2024.11.28
病魔を乗り越え、競技に復帰「健康な身体は当たり前じゃない」
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病気を乗り越え、競技復帰を目指してトレーニング中の2023年春のスナップ。左は大阪成蹊ACでともに世界を目指した後輩の斎藤愛美さん
――スランプを脱し、さあこれからという時期に病魔が襲いました。
青山 それまで何の予兆もなく、突然の出来事だったので、ただただビックリしたというのが当時の感想です。2021年のシーズンを終えた直後から急に具合が悪くなり、検査したら悪性の腫瘍が見つかって即入院という感じでした。後で聞いたら生命にも関わる危機的状況だったようですが、何とかそれを乗り越え、約1年間の入院生活を経て2022年の秋に退院しました。
でも、日常生活を送ることもままならない状況だったので、まずは日常生活をしっかりと過ごせるように、というところから始まりました。
その後も治療を続けつつ、練習はウォークから。さらに1年後の2023年10月に、再び競技会に復帰することができました。レース前は、初めて試合に出た時以上に緊張してましたが、100m14秒04、200m28秒10で2種目とも走り切ることができた。タイム以上に、走り切れたことが自信になりましたし、再びレースに復帰できた喜びが心の底から湧いてきました。
以前の自分に戻れないことは感じていましたし、周囲も察してくださっていたと思います。でも、瀧谷先生も、職場のみなさんも以前と変わらない対応でサポート、応援してくださり、競技を続けられたことに感謝の気持ちでいっぱいでした。その気持ちに応えるためにも、最後までやり切らなければいけないという意識で、この1年間は過ごしてきました。
――引退はいつ頃決めましたか?
青山 病気になる以前から、もともとパリ五輪を最後にしようと決めていたので、その気持ちは変わらず過ごしてきました。
――どんな競技生活でしたか?
青山 始めた頃は、こんなに長く続けるとは想像もしていませんでした。自分が考えていた以上の結果を残すこともできましたし、15年間の陸上生活は大きな財産だと感じています。結果以外の部分でも人間として成長でき、人とのつながりの大切さを学んだ15年間でした。
――これから世界を目指す中・高校生、そして今も挑み続けるライバルへメッセージをお願いします。
青山 私もそうでしたが、記録の壁にぶちあたったり、ケガや病気をしたりすることは、誰しもが通る道だと思います。そうした苦しい場面で自分自身とどう向き合うかということがとても大事なことです。一人で抱え込むのではなく、相談できる相手、弱い部分もさらけ出せる存在を見つけ、そうした人たちのサポート、支えを借りて乗り越える。強がってばかりでは、決して道は開けません。
私も周囲の支えのお陰で、競技人生をまっとうすることができました。しかし、それは当たり前のことでは決してありません。常に周囲への感謝の気持ちを忘れず取り組んでほしいと思いますし、それが何よりのパワー、原動力になると信じています。
健康な身体があるのも、当たり前ではありません。食事や睡眠、自身の身体と常に会話しながら、日々を過ごし、目標に向け高い意識で頑張ってほしいです。
――ありがとうございました。そして長い間お疲れ様でした。
◎あおやま・せいか/1996年5月1日生まれ。松江一中(島根)→松江商高(島根)→大阪成蹊大→大阪成蹊AC。高校時までは100mから400mのマルチスプリンターとして活躍し、2冠を達成した高3のインターハイでは100mでも3位に入っている。大学からは400m中心にシフトし、世界選手権に2度出場と飛躍。日本女子ロングスプリントを牽引した。自己ベストは100m11秒77(14年)、200m23秒68(15年)、400m52秒38(20年/日本歴代3位)
構成/花木 雫
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〔写真/本人より提供〕[/caption] 10月27日、地元・島根県の松江市営陸上競技場で行われた第3回県陸協記録会の女子400mに、青山聖佳(大阪成蹊AC)が出場した。長年に渡って日本の女子ロングスプリント界を牽引してきた28歳の、“ラストラン”である。 本来であれば1週間前に開催予定だったが、荒天のため延期に。いったん大阪に戻り、再び帰郷するという流れではあったが、地元の関係者たちは、青山を温かく迎えてくれた。 高1(2012年)の秋に初めて400mを走った時のタイム(56秒34)、自己ベストの52秒38からは大きく遅れた。それでも、たくさんの声援のなか、これまでの競技生活とトラックの感触を心に刻むように64秒96で走り切り、中学時代から親しんだ思い出のトラックで、そっとスパイクを脱いだ。 島根県松江市出身。松江一中から陸上を始め、全中200mで3位に入るなど全国の舞台で活躍。松江商高では2年時に世界ユース選手権に出場し、メドレーリレーでは3走として銅メダル獲得に貢献した。3年時(2014年)に200m、400mでインターハイを制覇(100mも3位)したほか、日本選手権の400mで2位に食い込み、アジア大会の代表に選出。その予選で当時日本歴代4位の52秒99をマークし、決勝でも5位入賞を果たしている。 2015年に大阪成蹊大へ進学すると、1年目に世界へと飛躍。北京世界選手権4×400mリレー代表に選ばれ、予選で1走として日本記録(3分28秒91)樹立の原動力に。翌年は日本選手権で初優勝を果たし、秋の日本インカレでは200m、400m、両リレー(4×100m、4×400m)の4冠に輝いた。 その後、一旦調子を崩して引退がよぎった時期もあったが、4年時の秋に現役続行を決意。その冬に選考会を突破してリレーのナショナルチームへの復帰を果たす。 大学卒業後も環境を変えず、大阪成蹊AC所属で活動し、19年の日本選手権で再び日本一の座に。翌年には当時日本歴代2位の52秒38をマークしている。 東京五輪出場は果たせなかったが、パリ五輪に向けて気持ちを切り替えていた矢先に突然、病魔が襲う。約1年間の長期入院生活などを経て、昨年の秋に競技会に復帰。しかし、トップフォームを取り戻すことはかなわなかった。 10月末付で、2019年から職員として勤務した大阪成蹊大を退職。セカンドキャリアに向けて充電中の青山に、15年の競技生活を振り返ってもらった。 ◇ ◇ ◇ ――最後のレースを終えて率直な心境は? 青山 中学から陸上を始めましたが、一番最初の試合で走った競技場です。もちろん久しぶりの400mできつさもありましたが、思い出のある舞台で、お世話になった関係者の皆様の前で、とても幸せな気持ちで走り切ることができました。走り終えて、「陸上を続けてきてよかった」という気持ちでいっぱいです。 ――長い競技生活で、一番思い出に残っているレースは? 青山 一番となると、2019年の福岡であった日本選手権の400m決勝です(53秒68で3年ぶり優勝)。大学3年から2年ほどスランプに陥っていて競技も辞める寸前の状況でしたが、たくさんの人に支えられ、再び日本一になれたことで、恩返しができたと感じました。同時に、自分自身の殻を破れたレースだったと思います。 [caption id="attachment_154478" align="alignnone" width="800"]
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「ガムシャラに楽しく」から「意味を深く考える」陸上へ
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