した条件で〝深睡眠時間〟が有意に増加
検証の結果、磁気ウェアを着用した条件で、深睡眠時間が有意に増加し、反対に浅睡眠時間は有意に減少。REM睡眠も磁気ウェアの着用後に有意に増加した。さらに磁気ウェアを着用した条件では、すべての指標が副交感神経活動の優位性を示すこととなった(図2、3)。
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