2024.12.23
「自分がやるんだ」と主将に立候補
そこで楠木は主将に立候補する。「やっぱり予選会でチームが負けたことが悔しかったんです。冷静に振り返って、誰かがチームを変えていかないと強くなれないよな、と改めて思ったとき、『自分がやるんだ』と決意して立候補しました」と明かす。
主将となって、まず取り組んだのは「やるべきことをやる」集団作りだった。「昨年のチームは、どちらかというと強くて力のある選手はしっかり頑張っていたけど、そうじゃない選手も多かったです。物理的な練習環境は申し分ないのに、練習を頑張りきれない選手もいました」としつつ、「だからこそ、まずはきちんとやるべきことをやる、練習に対して向き合ってきちんと取り組む、という雰囲気を作りたかったんです」と話す。
楠木が主将としてこの1年、チーム作りをしていくうえで大事にしてきたことがある。
「いろんな物事に対して、自分で考えて、自分で気づかないと、本当の意味で変わることはできないと思っています。怒ったり注意したり、答えを言ったりすることは簡単ですけど、それをやると自分で気づくことができなくなってしまう。だから、ヒントを与えるような声かけをするように心がけてきました」
最初はうまくいかないことに悩んだ時もあったが、少しずつチームがまとまっていくのを感じた。春先は4年生の足並みがそろわなかったが、そんな時は3年生がチームを走りで引っ張ってくれた。みんなが同じ目標に向かって、少しずつに一つになっていく。そんな手応えがあった。
「今年のチームのスローガンは『下剋上』。予選会を突破するだけではなく、本戦でもしっかりと他校と戦って勝つところまで視野に入れて掲げたスローガンです。予選会を突破できたことで、下剋上の舞台は整ったと思っています」
楠木本人は、本戦では5区を希望。上りが得意なことに加え、往路のフィニッシュテープを切りたいからだ。高校3年生のとき、主将として県高校駅伝でフィニッシュテープを切ったのと同じように。
「箱根って、1回走っただけでも人生が大きく変わると思うんです。見るだけじゃなくて走ってみたいし、注目されたいなって。それに、出るならフィニッシュテープを切りたいです。2年生の時は5区の控えでもありましたし、フィニッシュテープを切れるのは5区か10区の選手だけ。だったら、僕は5区を走りたいと思っています」
競技者として走るのは、箱根が最後。陸上を始めてからずっと恋い焦がれた大舞台で、楠木は夢をかなえる。

10月の箱根駅伝予選会は無念の途中棄権となったが、本戦では完全燃焼を誓う
くすのき・ゆうと/2002年4月6日生まれ。宮崎県宮崎市出身。宮崎・生目台中→宮崎・小林高。5000m14分19秒26、10000m29分03秒72、ハーフ1時間4分17秒
文/田坂友暁
柔らかな雰囲気と意志の強さ
話し方や発せられる言葉からはギラついたアスリートっぽさは感じさせない。彼が話す空間は、どこか柔らかな雰囲気に包まれる。だが、言葉一つひとつは優しくても、箱根について話している時の目の奥には、しっかりとした強い意志が潜んでいた。東京国際大の主将を務める楠木悠人(4年)である。 宮崎県宮崎市出身。小学3年生のころ、友人と一緒にサッカーを始めたものの、どうしてもボールをうまく扱えない。友人はうまくボールをコントロールし、何十回もリフティングができるのに、自分は全然できない。 「うまくできなくてもサッカー自体は楽しかったんですけど、ボールを使うよりも自分の身体を使ったスポーツのほうが良いのかな、と思いました。走ることは大好きだったので、中学校から陸上を始めることにしました」 箱根に出合ったのも、この時期だった。「純粋に20km以上もあんなに速く走れるのはすごいな、と思って見ていたのを覚えています」。そこから「箱根駅伝をいつか走れたら良いな」という漠然とした思いを抱いていたという。 宮崎・小林高に進学し、主将を務めた3年時には県高校駅伝でチームを3年ぶりの優勝に導き都大路へ。全国大会では6区を走り、区間3位と快走を見せた。 東京国際大に進学すると、まず驚いたのは大学の練習量と質の高さ。「1年生の時は練習についていくのが精一杯でした」と、当時を振り返る。だが、その努力が認められ、2年生の時には箱根駅伝本戦のエントリーメンバー入りを果たす。 「やっぱりまだこの時は、箱根を走れたら良いな、くらいだったんです。でもエントリーメンバーに入れてもらったのに走ることはできなくて。それが悔しくて、本気で箱根で走るんだ、という気持ちが持てるようになりました」 ところが、チームはその年の箱根駅伝で総合11位となり、シード権を逃す。翌年、楠木が3年になって迎えた予選会は、100回大会を記念して本戦に出場できる枠が13に増加。にもかかわらず、3秒差の14位で落選した。当時は何も考えることができなかった。 だが、落ち込んではいられない。すぐに全日本大学駅伝が控えていたからだ。当時の4年生が力を合わせ、死力を尽くした結果、総合8位でシード権をもぎ取ることができた。 2023年の東京国際大の駅伝シーズンは全日本で終了を迎えた。それと同時に、新チーム発足に向け、すでに楠木ら3年生は動き始めていた。「全日本が終わった後にすぐ集まって、チームをこれからどうするかを話し合いました」。「自分がやるんだ」と主将に立候補
そこで楠木は主将に立候補する。「やっぱり予選会でチームが負けたことが悔しかったんです。冷静に振り返って、誰かがチームを変えていかないと強くなれないよな、と改めて思ったとき、『自分がやるんだ』と決意して立候補しました」と明かす。 主将となって、まず取り組んだのは「やるべきことをやる」集団作りだった。「昨年のチームは、どちらかというと強くて力のある選手はしっかり頑張っていたけど、そうじゃない選手も多かったです。物理的な練習環境は申し分ないのに、練習を頑張りきれない選手もいました」としつつ、「だからこそ、まずはきちんとやるべきことをやる、練習に対して向き合ってきちんと取り組む、という雰囲気を作りたかったんです」と話す。 楠木が主将としてこの1年、チーム作りをしていくうえで大事にしてきたことがある。 「いろんな物事に対して、自分で考えて、自分で気づかないと、本当の意味で変わることはできないと思っています。怒ったり注意したり、答えを言ったりすることは簡単ですけど、それをやると自分で気づくことができなくなってしまう。だから、ヒントを与えるような声かけをするように心がけてきました」 最初はうまくいかないことに悩んだ時もあったが、少しずつチームがまとまっていくのを感じた。春先は4年生の足並みがそろわなかったが、そんな時は3年生がチームを走りで引っ張ってくれた。みんなが同じ目標に向かって、少しずつに一つになっていく。そんな手応えがあった。 「今年のチームのスローガンは『下剋上』。予選会を突破するだけではなく、本戦でもしっかりと他校と戦って勝つところまで視野に入れて掲げたスローガンです。予選会を突破できたことで、下剋上の舞台は整ったと思っています」 楠木本人は、本戦では5区を希望。上りが得意なことに加え、往路のフィニッシュテープを切りたいからだ。高校3年生のとき、主将として県高校駅伝でフィニッシュテープを切ったのと同じように。 「箱根って、1回走っただけでも人生が大きく変わると思うんです。見るだけじゃなくて走ってみたいし、注目されたいなって。それに、出るならフィニッシュテープを切りたいです。2年生の時は5区の控えでもありましたし、フィニッシュテープを切れるのは5区か10区の選手だけ。だったら、僕は5区を走りたいと思っています」 競技者として走るのは、箱根が最後。陸上を始めてからずっと恋い焦がれた大舞台で、楠木は夢をかなえる。 [caption id="attachment_123595" align="alignnone" width="800"]
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